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http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20130925-00010003-bjournal-bus_all
Business Journal 9月25日(水)3時44分配信
私が就活生だった1998年当時、「ブラック企業」という言葉は一般的ではなかったが、消費者金融、OA機器販売、そして証券リテール営業などが、“労働環境が劣悪な職種”と認識されていた。そして当時から「証券マンの平均寿命は、日本人の平均寿命マイナス20歳」などという都市伝説が語られていたことを思い出す。
月日は流れて、今はどうだろう。金融業界自体は、その安定感と高給イメージから根強い人気のはずだ。なにしろ2013年度の「日経就職人気ランキング」(日本経済新聞)では、“トップ10の会社が全部金融業界”という異様な光景を呈していたのだから。
しかしよく見てみると、その中には証券会社の姿が見えない。それもそのはず、今はなきリクルート調査による「就職人気企業ランキング」では、過去36年間(1976年〜2012年)にわたって“証券会社がトップ10入りしたことは一度もない”のだ。
そう、証券会社にはいまだにブラックというイメージが根強く残り、世間の多くもそのように認識している。ネット上で「証券会社に内定した」という書き込みに対して、元社員などから「やめておけ」とクギを刺す論調も目立つ。
営業経験のある方なら「詰める」という言葉を当然ご存じだろうが、これはもともと野村證券の社内用語だった。「ノルマでギリギリまで追い詰め、ヘトヘトになるまで徹底的にしごく。それで初めて一人前になる」という同社の教育観が、この「詰める」という言葉に凝縮されているといえるだろう。
そんな過酷そうな証券会社だが、なぜかワタミやユニクロのように「名指しでブラック呼ばわり」されることは少ない。実態はどうなのか、現役社員にインタビューしたところ、意外な事実が判明したのである。
●本社勤務はむしろ「居心地がいい」
証券会社の典型的なイメージである「超激務」「体育会系営業会社」「離職率高い」「ブラック」というのは、実は全体の一部分でしかない。あくまでも、それは個人向けの訪問販売部隊「リテール営業」の話であり、それも今40代以上の管理職世代が若手の頃、30年前から06年頃までの話である(具体的には、06年に「金融商品取引法」が改正され、販売や勧誘に関して利用者保護規制が厳しくなるまで、ということになる)。
証券会社に限らないが、事業会社には営業マンが勤める支店現場以外に、本社勤務という仕事がある。実は証券会社の本社勤務は、多くの人がイメージする厳しい営業のイメージとは少々違い、意外と働きやすい職場なのである。
私は、国内大手証券会社で「上場支援」や「債券発行支援」を担当している本社勤務のアラサーエリート社員から、本社勤務の実態をヒアリングした。
「本部で働いている限りは、ウチの会社はそれほどブラックだとは思わないです。確かに業務量は多いですが、他の業界に比べたら給料の絶対額は高いですし。ボーナスが業績で変動するんですが、ボーナスが低いときで年収700万円台後半、多いときは1000万円台に乗るくらいです」
――業務量と給与のバランスはどうか?
「入社したとき(リーマンショック前後)は景気悪くてボーナスもなく、『頑張っている割には恵まれない』という感覚でした。こっちは大手の総合職なのに、『東京海上日動火災保険の一般職のほうが、ボーナスはうちの倍くらいもらっている』という時代もあったくらいですから。実際、辞めていく人は給料を理由にすることが多かった」
――働く環境としては?
「雰囲気はいいですね。人間関係がイヤで辞める人はあまりいない。辞めてからも繋がっている人もいますよ。あと会社としては19時帰りを推奨していて、残業は事前申請制。オフィスの入口とPCログで全部管理されています。まあ、残業したとしてもあまり残業記録をつけられないですけど…」
「居心地のよさの裏返しで、上が詰まっている印象はあります。30代後半から『働かない人』が増えてくる感じ。やる気がないというより、『居心地がいいから、さらに上をめざすような努力の必要がない』っていう感じでしょうか…」
――「デキる人」と「そうでない人」の割合は?
「部署によりますが、7対3で「頑張っている人」が多いかな。収益が上がっていて人が少ない部署では、フリーライダー的な働きができないですから。そんな人に対して叱咤激励するかどうかは、その部門のトップ次第ですね。いずれにしても、ダラダラする人にとっては居づらい環境です。仕事ができなくて、現場(リテール営業部門)に飛ばされることもあります」
――たまにニュースになる「証券会社の不祥事」については?
「コンプライアンスについては結構厳しい縛りがありますから、基本的に違法行為をやる余地はありません。仕組み的に無理なようになっているんです。ニュースになるような事例は、個人的に故意にやっているパターンでしょうね」
「他社で何か不祥事が明らかになる度に、コンプライアンス研修が行われます。結構多くて、月に2〜3回くらい。内容は他社の事件例を共有するもの。他にも『社員が業務用携帯をなくした』といった事件があれば、すぐに全支店宛に速報が飛ぶし、そんなことが数回続いたら即研修。支店名と事件、他業種での同様事例を学ぶことになります。そんな感じなので、意識は高いですよ。これまで業界全体でいろんな不祥事があったので、もう次はないという危機感でやっています」
どうだろう。過酷な営業現場の仕事と比較してみれば、「意外と」どころか「かなりいい環境」のようには見えないだろうか。このように、「ブラックかどうか」という判断基準は「業界」や「会社」単位で確定するとはいい切れない。同じ会社内でも、職種や部門によってブラック度合が異なることもあるからだ。
この「証券会社の本社勤務」のようなパターンは、「パチンコ台メーカー」にも当てはまる。同業界は全体的にブラックと認識されており、営業職などはパチンコホールに日参し、場合によっては深夜の搬出入作業まで強いられるなど、かなり過酷な労働環境だ。でも本社の法務専門職などで勤務している人にとっては、高給で快適な職場で仕事をしているケースも多々ある。
このように、ブラック認定は業界や会社だけでは判断できず、職種や従事する個人の価値観にまで至ってしまう、実に複雑な問題なのである。
新田 龍/ブラック企業アナリスト、ヴィベアータ代表取締役
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