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リニア計画に異論「速さだけが夢なのか」/神奈川
http://news.kanaloco.jp/localnews/article/1309190015/
2013年9月19日 神奈川新聞
速ければいいのか−。「夢の超特急」とうたわれるリニア中央新幹線計画に異を唱え続ける人がいる。千葉商科大大学院客員教授の橋山禮治郎さん(73)。JR東海が計画概要を発表した18日、中間駅ができる相模原市は歓迎ムードに包まれる。時速500キロ、走りだした巨大プロジェクトを前に老学者はつぶやく。「夢を見るのもいいが、覚めてしまえば夢は終わる」
柔らかな物言いが印象的だった。「いいところもあるが、悪いところも多い」。穏やかならざる本心はしかし、すぐに吐き出された。
「リニアは確かに速い。だが、優位性はそれだけだ。事業の失敗は目に見えている」
政策評価、公共計画の専門家として、国内外の大規模プロジェクトの成否を検証してきた経験に照らし、そう断言した。
■哲学感じられない
引き合いに出すのが超音速旅客機コンコルドのたどった末路だ。音速の2倍を誇り、1976年に実用化。だが、燃費が悪く、飛行距離が短い上に料金は4倍、ひどい騒音も快適な空の旅とは程遠かった。2000年、パリ郊外の空港で墜落事故を起こし、終焉を迎えた。
「鉄道などの旅客事業に求められるのは利用者に喜ばれるか否か。さらに投資が回収可能な採算に乗るかどうか。利用者、事業者双方に望ましいプロジェクトならば成功する」
リニアはどうか。「スローライフという言葉があるように、遅い方がいいという人もいれば、速ければいいという人もいる。両方、正しい。ただ、リニアの売りは速さだけだ。ルートの8割がトンネルで、車窓から富士山の風景も楽しめない。利用者のニーズを理解し、ほかの価値よりも高速性が求められているのだから、リニアを選択したという哲学が感じられない」
リニア導入ありき。そこに破綻の芽は生まれる。甘い需要見込みだ。
JR東海の計画によれば、開業により需要は1・5倍に増え、リニアと並走する東海道新幹線と分け合うとしている。つまり両者は競合する。たとえ需要が増えても、客を奪い合ってはコスト回収は思うように進まない、とみる。
さらに品川−名古屋間の開業は14年後、大阪までの全面開業は32年も先だ。「日本の人口は減っていく。企業も海外進出する。急いで大阪や名古屋に行くビジネスマンが増えるとどうして思えるのか」
■興味持つ国はない
山梨リニア実験場で新型車両に試乗した菅義偉官房長官は言った。「先進的で挑戦的な技術。日本のインフラ輸出の大きな武器になる」。安倍晋三首相も2月のオバマ米大統領との会談でリニア技術を売り込んだ。
橋山さんは首をかしげる。「本当に素晴らしい技術ならとっくに実用化されている。もうどの国も興味を持っていない」
原理が米国学会で発表されたのは60年代。飛びついたのはドイツと日本だけだった。
ドイツでは94年にハンブルク−ベルリン間の建設が決まったが、過大な需要の見通しやコスト高などを理由に中止された。
残ったのは日本だけ。「使いにくい技術。つまり真っすぐにしか行かない。だから地下を通すしかなかった」
ドイツでは特別法をつくり、事業者に確実性のある需要予想を求めた。在来線との乗り入れが難しいことも判断材料になった。連邦議会による政治決断があった。
ところが日本の国会では問題にならなかった。「JR東海が自分たちの事業としてやると言っているから、口出ししない。曖昧な計画のままに認められてきている」
重なる懸念がある。鉄道事業は電気やガス、通信と同じ公益事業だ。「失敗したからといって自業自得では終わらない。国が援助することになる。つまり、赤字の穴埋めに税金がつぎ込まれる」。経営破綻した日本航空の再建問題、福島第1原発事故後の東京電力への公金投入は記憶に新しい。
■空疎の文字浮かぶ
JR東海によってルートが発表され、リニアは実現に向けまた一歩前進した。「だが、まだ着工はしてない」
今後の選択として示すのは、(1)計画の取り下げ(2)変更(3)凍結−の三つ。変更する場合として提案するのが従来の新幹線の活用だ。「需要があるわけではないので大成功するとは思えないが、リスクは大きく減る。建設コストが半分以下になるし、技術的にも信頼できる。大もうけはしないが、利益を出すところまでは可能だと思う」
しかし、夢よもう一度とばかりに、リニアに寄せられる期待はどうだろう。
経団連の米倉弘昌会長は20年の東京五輪開催に合わせた開業の希望を口にし、「せめて名古屋まででも乗れればと思う」。思えば、新幹線は1964年、東京五輪の年に走りだした。
いつの世も、人は速さに絶えざる夢を見、自らの飛躍を重ねて胸を躍らせるものなのか。「いや、今度は違う。多くは『速くていいんじゃないかな』といった程度の受け止め方ではないか」。空疎の2文字が浮かぶ。時代は違うのだ。「夢を見るのもいいが、覚めてしまえば夢は終わる」。かつてのような経済成長はもはや望めない。
2時間のインタビューを終えると、席を立ちながら笑った。「私のようなことを言う人もいないでしょう。もう73歳。年を取ったからでしょうか。賛成の人からすれば、私は奇人だ」
あえて聞いてみたくなった。橋山さん、リニアに乗ってみたいですか? 「新しい技術にはアクシデントがつきもの。危なくて乗ってられない」。そもそも、と続けて「移動には目的がある。私には名古屋に急いで行く用事もない」。奇人どころか、胸にすとんと落ちる答えが返ってきた。
◆はしやま・れいじろう
慶応大学経済学部卒。日本開発銀行(現・日本政策投資銀行)調査部長、日本経済研究所専務理事などを経て、千葉商科大学大学院客員教授。政策評価、公共計画の専門家として、国内外の巨大開発の成否検証に携わる。73歳。
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