03. 2013年9月26日 20:25:00
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国内債中心ポートフォリオ見直しを−GPIFなどで政府会議 9月26日(ブルームバーグ):政府は26日、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF )など公的・準公的資金の運用・リスク管理の高度化について協議する有識者会議(座長・伊藤隆敏東大大学院教授)を開き、中間論点整理をまとめた。記者団に配布した資料によると、国内債中心のポートフォリオ見直しが必要とし、新たな運用対象を追加すべきだとの意見も出た。 資料によると、見直しは収益性向上と金利リスク抑制の観点から必要とした。新たな運用対象例として、不動産投資信託(REIT)や不動産・インフラ、プライベートエクイティ(PE、未公開株)、商品などを挙げている。 伊藤氏は同日夕の会見で、国内債中心のポートフォリオ見直しがほぼコンセンサスと強調し、国内債比率を減らすとの含意は容易に想像がつくと指摘した。一方、ポートフォリオの具体的比率には踏み込まなかったと述べ、具体的な数字の議論は適切でないとし、運用専門家が考えることと語った。 また、伊藤氏は、新たな運用対象で多様化・分散推進との意見が多数だったことを明らかにした。ガバナンス改革では専門家の登用が最大の論点になると指摘。新運用対象は短期的には換金困難でもリスクを取り、長期リターンを目指すべきだとの考えを示した。一方、小規模ファンドの活用案は、最終報告に反映される可能性もあるとした。さらに、分散投資でリスク量不変でもリターン向上の可能性があると指摘した。 伊藤氏によると、最終報告書は11月めど。有識者会議は提言で、GPIFや国・地方の公務員共済など合計200兆円を超える基金での分散投資を促す方針だ。 国債・借入金・国庫短期証券を合わせた日本の債務残高は今年6月末に1000兆円を突破。国際通貨基金(IMF)は政府債務残高の対GDP 比で、日本が2009年から少なくとも18年までは世界最悪 の座を抜け出せず、今年末は245%とギリシャの179%や米国の108%を上回ると予測する。GPIFは運用資産120.5兆円の約6割を国内債券が占めており、金利急騰による評価損リスクの対応の必要性に迫られている。 厚生年金、国民年金の積立金を運用するGPIFは6月、運用資産の「基本ポートフォリオ」を06年度の同法人設立以降で初めて変更。国内債の比率を従来の67%から60%に引き下げる一方、国内株式は11%から12%に、外国債券は8%から11%に、外国株式は9%から12%に増やした。目標からの乖離(かいり)許容幅は据え置いた。 6月末の資産構成割合は国内債59.87%、国内株15.73%、外債10.03%、外国株12.90%だった。それでも、4−6月期の収益率は1.85%と3四半期ぶりの水準。国内株は10%に迫るプラスだったが、金利上昇で生じた国内債の損失が響いた。 GPIFの三谷隆博理事長は6月のインタビューで、市場環境が大きく変動しなければ、現在の第2期中期計画(10−14年度)期間中は現行の基本ポートフォリオを維持する考えを示した。 伊藤氏は米ハーバード大客員教授やIMF幹部、大蔵省(現・財務省)副財務官などを歴任。小泉純一郎首相の退任に伴い06年秋に発足した第1次安倍内閣では経済財政諮問会議の民間議員を務めたほか、08年3月には福田康夫内閣が日銀副総裁に起用する人事案を提示した。 ブルームバーグ・ニュースがアナリストやエコノミストを対象にGPIFのポートフォリオの在り方を調査した結果は次の通り。数字はパーセント。 国内 国外 債券/株式 債券/株式 現金 その他 三井住友アセットの浜崎氏 58/16 8/17 1 0 クレディ・アグリ証の尾形氏 50/20 10/10 5 5 三菱UFJ投信の石金氏 45/15 14/16 5 5 BNPパリバ証券の岡沢氏 na na na na ベイビュー・アセットの高松氏 35/20 25/15 5 na 藤巻参議院議員 30/na 70 (合計) na na メリルリンチ日本証の藤田氏 55/13 13/14 5 na 三井住友アセットの武藤氏 53/14 14/14 5 na ジャパンマクロの大久保氏 60/12 8/9 5 0.5 AMPキャピタルのナエイミ氏 45/25 5/10 5 10 カブドットコム証券の山田氏 60/12 11/12 5 na GPIFの基本ポートフォリオ 60/12 11/12 5 0 記事に関する記者への問い合わせ先:東京 野沢茂樹 snozawa1@bloomberg.net;東京 崎浜秀磨 ksakihama@bloomberg.net 記事についてのエディターへの問い合わせ先:Rocky Swift rswift5@bloomberg.net;大久保義人 yokubo1@bloomberg.net 更新日時: 2013/09/26 19:11 JST
