02. 2013年9月19日 04:00:20
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JBpress>海外>Financial Times [Financial Times] いまだに残るリーマン・ショックの影 2013年09月19日(Thu) Financial Times (2013年9月18日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)リーマンショックから5年、いまだに未完の米金融規制改革 去る9月15日でリーマン・ブラザーズの破綻から丸5年を迎えた〔AFPBB News〕 我々の金融システムの過去と未来というテーマは、どちらも毒を含んでいる。その毒の強さは、大手投資銀行リーマン・ブラザーズが経営破綻した5年前と何ら変わっていない。 これが、米国でローレンス・サマーズ元財務長官が連邦準備理事会(FRB)議長の候補を辞退するよう強いられた一件から引き出すべき教訓だ。 多くの民主党議員は、かつての金融の自由化が2007〜09年の金融危機につながったのであり、その自由化の責任者はサマーズ氏だと考えている。 実際、金融危機の原因とその余波についての議論はまだ終わっていない。そもそも、この危機に起因する例外的な政策がまだ続いているのだから、その議論が終わるはずもないのだ。 リーマン破綻はそれほど重要な出来事ではなかった リーマン・ブラザーズの破綻からちょうど5年が経過したことは、我々がどうやって今に至り、今後どこへ向かうのかを考える良い機会になるだろう。例えば、リーマンの破綻はどれぐらい重要な出来事だったのだろうか? 実は、多くの人が思っているほど重要なことではなかった。その理由は2つある。 2つのうち重要度が低い第1の理由は、金融の危機はいずれにしても目前に迫っていたというもの。より重要な第2の理由は、あの金融危機はバランスシートが過度に拡大していたことの表れだったということだ。そして、この傷んだバランスシートは現在、力強い景気回復がなかなか実現しない原因になっている。 リーマン・ブラザーズを2008年9月に破綻させた決断は重要ではなかったと言っているわけではない。このショックを機に、金融市場では大変な取り付け騒ぎが起こった。その時のストレスの強さを示した指標の1つに、ロンドン銀行間取引金利(LIBOR)3カ月物とオーバーナイト・インデックス・スワップ(OIS)レートのスプレッド(金利差)がある。 (LIBORは銀行同士が無担保で資金を融通し合う時に使えるとされている金利で、OISレートはLIBORと同じ期間の政策金利の予想値。両者の差は、市場が考えている銀行のソルベンシー=支払い能力=を推し量る尺度とされた) 欧州中央銀、700億ユーロを緊急供給 5年前のリーマン破綻で世界の金融市場に衝撃が走った〔AFPBB News〕 このスプレッドは当時、既に大きくなっていたが、リーマン破綻の当日からさらに拡大し始め、米国と欧州で金融ドミノが次々に倒れる中で拡大を続けた。このスプレッドで示されたストレスは、10月10日にピークに達した。 10月10日に何があったのか? 実はこの日、ワシントンに集まっていた先進7カ国(G7)の財務相と中央銀行総裁たちが「システム上重要な金融機関を支援し、『その破綻を避けるため』(カギカッコの強調は筆者)、断固たる行動を取り、利用可能なあらゆる手段を活用する」と宣言したのだ。 これにより、グローバル金融システムの中核部分が国の監督下に入った。これが民間のシステムだという考え方は幻想であることが露わにされ、納税者は突如、銀行家とは尋常でない高給をもらいながら暴走している公務員であることに気づかされたのだった。 なかなか訪れない力強い景気回復 G7諸国の政府と中央銀行は、世界の金融市場のパニックに比較的迅速かつ効果的に対応した(ただし、ユーロ圏は2010年に大変な余震に見舞われた)。しかし、パニックの収束や銀行の再建を米国がやったように比較的迅速に進めるだけでは、力強い景気回復をもたらすことはできなかった。 危機の打撃を受けたほかの大国よりも速いペースで回復してきた米国でさえ、危機以前のトレンドと比べた国内総生産(GDP)はずっと減少し続けた。2013年第2四半期の米国のGDPは、危機前のトレンドが続いた場合の額より14%も少なく、英国では18%も少なくなっている。 また、この景気回復期間に生じた所得の大部分は、所得水準の最も高い階層が手に入れている(これは実行された政策のせいでもある)。これでは、人々の間に不満が広がるのも無理はない。 パニックを引き起こす可能性があった金融機関はリーマンだけではなかった。