01. 2013年9月26日 11:34:53
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JBpress>日本再生>国防 [国防] アメリカの強制財政削減で いよいよ日本は追い込まれる 2013年09月26日(Thu) 北村 淳 次期駐日大使に指名されたキャロライン・ケネディ氏は、9月19日、アメリカ上院外交委員会の公聴会で対日政策に関する所信を表明した。 その内容には、以下のような尖閣諸島に関する見解が含まれていた。 「日本はアメリカにとり不可欠なパートナーであり、日米同盟はアジア太平洋地域の平和と安定そして繁栄の基礎である」 「尖閣諸島は日本の施政下にあり、日米安全保障条約第5条の適用対象である」 「第三国間の領有権紛争に対して、アメリカは特定の立場は取らない。尖閣諸島に関して日中間の対話を通した平和的な解決を切望している」 日本メディアは、ケネディ次期大使がオバマ大統領と親しく、かつケネディ一門という“ブランド力”が強いため、米メディアはケネディ次期駐日大使に高い関心を示すであろうと見ている。さらに、そのことによってアメリカが日本に関心を示すきっかけになると期待しているようである。 しかしながら、少なくとも現時点では、次期駐日大使が誰になろうがアメリカ政界や世論が日本に高い関心を示すような兆候はない。 ケネディ氏に対する公聴会が開かれた前日、アメリカ下院軍事委員会ではアメリカ各軍(海軍・陸軍・空軍・海兵隊)の長に対する公聴会が開かれた。この公聴会は日本の国防にとっても無関係ではない。それにもかかわらず、ケネディ次期大使に対する上院公聴会の様子を比較的詳しく伝えた日本メディアは、この下院軍事委員公聴会の様子には関心を示さなかったようである。 厳しい現実に直面しそうなアメリカ軍 9月18日の下院軍事委員会公聴会の主題は、「強制財政削減(10年間にわたって、国防予算は一律かつ自動的に大幅削減される)に伴って、アメリカ軍(海軍・陸軍・空軍・海兵隊)が国防の任を全うできるのか?」というものであった。 公聴会の冒頭で議員側から、グリーナート海軍作戦部長、オディエルノ陸軍参謀総長、ウェルッシュ空軍参謀総長、それにエィモス海兵隊総司令官たちに対して、「あなた方軍人は、毎日のように生と死に関する決断を迫られている・・・連邦議会はアメリカのための予算の編成(すなわち国防予算の調達)ができないでいる・・・これはあなた方軍人の失策ではなく、われわれ議会の失策です」という謝罪がなされた。まさに、極めて深刻な状況にアメリカ軍が直面していることを、この謝罪が物語っている。 グリーナート海軍作戦部長、オディエルノ陸軍参謀総長ならびにウェルッシュ空軍参謀総長によると、海軍・陸軍・空軍はいかなる軍隊にとっても最も基本的な戦略的責務である「1つの戦域での主要作戦において敵を打ち破る」ことができなくなるであろう、という悲観的見解を表明した。 公聴会直前にまとめられた海軍の報告書によると、強制財政削減が2014年度にも継続された場合、海軍は建造予定のヴァージニア級原子力潜水艦1隻をキャンセルし、新鋭の沿岸戦闘艦も購入できなくなり、8機の戦闘攻撃機と3機のヘリコプターも入手できず、前進海上基地計画も消え去ることになる。そして、建造中の航空母艦(CVN-78)の完成は少なくとも2年は遅れてしまうことになる。 また、空軍によると、350機のA-10近接支援攻撃機、59機のKC-10空中給油機を飛ばすことができなくなり、巨額を投じて構築しようとしていたF-15C捜索救援部隊も諦めなければならなくなる。 公聴会で苦境を訴えるオディエルノ陸軍参謀総長(写真:USArmy) 陸軍も、172機のヘリコプターや、900輛以上の装甲戦闘車両、2000門の各種火砲、10000セット以上の通信機器などの整備ができなくなる。装甲航空偵察部隊を構築するためのヘリコプター25機の購入もキャンセルとなる。
これらの“買い物リスト”以外にも、人員整理や部隊の縮小、基地の閉鎖など、海軍、陸軍、空軍の能力は全体的に著しく低下してしまい、とても主要作戦で敵を撃破するレベルを維持できそうにもない、というのが、3軍のトップの強制財政削減継続に対する悲痛な叫びであった。 一方、エイモス海兵隊総司令官は、「海兵隊は、1つの戦域での主要作戦において敵を打ち破ることはできる」と明言した。戦域に到達するには海軍との協働が必要なものの、戦域内では陸・空・海での戦闘も補給も自己完結能力を保持しているアメリカ海兵隊は、国防費大削減の影響を被っても、なんとか1つの戦域における緒戦にだけは勝利する戦闘能力を維持している。 しかし、それ以上長期にわたる本格的戦争の場合には、陸軍・空軍をはじめとする増援部隊が先鋒部隊としての海兵隊に取って代わって作戦を継続していくことを大前提として海兵隊の戦闘能力が設計・維持されているため、それ以上の戦闘継続は当初から想定されてはいないのである。 