ロンドン外為:円下落,株高や日本法人税下げ観測でリスク志向 9月26日(ブルームバーグ):ロンドン時間26日午前の外国為替市場で円は下落。アジアの株式相場上昇のほか、日本政府が法人税引き下げを検討するとの観測で相対的に安全とされる円への需要が後退した。 ロンドン時間午前9時47分現在、円は対ドルで0.5%安の1ドル=98円93銭。対ユーロは0.3%安の1ユーロ=133円48銭。ドルは対ユーロで0.1%高の1ユーロ=1.3507ドル。 原題:Yen Weakens as Asian Stocks Rally on Tax Speculation; KiwiGains(抜粋) 記事に関する記者への問い合わせ先:シドニー Candice Zachariahs czachariahs2@bloomberg.net;東京 Mariko Ishikawa mishikawa9@bloomberg.net 記事についてのエディターへの問い合わせ先:Rocky Swift rswift5@bloomberg.net 更新日時: 2013/09/26 18:20 JST
コラム:QE縮小を温存したバーナンキ議長の超美技=鈴木敏之氏 2013年 09月 26日 18:05 JST 鈴木敏之 三菱東京UFJ銀行 シニアマーケットエコノミスト(2013年9月26日)
米連邦公開市場委員会(FOMC)が18日に決めた量的緩和(QE)縮小見送りは、バーナンキ米連邦準備理事会(FRB)議長の超美技だったと筆者は見ている。 今後、市場にストレスを与えるイベントは多く、見送りを決定させた経済情勢を勘案すると、QE縮小のないまま、バーナンキ議長は来年1月末の任期満了を迎える可能性がある。そうなれば、異例の金融政策の正常化を進めるかどうかの大きな判断を後継議長に委ねることになる。 それは重い課題を未解決のまま、丸投げするようにも見えるかもしれない。しかし、米国経済の状態に加えて、緩和積極論者が投票権を失う来年のFOMCのメンバー構成を考慮すれば、実は後継議長の置かれる難しい立場を見込んでの思いやりに満ちた決断といえそうである。 <米国経済にQEの支えはまだ必要> そもそもQE縮小は、中央銀行のバランスシートを無限に膨らませるわけにはいかず、効能とともに弊害もあるためになされるものである。ただ、米国経済の置かれている状況は、この金融緩和による支えをいまだ必要としている。 雇用状態は、依然として厳しいままだ。非農業部門雇用者数の増加数は、直近6カ月平均で16万人。これでは、人口増加を吸収して継続的に失業率の低下を見込めない。すでに失業している人の吸収を勘案すれば、もっと大きな数字が必要である。公式統計の失業率は着実に低下し、7.3%になっているが、これは就職活動を諦めた人が増えた結果として労働参加率が下がっているためで、実態として雇用情勢の改善を示しているとはいえない。就職活動を諦めた人を潜在的な失業者とみなし、リーマンショック前の労働参加率が変わっていないとの前提で試算すると、今の失業率は11%台になる。 物価の安定面も、デフレサイドで不安がある。労働力について先述したとおり、米国経済は大きな供給力の余剰、スラック(余剰資源)を抱えたままである。賃金発の物価上昇圧力がかかってくるとは見込みにくい。物価上昇率の鈍化が目立ち始めたとき、FOMC声明は「低インフレ率は一時的」と主張したが、FOMCメンバーの中にもそれを受け入れない声がある。 また、常套句であるインフレ期待の安定も、インフレ連動債と通常債の利回りの差から計算するブレーク・イーブン・インフレ率を期間5年ものでみると1.89%で、2%のインフレ目標に届いていない。03年に「歓迎されない継続的物価上昇率の低下」を問題にして、デフレ警戒が発せられた頃と変わらない。 