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10月1日、政府官邸での記者会見に臨む安倍晋三首相〔AFPBB News〕
消費増税とアベノミクス:試される時
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/38869
2013.10.08 The Economist
(英エコノミスト誌 2013年10月5日号
安倍晋三首相が賛否両論を呼んだ消費税の引き上げを決意した。しかし、首相はさらに大胆になる必要がある。
安倍晋三首相は10月1日、2014年4月に消費税を5%から8%に引き上げると発表した。これは、民主党の野田佳彦前首相が下した決断の第1段階を実行に移したに過ぎなかった。この決断も一因となり、野田前首相は政権の座を明け渡すことになった。
前回消費税が引き上げられた1997年には、税率が上がると、日本経済は急激に傾いて景気後退に陥り、当時の首相(安倍首相と同じ自民党出身)もすぐに辞任に追い込まれた。
それでも今月、安倍首相に選択肢はなかった。政界の既成勢力は増税を認めており、この厳しい決断を回避していたら、首相自身の資質が問われかねなかった。
日本の公的債務残高は、国内総生産(GDP)の約245%に迫っている。日本もいずれギリシャのように破綻への道を歩みかねないと思っている国内外の人々にとって、年間7兆5000億円の歳入増は、小さいながらも重要な第一歩だ。しかも安倍首相は2歩目を踏み出し、2015年に消費税を10%に引き上げる可能性が高い。
■何としてでも成功させなければならないアベノミクス
消費税は、2012年12月の総選挙大勝を受けて安倍首相が政権の座に就いて以来、国内問題では初となる大きな試練だ。消費増税は、後に有権者からしっぺ返しを受けるリスクをはらんでいる。そうした事態を回避するには、3本の矢からなる経済再生戦略「アベノミクス」が機能しなければならない。
日銀は4月、大胆な金融緩和によってデフレを終わらせる「衝撃と畏怖」作戦を開始した。金融緩和は、多額の財政刺激策を伴った。一方で、今後数週間以内に構造改革の全容が明かされることになっている。
懸念されているのは、1997年のように、増税によって経済の回復が中途で止まってしまうことだ。家計は既に圧迫されている。円安によって物価が上昇している一方で、今のところ賃金は上がっていない。それでも安倍首相は1日、経済の再生と財政健全化を同時に推し進めるほかに道はないと断言した。これこそが「国の信認を維持し、社会保障制度を次世代にしっかりと引き渡す」唯一の方法だと、安倍首相は述べている。
安倍首相の発言が奇妙なまでにとりとめのないものではなく、これほど責任感あるものに聞こえるのは稀なことだ。
消費増税を支持するエコノミストは、1997年にはアジアの通貨危機と日本の大手銀行の不良債権問題が重なり、消費増税だけでなくこれらも景気後退の原因になったと指摘する。政府も公共事業への支出を削減するという失策を犯した。
これに対し、安倍首相は1日に、増税の影響を相殺するため、推定6兆円規模の景気刺激策を打ち出している。6兆円の主な内訳は公共事業と法人税の削減だ。恐らく増収分のほとんどを刺激策に注ぎ込む付け回しになるが、急激な財政引き締めの回避には役立つだろう。
期待されているのは、こうした追加の景気刺激策がゆくゆくは不要になることだ。現在は、日銀による金融緩和と円安、そして恐らく構造改革の約束が合わさって、経済を活気づけている。第1四半期の経済成長率は年率換算で4.1%、第2四半期は3.8%だった。10月1日にはアベノミクスが始動してから3度目となる四半期ごとの全国企業短期経済観測調査(短観)が発表されたが、それによれば、企業は過去6年で最も明るい状況にある。
■安倍首相が消費増税の決断を遅らせた理由
にもかかわらず、安倍首相は今年に入ってから、消費税に関して相反するサインを送り続けた。アベノミクス立案にも関わった、首相に最も近しい助言役のうち2人は、より段階を踏んだ消費増税を求めていた。安倍首相は何十人もの専門家に助言を求め、決断を遅らせた。
自民党の政務調査会長代理を務める塩崎恭久氏は、様々な選択肢を極めて慎重に検討してきたことを示したのは、増税というリスクの高い一歩を踏み出す前段階としては、政治的に賢明だったと述べている。
ある意味では、安倍首相が増税を見送る可能性をちらつかせていたのは、何かと慎重な財務省から景気刺激策の予算をさらに引き出す手段だった可能性もある。安倍首相は1日、大多数の先進国と比べてはるかに高い水準にある法人税について、実効税率引き下げに向けた議論を始めると明言した。
安倍政権はまた、消費税を8%から10%に引き上げる2度目の増税について、予定通り実施に移すか否かについて、はっきりした態度を示さないようにしているようだ。2度目の増税は2015年10月に予定されており、2016年までに実施される総選挙まであまり間がない。
つまり、安倍政権下での財政再建は決して確約されていないということだ。消費税について首相に助言を行った東京大学教授の伊藤隆敏氏によれば、成長と債務の削減を同時に実現する方法を巡り、内閣の中で争いが勃発しているという。
財務大臣を務める麻生太郎氏は官房長官の菅義偉氏、経済再生担当相の甘利明氏に対し、徹底抗戦の構えを見せているという。菅氏は個人的に消費増税率の引き下げを働きかけ、甘利氏は法人税のさらなる引き下げを望んでいる。
大企業にかけられている高い法人税を減税することは理にかなっているが、国民が増税を求められている時期の減税は反発を招くリスクがある。
例えば、東京北中部の貧しい地区、山谷で小さな会社を営むイシダ・ユタカさんは、消費税が実際に引き上げられれば、会社の売り上げは2割落ち込むと見ている。政府は消費税の増税分を何か良いことに使うわけでもなく、法人税が引き下げられても大企業ほどの恩恵はないと、イシダさんは嘆く。自民党内でも、法人税の引き下げに反対する声は多い。
一方、エコノミストらはインフラへのさらなる支出に対して警鐘を鳴らしている。2012年の総選挙で自民党が勝利した直後から、建設、鉄道、道路などの業界とつながるあらゆる族議員が色めき立った。1月に発表された10兆3000億円規模の最初の景気刺激策は、その大部分がこうした族議員の支持母体に向けられた。
しかし、建設業の生産性は低下が続き、建設労働者は不足している。ゴールドマン・サックス証券のチーフエコノミスト馬場直彦氏は、公共事業に予算を投じても大きな成果は期待できないと警告する。
■遠くのご褒美を見据えて
長期的に見れば、経済を再び軌道に乗せる最も効果的な方法は、成長と税収増の両方を促す構造改革だ。
安倍首相にとっては、今こそ構造改革を推し進めるべき時だ。支持率は不思議なほど高い。国会には反対勢力はいないも同然で、自民党内にも事実上、安倍首相のリーダーの座を脅かすライバルはいない。首相は10月中旬から始まる秋の国会で、構造改革を断行する絶好のチャンスを迎えている。
主要な改革推進派の人々は、農業を非効率にしているコメの生産制限などの「岩盤」規制が今度こそこじ開けられるかもしれないと、慎重ながら楽観的になっている。計画中の経済特区における雇用や解雇に関する規制緩和も、論議を呼びながらも検討されている。こうした変革は消費税の引き上げと同様に議論を巻き起こすだろう。しかし、実現に持ち込めば、過去の政治の失策から真の意味で決別できるはずだ。
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英エコノミスト誌の記事は、JBプレスがライセンス契約 に基づき翻訳したものです。
英語の原文記事はwww.economist.comで読むことができます。
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