05. 2013年9月25日 08:15:10
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給与が増えない中で消費税率が上がれば、景気は確実に失速する 2013/9/24 今月12日、安倍首相は消費税率について、来年4月に予定通り5%から8%に引き上げる方針を固めました。10月1日に発表される日銀の企業短期経済観測調査(短観)の内容をみた上で、同日中にも正式発表します。 消費税増税を行うと「景気が腰折れするのではないか」という懸念が取り沙汰されていますが、この状況では私はほぼ確実に景気は減速すると考えています。景気後退に対処するために、景気対策を行うとのことですが、財政を健全化させるための消費税上げで、さらに景気対策でお金を使うというのはおかしなことです。今回は、消費税増税の決定までの経緯と増税後の影響、日本の財政について、私の考えを述べたいと思います。 政府が10月1日に消費税増税を正式発表したい理由 今月12日、安倍首相は消費税率について、来年4月に予定通り5%から8%に引き上げる方針を固めました。正式発表は10月1日になりますが、この日を選んだのは企業の景況感を示す9月調査時点での最新の日銀の全国企業短期経済観測調査(短観)と、最新の完全失業率などの指標を示す8月調査の雇用統計の発表があるからです。 日銀短観について、簡単に説明しておきます。短観というのは、日銀が3カ月に1度発表している統計調査のことです。全国約1万社の企業を対象に、業況や雇用、在庫、設備投資、商品価格などを調査して、業種ごとや企業規模ごとにまとめられるのです。 この調査は、「良い」と答えた企業の割合から「悪い」と答えた割合を差し引いた数字で表されます。すべての企業が「良い」と答えればプラス100ですし、半分の企業が「良い」と答えて、半分の企業が「悪い」と答えれば、ゼロになります。このような方法で算出される指標をDI(Diffusion Index)と呼びます。 もう少し具体的に説明しますと、この調査は、「3カ月前と比べて、今の状況はどうですか?」という聞き方をする「最近」の数字と、「3カ月後の見通しはどうですか?」という聞き方をする「先行き」の数字があります。 >> 日銀短観の発表と同日を狙って増税を表明 日銀短観の発表と同日を狙って増税を表明 また、日経新聞の景気指標欄には、「大企業 製造業」と「大企業 非製造業」の業況判断の数字だけが掲載されていますが、実際の日銀短観の資料は、もっと詳細で長いレポートになっています。興味のある方は、日銀のホームページから無料で見ることができますので、調べてみてください。中小企業の業況感などの他に、設備や人員の状況なども同じDIという方法で調査しています。 では、大企業の業況判断の数字を見てみましょう。 ここで少しこのところの短観の数字に注目してみましょう。「大企業 製造業」の3月調査はマイナス8、6月調査は4、「大企業 非製造業」の3月調査は6、6月調査は12となっており、いずれも改善していることが分かります。
ここで特に注目していただきたいのは、「先行き」の数字です。これは、6月調査から3カ月後、つまり9月調査の時点での見通しを示す数字です。ただし、経営者は見通しを慎重に考える傾向がありますから、「先行き」は実際より若干悪い数字になることが多いという傾向があることに注意してください。 「大企業 製造業」の「先行き」は10、「大企業 非製造業」は12ですから、大企業製造業は6月調査よりも改善、非製造業は横ばいです。つまり、大企業製造業は改善、非製造業は横ばいでももともと良い数字ですから、9月調査ではは高い確率で良い数字が発表されると推測できるのです。 そこを政府も読んでいて、日銀短観の発表と同じ日の10月1日に消費税増税の決定を正式発表しようとしているわけです。 >> 「雇用統計」も「短観」同様、順調に上向いてはいる..「雇用統計」も「短観」同様、順調に上向いてはいるが 同じ日に発表される「雇用統計」も、今のところ順調に回復してきています。 「有効求人倍率」は0.94倍まで改善し、「完全失業率」は3.8%まで低下しており、かなり好調だと言えます。景気の状況は8月も大きくは変わらないままでしたから、おそらく10月1日に発表される8月の指標も、いい数字が出るのではないかと思われます。さらに、雇用の数字は「遅行性」があるので、景気に少し遅れて改善する傾向があります。また、急に大きくトレンドが変わることは少ないので、これまでの景況から見て、大きく悪化することはまずないと考えられるのです。
