03. 2013年10月07日 15:05:52
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オバマをシャットダウンに追い込んだ「怒れる4人衆」ヒラリーはすんなりとは大統領になれない 2013年10月7日(月) 高濱 賛 共和党の「肉を切らせて骨を断つ」戦法 オバマ第2期政権は内政でも外交でも立ち往生している。2010年3月に署名した医療保険改革法(オバマケア)関連予算案を「人質」に取った共和党の大攻勢を受け、10月1日から政府機関の一部を閉鎖せざるを得なくなった。10月半ばには、連邦債務の額が再び上限に達し、デフォルト(債務不履行)の危機に直面する。解決のメドは全く立っていない。 共和党がオバマケアで一歩も譲らない最大の理由は、7人の過激派連邦議員のうち4人が指導部を突き上げているからだ。彼らはいずれも、16年の大統領選への出馬に意欲を見せている。彼らの動きを背後から支援しているのは、米国人口の半数を占める白人の中の保守派層を代弁する政治団体だ。これらの団体は反オバマケア、反オバマを主張している。 メディアを賑わしている過激派連邦議員4人衆は以下の通り。 (1)ランド・ポール上院議員(ケンタッキー州選出、50歳)。眼科医で財政規律派。父ロンは12年の大統領選予備選に立候補した。 (2)ポール・ライアン下院議員(ウィスコンシン州第1区選出、43歳)。12年の大統領選において、共和党の副大統領候補になった。財政通で、現在は下院予算委員長を務める。 (3)マルコ・ルビオ上院議員(フロリダ州選出、42歳)。人気上昇中のヒスパニック系保守派政治家。 (4)テッド・クルーズ上院議員(テキサス州選出、42歳)。草の根保守「ティーパーティ」(茶会)のクラウン・プリンス。1年生議員ながら今回は本会議場で21時間19分の議事妨害演説(フィリバスター)を行った。 これにクリス・クリスティ ニュージャージー州知事(51歳)、ジェフ・ブッシュ元フロリダ州知事(60)、インド系のボビー・ジンダル・ルイジアナ州知事(42)を加えた7人が、目下のところ、16年大統領選の共和党候補の下馬評に上がっている。ジェフ・ブッシュ氏は、ジョージ・W・ブッシュ前大統領の実弟だ。 オバマケア反対の狼煙は7月に上がった オバマケアについて、連邦最高裁は12年6月28日に合憲との判断を下した。名実共に法律になっている。本来なら14年1月からすべての企業経営者(50人以上の従業員を抱える雇用主を除き)及び個人はオバマケアに加入する義務を負う。 オバマケア粉砕の狼煙を上げたのは、マイク・リー上院議員(ユタ州選出)ら12人の上院議員だった。7月25日、ハリー・リード民主党上院院内総務に対し、「オバマケア施行に必要な資金の導入を止めなければ、政府機関を閉鎖に追い込むことも辞さない」としたためた書簡を突きつけた。同書簡には先の4人衆のうち3人の上院議員が署名者として名を連ねた。 ただし、この書簡に、ジョン・ベイナー下院議長(共和党)やエリック・カンター共和党下院院内総務など指導部は署名していない。7月の時点では、下院共和党指導部はそこまで強硬な措置を取るつもりはなかったようだ。("Mike Lee, Ted Cruz, Marco Rubio, Oppose Funding Obamacare," The Washington Free Beacon, 7/25/2013) 過激派議員たちを支援する富豪コッチ兄弟 共和党の過激派議員がここまで強硬な措置を取るには理由がある。 背後に、コッチ兄弟(石油で財をなした富豪のディビッド・コッチ氏と、チャールズ・コッチ氏)をはじめとする保守強硬派がメンバーとなっている政治団体が控えているのだ。これに、草の根保守「ティーパーティ」(茶会)やキリスト教原理主義者グループ、「嫌オバマ」の人種差別主義的団体が共闘し始めている。 コッチ兄弟らは潤沢な政治資金をちらつかせ、共和党過激派をオバマケア粉砕に煽り立てている。現職議員がオバマケア問題でちょっとでも弱腰な姿勢を見せようものならば、次期中間選挙の予備選段階で排除するとまで言い切っている。ベイナー議長をはじめとする共和党指導部がオバマ政権に対し一歩も譲歩できずにいる背景にはこうした事情がある。("Some People Are Making Big Bucks Sabotaging Obamacare," BillMoyers.come., 9/26/2013) ワシントンのある政治評論家はこう分析する。「法律にまでなっているオバマケアをどう葬り去るのか。最終的な決着がつくのは早くて来年の中間選挙の時だろう。ここで、オバマを支持するのか、あるいは共和党過激派を支持するのか、国民の意思が明確になる。そして最終的にシロクロを決めるのは16年の大統領選挙だ。今、繰り広げられている民主・共和の攻防はその前哨戦と言っていいだろう」。 オバマは「史上最も反政治的な大統領」 米政府機関は、ビル・クリントン大統領(当時)が政権を担っていた17年前にも閉鎖となったことがある。政府機能が21日間、完全にマヒ状態になった。解決の決め手となったのは、クリントン大統領の憎めない人柄にあった。政策面では対決しながらもニュート・ギングリッチ下院議長(当時)やリチャード・アーミー下院院内総務(当時)といった当時の共和党指導者たちをホワイトハウスに招き、朝食を共にするような関係は保っていた。 ところがオバマ大統領にはこうした人間関係が皆無なのだ。