資産価格の状況に目を転じても、経済活動を押し上げる力を期待しにくくなっている。株価は、シラー式の株価収益率(ITバブルの破裂を警告したことで名高いイェール大学のシラー教授が考案したPERの算出方法)でみて、割高ではないが、割安とはいえなくなっている。債券利回りは5月22日からQE縮小を見越して上昇した。これは、モーゲージローン金利の上昇をもたらしている。過去、QEをやめると、金融ストレス指数が上昇する傾向がある。それは、金融状態が経済活動を抑制するということである。 <縮小開始すれば、後戻りできない> さらにこの先、経済活動に悪い影響を与えそうなイベントが続く。第一は、米国の財政をめぐる審議の難航だ。 昨年末に財政の崖の問題があった。それは年初に妥協をみて、その後、共和党は穏健な対応を進めてきたが、ここへきて連邦債務の上限到達問題や予算編成で攻勢に出ようとしている。経済政策不確実性指数(Economic Policy Uncertainty Index)をみると、財政をめぐってもめたときに高まるところがあり、経済活動を制約することになる。 第二は、欧州情勢である。米国にとっても下方リスクだった欧州危機の状況は劇的に安定したが、最近になって心配が生じている。イタリアの政局である。ベルルスコーニ元首相の議員資格が剥奪される場合、レッタ連立政権が崩壊するリスクがある。政治空白が生じると、イタリア国債が売り込まれても、欧州中央銀行(ECB)による国債買い取りプログラム(OMT)が機能しない恐れがある。OMTは、政治が緊縮プログラムに動くことが条件であり、本来、政権がない状態では動きようがない。 最後に、次期FRB議長の承認が難航すると、それも経済に不透明感をもたらす。 これらを勘案すれば、仮にQE縮小を開始しても、「ある程度の緩和が要る」という判断を持つのは自然である。その方策として、最も着実なのはQE縮小を見送ることだったといえる。FOMCは金融政策で逐次投入はしないという原則にも従ったということだろう。 FRB議長は、退任に際し、次の議長が動ける自由度を確保するものとされる。実績による信認がないので、信認確保に行動が要る。今回の議長交代で厄介なことは、次の議長に決定的な追加緩和の手段がないことだ。QE縮小の見送りは、後継議長に緩和手段を残す意味合いがあろう。 フェデラル・ファンド(FF)金利は実態ゼロで、もう利下げによる緩和はできない。非通常型金融緩和は、資産購入による資金供給のQEと、期待の誘導のフォワードガイダンスである。いずれも、将来の金利の期待に働きかけて、金融緩和効果を出そうとするものである。バーナンキ議長のもとでは、この二つが併用されてきた。 フォワードガイダンスは、強めたり弱めたりの調節が難しい。時間軸で設定した場合、3年先までを4年先までに変えて、どれだけの金融緩和の追加効果があるか把握できない。万が一、金融ショックが起きた時の即効効果も期待できない。一方、QEには、財政規律を弛緩させるだけでなく、資産市場を不健全に歪ませるバブルの懸念もある。弊害やコストを無視できない政策である。金融緩和政策は手詰まりというのが現実だ。 QE縮小は、いったん始めてしまうと後戻りできない。今のFOMCのメンバーの中に、強硬な反対論者がいるので、追加緩和が必要になっても購入額の増加は通らない。今年のFOMC採決の投票メンバーには、デフレ警戒を重視するセントルイス連銀のブラード総裁と、シカゴ連銀のエバンス総裁、資産購入推進論者であるボストン連銀のローゼングレン総裁がいる。来年になると、QE推進の中心であるバーナンキ議長が退任する。また、緩和推進(ハト派)の急先鋒であるイエレン副議長が議長になると、FOMCの調整にあたるため、中立に近づくだろう。来年のFOMCは、今年ほど緩和推進的ではなくなる。 年内にQE縮小を始めてしまうと、その進め方は将来に影響を与えてしまう。自由度はなくなり、後継議長は追加緩和の手段のない状態で引き継ぐことになる。バーナンキ議長は記者会見で、資産購入による緩和が雇用の改善に効果があると言及した。QE維持で緩和手段を残したのである。 米中央銀行システムの大原則は、弾薬庫を空にしないことだ。半年かけて、QE縮小に動けるお膳立ては済ませておいて、緩和の手段も温存したという形での議長交代ということになるだろう。 *鈴木敏之氏は、三菱東京UFJ銀行市場企画部グローバルマーケットリサーチのシニアマーケットエコノミスト。1979年、三和銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行。バブル崩壊前夜より市場・経済分析に従事。英米駐在通算13年を経て、2012年より現職。
