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ワシントン・ポストを訪れたジェフ・ベゾス。発行人のキャサリン・ウェイマス(写真右)など、多数のポスト社員と懇親した(撮影:Bloomberg)
メディアを襲う”破壊的イノベーション” 読者・視聴者を3分の1失ったアメリカの報道機関
http://toyokeizai.net/articles/-/19642
2013年09月24日 津山 恵子(Keiko Tsuyama) :ジャーナリスト 東洋経済
「米国のニュース・ビジネスは崩壊した」
米調査機関ピュー・リサーチ・センターのリサーチャーは今年7月末、こう指摘した。名門新聞ワシントン・ポストが、インターネット長者ジェフ・ベゾス氏に身売りする直前だ。
米国人が伝統的にニュース源としてきたのが、新聞、ローカルテレビのニュース番組、CNNなどのケーブル・ニュース局の御三家。ところが、新聞は広告収入の減少で、従来のビジネスモデルが崩壊。ローカルのニュース番組は、若者離れが目立ち、視聴者数が減少。ケーブル・ニュースも視聴者が頭打ちと、3つそろって、下落傾向に突入した。
2012年、米国のニュースの担い手は、追い詰められた。
(企画プロデュース、取材協力 : 小島健太郎 Kentaro Kojima )
「稼ぐだけでは十分じゃない。成長がなければ」
「すべてのビジネスは、永遠に若くなくてはならない。顧客の年齢層があんたたちと一緒に年取っていくようでは、企業はウルワース(米国初のディスカウントストアだったが現在は消滅)だ」
「ルール、ナンバーワンはこうだ。(物事を)つまらないと思うな」
9月3、4日の両日、あと1カ月で米紙ワシントン・ポストのオーナーとなるジェフ・ベゾス氏(アマゾン創業者兼最高経営責任者=CEO)が、ポストを初めて訪問。記者や編集者とのミーティングに臨み、ポスト経営のビジョンを語った。
ポスト記者は早速ミーティングについて報じた。ベゾス氏は、ポストの成功は、新聞でニュースを何本も読む癖を、読者につけることができるかにかかっていると何度も強調。あわせて、デジタル版では、複数の記事を集めた「バンドル(束)」を提供し、それに課金するという案も示した。たまにウェブサイトに来て、1本しか記事を読まない読者は、購読料を払うつもりはないからだ。
「僕らは皆、どうしたら変われるのか、何がポストの次の黄金時代を生むのか、広い視野で考えなくてはならない」(ベゾス氏)。
同氏が生まれる前の1963年からポストで働くベテラン記者が、質問した。
「国内海外にもっと支局を持っていた黄金時代に戻れるのか」
ベゾス氏はこう断じた。
「黄金時代にいくつ支局があったかなんて、知らない。過去に後退することはできない。企業が滅亡する予兆は、過去がどんなによかったとしても、それを美化することだ」
ポスト記者らとのやり取りで、ベゾス氏は間違いなく新聞業界の「ディスラプター(disruptor)=破壊者」であることをみせつけた。
首都ワシントン、ホワイトハウスの真北にある瀟洒なオフィスビルにあるピュー・リサーチ・センター。独立系調査機関で、メディア調査部門PEJ(Project for Excellence in Journalism)が2004年から毎年、米メディア業界の現状を調査した報告書「The State Of The News Media」をまとめている。この10年間に何が起きているのか。
「米国のニュース・ビジネスは、真の意味で崩壊しました」と、報告書執筆者でPEJディレクターのエイミー・ミッチェル氏は言う。読者減から収入減につながる崩壊にいたった「変化」は3つの形で表れた。
1) 収入構造の変化
読者、視聴者はオンラインに流れたのに、オンライン広告収入は、従来の広告収入に匹敵するものではなかった。
2) 読者、視聴者の変化
ニュースを受け取るだけでなく、ソーシャルメディアを使って、頻繁にシェアし、自分の感想や知識を、ニュースに「加える」ようになった。
3)プラットフォームの変化
「いつでも」「どこでも」ニュースが手に入るスマートフォンやタブレット端末といった新しいプラットフォームが登場した。
■新聞を見限る、高学歴で高収入の男性
