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(2013年9月30日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
好戦的な米国の南部出身者の気質を知りたければ、映画「風と共に去りぬ」を見るまでもない。連邦議会のありようを見れば十分だ。
10月1日火曜日の朝までには、南部出身者が大半を占める共和党が「オバマケア」関連予算の打ち切りを目的に、連邦政府機関を閉鎖するつもりなのか、はっきりするだろう。それから約2週間後には、オバマ米大統領の最大の業績の1つである医療保険改革への反感が、米国債への信認を守ることよりも大切かどうかが判明するだろう。
いずれの攻防においても、医療保険改革法を覆そうという共和党の試みは、まったく実を結ばないはずだ。だが頑固な保守主義者は、社会主義的で世俗的なオバマケアという新制度が市民社会のわずかな名残を徐々に消し去っていくのを眺めながら、その阻止に立ちあがった自分たちは勇敢であったと自らを慰めることはできるだろう。名誉ある敗北、というわけだ。
少なくとも、(医療保険改革法予算打ち切りを強く求めている)テッド・クルーズ上院議員の頭の中には、こういう筋書きが描かれているようだが、これには大きな欠陥がある。
■オバマケアは保守的改革
まず「患者保護並びに医療費負担適正化法(ACA、通称オバマケア)」は、反対者が言うようなものではまったくない。現実には、既存の市場主義にもとづく米国の医療保険システムに比較的控えめな改革を加えただけだ。共和党の政治家もよく分かっているように、オバマケアの仕組みは、ワシントンDCに本拠を置く保守派の有力ロビー団体、ヘリテージ財団の1993年の報告書からそのまま借用したものだ。今日、ヘリテージ財団はACA批判の急先鋒(せんぽう)となっている。
また、これも共和党の政治家ならよく分かっていることだが、ACAは2012年の大統領選で共和党の候補者となったミット・ロムニー氏がマサチューセッツ知事時代に実行した医療制度改革より、さらに保守的だ。オバマケアで提供される医療保険は、補助金の対象となるものとそうでないものを含めて、すべて民間の保険会社が提供する。パブリック・オプション(公的保険)は存在しない。本質的にACAは、保守的改革の勝利なのである。
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共和党がACAに反発している原因は、それによって米国政府が肥大化するためだと思われがちだが、それも正しくない。米国の医療保険の半分以上は、既に米国政府が直接提供している。高齢者向けのメディケア、貧困層向けのメディケイド、そして米軍に在籍した経験がある人すべてを対象とする退役軍人向けの給付だ。
このように米国の医療制度の半分以上は、本質的にカナダや英国の国民健康保険と変わらない。だが共和党にはこうした制度を廃止する意向は一切ない。2010年にACAが可決されたとき、オバマ大統領がメディケイドの対象を単純に65歳以下の全国民に広げなかったことに、大統領支持者の多くが失望した。
オバマケアはその代わりに、既存の民間保険制度により多くの国民が加入できるように補助金を出す予定だ。その結果、米国にいる4800万人の無保険者の多くが保険に入れることを期待したい。だが共和党が大きな政府を恐れているのであれば、医療保険制度を攻撃対象に選ぶのは間違いだ。
最後に、オバマケアを阻止しようという共和党の試みは、政治的メリット(少なくとも支持率を高めるという一般的な意味において)をもたらさないだろう。ACAは比較的不人気で、支持しない国民は多い。だが国民の大多数は、オバマケア関連予算の打ち切りと米国の債務上限引き上げ問題を結びつけるという共和党の試みを支持していない。
■医療改革阻止の根底に反オバマ感情
1995年末と1996年初頭の、共和党のギングリッチ下院議長(当時)による政府機関を閉鎖するという決定は、96年の大統領選で共和党がビル・クリントン氏に敗れる一因となった。共和党の支持率がさらに悪化すれば、来年の中間選挙で下院の圧倒的多数を守ることが難しくなるかもしれない。米国債が債務不履行(デフォルト)になるようなことがあれば、それはほぼ確実だろう。世論調査を見れば、民主・共和両党のうちどちらが責めを負うべきかは明白だ。
それでは、共和党がこれほどオバマケアにこだわる理由は何か。その答えは、以前から明らかだった。原因を突き詰めると、保守派グループ「茶会党」の反オバマ感情に行きつく。2009年8月の激しい抗議集会の後、サウスカロライナ州選出のジム・デミント上院議員は、医療制度改革を「オバマ大統領のワーテルローの戦いにする」(訳注:ナポレオンが英国・ドイツ連合軍に大敗、失脚する原因となった戦い)と息巻いた。実際、その試みは成功しかけた。ACAは僅差で可決されたからだ。デミント氏は現在、ヘリテージ財団の理事長となっている。
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この最初の名誉ある敗北に至るまでに、茶会党系の共和党員は、オバマケアは高齢者にとっては死亡宣告に等しく、また官僚が運営する医療制度の誕生につながると主張し、主に白人と高齢者の間で支持を高めた。そこではオバマケアの是非に関する政策的議論はほとんど見られなかった。共和党はオバマ大統領がメディケアから資金を奪い、オバマケアにまわそうとしている、と訴えた。オバマケアの抗議運動では「オレのメディケアに手を出すな!」というプラカードを掲げる人の姿が目立った。
今日のオバマケアへの反対運動も、当時と同じくらい現実とかけ離れている。ACAが米国のカネのかかる複雑な医療供給システムを多少なりとも改善するまでには、何年もかかるのは誰が見ても明らかだ。もちろんACAは数百万人の米国人により人間的な生活をもたらすだろう。また連邦政府の財政赤字を多少は減らすことにつながるかもしれない(議会予算局によると、今後10年で1080億ドル=約10兆5570億円=の圧縮)。だが医療制度の基本的特徴は現在と変わらない。
■オバマ氏「交渉の余地はない」
実質的に茶会党系の共和党員は、インディアン戦争で勝利を焦って戦死したカスター隊長の悲劇を再現するような、きわめて特異な舞台を選んでしまった。心理学的見地からでなければ、彼らの無謀さを理解することは不可能だ。
オバマ大統領は繰り返し、債務上限引き上げをめぐる議論では、共和党と交渉の余地はないと語っている。これは米国大統領に取り得る唯一の責任ある立場だろう。共和党の妥協を許さない要求に直面したら、交渉の余地などない。
こうして米国は、オバマ大統領にとって議会よりイランの指導者と交渉するほうが有意義であるという奇妙な状況に陥ってしまった。共和党はまもなく要求を下げるか、財政版“核発射ボタン”を押すかの選択を迫られる。どちらも共和党にとっては敗北だ。今回はメンツにこだわらない選択をしてくれることを期待しなければならない。
By Edward Luce
(c) The Financial Times Limited 2013. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation.
http://www.nikkei.com/article/DGXNASGM3003C_Q3A930C1000000/
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