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小さなアリが巨ゾウを倒す アップルに勝った発明家
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10月2日 東京新聞「こちら特報部」
小さなアリが巨ゾウを倒した−。携帯音楽プレーヤーiPod(アイポッド)の円形スイッチをめぐる特許権の訴訟で、東京の発明家が、米国の大企業アップルに勝ったのだ。巨額の利益を生む特許権。今、国境をまたいで激しい闘いが繰り広げられている。「特許戦争」の最前線を探る。 (荒井六貴、林啓太)
「やっぱり、譲れないものがある」
巨大な相手に闘いを挑んだ東京都内の発明家斎藤憲彦さん(56)は、代理人を務めた上山浩弁護士(55)にそう決意を表したという。
争点になったのが、アイポッドのクリックホイールと呼ばれる円形スイッチの特許権。プレーヤーを片手で持ち、曲の選曲などの操作を指でなぞるだけでできるのが、魅力になっている。
アップルのホームページによると、クリックホイールが採用されたのは、二〇〇四年に発表されたアイポッドミニからで、〇九年までに計十七種に使われた。
斎藤さんは大手IT企業の開発者を経て独立、技術開発専門の会社を立ち上げた。会社と言っても社長一人の個人商店のようなものだという。
ノート型パソコンの装置などの技術も生み出す「アイデアマン」(上山弁護士)。特許を十件以上持ち、一九九八年一月に、クリックホイールの考え方を「携帯用小型電子機器に使用され、指先の移動により入力する接触操作型入力装置」などとして、日本で特許出願していた。
クリックホイール型のアイポッドが発売される前、斎藤さんはアップルに「使いやすい操作技術がある」と売り込みをかけていた。「すでに特許申請したので、交渉によっては使用権を認めてもよい」と連絡し、アップルの法務担当者らと交渉を始めた。しかし、〇四年八月に条件面で折り合わず、決裂。アップルはクリックホイール型のアイポッドを販売した。
斎藤さんは「明らかに特許権を侵害している」として〇七年、税関当局に輸入の差し止めを申し立てた。これに対し、アップルは、「新規性はない」として、特許権を侵害していないことの確認を求めて提訴してきた。斎藤さんも一億円の賠償を請求し反訴した。
まさにアリと巨ゾウの闘いだった。
事実上、斎藤さんと上山弁護士の二人に対し、アップルの弁護団は特許の専門家である弁理士を含め十人以上。裁判は六年七カ月にも及んだ。知的財産に関する裁判の平均審理期間は約一年だから、異例の長丁場だった。
初めは、不利な状況が続いた。税関当局は、特許権の侵害に当たらないとして、輸入の差し止めを認めなかった。裁判所も、そうした前提で和解を勧告してきた。
「斎藤さんも一時は弱気になり、くじけそうになったこともあった。和解協議になり、やっぱりおかしいという気持ちがわき起こり奮い立った」(上山弁護士)
斎藤さんは〇九年、特許の内容を具体的に補強することを特許庁に申し立て認められた。裁判官の心証に、変化が生まれた。斎藤さんは、賠償額を一気に百億円に上げた。アップルの売り上げは、クリックホイールを使用した分で五千七百億円と推計し、賠償額をはじきだした。
九月二十六日の東京地裁の判決は、第三者の会計士が試算した三億三千万円の支払いをアップルに命じた。
アップルは即日、控訴。「裁判に関しては一切、コメントしない」としている。
斎藤さんは、裁判についてコメントを出していない。上山弁護士は「闘いはこれからも続き、コメントを出すタイミングではないと考えている」と斎藤さんの思いを代弁する。
上山弁護士は「巨大企業を相手に、一人の発明者が立ち向かった。同じような立場の発明者に、勇気を与える結果になった」と判決を高く評価する。「発明家は、世の中に新しいモノをもたらし、生活をよくしたり、貢献したいと考えているのだから、経済的にもリスペクト(尊敬)すべきだ。そうしないと、新しい技術が生まれなくなる」と訴える。
特許権をめぐる争いは、国境をまたいでし烈になっている。
アップルと韓国のサムスン電子はスマートフォンのデザインや技術が似ているとして、米国や韓国、ドイツ、オーストラリアなど世界中で訴訟合戦を繰り広げている。日本でも十数件の訴訟が係争中で、東京地裁の三件の判決は勝敗が分かれた。
米国のボストン大は今年九月、日本のキヤノンやソニーなどが、デジタルカメラや液晶テレビの青色発光ダイオードに関わる技術について、「特許権を侵害した」として、損害賠償を求め、米連邦地裁に提訴した。五月には、三菱重工が、風車に関する米ゼネラル・エレクトリックの特許を侵害したとして、連邦地裁で約百七十億円の支払いを命じられた。
パナソニックや東芝、任天堂も標的になった。
米国の特許ライセンス会社が、光ディスクに関わる特許技術を無断でパソコンやゲーム機に組み込んだとして、製品の輸入の差し止めを求めて米国際貿易委員会(ITC)に調査の開始を申し立てている。
なぜ、特許権をめぐる争いが激化しているのか。背景の一つが、ものづくりの「デジタル化」だ。伝統的な「職人の技」よりも、IT技術などの特許の重要性が高まったのだ。日本知的財産協会の久慈直登専務理事は「十年以上前は、先行企業に追いつくのに数年かかった。今ではすぐに追いつける。まねをさせないため、特許を取っておく、ということの重要性が高まった」と話す。
訴訟の増加には「特許がカネになる」とみた米国の金融ファンドが特許ビジネスに手を出してきたことも背景にある。「パテント・トロール(特許の怪物)」と呼ばれるファンドだ。
特許庁企画調査課の遠山敬彦企画班長は「米国のITバブルがはじけた二〇〇〇年以降、金融ファンドが倒産したIT企業から特許を買い取った。パテント・トロールはこれを基に、特許を侵害しているとみた企業を相手に訴訟を仕掛けている」と指摘する。
久慈氏は「特許の独占権が効くのは、出願した国だけだ。日本だけで特許を取っても秘密情報が公開されたままになっているのと同じだ」と指摘。海外で特許を積極的に出願することを求める。特許庁によると、中国が一二年に日米欧中韓で出願した特許は計六十五万件。日本の三十四万件を大きく引き離す。
企業が保有しながら使っていない「休眠特許」の保護や活用も課題だ。国内の大企業などが保有する百三十五万件のうち約半数が休眠特許とされるが、国外に流出する可能性も皆無ではない。
久慈氏は「日本企業が連携して国内の休眠特許を守り、海外勢の特許戦略に対抗していくことが重要だ」。遠山氏も「特許などの知的財産を軽視した無謀なビジネスをしていると、身ぐるみをはがされる」と警告した。
<デスクメモ> 夏休みの宿題で、ちゃちな貯金箱のようなものを作った。発明とは言えないけど、いろいろ工夫をした。子どものころの方が発想力があった(気がする)。まちの発明家の技術が巨万の富を生むかもしれないと思うと、わくわくする。常識にとらわれない柔らかな頭が必要だ。言うのは簡単だけど。(国)
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