いずれにせよ、かつては(ごく最近までは)「2つの戦域における主要作戦で勝利する能力の維持」を謳っていたアメリカ軍であるが、実際には、「1つの戦域における主要作戦で勝利し、他の戦域における主要作戦では敵を何とか抑えこんでおく能力」を保持していると考えられていた。だが現実には「1つの戦域における主要作戦での勝利」が精一杯であることを各軍の長の証言が暗示しており、強制財政削減が来年度・再来年度と続くともはや海兵隊を除くアメリカ軍には「1つの戦域における主要作戦」において敵を打ち破る能力はなくなってしまいかねない状況になってきているのである。 中国との軍事対決は絶対に避けるアメリカ 海と空と陸で戦闘し、補給も自前で行う自己完結型軍隊であるアメリカ海兵隊は、「1つの戦域における主要作戦」において勝利することができるとはいえ、その作戦規模は最長60日である。通常、その程度長期にわたる作戦では、海兵隊はあくまで先鋒部隊的あるいは敵を撹乱させるための遊撃部隊的位置づけとなっている。 海兵隊とともにサンクレメンテ島で着上陸訓練中の陸上自衛隊(写真:USMC) もし日中間に「日米安保条約に基づきアメリカ軍が投入される程度に本格的な」武力紛争が発生した場合には、それは米軍全体にとっての「1つの戦域での主要作戦」にほかならないことになる。
しかし、この軍事作戦(日中紛争への軍事介入)は、少なからぬ海軍・海兵隊関係者が常日頃口にしている表現を借りると、「極めて発生確率は低いが、勃発した場合には最大級の強度の戦争になりかねない」。このような人民解放軍との本格的戦闘は、アメリカ軍がこれまで戦った数多くの敵のうち最強で「二度と戦いたくない日本軍との戦い」の再現となってしまいかねないのである。 したがって、ただでさえ中国人民解放軍との本格的軍事衝突は避けたいところであるのに、強制財政削減の影響により「1つの戦域における主要作戦」にすら(海兵隊以外は)勝利できないとの見込みを吐露している状況では、日中軍事衝突でのアメリカ軍による本格的軍事介入は、アメリカ政府・連邦議会が絶対に認めようとはしないであろう。 それだけではない。もし日中軍事紛争に米軍が本格的介入した場合には、たちどころに中東方面でイスラエル攻撃をも含んだ極めて深刻な騒乱状態が引き起こされるのは必至である。 日中衝突という「1つの戦域における主要作戦」に関わっているアメリカにとって、「2つ目の戦域における主要作戦」に関与する与力すら捻出できない公算が大きい。このような場合には、いくら現在のところオバマ大統領がアジアシフトを唱えてはいるものの、アメリカ政府・連邦議会そして多くのアメリカ国民が中東戦域を「1番目の主要作戦」と認識するのは理の当然と言えよう。 もっとも、中国共産党指導部としてもアメリカの軍事介入はできる限り避けようと考えるのは当然である。そのため、日本に対して剥き出しの軍事力を行使する場合には、中東方面の“仲間”と連携して中東での軍事的緊張を極度に高めて、アメリカ軍を中東方面に出動させてから対日軍事恫喝そして対日軍事攻撃へとステップアップするであろう。 この場合、アメリカ軍が日本救援作戦を実施しようとしても「2番目の主要作戦」での勝利が覚束ない以上、アメリカ政府・議会そして軍自身が日本救援に踏み切る決心をするのは極めて困難となる。 いずれにしても日米同盟ならびに日本の国防体制の現状では、アメリカは「日本を助ける」程度の理由では人民解放軍と対決することは絶対に避ける公算が極めて大きい。 待ったなしの国防費倍増 先週の本コラムでも指摘したように、アメリカ政府はますます第三国間の領域紛争などへの軍事介入へ踏み切るのが難しくなっている。それに加えて、強制財政削減が継続される限り、アメリカ軍の戦闘能力は低下し続ける。 したがって、これまでのように日本の国防方針がアメリカ軍の支援を前提としているようでは、いざという場合に国防どころではなくなる可能性が極めて高い。 安倍政権になり、国防費増額や集団的自衛権行使への道筋をつけようとする動きが見られる。加えて、陸上自衛隊に水陸両用戦能力を持った部隊を新設する動きもいよいよ本決まりになったようである(本コラム「ようやく着手か? 防衛に不可欠な『水陸両用戦能力』の構築」「『日本海兵隊』はこうつくる」参照)。 しかし、いかんせん(たとえ増額したとしても)国防費がGDPの1%前後にとどまっている程度では、軍事的脅威度を日に日に増す中国と、日本防衛どころではなくなりつつあるアメリカという2つの変数の動きに対処するには、あまりにも規模が小さい。少なくとも国際平均値であるGDPの2%規模を確保しなければ、たとえ自衛隊に自主防衛能力獲得計画が芽生えても、とても実現することは不可能と言えよう。 http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/38772 |