さらに恐ろしいことに、2013年報告書は、崩壊によって生じた報道のパワー不足を、読者・視聴者も認識しているという調査結果を明らかにした。
ピューが今年2000人の成人に対して行った調査では、31%の回答者が、「かつて慣れ親しんだ内容のニュースや情報がもはや得られないので、以前みていたニュース源を離れた」と答えた。実に3人に1人だ。
新聞やニュース番組を見限ったこれらの市民は、高学歴で高所得の男性に多い。しかも、彼らは報道機関が財政的に困難な状態に陥っているのをよく理解している層とも一致する。つまり、報道機関が苦し紛れにニュースをつないでいる状況を見抜いたうえで、オンラインのほかの情報源に移っていった。
収入構造の変化で打撃を最も受けたのは、新聞業界だ。1県1紙体制が確立した日本と異なり、米国はひとつの市、郡、州の中に複数の新聞が発行されている。しかし、新聞業界紙エディター&パブリッシャーによると、1983年に全米で1730紙発行されていたが、2011年には1382紙と、30年あまりで348紙が消えた。
消えたのはコミュニティ紙など中小ばかりではない。新聞業界の不振に関する情報を集めたサイト「ニュースペーパー・デス・ウォッチ」によると、新聞の廃刊は大都市圏にも及び、ロッキー・マウンテン・ニューズ(コロラド州州都デンバー)をはじめ2007年以降、12紙も姿を消した。ロッキーは創刊から150年の老舗新聞でピュリッツアー賞も受賞しているが、売りに出されたうえ、買い手が現れず2009年廃刊した。
ピューによると、全米で2003年に5520万部あった週日の発行部数も、2012年には4430万部に激減している。
では、天気予報や交通情報など朝晩のピークタイムに、米国人が最も頼りにするローカルテレビのニュース番組はどうか。4大ネットワーク局(CBS、ABC、FOX、NBC)のローカル局は夜のニュースで、2012年までの5年間に400万人もの視聴者を失った。有権者が興奮して、民主・共和両党の候補者のニュースを日々追いかける大統領選挙だった2012年も減少した。
「今でもニュース源としてナンバーワンだが、30歳以下の若い視聴者が離れ、下り坂の兆候がみえてきた」とミッチェル氏。24時間ニュースを提供するCNNなどケーブル・ニュース3局でさえ「とうとう、成長が止まった傾向がみえ始めた」と話す。「大統領選挙の年なのに、視聴者が24時間ニュースチャンネルに興味を失い始めた表れ。今後、どう視聴者をつなぎとめるのかが問題だ」。
そして、もうひとつの懸念が、「報道内容の低下が顕在化している」(ミッチェル氏)ことだ。人員削減や、コスト削減のせいで、費用がかからないニュースの報道に流れている。
「その結果、報道が、何かが起きてから取材する、というパターンに陥っている。だから、読者にはニュースの上澄みしかわからない。たとえば住宅市場の崩壊、金融危機など、小さな事象が長いこと積み重なってきているが、それが弾けるまで、どこも報道しないからだ」。
■報道が減り、インタビューが倍増
報告書によると、次の3つの現象は象徴的だ。
2012年の新聞社編集局の正社員数は、1978年以来、初めて4万人を下回る見込み。2000年に比べると、記者や編集者の数が30%も減少し、ニュースの作り手自身が多く消えている。
ローカル局ニュース番組は、天気、交通情報、スポーツの割合が、2005年の32%から2012年には40%に膨らんだ。逆に取材が必要な犯罪や裁判のニュースは29%から17%に大幅に低下した。
一方、深い分析と現場主義を売りにしてきたCNNは、ニュース報道の時間が2007年の50%から2012年には24%に半減した。その代わり、人手も費用もかからないインタビューの時間が30%から57%にと倍増した。
限られたコストとマンパワーに合わせて作られた「その場しのぎの」ニュース。その質の変化に、米市民の3分の1が気づき、伝統的なニュースソースを離れた、というのが米国の報道機関が直面する厳しい状況だ。
報道機関はこの状況に、どう対応していけばよいのか。将来、成長はあるのか。ベゾス氏がワシントン・ポスト記者らに語ったビジョンの拠り所となる論文がある。
