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ゴールドマン・サックスとJPモルガンの金価格分析の違いを検証する
http://bylines.news.yahoo.co.jp/kosugetsutomu/20130914-00028115/
2013年9月14日 12時25分 小菅努 | 大起産業(株)情報調査室室長/商品アナリスト
NY金先物相場は、年初の1オンス=1,695.40ドルから6月26日には1,179.40ドルまで516.00ドル(30.4%)もの急落となるも、7月から8月にかけては戻り圧力が強まり、8月28日には1,434.00ドルと5月14日以来の高値を更新した。しかし、9月に入ると再び戻り売り圧力が強くなっており、今週後半は1,300ドルの節目割れも警戒される状況になっている。
7月以降の金価格反発を受けて、マーケットでは「金価格はボトムを確認した」との分析が多く見受けられるようになった。1,200〜1,300ドルのレンジでは、アジア系を中心に現物筋の在庫手当が活発化したことで、需給要因から6月の1,200ドル割れはオーバーシュート(行き過ぎだった)との反省が広がった結果である。しかし、ここにきての再びの急落相場を受けて、金価格のボトム確認論には再び議論が投げ掛けられる状況になっている。
金融大手各社の分析も割れている。9月6日には貴金属市場において注目度の高いJPモルガンが、金の「売り推奨(underweight)」を取りやめて、「中立(neutral)」に修正したことが話題を集めた。バンク・オブ・アメリカ(BOA)なども、金価格は既にボトムを確認したとの評価を示している。一方、ゴールドマン・サックス・グループは9月11日に改めて弱気見通しを示し、金価格は依然としてダウントレンドの過程にあるとの慎重な見方を維持している。
■JPMの弱気撤回は、コモディティ市況見通しと連動
なぜこのような分析結果の違いが見られるのかであるが、まずはJPモルガンの分析を確認してみたい。同社は、「強気のモメンタム」と「債務上限問題の協議が再開されること」を、金価格に対する評価を中立にした理由として指摘している。要するに、7月と8月の急激な相場反発という事実と、昨年の金相場を強力にサポートした債務上限問題の蒸し返しを受けて、もはや売りポジションは危険と判断した模様だ。まだ買い推奨にまでは転換していないものの、売りポジションの保有は危険な相場環境と判断したことが窺える。
ここまでが表面的な解説になるが、注目したいのはこれと同時にコモディティ市況全体に強気評価が下されていることだ。世界の製造業購買担当者指数(PMI)の上昇や中国経済見通しの改善を受けて、銅などの非鉄金属やエネルギー相場に対して強気の見方が示されている。
これは一見すると別々の判断のようにも見えるが、実際の所は「貴金属相場の弱気判断取り止め」と「コモディティ市況に対する強気判断」とは密接な関係を有してと考えている。即ち、コモディティ市況全体のトレンドが上向きとなる資産価格上昇が続くのであれば、「通貨としての金」の価格水準は少なくとも大きく切り下がらないとの判断が働くのが、金市場における教科書的な理解になる。
「金=通貨」論は、バーナンキ米連邦準備制度理事会(FRB)議長を始め、否定的な見方も強い。ただ現実の金価格は、資産の購買力指標として価格水準を規定する傾向が強く、幾つかの前提条件が要求されるものの、極めて単純化すればコモディティ市況に強気で金市況には弱気というのは、論理矛盾をきたすことになる。
金市場においては、JPモルガンが弱気取りやめたという表面的な動きばかりが注目を集めたが、コモディティ市況に対する評価が強気に傾いた派生効果との理解が必要と考えている。
■GSの弱気見通しは、これまで同様に緩和縮小の流れ
一方、ゴールドマン・サックス・グループの方は、金価格は2014年にかけて下落するとの弱気見通しを再確認している。具体的には、14年の平均価格見通しを1,050ドルとしている。
