03. 2013年10月07日 12:09:09
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消費税、増税後は株価持ち直しへ 経験則では小売り・サービス株がカギ2013年10月7日(月) 門司 総一郎 10月1日、安倍晋三首相は大方の見方通りに、2014年4月1日に消費税率を5%から8%に引き上げることをを最終決定し、増税に備えて5兆円規模の経済対策の策定を表明しました。消費税増税が景気や株式市場にもたらす影響については様々な見方が存在しますが、1989年の消費税導入や1997年の税率引き上げなどが景気や株式市場に与えた影響を振り返った上で、今回の消費税率引き上げの影響について考えてみます。 1989年の消費税導入の影響は限定的 消費税が導入されたのは1989年ですが、高齢化社会への対応や社会保障の充実、直間比率是正などの観点から必要性は早くから指摘されていました。しかし、1979年の大平正芳内閣による一般消費税導入準備の閣議決定や、1987年の中曽根康弘内閣による売上税導入関連法案の国会提出が、いずれも世論や政治家の反対によって撤回、ないしは廃案に追い込まれるなど、なかなか実現しませんでした。 そうした中、1988年12月に竹下登内閣の下でようやく消費税法が成立、1989年4月1日に消費税が導入されました。当初の税率は3%です。 1989年前後の景気の動きを見てみます。実質国内総生産(GDP)は導入直後の4〜6月こそ駆け込み需要の反動などから前期比年率5.1%減と落ち込みました。しかし、7〜9月は同7.2%増、10〜12月は同13.0%増と高い伸びを続け、1991年2月まで景気拡大が続きました。 これを見る限りでは、消費税導入の景気への影響はほとんどなかったと言えます。これは当時がバブル経済のピークであり、内需が極めて強かったことや、物品税の廃止などで消費税の導入にもかかわらず国民負担が逆に減少したことなどが理由です。 (グラフ1)消費税導入前後の実質GDP成長率(四半期) 出所:内閣府より大和住銀投信投資顧問作成、Q1は1-3月 一方、株式市場ですが、消費税の導入を控えた1989年1〜3月の東証株価指数(TOPIX)は頭の重い展開でした。しかし、導入後の4〜6月には材料出尽くしとなって水準を切り上げ、7月以降は明確な上昇基調入り。年末には最高値を記録します。このように見て、1989年の消費税導入の景気・株式市場への影響はほとんどなかったと考えています。 なお、1990年初めからの株安は日本銀行による金融引き締めや、大蔵省の不動産融資の総量規制などによるバブル崩壊に伴うものであり、消費税導入によるものとは言えません。 (グラフ2)消費税導入前後のTopixの推移(日次) 出所:Bloombergより大和住銀投信投資顧問作成 自民・新進の改革競争の中で税率引き上げが確定 次は消費税率が3%から5%に引き上げられた1997年前後の状況を見てみます。高齢化社会への対応などに加えてバブル崩壊後に悪化した財政を立て直す意味もあり、1994年11月に村山富市内閣の下で改正消費税法が成立、1997年4月に税率が引き上げられることになりました。その後1996年6月に橋本龍太郎内閣が実施を閣議決定したことにより、税率引き上げが確定します。 バブル崩壊の影響が残る中での消費税率引き上げは奇異に感じられますが、当時の政界は自民党と1994年に誕生した新進党の間で、財政健全化や行政改革を巡って改革競争の雰囲気があり、世論もこれを支持していました。例えば、1995年12月の新進党の党首選では消費税率を10%に引き上げることを主張した小沢一郎氏が当選しています。 1996年10月の総選挙では消費税率引き上げを掲げて戦った自民党が勝利しましたが、新進党は党首選で税率引き上げを公約とした小沢一郎氏が勝利したにもかかわらず、消費税率据え置きを公約としており、このぶれが敗北につながったとの見方もあるようです。総選挙に勝利した橋本首相は行政改革、経済構造改革、財政構造改革などの六大改革を打ち出し、消費税率の引き上げに踏み切りました。 1997年の税率引き上げ後は景気が大幅悪化 1995年半ば以降の円高修正に伴って当時の景気は回復基調にありましたが、税率引き上げ直後の4〜6月の実質GDPは前期比年率3.7%減と落ち込みました。その後7〜9月はいったんプラス成長を回復しますが、10〜12月から翌年4〜6月にかけて3四半期連続でマイナス成長となり、景気は後退局面入りしました。 (グラフ3)消費税率引上げ前後の実質GDP成長率(四半期) 出所:内閣府より大和住銀投信投資顧問作成、Q1は1-3月 1997年4月は消費税率の引き上げに加えて、特別減税の廃止や医療費の自己負担増などもあり、国民負担の増加は9兆円に達しました。橋本首相は6大改革の1つとして財政構造改革を掲げており、一気にこれを進めようとしたのかもしれませんが、振り返ってみれば、やり過ぎだったようにも見えます。 また海外では7月、タイバーツの切り下げをきっかけにアジア通貨危機が発生。日本国内では11月に北海道拓殖銀行や山一証券などの大手金融機関が破綻するなど、内外で「危機」と呼ばれる状況が発生しましたが、これも景気を大きく悪化させることになりました。 (表1)国民負担の増減(主要項目のみ、兆円) 出所:三菱UFJモルガン・スタンレー証券より大和住銀投信投資顧問作成 TOPIXは円高修正や景気の持ち直しに伴って1995年半ばから1996年前半にかけて上昇しましたが、その後は下落基調にありました。景気や業績の回復が続く中で株価が下落した理由ははっきりしませんが、上昇の反動や消費税率引き上げへの警戒などを指摘する向きがあります。 消費税率引き上げ前のTOPIXは横ばいで推移。引き上げ後の4〜6月は材料出尽くし感からいったん持ち直しましたが、アジア通貨危機の発生や国内の金融危機深刻化を受け、そこから大きく下落します。 (グラフ4)消費税率引上げ前後のTopixの推移(日次) 出所:Bloombergより大和住銀投信投資顧問作成 景気悪化の主因は国内の金融危機 1997年から1998年の景気悪化については、消費税率引き上げが主因とする見方のほかに、「アジア通貨危機や国内の金融危機が主因であり、消費税率引き上げだけであれば、これほどの景気悪化にはならなかった」とする見方がありま。私は後者の立場です。 7〜9月のGDP成長率がいったんプラスになったこと、また消費者態度指数が3月を底に9月まで上昇したことなどから、消費税率引き上げで勢いは弱まったとは言え、景気の回復は続いていた。それがアジア通貨危機に加え、特に国内の金融危機によって打撃を受けたとの見方です。 (グラフ5)消費税率引上げ前後の消費者態度指数(月次) 出所:Bloombergより大和住銀投信投資顧問作成 今回の影響は1997年より小さい 以上を踏まえて2014年4月に消費税率が5%から8%に引き上げられた場合の景気への影響について考えてみます。結論から言うと、バブル経済のピークで内需が極めて強かった1989年の消費税導入時のように全く影響なしとはならないものの、1997年のように景気後退に陥ることもないでしょう。 前述のように、1997年の国民負担増はすべて合わせると9兆円と言われました。今回は消費税率引き上げに伴う負担増こそ8兆円と言われますが、それ以外に1兆円を超えるような大きなものはありません。 一方で、安倍首相は消費税率引き上げの影響を緩和するために、5兆円規模の経済対策を表明していますし、また日銀の黒田東彦総裁も景気が失速した場合は追加的な金融緩和で下支えすることを示唆しています。 このように安倍政権が1997年の轍を踏まないよう配慮していることから、2014年4月の税率引き上げにより景気が失速する可能性は低いと見ています。 危機的な状況が発生すれば別ですが、そうでなければ2014年4〜6月の実質GDPは駆け込み需要の反動からマイナス成長と見ているものの、マイナスは1四半期のみにとどまり、景気回復が途切れることはないとの見通しです。 また株式市場については、1989年、1997年ともに税率引き上げ前に株式相場は調整し、その後は上昇しました。このことを考慮すると、2014年の1〜3月はボックス圏での推移が見込まれますが、引き上げ後は悪材料出尽くしから上昇に転じると予想しています。 小売株・サービス株の動きに注目 最後に消費税の影響が比較的大きいと思われる小売業やサービス業の株価が、1989年や1997年にどのように推移したかを見てみます。レシオケータはTOPIXとの比較において、それぞれの指数がどのように動いたかを示すものですが、上昇すればTOPIXよりも相対的に強かった、低下すれば相対的に弱かったということになります。 (グラフ6)消費税導入前後の東証小売り/サービス株指数(日次) 出所:Bloombergより大和住銀投信投資顧問作成、対Topix/レシオケータ、89年3月末=100 1989年、1997年ともに1〜3月は小売株やサービス株のレシオケータが低下しました。消費税導入や税率引き上げの前には、こうした業種の株価がTOPIXと比べて弱かったということになります。 しかし、4〜6月は逆に上昇しており、相対的に強かったことが見て取れます。あくまでこの観点からだけの話ですが、もし消費税率引き上げを控えた2014年1〜3月に小売株やサービス株が弱い場面があれば、そこは買いタイミングと考えることができるでしょう。 (グラフ7)消費税率引上げ前後の東証小売り/サービス株指数(日次) 出所:Bloombergより大和住銀投信投資顧問作成、対Topix/レシオケータ、97年3月末=100 <参考文献> 「首相支配−日本政治の変貌」(竹中治堅、中公新書)、「消費税を巡る議論」(小池拓自、「調査と情報―ISSUE BRIEF」609号、国立国会図書館) このコラムについて 政治と市場の“正しい”見方
今、日本は新政権の誕生で「政治」と「金融市場」の関係がこれまで以上に強まり、複雑化しています。さらに欧州の債務危機や米国の財政の崖、中国の新執行部選出など、政治と市場を巡る動きは、海外でも大きな焦点となっています。 しかし、市場関係者がこの両者の関係を論じる場合、「アベノミクスで日本は変わる」など物事を極めて単純化した主張になりがちで、十分な分析がなされているとは言えません。そこで、このコラムでは政治と市場の関係について深く考察し、読者の皆様に分かりやすく解説していきます。 http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20131004/254190/?ST=print |