政策論議をする以前に、共和党指導者との間に相互不信がある。 ウォーターゲート事件の真相を暴いたジャーナリスト、ボブ・ウッドワード氏は、その著書『The Price of Politics』の中で、自分の意見に反対する相手に対して傲慢さをむき出しにするオバマ大統領の「実像」を描いている。同書が描いたオバマ大統領の姿(11年5〜7月にかけて)も債務上限引き上げを巡る攻防の最中だった。 ウッドワードは、譲歩の余地なしとする大統領の自己過信と相手を見下すような傲慢な態度を関係者の証言を基にビビッドに再現している。 例を挙げれば―― 独自の歳出削減試案を持参してホワイトハウスに乗り込んだカンター共和党下院院内総務が試案をオバマ大統領に手渡すと、一瞥もせずに机の上に放り投げ、「カンター君、選挙で勝ったのは私なんだよ」と横柄に言い放った。 招かれてやってきたベイナー共和党下院院内総務(当時)には、「何かご所望は」と問いかけた。ここまではよかった。だが、同総務がメルローを頼み、いざ飲もうとすると、自分はアイスティー。禁煙促進剤の二コレットをむしゃむしゃ。ベイナー総務は後日、「まさに2人の見解の違いをシンボリックに表していたね」と漏らしている。それ以上に、相手を気遣う「おもいやり」もゼロというべきか。("The Price of Politics," Bob Woodward, Simon & Schuster, 2012) 米ウォールストリート・ジャーナルの著名な政治コラムニスト、ダニエル・ヘニンガー氏は、「オバマ大統領は第二次大戦以降の米大統領としては最もAnti-political president(反政治的大統領)」と言い切っている。同氏の言う「反政治的」とは、「反対する者ととことん話し合い、譲歩できる部分は譲歩できる力量」がないということ。日本流に言えば、清濁合わせ飲む力量がない、と言うべきか。 オバマ氏は、秀才で弁の立つ黒人。人種差別をはね除け、持ち前の頭脳と努力とで最高学府を出、弁護士資格を取り、市民活動、コミュニティ活動を続けてきた。しかし、どろどろした政界を泳ぎきる「政治的素質」は欠けているのかもしれない。("Daniel Henninger: The Obama M.O.," Daniel Henninger, Wall Street Journal, 9/19/2013) オバマケアを巡っては実施反対が50% むろん共和党とて、政府機関をマヒさせてまでオバマケア導入を阻止すれば国民の反感を買うことぐらいは分かっている。 が、その一方で、オバマケアが国民の間で極めて不人気なことも十分承知している。それゆえ「肉を切らせ骨を断つ」作戦に指導部も引きずられている。今年6月時点での世論調査では、オバマケアを支持する米国民が44%だったのに対し、反対する国民は56%だった。無党派層に限れば、なんと73%がオバマケアに反対している。9月30日時点での世論調査でも、オバマケアの強制的適用に賛成したのは36%にとどまった。50%が反対している。 こうした世論の動向に手ごたえを感じた共和党は、オバマケアを直ちに破棄させることは無理でも、実施を1年延期できれば、撤回させるチャンスも出てくると読んでいる。延期させ、14年の中間選挙において、国民にもう一度オバマケアの是非を問う戦法だ。そしてその先には16年の大統領選がある。("Reuters Poll: 73% of Independents Oppose Obamacare," newsmax.com., 6/24/2013) ("Health Care Law: 50% Oppose Health Care law's Individual Mandate, 36% Favor," Rasmussen Reports.com, 9/30/2013) 米国民の目は、早やくも次期大統領候補へ ワシントンで展開している国民不在の政争に、米国民は嫌気がさしている。責任は誰にあるのか。むろん、オバマ大統領にも共和党議員にもある。しかし実際の政治が進まない最大の責任はやはりオバマ大統領にある。 アメリカ人は気が短い。「オバマ大統領ではもはや何も進まない」「何も決められないオバマ政権には期待できない」と考え始めている。となると、話題は2016年の大統領選で誰が次の大統領になるかに移り始めている。既にポスト・オバマの品定めが始まっているのだ。 民主党サイドは、ヒラリー・クリントン前国務長官が既に名実ともに独走している。 9月24日にはクリントン元大統領が主宰する財団「クリントン・グローバル・イニシアティブ」(CGI)の年次総会に登場。言葉には表さなかったが、髪を短く切ってイメージチェンジを図り、大統領選出馬への意欲を滲ませた。 クリントン元大統領はオバマ大統領を来賓として招き、2人で公開討論を行った。「オバマケア」を1日も早く実施に移すことを2人で熱っぽく語った。「オバマケア」の言いだしっぺはクリントン元大統領であり、当時ファーストレディだったヒラリー氏だった。("Not running for president(Yet), Hillary Clinton keeps the spotlight," Gabriel Debenedetti, Reuters.com,, 9/25/2013) オバマ氏が再選を目指す際、クリントン元大統領が全面的に支持した。16年の大統領選にヒラリー氏が立候補すれば、オバマ大統領は“あの時の借り”を返さねばならない。