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中国の不動産バブルは崩壊するか?歴史上、最大級の不良債権の可能性
http://toyokeizai.net/articles/-/19722
2013年09月24日 野口 悠紀雄 :早稲田大学 ファイナンス総合研究所顧問 東洋経済
中国不動産バブルの崩壊による不良債権の発生が懸念されている。
中国銀行業監督管理委員会によると、中国の銀行が抱える不良債権残高は、2013年6月末で5395億元(約8.6兆円)に過ぎない。しかし、これが事態を正しく伝えている保証はない。
米国の投資銀行ゴールドマン・サックスは、8月5日のTop of Mind(最大の関心事)というリポートの中で、「中国の不動産バブルが崩壊すると、最悪で貸倒損失が18.6兆元(約297兆円)になる」との試算を示した。これは、中国当局が認める公式額の34倍だ。
リポートは、「実際の貸倒損失はこれより少額におさまり、段階的に発生する公算が大きい」としている。しかし、仮にそうであったとしても、巨額の貸倒損失の可能性を米国の代表的投資銀行が認めたこと自体が深刻と、市場で受け止められた。しかも、同社は今年の5月に、中国の最大手国有銀行、中国工商銀行の持ち株をすべて売却している。
8月28日には、フィナンシャル・タイムズが、中国の不良債権が21兆元(GDPの40%)というモルガン・スタンレーの推計を伝えた。
前号で述べたIMFの対中審査報告の「拡大された政府の財政赤字」残高は、12年でGDPの45%だ。12年の中国の名目GDPは51.9兆元なので、残高は23.4兆元になる。ゴールドマン・サックスやモルガン・スタンレーが推計する不良債権額は、この8〜9割に相当する。
■融資残高の対GDP比危険水準はどこか
では、中国の不動産価格の崩壊は本当に生じるのだろうか? それを判断するには、現在の状況がバブルか否かを判定する必要がある。しかし、その判定は一般に容易でない。
理論的に言えば、ファンダメンタルズの不動産価格は、無限の将来に至る不動産賃貸料総額の割引現在値で与えられる。不動産賃貸料が将来に向かって一定であれば、これは、「不動産賃貸料/金利」によって与えられる。そして、実際の不動産価格がこの式から大きく乖離していれば、バブルということになる。
しかし、成長率が高い経済では、賃貸料も上昇する。だから、現在の賃貸料を用いて右の式を計算し、その値が現実の不動産価格と比較して高い値になったとしても、バブルとは言えないわけだ。
不動産価格と所得の比率も、しばしば用いられる指標である。しかし、経済成長が続けば所得も上昇する。したがって、この比率が高くても正当化される。中国の不動産価格の上昇率が高いのは事実だが、経済成長率が高いことを忘れてはならない。
そこで、経験則的な指標を目安にして、バブルか否かを判断することとしよう。このためにしばしば用いられるのは、金融機関による融資残高の対GDP比だ。不動産のバブルは、ほとんどの場合に金融緩和下で生ずる。投機資金が低いコストで容易に調達できるからだ。したがって、融資残高の対GDP比が一定の値を超えると、「過剰流動性」の状態になり、投機が行き過ぎて不動産バブルが崩壊し、不良債権が発生する可能性が高くなると考えられる。
この際重要なのは、銀行による正規の貸出だけでなく、非正規のチャネルをも含めた総融資残高を考えることだ。1980年代の日本では、銀行が子会社として設立したノンバンクを通じた融資が増大した。07年頃までの米国では、銀行子会社が住宅ローン(モーゲッジ)の証券化商品への投資を通じて資金を供給した。これは「シャドーバンキング」と呼ばれた。そして中国では、前回述べた中国型シャドーバンキングだ。
以上の仮説が正しいか、またクリティカルな水準はどの程度かを、日本と米国の経験で見てみよう。
日本では、80年代後半に不動産価格のバブルが生じた。銀行とノンバンクを合計した貸付残高の推移を、地価の推移とあわせて示すと、図のとおりである。80年代末に残高が急上昇し、これに合わせて地価が上昇していることが分かる。
不動産価格バブルが崩壊したのは91年だ。この時の貸付残高は約832兆円だった。これは91年の名目GDP474兆円の1.76倍になる。
米国では、07年に金融危機が顕在化した。FRB(連邦準備制度理事会)の資金循環統計によれば、このとき金融機関の総融資残高(貸出とモーゲッジの合計)は18.2兆ドルであった。これは、07年の名目GDP14.5兆ドルの1.26倍である。
以上のことを勘案すると、総融資残高がGDPの1.5倍程度を超えると、バブル崩壊の危険があると考えることができる。
■バブル崩壊すれば10兆元超の不良債権
現在の中国では、どうなっているか? シャドーバンキングの融資残高は、IMFの数字を参照して、23.4兆元であると仮定する。他方で、中国人民銀行の統計によれば、金融機関の人民元建て貸出残高は、13年7月末時点で73.5兆元である。
これらを合計した総融資残高は96.9兆元になる。これは12年の名目GDP51.9兆元の1.86倍だ。
この水準は、日本や米国がバブル崩壊を起こした時の値に比べて、やや高めである。つまり、中国の過剰流動性は、すでに限界点を超えていると判定することができる。したがって、いつバブル崩壊が生じても、おかしくない状態だ。
では、バブルが崩壊した場合、どの程度の不良債権が発生するだろうか? 金融庁の資料によると、日本の不良債権処分損(銀行が回収できず損失とした額)は、92年から06年までの累計で96.8兆円(91年のGDPの20.4%)である。この額は、図で見るように、総貸出残高のピークから02年頃までの減少分とほぼ見合っている。このかなりの部分はノンバンク融資額の減少であることも、図から分かる。処分損が91年の総融資残高に占める割合は、11.6%だ。
米国の金融危機による損失は、IMFの資料によれば、07年から10年までの間に3.4兆ドルに達した。これが総融資残高に占める割合は15.5%で、07年の米国のGDPの23.4%だ。以上から考えると、バブル崩壊で生じる不良債権処理損は、融資残高の10〜15%程度としてもよいだろう。
仮に12%として、総貸出残高から中国の場合の不良債権額を推定すると、11.6兆元になる。12年のGDPに対する比率では、22.4%である。これは、日本や米国の場合と同程度の比率だ。先に述べたゴールドマン・サックスの推計値よりは少ないが、中国政府が認める公式の数字よりは、はるかに大きい。中国のバブル崩壊は、歴史的に見て最大級のものになる可能性がある。
以上で述べたことは、理論的な根拠があることではない。しかも、中国経済の特殊性(とくに経済成長率の高さ)を考慮に入れていない。しかし、決して楽観できる数字ではない。
中国は、90年代後半に、四大国有銀行が抱えていた巨額の不良債権を処理した。この時の不良債権額は1.9兆元程度だったと見られる。それと比べて今回の不良債権は6.1倍だ。中国がこの問題をどう処理するかは、中国経済のみならず、世界の経済に甚大な影響を与える。
(週刊東洋経済2013年9月21日号)
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