02. 2013年10月03日 03:14:49
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【第169回】 2013年10月3日 池上正樹 [ジャーナリスト] 「49歳の息子と対話できない」「父親と話しづらい」 引きこもり家族会で語られた噛み合わない親子の本音 「引きこもり」家族会の全国組織、「全国引きこもりKHJ親の会」が主催する第8回全国大会が9月28日、29日に福岡市で行われ、300人以上が参加。会場は立ち見の人たちであふれるくらい、ぎっしり埋まった。 別の部屋で開かれた「引きこもり」当事者の交流会にも、全国から約30人が駆けつけ、大きな輪になった。 会の前半部分は九州の家族会の父親による運営で進められ、親子間の確執などについて話し合った。しかし、後半、当事者の提案で本人たちだけの交流会に切り換えると、遠慮がちだった参加者も自ら発言するようになった。 翌29日には、福岡の家族の要望に応えて、別の会場で『ひきこもり大学』の「生きていたいと思うようになりたい」学科を関西の当事者の進行により、デモンストレーションで開催。参加者から「『変わっていてもいいよね』学科を作りたい」「歴史上のひきこもりの人物を探したい」といった提案も出された。 他人の親は話しやすいのに なぜ父親は冷静に話してくれないのか 2日間にわたって福岡市で全国大会を主催したのは、全国引きこもりKHJ親の会(家族会連合会)の福岡「楠の会」。 「ひきこもりの新しい流れ〜安心して生きる未来を求めて〜」というテーマが掲げられ、当連載も取り上げた秋田県藤里町社会福祉協議会の菊池まゆみ事務局長の「中間的就労施設による町おこし」などの講演や、現場でアウトリーチに取り組む事例などのシンポジウムが行われた。 一方、当事者らの交流会は、28日の午後1時半から3時間ほど別室で開催され、全国から30人余りが参加した。 会の世話人を務めたのは、自らも家族であるNPO法人「熊本ブランチ」代表の武井敬蔵さん。 それぞれの自己紹介、ひきこもり大学への質問などが一通り終わると、ある当事者男性がこう発言した。 「他人の親だとしゃべりやすい。僕の父親は、従妹や他人の子どもには落ち着いて冷静に話せるのに、自分の家族にできないのはなぜだろうと思った。そのように話してくれれば、僕もちゃんと話を聞くのに…」 49歳の息子がいる父親の1人も「息子と対話ができない」と明かす。 この父親は、ある傾聴講座に参加した。終了するとき、講師の言葉の中に「すべてお父さんが悪いんです」と書かれていて驚いた。がっかりした。 「いろいろ考えると、価値観が違うから、バッティングする。いろんな経験をしていかないといけない」 話題は「親と子の確執」に入っていく。司会の武井さんは「親の思いと、それに応えたい子どもがうまく噛み合わない」といって、こう提案する。 「親がもう少し積極的に、自分の子どもでなくても関わっていったほうがいいのではないか」 子どもに感情的になってしまう 父親たちの「本当の気持ち」とは 前出の父親は、「オヤジの気持ち」について話し始めた。 「相手を変わらせようと思ったら、自分が変わらないといけない。あるとき、息子に暴言を吐いたら、内緒で1万円払うことに決めた。やめることができるんですよね。ただ、怒りを抑えれば、どこかで爆発するから、他がとばっちり食らってるかもしれないけど。親の会に参加するのは母親ばかり。だから、最近、オヤジの会をつくりました。お父さんにも家族会にどんどん参加してもらい、家の中でお子さんを見る目を変えてほしいと思って、いまも実行しています」 やがて、家庭内の父親の役割についての話題に移っていった。 経験者の30歳代男性が、親と話をして1人暮らしを始めた経緯を明かした。 「7年前、家の中で親に干渉されても何も言えないから、外に出させてもらった。解放感があって楽になった。親も社会に振り回されていたんだなとわかって、親に振り回される必要はないと気づいた。親といったん、距離を置いて、自分自身も落ち着くことができた。ずっと親と顔を突き合わせていると、お互いに感情的になってしまう」 武井さんは、父親の気持ちを代弁して、敢えてこう問題提起する。 「親は耐えていらっしゃる。心の中に怒りがある。自分の望みを子どもにぶつけたくても受けてくれない。もどかしさ、悔しさ、焦りなどの複雑な感情が、親の中にある。親が子どもに期待するのは元々、遺伝的に抱えているもの。でも、現実にはすんなりいかないのが、親子間の軋轢、確執を生んで、問題を複雑化しているというのが私の考え。その原因は君たちが抱えているのではないかという疑いを親は持っている。子どもは親に答えようと思っても、なかなか表現しにくいのではないか。