コラム:米QE維持の背後に潜む「政治的事情」=上野泰也氏 2013年 09月 25日 17:53 JST 上野泰也 みずほ証券 チーフマーケットエコノミスト(2013年9月25日) 市場にとって大きなサプライズとなった米量的緩和(QE)縮小の見送り。18日のニューヨークダウ工業株30種平均やS&P500種は史上最高値を更新し、米10年債利回りは急低下した。 為替市場ではユーロ買いドル売りが加速し、ドル円相場は一時97.76円まで円高ドル安に動いた。だが、時間の経過とともに、パニック的な動きは終息してきた。 筆者も同日(日本時間19日)は午前2時半に起床して午前3時に発表された米連邦公開市場委員会(FOMC)の決定内容を自宅と会社でフォローしたが、ポイントは主に以下の3点となる。 1)FOMCは今回、10月にヤマ場を迎える連邦政府債務上限引き上げ問題の決着点がまだ見えていないことを含む、財政緊縮による景気への悪影響や、大幅な住宅ローン金利の上昇が住宅市場にこのところ及ぼしている悪影響などを勘案しつつ、「石橋を叩いても、とりあえず渡るのをやめておく」かのような「安全策」を取ったということ。 2)しかし今回の決定は、FOMC声明文の記述内容からも明らかな通り、決してQE縮小の「白紙撤回」ではなく、「先送り」にすぎないということ。米国の金融政策の方向感は従来と同じである。したがって、決定内容が発表された後の各市場のオーバーシュート(特に米長期金利の過度の低下やドルの過度の下落)には要注意。ドル円の97円台ではドルの押し目買いを検討してもよいし、米10年債は2.7%未満での購入は見送りが望ましい。 3)経済指標(特に雇用統計)がFOMCも市場も納得するほどの強い内容になること、および連邦政府債務上限引き上げなど財政問題の解決が大前提になるが、次回10月またはその次の12月FOMCでQE縮小が決まる可能性が十分にあるということ。 5月下旬から入念に市場に織り込ませてきた「QE縮小の9月開始」というシナリオを、まるではしごを外すかのように見送った理由について、FOMC後の記者会見におけるバーナンキ米連邦準備理事会(FRB)議長の説明内容は、どうにも歯切れが悪かった。市場からは「対話の失敗」あるいは「市場の不安定化を自ら招来した」といった声も出ている。 だが、批判を覚悟でそうした決定を下したからには、口にはっきり出せないことも含めた、それ相応の「本当の理由」があるはずである。そして、20年を超える筆者の中央銀行ウォッチの経験を踏まえて言うと、中央銀行当局者の発言がクリアカットでない場合、政治関連の問題が裏にある場合が少なくない。 <視界不良の米財政問題が影響か> 今回のFOMCの票決は、最終的に賛成9・反対1となった。だが、そこに至るまでの議論の過程で、投票権を有しない参加者も含めた意見の分布はほぼ真っ二つになったのではないかと推測される。すなわち、QE縮小はこれまで市場に織り込ませてきた通り9月に淡々と開始すべきだという主張と、足元で雇用者数の伸びが減速しているうえに、議会における財政問題(暫定予算・連邦政府債務上限引き上げ)の決着点が示されていないのだから、縮小開始を1―2カ月先送りして様子を見るべきだという主張の2つである。 共和党が多数派である米下院は20日、政府機関の予算を10月1日から12月15日まで手当てする一方、医療保険制度改革法(通称「オバマケア」)への予算打ち切りを盛り込んだ法案を可決した。法案は民主党が過半数を握る上院に送られるが、リード民主党上院院内総務は「オバマケア」の資金凍結や実施延期を盛り込んだ法案を支持する考えはないと明言しており、それに関連する文言を削除した修正案を下院に送る見通しである。 ここで大きな問題になるのは、茶会党のような保守派の影響力を無視できない下院の共和党では、ベイナー議長ら指導部によるグリップの強さと今後の運営方針が明確ではないことである。一部の共和党幹部は、指導部が党内保守派の説得に手間取っており、明確な戦略がないようだと明かしているという。 