破綻して同じくらい破壊的な影響を及ぼす可能性は、どの銀行にもあったのだ。 リーマン破綻の最大のインパクトは、隠れていた損失が明らかになったことだったが、これは必然だった。今では、その後の景気低迷の理由も明らかになっている。各国の経済は、不動産価格の上昇によって促された借金頼みの消費に依存していた。パニックは、この需要創造エンジンが停止した結果だったのだ。 どこまでも上昇し続ける資産価格に自らの繁栄を賭けていた金融機関は苦境に陥った。全く同じ賭けをしていた国々も、そうした借金頼みの国々にあれこれ売り込むことに賭けていた国々も苦境に陥った。 この余波を目の当たりにした時、我々は驚くべきだったのだろうか? 答えはノーだ。なぜなら、数人の優秀なエコノミストたちはこの悲惨な事態に至る可能性を事前に警告していたからだ。 重要国が借金頼みの経済成長に依存してしまった理由 では、重要な国々はなぜ、借金頼みの経済成長にあれほど依存してしまったのだろうか? この問いに対する最良の答えは、ベン・バーナンキFRB議長が2005年に指摘していた世界的な貯蓄過剰、特に1990年代のアジア金融危機後に途上国がため込んだ貯蓄にある。 この過剰がずっと悪化してきたことは、2つのシンプルな指標から見て取れる。1つは、安全と見なされている証券の実質利回りであり、これは物価連動国債の利回りで計測できる。もう1つはグローバル・インバランス(世界の経常収支不均衡)だ。 FRB、公定歩合を0.75%に引き上げ FRB(写真)をはじめとする中央銀行は、国内にバブル経済を醸成する政策を取るしかなかった〔AFPBB News〕 自国の経済を縮小させる力が世界経済から及んできたため、各国の中央銀行、特にFRBはこれに金融政策で対応したが、この政策は国内にバブル経済を醸成することにより機能した――。 貯蓄過剰がもたらした結果をごくシンプルに説明するなら、このようになるだろう。中央銀行に課せられた使命を考えれば、そうするしかなかった。 総債務残高が爆発的に増加したのは、経済の潜在供給力(外国からの純供給を含む)を吸収するのに十分なレベルの家計支出を生み出すために、不動産と金融セクターの両方でレバレッジが引き上げられた結果だった。 マネーをタダで供給し、しかも大量に創り出す中央銀行 これは、ウエストウッド・キャピタルのダニエル・アルパート氏が『The Age of Oversupply(過剰供給の時代)』という素晴らしい新著で論じている、過剰な潜在供給力の世界だった。この世界は今でも残っているし、むしろ以前より甚だしいものになっている。 もう何年も前から日本や米国、英国、ユーロ圏――要するに高所得国の世界全体――の中央銀行はマネーをタダで供給するのみならず、マネーを大量に創り出している。それでも景気は弱いままだ。 少しでも上向けば、英国で見られるように、金融パニック以前の水準をいまだに下回っている経済に新しい夜明けがやって来たともてはやされる。米国の経済パフォーマンスは英国のそれより良好だが、以前に比べれば明らかにお粗末だ。 しかし、リーマンの破綻がこれらのすべてを引き起こしたわけではない。元凶は経済の不均衡であり、同社の破綻はその1つの症状だったのだ。 悪いことに、我々が知っていると思われる景気回復の方法は例の信用創造の機械を再稼働させることであり、米国と英国ではそれがついに始まりつつある。 悪い景気回復も、回復しないよりはマシだが・・・ 悪い景気回復でも回復がないよりはマシだという原則に基づき、筆者は金融政策への過度の依存を、利用可能な手段のうち最も悪くないものとして容認している。外国の重商主義や、投資と財政赤字を忌避する国内政策などに苦しむ国々にとっては、それ以外の方法はほとんど存在しないように思われる。 しかし、この金融政策の舵取りは本当に難しい。そう考えれば(これが唯一の理由ではないが)、ホワイトハウスはもういい加減にFRBの新議長を指名してもいいころだ。新議長には、唯一利用可能なこの政策を理解し、その有効性を信じている人物を起用しなければならない。 もちろん、この任にはジャネット・イエレン現副議長を充てるべきである。 By Martin Wolf http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/38735