それに対して、みなさん、何かありましたら教えていただきたい」 すると、元当事者の男性がこう発言した。 「親に認められたいというのは、昔ありました。親が変われば子も変わるという言葉は、私は信じない。様々な方からの影響を受けると思うし、親がいなくても立派に生きていく方もいる。段階にもよるが、親は親の人生を生きていればいい」 前出の父親が再びマイクを握った。 「自分の物差しを子どもに当てはめることはしていません。オヤジの会でも、しかめっ面してた親がだんだん柔和になると、子どもを褒めだす。正社員でなくても、一歩を踏み出すことが大事。小さなことでもいいからやってみてほしい。親としてはそれだけでも嬉しい」 当事者同士だけで話すことで 自由な発言、満面の笑みも ここで、当事者側から「休憩にしませんか?」との声が上がった。そして休憩中、「当事者グループと、親や支援者のグループとに分かれて話しませんか?」との提案が出された。 家族会が運営する当事者交流会は、当事者にとっても安心できる場だ。また、当事者に家族、支援者らが混ざって雑談できるという機会も貴重で、“疑似親子”同士の対話も生まれた。 一方で、どうしても発言力の強い父親に話題が引っ張られる。当事者が自由に発言しにくい空気もあったようだ。 こうして後半は、当事者だけの集いに変更。十数年の引きこもり経験者で、神戸市のNPO「グローバル・シップスこうべ」代表の森下徹さんの主導によって進められた。 「幼少の頃、母親と接することも話すこともなかった。その後遺症で、何か行動しようとすると、不安に陥る」 「子どもの頃、テストは100点満点で減点法。100点取って当たり前だったから、正解を得ることよりも、失敗しないことに気を使ってきた。会社に入っても、遅刻してはいけない。休んではいけないという自分への縛りがつらくて、どこかで崩したかった」 「一口に当事者と言われるけど、世間では“若者”や“青年”と、そこに当てはまらない上の年齢に分けられてしまう」 「でも、年齢を超えて、つらさをわかり合えるし、つながることもできるよね」 後半は、このように当事者同士で、お互いの経験や思いを分かち合った。 また、翌29日は、別会場で開催した『ひきこもり大学』の「生きていたいと思うようになりたい」学科に、20人近くが参加した。ただ、ネーミングした当事者の先生が、福岡まで移動できないため、みんなでテーマについて語り合った。 そして、大学で実現してみたい学部や学科を募ったところ、「変わっていてもいいよね」「アニメを語り合いたい」「お金を使わずに生活したい」「歴史上の中でひきこもっていた人を探す」など、様々なアイデアが出て盛り上がった。 初日、硬直した表情で参加して、「明日、行けそうなら…」と話していた当事者が、翌日のひきこもり大学で「今日も来ちゃいました」と満面の笑顔を浮かべていた姿が、とても印象的だった。 この記事や引きこもり問題に関する情報や感想をお持ちの方は、下記までお寄せください。 teamikegami@gmail.com(送信の際は「@」を半角の「@」に変換してお送りください) ☆―告知―☆
※池上正樹 新刊のご案内※ ひきこもり歴12年の40代男性と向き合ってきた3年間の記録。 『ダメダメな人生を変えたいM君と生活保護』(ポプラ新書) 9月18日発売予定 価格 780円(税別) ●「ひきこもり大学」に関するお問い合わせが多いので、フォームをつくりました。 話をしてみたい、話を聞いてみたい、アイデアを提供したい…など、こちらからお願いします。 http://katoyori.blogspot.jp/2013/09/hikikomoridaigakuform.html
【第21回】 2013年10月3日 後藤順一郎 [アライアンス・バーンスタイン株式会社 クライアント本部戦略ソリューション室長、兼DC推進室長] 実践編(1):目的に合った投資をする 過去数回、合理的な投資行動を阻む人間固有のバイアスを回避するため、思い切って自分の意思決定を排除する仕組みとして「分散投資」「長期投資」「積立投資」についてお話ししてきました。この連載を読んで会社の確定拠出年金や個人の証券口座で投資を始めようと思う方がいればとても嬉しいことですが、実際に投資をする場合、知っておかなければならないことがまだあります。分散投資、長期投資、積立投資などはあくまで総論的な話で、野球にたとえるなら、ポジションごとにどのような人を配置すればよいか(分散投資)、または、一試合だけで見るのではなく全シーズンを踏まえて作戦を立てよう(長期投資)といった非常にハイレベルの意思決定です。 実際の試合では対戦相手の特徴を踏まえたうえで細部を詰め、例えば、なるべく点を取らせない作戦でいくのか、それとも打撃戦に持ち込むのかなどを考える必要があり、資産運用にも同じことが言えます。