財政問題の決着が、たとえば歳出削減の追加など、米景気に対する逆風の強まりにつながる場合、あるいは暫定予算が成立しないまま10月初旬の政府機関閉鎖という事態に陥る場合には、ポリシーミックスとして、FRBによるQE縮小が望ましくないことは言うまでもない。 こうした見方をある程度裏付けるのが、歯に衣着せぬ発言が多いセントルイス連銀のブラード総裁のコメントである。同総裁は20日、米メディアとのインタビューで、「(QE縮小)決定はボーダーライン上にあった」が、「FOMCは静観しようという判断に落ち着いた」とした。そのうえで、経済指標で一段と強い景気動向が示された場合、次回10月のFOMCで小規模な緩和縮小に踏み切ることもあり得るとも述べている。 また、FRB指導部を構成する主要メンバーの一人であるダドリー・ニューヨーク連銀総裁は23日の講演で、債務上限引き上げに関する協議など財政をめぐる問題が差し迫った最大の不透明要素だと指摘したうえで、年内にQE縮小を開始するというバーナンキ議長が6月に示した枠組みに変更はないと述べた。 バーナンキ議長はFOMC後の記者会見で、財政問題の行方が米景気動向にとって大きなリスクであるという認識に言及していた。「政府機関の閉鎖、あるいは債務上限の引き上げができないという事態になれば、金融市場や経済に非常に深刻な結果をもたらし得る。FRBは、経済が軌道に乗り続けているために、できることはなんでもするという方針だ。そうした事態が経済減速につながるのなら、考慮しなければならない。したがって、われわれが政策について考える際、着目するリスクの一つだ」という部分である。 <円安ドル高再開には「きっかけ」が必要> もう一つ、FOMCの今回および今後の決定内容以上に市場が重視すべきは、バーナンキ議長の後継者候補リストから、ややタカ派的とみられているサマーズ元財務長官の名前が消えて、バーナンキ氏以上にハト派寄りと目されるイエレン副議長の議長昇格がほぼ確実になったという点である。イエレン副議長は10月1日にニューヨークで行う予定だった講演を延期した。オバマ大統領による次期FRB議長候補への指名が近いという観測を強める話である。 今回のFOMCでQE縮小への着手が見送られたことから、米金融政策の正常化に向けたスケジュール感は、これまでの想定よりも若干後ずれすることにならざるを得ない。さらに、「早すぎる金融引き締めのリスクは遅すぎる金融引き締めのリスクよりも大きい」とみているイエレン氏が次のFRB議長になる場合、QEの停止は最速でも14年7月、利上げの開始はおそらく15年半ばではなく、15年後半にずれ込むだろう。 ちなみに筆者は、米国経済の今後について、引き続き強気の見方を持っている。07年の住宅バブル崩壊に起因する大きな痛手を克服して「退院」したこの国の経済には、1)「人口増加社会」であること、2)産業・企業の新陳代謝がきわめて活発であること、3)「シェール革命」の恩恵という、3つの強力な武器がある。 ファンダメンタルズの強さに金融緩和の長期化見通しが加わっているわけで、米国株にとってこれ以上の好条件はないと言える。ニューヨークダウは1万6000ドルに到達するだろうというのが、筆者の従来からの予想である。一方、米長期金利やドルについては、「サマーズリスク」が消滅したこともあって、一段と上昇するためのきっかけが当面見出しにくくなった感が強い。 むろん、筆者の相場観の基本線は、これまでと同様、米10年債利回りには米国経済のファンダメンタルズに鑑みて3%台前半への上昇余地があり、ドル円には米住宅バブル崩壊以降の「リスクオフ」局面で累積した逃避的な円買いの巻き戻しから、今後1―2年以内に110−112円程度までの円安ドル高の進行余地があるというものである。だが、ドル金利の先高観が再び強まり、円安ドル高が一段と進行するためには、米雇用統計で非農業部門雇用者数が市場予想比で大幅に上振れるというような経済指標面でのサプライズが必要だと考えられる。 *上野泰也氏は、みずほ証券のチーフマーケットエコノミスト。会計検査院を経て、1988年富士銀行に入行。為替ディーラーとして勤務した後、為替、資金、債券各セクションにてマーケットエコノミストを歴任。2000年から現職。 焦点:異次元緩和で日銀当預100兆円突破、今後に課題も 焦点:米緩和縮小見送りで投資戦略に陰り、成長見通しに疑問 焦点:アベノミクスが活性化する企業投資、資金は海外へ |