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ビッグデータは誰のものか (郷原信郎が斬る) 
http://www.asyura2.com/13/hasan82/msg/425.html
投稿者 赤かぶ 日時 2013 年 9 月 13 日 12:50:00: igsppGRN/E9PQ
 

ビッグデータは誰のものか
http://nobuogohara.wordpress.com/2013/09/13/%E3%83%93%E3%83%83%E3%82%B0%E3%83%87%E3%83%BC%E3%82%BF%E3%81%AF%E8%AA%B0%E3%81%AE%E3%82%82%E3%81%AE%E3%81%8B/
2013年9月13日 郷原信郎が斬る


JR東日本が、共通乗車カード・電子マネーのスイカに記録された乗降データ(以下、「スイカ・データ」と言う。)を、利用者に無断で日立製作所に有償で提供していたことが明らかになって、利用者側から大きな反発を招いた。JR東日本は、利用者側の要望に応じて提供データから除外する措置をとったが、それに続いて、NTTドコモが、携帯電話事業によって把握している基地局エリア内の携帯電話の位置情報(以下、「ドコモ・データ」と言う)に基づいて、特定地域の時間ごとの人口変化などの情報をまとめた報告書を作成して流通業や外食企業などに販売する方針を打ち出し、話題になっている。

このような企業のビッグデータの活用に関して問題にされているのは、個人のプライバシーの侵害の恐れの有無である。匿名化されたデータであっても、何らかの形で特定される可能性があるのではないか、それに関して、情報を把握される側に事前に了解を得たのかどうかなどの点である。

スイカ・データについては、個人が特定されて、情報が活用されることがないよう一応の措置はとられていたが、利用者側の事前の了解が得られていなかったことが問題とされた。そのことを踏まえて、NTTドコモは、個人が特定されないための措置をとるだけではなく、契約者が電話で申請すれば、予め個人データの利用を停止することとしている。

「個人のプライバシーの保護」に関して、個人情報保護法の規定に反しないという「法令遵守」だけではなく、それ以上に、同法の目的であるプライバシーの保護を徹底していくことが必要との認識で、企業側の対応の在り方が議論されているというのが現状である。

拙著「法令遵守が日本を滅ぼす」(新潮新書)などで、かねてから述べているように、複雑・多様化した現在の社会においては、法令・規則の「遵守」だけで社会の様々な要請に対応できるものではない。コンプライアンスとは、法令遵守を超え、「社会の要請に応えること」でなければならない。とりわけ、司法の社会的機能が限定的であった我が国においては、「法令遵守」にこだわることの弊害が顕著に表れる。

そういう観点からは、まさに「社会の複雑・多様化」が極端に表れる「情報空間をめぐる問題」に関して、企業のコンプライアンスとして、個人情報保護法という法令の遵守を超えた対応が求められるのは当然のことである。

問題は、ここで求められる「法令遵守」を超えた対応を、どういう次元で考えるかである。私は、情報の価値が一層大きくなり、世の中が情報を中心に動いているとすら思える状況において、有体物が価値の中心だった社会を前提とする旧来の法体系での解決は限界にきているのではないか、という問題提起を、かねてから行ってきた。

旧来の私有財産制は、物理的な支配・管理が可能な有体物についての権利を、個人の意思に基づいて移転することを基本としている。物理的に支配・管理が可能な物に対しては、「所有」を観念することが容易である。有体物は、売買・贈与など所有者の意思によって所有権を移転することができ、何らの権限もないのに、他人の「所有物」の支配・管理を侵害することに対しては、支配・管理を回復し、損害賠償を請求する法的手段が認められる。

一方、情報に関しては、そもそも、物理的・直接的な支配・管理は困難である。情報の流出・拡散は不可逆的に生じ、原本と複製の区別、情報流出元の特定は極めて難しく、原状回復も事実上不可能であり、返還請求という手段もあり得ない。有体物を個人の意思によって移転することを中心とする伝統的な法体系による解決方法は、基本的に当てはまらない。

スイカ・データ、ドコモ・データなどビックデータの活用をめぐって生じている問題は、まさに、情報を中心とする社会が旧来の法体系では解決し得なくなっていることを端的に表すものと言えよう。

これらのデータの活用に当たって、「個人情報の保護」「プライバシーの保護」が重要な社会的要請となるのは当然であるが、それは問題の本質ではない。

根本的問題は、企業・団体、国・自治体等の組織内に、組織の活動に伴って消費者に関する大量の情報が蓄積され、それらを活用することで経済的利益が生じる場合に、情報を活用する権利は誰に帰属するのか、という点である。

スイカ・データ、ドコモ・データがまさにそうであるように、これらのビッグデータは、多額の対価を得ることができる大きな経済的価値を有するものであるが、当該企業自らがコストをかけて創造したものではないし、データに対する対価を払って取得したものでもない。鉄道事業や通信事業における大量の消費者との取引の中で「事実上取得した情報」に過ぎない。