そこで、今回からは資産運用においてオヤジ世代の皆さんのそれぞれの目的を達成するためにどのような戦略を立て、それを遂行すればよいのかといった実践ノウハウをご紹介します。 資産形成で重要な三つのポイント 上手に資産形成を実践するうえで重要なのは主に、(1)目的に合った投資をする、(2)年齢によって投資の仕方を変える、(3)投資を計画通りに進める、の三つです。今回はまず、(1)の「目的に合った投資をする」についてお話しします。 目的に合った投資の仕方を判断する基準は、「投資期間」と「目標」です。投資期間は1年程度の短期か、10年超の長期かということで、目標は資産を殖やす、もしくは守るといったイメージです。一般的には、「短期で守る」場合は市場変動の影響を受けにくい低リスク・低リターンの運用が適切で、「長期で殖やす」場合は高リスク・高リターンの運用が適しています。 老後資金の運用に適した投資の仕方 では、これを踏まえ、退職後の生活資金を準備するという目的のために運用する場合について考えてみましょう。これまで何度も述べてきましたが、今の日本は65歳の男性の4人に1人がさらに25年以上、つまり90歳まで生きる世の中になっています。4人に1人というのは誰にでも起こり得る確率であるため、老後資金の準備は90歳までが一つの目安になります。運用というと給与所得がある定年までと思われがちですが、保有する資産の運用という意味では今50代でも30年以上の期間があるので、投資期間は当然、長期となります。 一方、運用の目標は資産を殖やすことか、それとも元本割れしないよう守ることでしょうか。従来は、老後資金については準備段階においても、その後の引き出し段階においても、守りの運用が好ましいと言われてきました。しかし、問題は資産を何から守るのかという点です。市場変動の影響から守りたいのであれば、確かに預貯金が適切ですが、預貯金はインフレに対しては無防備です。デフレ脱却を目指すアベノミクスによって2%のインフレが実現し、それが安定的に30年継続する場合、資産は実質ベースで45%も目減りしてしまいます。たとえ元本割れしなくても、これでは資産を守れたとは到底言えず、実際には資産を少なくともインフレ程度に殖やさないと、生活水準は維持できません。 また、元本割れを恐れて保守的な運用をしていると、90歳まで生きることが珍しくないこの国では、老後の生活資金が途中で底をつく可能性が高くなります。これは「長生きリスク」と呼ばれ、老後資金の運用においては「インフレ・リスク」と同様、考慮しなければならない大きな要素です。 このように、インフレ・リスクと長生きリスク両方の視点から考えると、老後資金の運用は殖やすことが目標になります。一方、50代のオヤジ世代にも十分な時間があるため、投資期間は長期となり、「長期で殖やす」高リスク・高リターンの運用という従来とは真逆の答えが正解となります。 とはいえ、大事な老後の生活資金を減らしたくないと思うのは当然で、行動ファイナンスでも損失から生じる苦しみは利益からくる喜びよりも2.25倍大きいと言われ、市場変動リスクを避ける保守的な運用になるのも無理はありません。しかし、大事な老後資金だからこそ、何のリスクに対応する必要があるのかを冷静に考えなくてはなりません。市場変動リスクだけではなく、前述のインフレ・リスクや長生きリスク、そして退職までに十分な資産を形成できない「貯蓄不足リスク」などのバランスを取ることによって、目的に合った効果的な運用を行う必要があるということです(ただ、この高リスク・高リターン運用をずっと続けられるかというとそうではなく、年齢に合わせた調整が必要となるのですが、それについては次回お話しいたします)。 ここまでは退職後の生活資金について考えてきましたが、運用する資金はそれだけではありません。オヤジ世代の皆さんの中には、子供たちが巣立つ時期に差し掛かり、数年後に迫った退職後のライフスタイルに合うように自宅の改修を考えている人もいるかもしれません。そうした資金を運用する場合、殖えたら豪華に改修し、減ったら質素にするという人はあまりおらず、予算をある程度固めてその範囲内で改修するのが普通だと思います。資金の準備期間は長くてもせいぜい5年程度でしょう。 この場合、資金が減ったら改修計画に大きな影響が出ますし、5年程度ではインフレの影響もあまり大きくないため、「短期で守る」低リスク・低リターンの運用が適切だと思います。 このように資産運用の目的が何なのかによって、投資の仕方は大きく変わりますので、実践する前に、目的に合った戦略を練ることが大事になります。 今回の川柳 目的を 定めてしっかり 資産運用 ※本記事中の発言は筆者の個人的な見解であり、筆者が所属するアライアンス・バーンスタイン株式会社の見解ではありません。 |