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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第44回 東京五輪とナショナリズム
http://wjn.jp/article/detail/1513859/
週刊実話 2013年10月3日 特大号
2013年9月7日。アルゼンチンのブエノスアイレスで開催されたIOC総会において、2020年のオリンピック、パラリンピックが東京で開催されることが決定された。IOCのロゲ会長が「TOKYO 2020」の紙を示すまで、徹夜でテレビを見続けた読者も多いと思う。
今回の五輪開催決定は、我が国の未来にとって極めて大きな意味を持つことになる。56年前の東京五輪が、現在にとって大きな意味を持つように。
現在の我が国が「国民の生命と安全を守るための国土強靭化」を実施しようとしたとき、一つ、深刻なボトルネックがある。
ボトルネックとは「制約条件」のことで、元々の語源は瓶でいうと口が細くなっている部分になる。砂時計でいえば、真ん中だ。要するに、「それ」があるために動きが制限される、あるいは速度が鈍化するもののことをボトルネックと呼ぶのである。
国土強靭化に際したボトルネックとは、おカネではない。デフレで長期金利が世界最低の我が国は、政府が普通に国債を発行し、日本銀行が金融政策(国債買取等)を拡大することで、技術的には無理なく国土強靭化のための財源を確保することができる(財務省は死にもの狂いで抵抗するだろうが)。
とはいえ、日本政府が財務省の抵抗を押し切り、予算を確保したとしても、新たに「強力なボトルネック(変な表現だが)」が現れる。すなわち、建設サービスの供給能力不足である。
バブル崩壊後の公共事業の規制緩和(一般競争入札導入)、'97年以降の公共投資削減により、1999年度に60万1000社にのぼった建設業許可業者数は、2012年度には47万社に減少してしまった。
当然、建設サービス従事者も100万人以上少なくなり、完全に人手不足状態に陥っている。人手を確保するために、建設企業が賃金を引き上げれば、「工事量が増えても利益が確保できない」有様で、現状は深刻だ。
いまだ日本の社会から「公共事業嫌悪論」や「土建悪玉論」が払拭されていない以上(共に根拠は皆無なのだが)、建設企業、土木企業は「仕事」が増えたとしても、供給能力を伸ばさないだろう。すなわち、人材を雇用せず、設備にも投資しようとしないのである。
こうなると、建設産業の供給能力不足は、国土強靭化はもちろんのこと、東京五輪開催のボトルネックにすらなりかねないのだ。
というわけで、7年後に五輪が開催されることを受け、日本国民は二つの重要なものを取り戻さなければならない。それは、「ナショナリズム(国民意識)」と「将来を信じた投資」の二つである。
当たり前だが、公共投資とは現在はもちろんのこと、将来の国民のためにも実施されるべきものである。国民として、「将来の日本国民のために、やれることをやろう」というナショナリズムなしでは、公共投資の拡大などできるはずがない。
逆にいえば、1997年以降、延々と公共投資を減らし続けてきた我が国の国民は、「将来の日本国民のことなんて、どうでもいいんだよ」と、考えていたに等しいのだ(実際には、公共投資関連の情報がコントロールされていたためというのが大きいのだろうが)。
また、将来の所得拡大、すなわち「将来豊かになる」ことを信じることができない人が、リスクを冒して投資に乗り出すことはない。将来に対し不安感を抱えている状況では、投資拡大など望むべくもないのである。
今回の五輪開催を受け、日本国民は極めて重要な「ナショナリズム」と「将来を信じた投資」の二つを取り戻すことになる。と言うより、取り戻さなければならない。
56年前の東京オリンピックの時期は、五輪開催の「数年前」に民間企業設備や公共投資(公的固定資本形成)の成長率のピークが来た。
東京でオリンピックが開催されることが決定したのは、1959年である。それ以降、我が国ではオリンピックに向けた各種の投資が拡大していった。
東京オリンピック開催に向け、東京ではさまざまな設備やインフラが整備されていく。競技場関連では、国立競技場(代々木)、日本武道館(九段下)、駒沢オリンピック公園など、現在も競技に使われる設備の多くが、オリンピックに向けて建設されたのだ。
また、交通機関などのインフラ関連では、まずは東海道新幹線、東京モノレール、羽田空港の拡張、首都高速道路、環状七号線などなど、現在、私たちが日常的に使用しているインフラは、主にこの時期に整備されたのである。
さて、バブル崩壊後、日本国民は東京オリンピックの頃には保持していたナショナリズムと投資意欲を失い、経済成長率が低迷した。すると、経済成長率が低迷したことを受け、ナショナリズムと投資意欲を破壊する「日本ダメ論」が広まっていった。「我が国はダメだ」と国民が勝手に思い込んでしまった国で、経済成長率が高まるはずがない。
今後の7年間で、日本国民は国内に蔓延する「日本ダメ論」を一つ、また一つと潰していかなければならない。
同時に、我々の生活、ビジネスの基盤を構築、維持、管理してくれる土建企業への尊敬の念を取り戻さなければならないのだ。
今回の東京五輪決定を受け、読者は間違いなく「7年後」を考えたはずだ。
この「将来のこと」を考える行為こそが、健全なナショナリズムと成長のための投資を醸成することになる。
国民が健全なナショナリズムの下で「将来」のことを考えてはじめて、国土強靭化の実現も現実性を帯びてくる。
この機会を逃してはならない。
三橋貴明(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、わかりやすい経済評論が人気を集めている。
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