この「雇用統計」と「日銀短観」は、経済指標の中でも景況感を示す上でとても重要な数字です。このような重要な指標が、10月1日の午前中にいい結果が発表される可能性が高いわけです。さらに、8月に発表された4〜6月期の国内総生産も9月の改定値で上方修正されて、名目GDPは年率3.7%、実質では年率3.8%と高水準になりましたから、このタイミングで消費税増税を発表してしまえば、あまり批判が出ないのではないか、という思惑があるのではないかと考えられるのです。 逆に言いますと、その後に発表されるその他の指標で少々悪い数字が出ても、増税を行ってしまうということです。 >> 消費税増税は景気にどのような影響を与えるのか 消費税増税は景気にどのような影響を与えるのか ここから、消費税増税が日本経済に与える影響などについて、私の意見を述べたいと思います。 表にあるように働く人一人当たりの給与総額の平均を示す「現金給与総額」は、6月は前年比0.6%、7月は同比0.4%(速報値)と確かに反転していますが、1%に満たないほどの水準です。仮に給与増がこのままの状況か、よしんば来年4月までの間に前年比1%まで上がったとしても、消費税が3%上がれば、実質的に所得が減ることになります。
さらに消費の数字も見てみますと、「消費支出2人以上世帯」や「小売業販売額」はまだ伸びていないことが分かります。その上で、増税によって所得が実質的に減少すれば、景気に悪い影響が出る可能性が高いのです。 以前もお話ししましたが、今年の春先以降、株式の時価総額が上がったことから、百貨店の売上高が増えました。その中でも大きく伸びたのは、貴金属や美術品などの高額品です。しかし、消費全体を見ると、それほど強くはないことが分かります。アベノミクスによって景気がよくなってきたと言われていますが、まだその影響が限定的であると言えるのです。 >> 給与が増えないと継続的に消費は伸びない 給与が増えないと継続的に消費は伸びない このコラムでは何度もお話ししていますが、継続的に消費が伸びるようになるためには、やはり給与が増えなければなりません。ところが給与は微増に留まっている上に、物価も好ましくない上がり方をしているのです。政府がかなり執拗に企業に賃上げを要請する主な理由はここにあります。 「消費者物価指数」を見ますと、今年5月以降反転し、じわじわと上昇しつつあることが分かります。この原因は、円安による「輸入物価」の上昇です。表にある「輸入物価指数」はこのところ大幅に上昇しています。輸入物価が上がって、企業がその分を吸収できなくなって、最終消費財に転嫁せざるを得なくなってきた、という様子が窺えます。これでインフレになっても、価格上昇分のお金が海外に出て行くだけですから、景気には全くいい影響を与えません。今のところは残念ながら、いわゆる「コストプッシュ」型の「悪いインフレ」が起こっているわけです。需要が伸びて物価が上がる「ディマンドプル」型のインフレではないのです。
さらに注目すべきは、「現金給与総額」の増え幅よりも、「消費者物価指数」の上昇分の方が大きいということです。つまり、株式などの資産を持たない一般家庭にとっては、給与が若干上がっても、それ以上に「悪いインフレ」で物価が上昇しているわけですから、すでに家計が若干圧迫されているというわけです。そこに消費税増税3%がさらに家計にのしかかるのです。 景気が回復しつつあり、企業業績は確かに改善していますが、GDPの55%強を支えているのは家計の支出です。家計の収入が十分には改善しない中で、消費税率を3%上げることを決定されてしまうと、景気が後退する可能性が高いと私は懸念しているのです。 >> 景気対策の内容も見直すべき 景気対策の内容も見直すべき そこで政府は、消費税増税によって景気が腰折れするのを防ぐために、3%の増税分のうち約2%にあたる5兆円規模の経済対策を行うと考えているようです。はたしてそれは妥当なのでしょうか。 消費税率を1%引き上げると、約2.7兆円の税収増が見込まれます。つまり、3%上げますと、税収は約8.1兆円増えると考えられます。そのうち消費税率2%の増収分に相当する約5.4兆円に近い規模を景気対策にあてると言っているのです。 