JBpress>海外>Financial Times [Financial Times] 揺れるルピア相場、インドネシアに不穏な既視感 2013年09月19日(Thu) Financial Times (2013年9月18日付 英フィナンシャル・タイムズ紙) インドネシアの通貨ルピアの下落が1997〜98年のアジア金融危機の苦い記憶を呼び覚ました。当時、ルピアの暴落は多額の米ドル建て債務を抱えた企業を破綻に追い込み、銀行業界の足をすくい、インドネシアを政治的、社会的混乱に陥れた。 米連邦準備理事会(FRB)の量的緩和策によりドル金利が低く維持されてきたため、インドネシアその他の新興国の企業は、ここ数年でドル建て債務を積み上げてきた。 そのため、金融刺激策を段階的に縮小し始めるFRBの計画に対する懸念は、ブラジルからインドネシアに至るまで世界各地の新興国の通貨を急落させた。 今年5月にFRBの緩和縮小議論が浮上して以来、アジアの主要通貨で最も大きな打撃を受けたのがルピアで、ルピアの対ドル相場は13%近く下落した。通貨安は、折しもインドネシア企業が人件費と投入コストの急上昇に直面している時に、ドル建てローンの返済コストを押し上げた。 アジア危機当時とは異なる点 しかし、1990年代後半の危機に向かう過程とは異なり、企業と銀行は借り入れの金額と期間について節度を保っており、ドル建ての収入がない多くの企業はヘッジ戦略を採用している。 「我々は1997〜98年の危機から多くの教訓を学んだため、企業債務の規模と借り入れの期間は現在、かなり安全に見える」 。ジャカルタのシンクタンク、パラマディナ公共政策研究所(PPPI)のウィジャヤント所長はこう言う。同氏は多くのインドネシア人と同様、名前を1つしか使わない。 ドル建て債務とルピア建て収入が多い企業では、今後、利益率が圧迫されるだろう。一方、比較的弱い企業と銀行は必然的に、ルピアがさらに大幅に下げるリスクにさらされている。 格付け機関フィッチ・レーティングスによれば、最も厳しい利益圧迫に見舞われるのは恐らく不動産会社だ。 大手デベロッパーのうち最もリスクに無防備なのが、アラムステラ、ジャバベカ、リッポーカラワチの3社だ。これらのデベロッパーはルピア建て収入を生み出すプロジェクトの資金を賄うためにドル建てで借り入れを行ったからだ。 それでも各社は為替ヘッジを行っているし、タイミングにも恵まれ、借り入れコストが今より低かった今年上半期に重要な資金調達を終えていた。 フィッチのアナリスト、アーリン・サリム氏(ジャカルタ在勤)は「こうした企業は債務の償還・返済予定が順当で、利益率は低下するが、まだ十分安心していられる」と言う。 投資家がインドネシア経済の脆弱性に不安を募らせたことから、最近の相場反発にもかかわらず、世界で発行されたインドネシア企業の社債価格は5月半ば以降7.2%下落しており、平均利回りが年初時点の6.33%から8.23%へと跳ね上がった。これに対し、ドル建ての新興国社債の平均利回りは6.23%だ。 業種や個別企業により耐久性にバラツキ 一部の企業は他社より嵐を乗り切りやすい立場にある。石炭輸出業者のアダロ・エナジーやインディカ・エナジーなどのドル建て収入がある企業は、債務を返済するための外貨収入源を持つ。 製薬大手のカルベ・ファルマや農業・食品大手のジャプファ・コンフィード・インドネシアなどの外貨のミスマッチが大きい企業は、インドネシア国内で市場トップの座にあり、今後1年間でこうしたコスト上昇分の一部を顧客に転嫁できるはずだ、とサリム氏は指摘する。 多額の債務を抱える企業の一部は、最近の混乱の前から苦境に陥っている。大きな影響力を持つバクリー家が経営する企業帝国傘下のバクリーランド・デベロップメントは、同社が1億5500万ドル相当の社債をデフォルト(債務不履行)したと主張するヘッジファンドの集団から訴訟を起こされている。 フィッチによると、銀行セクターでは、ヘッジされていない外貨エクスポージャー(対外資産と対外債務の差)は平均して銀行の自己資本の2%程度にとどまっている。自己資本比率が約18%、不良債権総額が約2%という状況にあって、銀行セクターは耐久性が高そうに見える。 だが、ある地元銀行の経営者は、インドネシアの銀行「大手4行」――バンク・マンディリ、バンク・セントラル・アジア、バンク・ネガラ・インドネシア、バンク・ラクヤット・インドネシアの4行は融資と預金の4割以上を牛耳っている――の相対的な強さが一部中小銀行の弱さを覆い隠している可能性があると警鐘を鳴らす。 世界銀行の民間セクター支援機関である国際金融公社(IFC)でインドネシア担当のカントリーマネジャーを務めるサルベシュ・スリ氏は、ルピアの今後の見通しが不透明なため、インドネシア企業はまだ困難を脱していないと言う。 だが、差し当たり、投資家が最も懸念するのは、システム全体に影響を与える企業破綻の可能性よりも利益率の低下だ。 By Ben Bland http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/38729 |