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http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20130923-00010001-bjournal-bus_all
Business Journal 9月23日(月)6時30分配信
ブラック企業をめぐる議論がやかましい。
「労働環境が劣悪、違法行為も野放しで、社員や顧客が迷惑を被る会社」を指して、俗に「ブラック企業」という。人事を生業にする人の間では昔から知られた言葉だったが、インターネットなど情報網の発達により、多くの人に知られるようになった。
代表的なものとして、大手掲示板サイト「2ちゃんねる」内の「ブラック企業ランキング」がある。最初にできたのが1999年で、以降随時更新され続けている。また同じく2ちゃんねる内に「ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない」という話題が発生し、それが書籍となり、映画化されたのが2007年〜09年にかけてだ。その頃から「ブラック企業」という言葉はさらに広く知られるようになった感がある。
13年に入ってから、自民党が「若者の『使い捨て』が疑われる企業への対応強化」として、「重大・悪質な場合の司法処分と企業名の公表」などを含めた措置を提言すると公表した。夏の参院選では各党の公約でブラック企業対策が盛り込まれたし、9月からは厚生労働省がブラック企業相談窓口を設け、さっそく数多くの相談が寄せられている。この流れを受けて労働問題専門家の間でも、ブラック企業にまつわる議論が熱く行われている。
これまで労働者にとって、会社とは「入ってみないとわからない」ものであった。しかしブラック企業の存在が注目されるようになって以降、情報網の発達とも相まって、一部の会社における劣悪な労働環境が世間にも広く知られるところとなっている。結果的に、ミスマッチによる離職や、不本意な思いを持ちながら就労せざるを得ない不幸な労働者を未然に防いだことになるわけで、その点においては喜ばしいことといえるだろう。
一方で、問題も確実に存在している。
「ブラック企業=ひどい労働環境」という現象面のみがクローズアップされ、現在の労働現場において起こっていることの背景や要因の分析が浅いため、単に「ブラックと認識されている有名企業を批判する」ことに終始しており(よく名前が挙がる企業として、「ユニクロ」「ワタミ」「楽天」などがある)、対症療法的である。表層的な批判が広がりすぎるのは、大多数の人にとって得にならない。単に過敏な労働者を増やし、目立つ企業が叩かれる裏で本当に悪質な「真正ブラック企業」が生き長らえるだけで、全体として問題解決につながらないからだ。
ブラック企業問題はもはや「対岸の火事」ではない。あなた自身、もしくはあなたの家族や友人、親戚が勤めている会社も、あなたが経営している会社も、もしかしたらブラック企業かもしれない。仮に実際はそうでなかったとしても、知らぬうちに根拠のない噂の的になっているかもしれないのだ。
●ブラック企業の定義は、論者の価値観によって千差万別だ
まずは改めて、ブラック企業の定義から説明していきたい。明文化された共通基準はあいにく存在しないのだが、ブラック企業とは一般的に、「明らかに違法、もしくは限りなく違法に近い労働条件(長時間労働、低賃金等)」を、「パワーハラスメントや暴力的強制力、精神的プレッシャーをもって従業員に強いる」会社である、と認識されている。
もう少し具体的に言うならば、「ノルマが厳しく、残業が常態化しており、それでいて薄給な、労基法違反の会社」というところだろうか。
ちなみに、多くのブラック企業を目の当たりにしてきた私個人としては、「経営者が社員に報いる気がなく、確信犯的に違法行為を行う会社」こそ、業界・規模など関係なく全部ブラック企業だ、と宣言し、大企業のブラックな実態を告発する記事を随時発表している。しかし以前、当サイト上の記事『大手総合商社MとI、弱小企業を“恫喝”しブランドを乗っ取り!?』(http://biz-journal.jp/2012/09/post_658.html)で大手商社を採り上げたときのネット上での評判はあまり芳しくないものであった。
「年収1000万も稼げる大企業なら、ブラックじゃねーだろ」
「この新田とかいうヤツ、まったくブラック企業のことわかってねぇ」
すなわち、一般的に認識されている「ブラック企業」の評価基準はあくまで「従業員目線」であり、「働く側にとって都合が良いか、悪いか」で語られているのである。
また、この問題を論じている専門家の間でも個々で微妙に定義が異なっているため、「労基法違反は問答無用で悪だ!」「いや、そんなことを言ったら日本のほぼすべての会社がブラックになってしまう」「ブラックな環境でも、社員が鍛えられるならいいではないか」など、論点がかみ合わない展開となり、「なんだかよくわからない」と印象になってしまっている感が否めない。
●同じ会社でも、視点の違いで評価は分かれる
「議論がかみ合わない」現象のわかりやすい例として、すでに名前が挙がったアパレル販売業の「ユニクロ」を例にみてみよう。同社ではハードワークが常態化しているため批判されやすいが、果たしてこの会社は本当にブラックといえるだろうか?
「現場配属の正社員」から見たら、ブラックかもしれない。分厚いマニュアルに則した言動、言動が求められ、残業も多い。一方で店舗毎の人件費制限があるため、残業の上限時間が決められている。したがって、上限時間を超える残業は自動的にサービス残業となってしまう。それでいて、日々やるべきことは怒涛のように押し寄せる。給料を実労働時間で割って計算したら、最低賃金以下なんて月もあるだろう。
「現場配属の店舗スタッフから抜擢されて、本社勤務になった正社員」から見ても、ブラックかもしれない。早く帰るように奨励されはするものの、終わり切らない仕事。朝は7時から始業のためゆっくりもできず、仕事以外に不得意な英語の勉強もしなければならない。創造的な企画業務に携われると思いきや、会議のための会議が続き、なにかミスをして責任を問われる同僚も、明日は我が身な環境……。
では、「アルバイト」にとってはどうだろう。目的意識次第では、けっこういい会社かもしれない。
仕事は忙しいが、キッチリ残業代もつくし、研修やマニュアルも整っているので、社会性を身につけるにはピッタリの環境といえるだろう。残業しても終わり切らない仕事は正社員がこなしてくれるから心配いらない。
「成長意欲の高い、都心部繁盛店の店長」にとっても、いい会社と言えるかもしれない。
確かにやるべきことは怒涛のように押し寄せるが、同店の売上規模から考えると「年商1億円の中小企業を経営している」のと同じ感覚だ。そう思えばなんでも勉強になる。繁盛店なら予算に余裕もできるので、アルバイトを効率的に使い、社員の負担を減らしてバランス良い組織をつくっていくこともできよう。
「取引業者」にとっては、白黒半々といったところか。大量発注の恩恵を受ける一方で、厳しいコスト管理と品質基準に苦労することになる。ただ、「顧客からの要求に応える」という点ではあらゆる企業の宿命ではあるが。
「経営者」や「株主」にとっては、理想的な企業といえる。従業員や業者にとってブラックに見える「ワンマン」とか「厳しさ」は、経営側の立場から見れば立派な「リーダーシップ」「労務管理」「品質管理」「コスト管理」だ。これらを徹底することで高い売上高と利益率(同社の粗利益率は業界平均の倍)を確保している企業。ぜひ見習いたいとしている経営者は多いし、株主にしてみても安心できる投資先であろう。
この例からもおわかりの通り、「誰から見るか?」という視点次第で、ひとつの企業であっても、その評価は真逆になり得る。価値観を共有しない者との対話は、ずっと平行線のままとなってしまうのだ。
本特集においては、このような「立ち位置の違いによる評価」も踏まえたかたちで、多面的な視点からの考察をお伝えしたいと考えている。
新田 龍/株式会社ヴィベアータ代表取締役、ブラック企業アナリスト
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