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長期衰退を止めるには移民政策しかない 大前研一の日本のカラクリ
http://president.jp/articles/-/10601
PRESIDENT 2013年9月30日号 ビジネス・ブレークスルー大学学長 大前研一/小川 剛=構成 ライヴ・アート=図版
■毎年50万人ずつ労働力が減る
国立社会保障・人口問題研究所が発表した最新データによれば、約30年後の2040年、日本の人口は1億700万人で、現状よりも2100万人(約16%)減少するという。
デモグラフィ(人口動態)は、日本の未来を冷徹に映し出す。人口減社会の最大の問題は働き手がいなくなることだ。
団塊世代のリタイア時期に入って、今、日本の社会では毎年80万人ずつの労働力が減っている。新規に入ってくる労働力が約30万人だから、差し引き毎年50万人ずつ税金を払う人々が失われていることになる。
GDP(国内総生産)は国内で1年間につくりだす総付加価値のことであり、当然、これは働く人の数に比例する。つまり日本が現状のGDPを維持しようと思えば、50万人分ずつの労働力を補わなければならないのだ。
会社の働き手がいなくなるばかりではない。労働力が不足すれば、警察、消防、自衛隊など国の安全や治安を守るための組織すら機能しなくなる。また、今後はリタイアした人の面倒を見る労働力も大勢必要になるが、それも現時点では、まったく手当てできていない。つまり、今のデモグラフィのままなら、日本は長期衰退するしかない。
どんなに有効な少子化対策を打って出生率を高めても、間に合わない。とすれば50万人のギャップを埋めて、日本の長期衰退を回避する方法は1つしかない。「移民政策」である。
日本は1980年代後半、外国人労働者の受け入れを積極的に行ったことがある。建設現場や飲食店で働く外国人が急増したが、バブルによる人手不足の緩和を目的とした“なし崩し的な”政策だった。さらに単純労働に従事する外国人に対する評価が必ずしも高くなかったために、バブル崩壊後の不況で多くの外国人労働者が日本を去った。また居残った外国人によるトラブルも頻発した。
90年には、「日系」にこだわって、日本国籍を持たない日系外国人に定住者の在留資格を与えている。ブラジルやペルーなどから多くの日系人(パスポートを偽造したインチキ日系人を含めて)がやってきたが、廉価な労働力として扱われただけで、日本人に同化してもらうための移民政策には程遠いものだった。
その後、「失われた20年」を経て日本社会はすっかり内向きになり、移民政策をまともに論じなくなった。「移民を入れたら犯罪が急増する」「日本中を新大久保にする気か」と石原慎太郎前東京都知事に一喝されたら終わり。今日のようにネット右翼(ネトウヨ)が跋扈し、外国人に対してヘイトスピーチが垂れ流される時代には議論はさらに難しくなる。
しかしデモグラフィには10年後、30年後の未来図が映し出されているわけで、衰退が見えていて何もしないのは、行政府および立法府の怠慢でしかない。
■50万豪ドル以上で「永住ビザ」
図の「外国生まれの人口比率」を見ると、移民政策に積極的で国民1人当たりGDPが高い国が上位を占めている。日本はわずか1%だが、1位のルクセンブルクは人口の40%以上が外国出身者である。2位のシンガポールはいわずとしれた移民大国。私が同国政府のアドバイザーを務めた70年代は人口200万人程だったが、積極的な移民政策の結果、今は550万人近い。
3位のオーストラリアは、今でこそ多文化主義で知られているが、かつては白豪主義(白人優先主義とそれに伴う非白人の排除政策)の国だった。それが少子化や労働力不足の問題から72年に白豪主義を撤廃、以降、台湾、香港、シンガポール、中国本土から華僑を中心に約800万人の若い中国系移民が流入した。1000万人台にとどまっていた人口は今や2300万人を超えている。
オーストラリアの移民条件は非常にハッキリしていて、オーストラリアにとって役に立つ人材かどうか、そしてオーストラリア政府が面倒を見なくても生活できる資産があるかどうかである。地元のオーストラリア大使館に行って、自分の特殊技能を申告したうえで、HIV検査などを行い、現地の銀行口座に50万豪ドル以上あることを証明すれば、数カ月後にパーマネント・レジデンス(永住ビザ)がもらえる。パーマネント・レジデンスでの一定期間、学歴や犯罪歴などを評価されて問題がなければ、申請次第で市民権も付与される。
若くてお金のある中国系の移民が住み着いた先でじっとしているわけがない。商売上手だからすぐにビジネスを始める。教育熱心で優秀な子弟が多いから、彼らが入ってくると学校のレベルが上がる。移民先のコミュニティが活性化するのだ。
