05. 2013年9月20日 12:35:16
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NISAで広がる? 分配金ゼロの投信問題となる曖昧な課税ルール 2013年9月20日(金) 武田 安恵 国民の中長期にわたる資産形成を目的とした少額投資非課税制度(NISA)の開始を前に、投資信託業界である動きが起こっている。今まで販売の主流であった「毎月分配型投信」とは違うジャンルの投資信託を設定・販売しようとする動きだ。 NISAは年間100万円まで、株式、投資信託などの投資にかかる税金がゼロになる制度。NISA口座を開設して、年間100万円の非課税枠を5年かけて1つずつ利用すると、総額500万円まで投資できる。非課税枠1つ当たりの非課税期間は5年間だ。 投資信託は株式と違って金額を指定して購入できるため、非課税枠を最大限活用することができる。NISAの制度との相性が良い商品と言える。しかし、現在金融機関で販売されている主な投資信託のラインアップを見ると、毎月分配型がほとんどだ。個人の投信購入者の約9割が50歳以上で、毎月決まった額の分配金がもらえるというニーズが高い。そのような背景もあって投信の販売会社および運用会社は、分配金の高い投信を売ることに注力してきた。 しかし毎月分配型の投信は、運用の成果を分配金という形で吐き出してしまうため、長期で資産を増やすには運用効率が悪く、長期投資向きとは言えない。現状のままでは、NISAの目的である「中長期の資産形成に資する商品」は少ないと言えるだろう。今後、各社は分配金を抑えたタイプの投信の拡充が求められることになる。 分配金を抑えた投資信託は、その収益分を信託財産の中に蓄積するため、分配金を出す投資信託よりも長期運用による複利効果が得やすくなる。そのため投信業界では、分配金を出さずに長期運用することを視野に入れて商品設計をしている所もあるようだ。 10年近く分配金を出していない投信も しかし、ここで問題になってくるのが「分配金を出さない期間」についての考え方だ。投信は募集・売り出しの際に交付が求められる「目論見書」で、分配金の扱いについて記すことが義務付けられている。毎月分配型に代表される定期分配型でない投信の多くが年1回、決算時に分配金を出すが、中には「運用成績に応じて収益を分配する」と記し、実際は10年近く分配金を出していないものも見られる。分配金を出さないことは、それだけ複利効果が高くなるため投資家にとってはメリットが大きいが、課税の機会を失う税務当局から問題視される可能性がある。 足元の状況を見ると、税制上、長期に渡り分配金を出さないやり方が許されるかどうかはグレーゾーンであるようだ。「NISAで低分配型のニーズは高まっているが、この点に関してはグレーのままで新制度に突入しそうだ」と、ある運用会社幹部は話す。 複数の運用会社の取材から、投信運用会社などを会員とする業界団体、投資信託協会でもこの問題は議論されたことが明らかになっているが、自主ルールの設定など、具体的な行動には至っていないようだ。しかし、投資家にきちんと説明できるようにするためにも、例えば投信協会と金融庁で一定の指針を検討するなどの動きがあっても良いのではないだろうか。 NISAだと分配金は「新規投資」扱い NISA口座を使って投資すれば、課税口座と違って出された分配金は非課税となる。分配金をそのまま再投資してしまえば、分配金を出さないものと実質的には同じ意味だから大した問題にはならない。そう考える人もいるだろう。 しかし、NISAで出された分配金を再投資すると「新規投資扱い」になる。NISA口座内の年間100万円の枠内に再投資額が収まれば問題ないが、100万円を超えてしまった場合は原則、NISA口座ではなく、課税口座に資金は入れられ、そこで再投資を継続するという形になってしまう。そうなると、分配金には20%の税金がかかる。(金融機関によってはNISA口座内の新たな非課税枠に移してそこで再投資を継続できるケースもある)。また、最初から分配金の再投資は課税口座で行うとする金融機関もある。このように、分配金の扱いをめぐっても統一のルールがなく、金融機関によってバラバラの状況だ。この点についてもきちんと検討する必要があるだろう。 NISA開始まで残り3カ月余りとなった。10月からは口座開設が始まる。現在、各金融機関は顧客獲得のためのキャンペーンで盛り上がっているが、制度の円滑な運用のために残された課題は多い。分配金に関する課税のルールは、一見とても細かい話のようだが「ちりも積もれば山となる」との言葉の通り、長期になればなるほど効いてくる話だ。投資家目線での対応が求められるだろう。 このコラムについて 記者の眼 日経ビジネスに在籍する30人以上の記者が、日々の取材で得た情報を基に、独自の視点で執筆するコラムです。原則平日毎日の公開になります。 |