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http://bylines.news.yahoo.co.jp/ogasawaraseiji/20130918-00028214/
2013年9月18日 13時18分 小笠原 誠治 | 経済コラムニスト
政府が、賃上げした企業に法人税を安くすることを検討しているのだとか。
どうしてそのようなことをするのでしょうか? というよりも、そのような制度は既に始まっていたのではないでしょうか。
先ず、何故そのような制度が必要なのか?
現政権は、何が何でも賃金を引き上げたいと考えているからです。
デフレからの脱却、つまり、マイルドなインフレは、異次元の緩和策のお陰でいずれ実現できるかもしれないが‥しかし、だからといって、賃上げが実現できないでは国民の支持もいつか萎んでしまう恐れがある。
だから、どうしても賃上げを実現しなければならないのです。
では、そのために何をしたかと言えば‥今年度から、給料やボーナスの年間支給額を前年より5%以上増やした企業を対象に減税する仕組みを導入しているのです。具体的には、給与総額の増加分の1割(中小企業の場合には2割)を法人税から控除できるようにしているのです。
しかし、実際にその制度を利用している企業は僅かである、というのです。
でも、どうにかしてその制度を利用してもらい、賃上げを実現させたい、と。
そこで、もう少し利用しやすい制度にしてはどうかということで、賃金やボーナスのアップ率を2〜3%程度まで引き下げたらどうかという意見が出ているのだとか。
貴方は、その意見をどう思いますか? 効果があるのでしょうか?
ズバリ言います。折角の政府の努力に水をかけるようで恐縮ですが‥このような方法が決して効果を持つことはないでしょう。
何故か?
それは、先ず第一に、法人税を納めている企業が少ないからです。日本の全企業のうち、法人税を納めているのは全体の3割程度で、残りの7割は赤字であるために法人税を支払っていないのです。
そのような法人税を支払っていない企業に対して、賃金を引き上げたら法人税を負けてやると言っても、全く効果はなし。
それに、僅かばかり黒字を維持している企業にしたら、もし賃上げに応じた結果赤字になってしまえば、幾ら法人税が安くなるといっても全く意味がないのです。そうでしょ?
そればかりではありません。仮に自分の会社が大きな黒字を計上していて、そして、毎年それなりの法人税を支払っていたとしても‥そして、法人税が安くなるといっても、あくまでも給与支給総額の増加分の1割か2割に過ぎないからなのです。
例えば、前年と比べて従業員に支払う給与総額が1千万円増えた企業があったとして、安くなる法人税の額は、1千万円の1割の100万円に過ぎない訳ですから‥それほど魅力を感じることもないでしょう。だって、100万円法人税が安くなっても、1千万円経費が増えている訳ですから、幾ら法人税が少なくなったとは言え、税引き後の利益はもっと少なくなってしまうからです。
ですから、仮に今検討されているように、減税の要件である賃金のアップ率を5%から2〜3%へ引き下げたとしても、それによって減税が認められる企業が増えることは確かではあっても、決して賃金を引き上げることが会社にとってプラスにはならないのです。
仮に現在の制度を改正するのであれば、賃金のアップ率を5%から2〜3%へ引き下げるようなことではなく、減税が認められる額を給与支給総額の増額分の100%に可能な限り近づけることなのです。
但し、それが実現できたとしても、それでも計算上企業にとっては得にはならないのですから、だから効果は限られているとしか思えないのです。
では、仮に、前年度と同じ数の従業員を雇っていたとして、従業員に対する給与支給総額の増加分を上回る額を政府が補助金として支給したら、どうなるでしょうか?
そうなれば、どの企業であっても賃金を確実に引き上げるでしょう。何故ならば、賃金を引き上げることによって、却って企業の利益が増えることになるからです。
では、これで全て解決するのか?
しかし、それでは企業は何も努力をしないのに、政府からお金をもらうのと同じであり‥国民の支持が得られないでしょう。
つまり、企業が政府から多額の補助金をもらえば、企業は確かに労働者の賃金の引き上げに応じるでしょう。でも、そうやって企業に支給する多額の補助金の財源をどこに求めるかと言えば‥消費税などで国民から徴収するしかないのですから、結局、労働者から集めたお金を企業に渡し、そして、その大部分を労働者に還元するものでしかないのです。
それで、労働者たちは豊かになるのでしょうか?
なる訳はありません。
いずれにしても、企業にとって濡れ手に粟のような補助金を政府が支給することに、国民は大反対するでしょう。
だから、政府が企業に対し、減税や補助金を梃として賃上げを迫るのは、元々無理筋だとしか言いようがないのです。
政府が考えるべきは、何故労働者の給与が近年上がらないのか、その真の原因を探ることにあるのです。
デフレが原因であって、そのデフレは日本銀行の拙い金融政策が原因だなんて言ってきたから、真の原因が見えないのです。
何故ならば、アベノミクスがスタートしてもう9か月が経過しているのですから、かつての金融政策がデフレの真の原因であったのだとしたら、少しは賃上げが実現する兆候が現れ始めてもいいからです。
賃上げがなかなか実現しない真の原因は、次のようなことに求められるべきなのです。
(1)海外の安い労働力の存在
(2)少子高齢化の進展で、需要に勢いがなくなっていること
(3)公務員の給与を大幅にカットしていること
無理に賃上げを実現しようなどとはせずに、例えば、今流れが好転している観光業などのように、儲かる業種を多く育てるようなことに政府が力を注ぐことの方が、地道ではあるものの確実な道である気がするのです。そして、そのためにも規制緩和が欠かせないのに、政治家は既得権業者の方ばかり向いているのです。
以上
小笠原 誠治
経済コラムニスト
小笠原誠治(おがさわら・せいじ)経済コラムニスト。1953年6月生まれ。著書に「マクロ経済学がよーくわかる本」「経済指標の読み解き方がよーくわかる本」(いずれも秀和システム)など。「リカードの経済学講座」を開催中。難しい経済の話を分かりすく解説するのが使命だと思っています。
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