クリントン夫妻にすれば、「オバマからヒラリーへのスムーズな政権交代」との青写真を描いているはずだ。だが、ここに来てそうは問屋が卸さないファクターがいくつも露呈している。 シリア攻撃をいち早く支持したヒラリーの勇み足 第1は、これまで述べてきたオバマ第2期政権の失速だ。何をやってもうまくいかない。 シリア内戦を巡って、「ミサイル攻撃を決定した」といったんは公言した。だが世論の反対を受けるや、議会にその是非を問うた。共和党内の賛否が分かれて、もたついている間に、ロシアのプーチン大統領がすかさず調停に乗り出した。結局、アサド政権による化学兵器破棄をロシア主導で決めさせてしまった。 シリアはオバマ大統領を「無能で欺瞞だらけの大統領(Impotent and fraudulent president)」とあざ笑らった。("Meltdown in Washington D.C.: President Obama Reported Sedated Following Emotional Breakdown," Syrian Free Press Network, 9/21/2013) ところが、ヒラリー氏は、オバマ大統領のこの爆撃計画をいち早く支持していた。その後の展開を見る限り、国務長官経験者ともあろう者がとんだ勇み足をしてしまったわけだ。 「高齢」というハンディキャップ シリア攻撃を巡っては民主、共和両党入り乱れる形で賛否両論が飛び交った。議会全会一致の全面支持を得ようとしたオバマ大統領のもくろみは見事失敗に終わった。それどころか、オバマケアにしろ、連邦政府の累積赤字処理にしろ、共和党は下院を最後の砦に大統領との全面対決を辞さない構えだ。「オバマへの挑戦」は「ヒラリーへの挑戦」と同義。そして「オバマの失政」はイコール「民主党の失政」だ。ヒラリー氏はその「オバマの負の遺産」を受け継いで大統領選に臨むことになる。 もう1つ、ヒラリー氏には年齢問題がある。2016年に彼女は69歳になる。過去137年間、60歳を超えた人物を新任の大統領候補として民主党が指名したことはない。共和党サイドで下馬評に上がっている候補者は40代前半から50歳前後。唯一の例外であるブッシュ元知事でさえ60歳だ。共和党は早くもヒラリー氏の「年齢問題」を取り上げて攻め立てている。("GOP Portrays Hillary Clinton As 'Too Old' For 2015," Colette Mcintyre,The Janedough.com,, 7/2/2013) ("Attacking Hillary Clinton's age -- that's the GOP strategy?" Karen Heller, Philly.com., 7/15/2013) ヒラリー氏はかってのファーストレディ、前国務長官で、知名度も高く人気も抜群だ。しかし、これはあくまでも現在の評価で、16年の大統領選での勝利を保証するものではない。 反オバマケアの強硬派が共和党候補争い 共和党サイドはどうか。7月の時点では、財政規律派として上院での実績を積んできたポール上院議員がトップを走っていた。その後を3〜4ポイント差で、クリスティ、ライアン、ブッシュ、クルーズが2番手グループを形成して追いかけていた。 しかし、オバマケアを巡って民主・共和両党が激しいつばぜり合いを繰り広げられる中で、順位に変化が出てきた。議事妨害演説で知名度を高めたクルーズ議員が一挙に8ポイント増やして、ポール議員を抜いてトップに躍り出た。 【共和党大統領候補に上がっている政治家の支持率変遷】 今年7月25日段階 今年9月27日段階 ポール上院議員 16% 17% クリスティ知事 13% 14% ライアン下院議員 13% 10% ブッシュ元知事 13% 11% クルーズ上院議員 12% 20% ルビオ上院議員 10% 10% ("Cruz Leads national Republican field," Public Policy Polling, 9/27/2013) ("Paul, Cruz rising for 2016," Public Policy Polling, 7/25/2013) ヒラリーと互角に戦えるのは実務者クリスティ知事 この7人衆の中の誰が共和党大統領候補になれば、ヒラリー氏に勝てるのか。互角の戦いができるのか。 米国民の多くは、クリスティ知事ならヒラリー氏と互角に戦えると見ている。おそらく同知事が保守穏健であることや、実務能力を買ってのことと思われる。クリスティ氏は今年11月のニュージャージー州知事選に再出馬する予定。再選を果たした上で、16年の大統領選を目指す胸算用のようだ。 【民主党ヒラリー候補VS共和党候補が対決した場合ヒラリーは勝つか】 ヒラリーが勝つ 共和党候補が勝つ クリスティ知事 43% 42% ライアン下院議員 46% 44% ブッシュ元知事 44% 41% ポール上院議員 47% 39% ルビオ上院議員 45% 40% 注:この世論調査では「ヒラリーVSクルーズ」についての質問はされていない ("Paul leads GOP primary, but Christie best bet against Clinton," Public Policy Polling, 7/25/2013) このコラムについて ニュースを斬る
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