ハーバード大ビジネス・スクール教授、クレイトン・クリステンセン氏は、アップル創業者の故スティーブ・ジョブズ氏や多国籍企業に大きな影響を与えてきた経営理論家だ。同教授のキーワードは「破壊的イノベーション(disruptive innovation)」。同教授は、企業の成長には「破壊的イノベーション」が必要だという理論を、初めてメディア企業にもあてはめた論文「破壊者たれ(Be A Disruptor)」を昨年秋に共著で出した。
「破壊者たれ」を同教授と執筆し、同大2012年度特別研究員だったデビッド・スコック氏に、グーグル・ハングアウトを使ってインタビューした。同氏はジャーナリストで、現在はニュースサイト「グローバル・ニューズ」(カナダ・トロント)のディレクターだ。
■破壊者とはメディア業界にとって何なのか
クリステンセン教授は、論文で、過去の例として、トヨタ自動車など日本の自動車メーカーを挙げた。ローエンドの小型自動車からスタートして存在感を増し、現在は世界的大企業となった「破壊者」だ。また、米IBMのように、コンピュータ業界の競争が激しくなった際、パソコン事業を売却し、システム・コンサルティング専門として、自らを変革して生き残った例も「破壊者」だという。
「クリステンセン教授によると、ジャーナリズムは利益追求だけでなく、公共サービス的な側面も持つ。だから報道機関に『破壊理論』があてはまるかどうか議論したが、当然、適用できるという結論に至った。ハフィントン・ポストやバズフィード(BuzzFeed)は、新手の破壊者だ」(スコック氏)
ハフィントン・ポストは、当初はブログだけで、かわいい猫のビデオなどもアップし、「完璧ではなくても読むに値すればいい」(同氏)という存在だった。しかし、トヨタと同様、今は記事を高品質なものに拡大し、昨年はジャーナリズムで最高の栄誉であるピュリッツアー賞さえ獲得した。
一方で、有力紙ニューヨーク・タイムズでも「破壊」が起きているという。新聞業界の構造不況と、ハフィントン・ポストのような破壊者の登場に対応し、タイムズはビデオやデータ・ジャーナリズムなどさらに深いサービスを拡大している。これも「自己破壊のプロセス」だとスコック氏は語る。
■読まれる記事、読まれない記事
では、どうすれば「破壊的イノベーション」を、報道機関で起こせるのか。
「多くの編集局の戦略が、報道が成り立つ理由として、主な読者・視聴者層、価格帯、販路という画一的な構造に頼りすぎている」とスコック氏。その代わり、生き残りのために「なすべきこと」を3つの課題に集中するべきだとする。
1)読者・視聴者は、どんなことをしたいと思っているのか。
2)読者・視聴者がしたいと思っていることを満足させるには、どんな社員と経営が必要か。
3)読者・視聴者がしたいと思っていることを届ける手段は、何が最適か。
たとえば、スコック氏は、業界で「ベタ記事」と呼ばれる短い記事や、主張や意見が入らない記事が読まれなくなる「中抜け」現象が起きていると指摘する。
「速報あるいは長めの調査報道の記事などは、よく読まれている。しかし、ローカルの自分が読みたい記事はグーグルで探せる。今は、新聞を端から端まで読んだり、夕方のニュースを30分間ずっと見る人はいない」。
スコック氏は、ニュースの消費が劇的に変化したと強調する。「インターネット技術のおかげで、読者が特定の記事や、お気に入りのカテゴリーだけ読むことができるようになった。こうした消費の変化から収入を得るには、新しい販路について、クリエイティブに考えなくてはならない」。
こうした消費者の動向が、ベゾス氏が冒頭の発言で、ニュースの新たな「バンドル」を検討している背景であるのは間違いない。
論文は、非営利法人(NPO)報道機関として成功しているテキサス・トリビューン(テキサス州オースティン)が、地元政治家などを招いて年間60ものイベントを開催し、企業スポンサーや入場料で90万ドル、年間収入の5分の1を得る見込みである例を紹介。また、ダラス・モーニング・ニューズ(同州ダラス)は、あえて印刷技術に投資をし、印刷事業で高収益を上げている例も挙げた。
論文はこう訴える。
「ひとつのビジネスモデルがどの企業にもあてはまるとは言えない。ただ、経営者は、現在ある資産をどうキャッシュに変えていけるのか、考えるべきだ。この新世界では、起業家精神を持って経営にあたらなければ、生き残れない」
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