短期的には米債務上限問題やシリア情勢にサポートする可能性を指摘するも、中長期サイクルは1,200ドル水準になり、短期的には更に急落する可能性もあり、1,000ドル割れの可能性も明らかとされている。
その理由としては、FRBによる量的緩和政策の縮小開始を指摘している。要するに、米実体経済の回復と連動してFRBの景気刺激策が縮小されれば、金価格は更に値下がりするとのロジックだ。これは、金市場は既に量的緩和政策の縮小を織り込んだとの(強気派の)見方に疑問を投げ掛けるものであり、来年半ばに債券購入の停止がメインシナリオとなる中、金価格はその動きと連動してダウントレンドを形成すると予測されている。
FRBによる追加資産購入の取り止めは、ドル紙幣のばら撒き政策拡大が終わることを意味しており、これまでペーパー通貨にはない安全な実物通貨として買われてきた金に対する評価が低下(または正常化)するとの判断だろう。これまで、金価格は他資産価格のパフォーマンスを大きく上回ってきたが、今後は逆に他資産価格に対する割高感が解消される可能性が強まることになる。まだ実際には資産購入の流れそのものは終わった訳ではないが、金価格のパフォーマンスは既に他資産価格を大きく下回っており、他資産価格との比価を是正する動きが強くなっている。この流れが今後も継続されるだろうというのが、おそらくゴールドマン・サックス・グループの弱気見通しの機軸部分だと考えている。
ドル建て金価格とCRB商品指数の比価
■金価格を決める二つの評価軸
さて、こうして金価格に対する弱気撤回派と弱気継続派のロジックを確認してみた訳であるが、ここからは金価格を考える上で二つの評価軸がメインになっていることが確認できる。
一つ目は、「資産価格(特にコモディティ市況)の上昇」に伴う、金価格の上昇圧力である。もちろん、JPモルガンのコモディティ市況に対する強気見通しが誤っている可能性もあるが、資産価格上昇局面では金価格に上昇圧力が強まり易く、実際に7月と8月の上昇は総じて原油価格やCRB商品指数などの戻り歩調と連動している。
二つ目は、「量的緩和政策の縮小」に伴う、金価格の下落圧力である。こちらも実際に債券購入を縮小するには幾つかのハードルが残されているが、これまでの金融緩和局面で金が他資産価格をアウトパフォームしてきたのは間違いのない事実であり、今後は金融政策環境が正常化に向かえば、その分のプレミアムが剥落するとのロジックになる。実際に、金価格とCRB商品指数の比価などをみると、今年に入ってから金価格のパフォーマンスが他資産価格に対して大幅に悪化していることが明確に確認できる。
この両者のバランスをどのように考えるのかが、今後の金価格動向を決定付けることになる。前者を重視しているのがJPモルガンの弱気見通し撤回であり、後者を重視しているのがゴールドマン・サックス・グループの弱気見通し維持になる訳だ。
もちろん、これ以外にも金市場には様々な価格変動要因が存在している。金現物需要動向以外にも、金上場投資信託(ETF)の残高、中央銀行の外貨準備分散の動き、鉱山生産水準、鉱山会社のヘッジ政策、スクラップ還流の動向、ファンドの建玉状況など、注目すべき論点は数多い。だが、今後1年のトレンドといった中長期スパンの大きな流れを考えるのであれば、上で解説したような理解で良いと考えている。分析テーマは時代に応じて変わってくるが、米金融緩和政策が拡大時代を終えようとする中、注目すべきは以上の二点になるだろう。
小菅努
大起産業(株)情報調査室室長/商品アナリスト
1976年千葉県生まれ。筑波大学卒業後、大起産業(株)に入社。営業本部、米同時テロ直後のニューヨーク事務所等を経て、現在は情報調査室室長。ほぼ一貫してコモディティやFX市場の調査・研究・分析業務に従事。商品アナリストとして、金、プラチナ、原油、ゴム、穀物などコモディティ・マーケットの需給分析レポートを社内外に発表中。
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