もしオーストラリアが白豪主義のままであれば、あるいは宗主国のイギリス系だけでやっていたら、あり余る資源にあぐらをかいて老大国として衰えていただろう。しかし中国系を中心に移民が増え、それにギリシャやイタリアから職を求めて渡ってくる移民が加わってオーストラリア経済は今や国や地方自治体の借金はほとんどない。
表ルートばかりではない。オーストラリアはインドネシアとの間にある自国領のクリスマス島などにボートピープルの収容施設をつくっている。オーストラリアにやってきた難民はそうした収容施設で保護され、英語やオーストラリアの歴史や文化を学ぶ。つまりオーストラリア化教育を施され、最後には市民権が与えられて国内各地に送られる。これも移民政策の1つだ。
オーストラリアというと資源国だから調子がいいと思われがちだが、ポイントはそこではない。移民政策によって新興国と同じようなデモグラフィになっている。それだけ若さとエネルギーに溢れているのだ。
■「グリーンカード制」を導入せよ
意外にも移民大国のアメリカと同じくらい「外国生まれ」が多い国がドイツだ。
ドイツも移民先進国の1つで、「ガストアルバイター(ゲスト労働者)」と称して、多くの移民を受け入れてきた。たとえば、第2次世界大戦後の労働力不足を補うために、トルコ系移民を大量に受け入れた。ドイツ語教育を徹底するなどの移民政策に国を挙げて取り組んできた結果、今やトルコ系は国会議員も輩出しているのだ。
暴力事件や排斥運動などドイツ社会が、移民に対して長らく葛藤を抱えてきたのも事実だが、もはやドイツ経済にとって移民は欠かせない存在になっている。トルコ経済の発展に伴ってトルコ系移民は減って、EUの統合や東欧拡大が進んだ90年代以降はポーランドやルーマニア、さらにブルガリア、ハンガリーなどの移民が増加してきた。
失業率4%台のドイツは、人手が足りない状態である。EU域内は人の移動が自由なので、最近は若年失業率が高いポルトガル、スペイン、イタリア、そして国が破綻しているギリシャからの移民も多い。ドイツ政府はそうした人材を専門学校に通わせてトレーニングを施し、労働市場に送り出すなどして、ヨーロッパの失業問題に一役買っているのだ。
失業率が低くても、足りない人手は移民で補うから労働コストは上がらない。だからドイツの国際競争力は高い。頑なに移民を拒み、モノづくりの基盤を海外に流出させている日本とは対照的だ。日本の場合、移民を入れる気もなければ、システムもない。私は『平成維新』を出版した25年前から「移民をしなければ日本の将来はない」と主張し続けてきたが、80年代のような泥縄式の移民政策ならやらないほうがいい。
私がかねてから提案しているのは「グリーンカード制」だ。それぞれの母国で優秀な成績で学校を卒業した人や、きちんと資格を持った人を積極的に受け入れて、日本語だけでなく、日本の社会習慣や生活の知恵、大まかな法律まで教えて、日本に適応できるようにする。2年間、無料で受け入れ教育を行って、成績が良かった人には永住と勤労を保証するグリーンカードを発行し、日本人と全く同じ条件で働けるようにする。グリーンカードで5年が経過して日本に残りたいなら、市民権を与えてもいい。
高校の授業料無償化よりも移民教育の無償化のほうがよっぽど意味がある。日本は少子化で学校施設も教師も余っているのだから、日本化教育(かつての植民地下における日本化教育ではない)に振り向ければいい。教師もやりがいが出てくる。
移民政策で重要となるのは、計画性とスペックである。景気がいいときだけ工場や工事現場に放り込んで、景気が悪くなれば解雇して知らんぷり。そうやって追い込んでおいてトラブルを起こせば「これだから外国人は信用できない」では、移民は定着しないし、移民に対する国民の理解も進まない。
たとえば年間30万人という目標を設定したら、そのために必要な仕掛けを割り出して、5年計画なり10年計画なりで、環境をしっかり整備する。
「どういう人材が必要か」というスペックも大事で、ドイツの場合、必要な350種の職種がハッキリ定義されている。
シンガポールやオーストラリアにしても、「わが国はこういうスキルを持った人材が欲しい」と世界にアピールして、人材獲得競争を展開している。のんびり待ち構えているだけで、良質な移民が集まるほど甘くない。世界の国は優秀な途上国の人材を奪い合っているのだ。
日本が抱えた問題を解決するためにどういう人材がどれくらい必要なのか、きちんと見定めて計画的に施策を打つ。
国家運営に支障をきたしてから、取ってつけたように移民を受け入れても、絶対にうまくいかないのは過去の苦い経験でもあり、世界各国の苦い経験でもあるのだ。
出典:
『平成維新』(講談社)
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