具体的にどのような景気対策を行うかは明らかにされていませんが、法人税下げと公共事業などが考えられているようです。もし、従来型の公共事業などを行うのであれば、家計への波及効果はほとんどありません。道路を造ったからと言って、すべての世帯の家計が潤うことはありませんから。 つまり、国民全体の給与が上がらず、さらにインフレに苦しんでいる中で、国民全体からお金を吸い上げて、土木業者にお金を入れるということと同じだということです。これが本当に正しい経済対策のあり方、政治のあり方なのかどうか、十分に検証しなければなりません。 もちろん、公共事業だけでなく、投資減税を行うという話も出ていますが、もし減税を行うのであれば、法人税の課税ベースを広げた上での税率下げを行う方がはるかに効果的です。減税の効果があまねく行き渡るからです。 このように、政府が行う景気対策のあり方も見直さなければなりませんし、そもそも、消費税を上げることで景気対策をしないといけないのであれば、消費税の上げ方自体を考えるべきではないでしょうか。 >> なぜ消費税を上げなければならないか なぜ消費税を上げなければならないか なぜ消費税を上げなければならないか、改めて考えてみてください。日本の財政状況が悪いから、消費税を上げて財政を改善するのが目的であるはずです。もちろん、そこには現在の社会福祉の水準を維持するという目的がありますが、そこで、「景気対策をしなければならないから、赤字国債を増発しよう」などと考えるのは、どう考えてもおかしいことです。自己矛盾です。 穿った見方をしますと、これは財務省にとって最高のシナリオです。税収が増えることで、自分たちの権限の源泉、つまり歳出の裁量が増えるわけですから。さらに、族議員たちにとってもベストなシナリオです。参院選に勝たせてもらったお礼に、地元に「公共工事」という形でお金を配れるのですから。そんなシナリオに、なぜ私たちが乗せられなければならないのでしょうか。 私は、消費税を上げることについては、財政状況を考えても一概に反対ではありません。ただ、このコラムでも何度もお話ししているように、来年4月に3%上げてしまうと景気が腰折れする可能性が高いので、1%ずつ上げていくのが望ましいと言っているのです。さらに言えば、その分を社会保障費に回すのは仕方がないと思いますが、同時に歳出削減も行わなければ、結局、財政はいつまでたっても改善しないということです。 政府は、2020年度までに基礎的財政収支(プライマリーバランス)を黒字化しようとしています。2015年度までに対GDP比の赤字額を2010年度の水準の半分にして、2020年度までにゼロにするということです。増税をしても、歳出を削減する努力をしていかなければ、この目標を達成することは難しいでしょう。これも公約していることですから、消費税上げと同様、この公約が守られなければ、日本国国債の格下げということも十分に起こりうることです。 >> 成長戦略第二弾はどうなったのか? 成長戦略第二弾はどうなったのか? 2020年には東京オリンピックが開催されることが決定されました。それ自体は悪いことではありませんが、それに浮かれて経済対策が疎かにならないことを強く望みます。 もう一つ、9月に成長戦略第二弾が発表されることになっていますが、それはどうなってしまったのでしょうか。具体的な議論があまり漏れ聞こえてきません。まさか、政府は内容が不十分な現状のままでいいと思っているわけではないでしょうが、日本全体の経済が底上げされるような、足腰を強めるような成長戦略を打ち出してくれることを心から期待しています。 (つづく) >> 本連載は、BizCOLLEGEのコンテンツを転載したものです ◇ ◇ ◇ 小宮一慶(こみや・かずよし) 経営コンサルタント。小宮コンサルタンツ代表。十数社の非常勤取締役や監査役も務める。1957年、大阪府堺市生まれ。81年京都大学法学部卒業。東京銀行に入行。84年から2年間、米国ダートマス大学エイモスタック経営大学院に留学。MBA取得。主な著書に、『ビジネスマンのための「発見力」養成講座』『ビジネスマンのための「数字力」養成講座』(以上、ディスカバー21)、『日経新聞の「本当の読み方」がわかる本』、『日経新聞の数字がわかる本』(日経BP社)他多数。最新刊『ハニカム式 日経新聞1週間ワークブック』(日経BP社)――絶賛発売中!
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