利用者は、電車に乗車するためにスイカを購入しているのであって、その際、乗降データをJR東日本に提供することなど考えてはいない。ドコモの携帯電話を使用する消費者も、位置情報をドコモに提供して、それを利用させる認識はない人が殆どであろう。

そのような形で、消費者に対して何らかのサービスを提供する企業の側に、消費者に関する大量の情報が蓄積され、大きな経済的価値が生じるというのは、まさに、高度情報化社会において出現した現象である。このような場合、その情報が誰に帰属するのか、それを活用して利益を得ることが許されるのか、ということに関して、現行法では何も定められていないし、そもそも、有体物を個人の意思によって移転することを中心とする伝統的な法体系によって解決することは著しく困難なのである。

企業の事業活動において、当該企業が所有する生産設備、原料、当該企業に雇用された労働者の労働によって「有体物たる製品」が生み出されれば、「原始取得」によって当該企業にその所有権が帰属する。副産物が生じた場合も、有体物である限り、当該企業の所有物となる。伝統的な民事法体系における「所有」と「占有」の法的効果からは、当然の帰結である。

一方、無体財産の場合は、直接的・物理的支配は不可能で、「占有」が観念できない。そのため、無体財産に関する排他的な権限を認めるためには、法律によって、その権利を認める枠組みが必要となる。事業活動の中で生み出された発明、ノウハウ、顧客情報などが誰に帰属するのかは、法令や契約等で定められることになる。

その典型例が知的財産権の制度である。知的創造活動の成果としての知的財産については知的財産の創出者は、知的財産法によって、特許権、実用新案権等の知的財産についての特別の権利を得ることができ、その権利は、侵害者に対する損害賠償請求権や罰則等で保護される。

ビッグデータは、知的創造物と同じように、場合によってはそれ以上に、大きな経済的価値を生み出すものであるが、それを誰に帰属させるのか、どのような手続をとることによって活用できるのかについて、知的財産法のような法制度が存在しない。それに関する社会的ルールも未整備である。それが、スイカ・データ、ドコモ・データのような問題が生じる根本的な原因なのである。

ビックデータを最先端の情報処理技術によって活用することは、消費者にも大きな利便をもたらし、経済社会にも大きな価値をもたらす行為である。その有効活用は、まさに、社会の要請に応えるものと言えよう。そのために、有効活用していくことについて利用者側・消費者側にも納得が得られるよう社会的コンセンサスを形成することが必要なのである。

現状では、ビックデータ問題に対して、企業側がとっている対応は、@データを匿名化し、絶対に個人が特定されないような措置をとる、AHPなどで、データの活用に同意しない利用者・消費者には、「データの除外」の要請をするように呼びかける、の二つが中心である。JR東日本がスイカ・データを利用者に無断で日立製作所に有償で提供したことに対して、利用者側からの強い反発が生じたことに対応するものであろう。

しかし、ここで生じた反発は、「個人が特定され個人情報が使用される恐れ」に対する不安によるものだけではない。根本的なのは、「電車の乗降という自分自身の行動に関する情報を鉄道会社側が勝手に使って利益を得ることに対する反発・違和感」である。

@の個人情報の取扱いについて万全の措置をとることで、前者に対する不安は払拭できても、それだけでは、後者についての反発・違和感を抑えることはできない。Aの措置について十分な周知徹底が行われば、データ除外の要請が相当数に上ることになるであろうが、それによって、データは「歯抜け」になり、情報そのものの価値が低下することになる。

それは、ビッグデータを有効活用していくことによって、社会の要請に応えていくことに逆行することになりかねないのである。

では、ビッグデータの有効活用のための制度的枠組みを、今後、どのような方向で考えていったら良いのであろうか。

本来、企業が「事実上取得した」ビッグデータを活用する権利は、当然にその企業に帰属するものではない。個々のデータの主である利用者との間でどのような手続き・措置をとることで当該企業がそれを活用する権利を取得できるのか、あらかじめルールを定めておく必要がある。

その際重要なことは、このようなビッグデータは、利用者全体に由来する情報であり、それによる利益は社会に還元されるべきだということである。そこで問題になるのは、ビッグデータの経済的価値をどのように算定し、企業活動に関連する料金の算定、企業会計に反映させていくのかということである。

情報処理技術の高度化により、ビッグデータは、一個人や一企業の思い付きと特殊な技術との結び付きでのみ活用され価値を有するものではなく、それ自体が汎用的な価値を持つに至っているように思われる。そうであれば、ビッグデータ自体の経済的価値、価格が算定可能なはずである。その価格形成を公正に行うために考えられるのが「ビッグデータ市場の創設」である。

例えば、スイカ・データは、JR沿線の各駅の乗降客についての膨大な情報であり、それは、その沿線の商業施設の建設や出店計画、関連する企業の経営方針の策定に関する貴重なデータといえる。それがどれだけの経済的価値を有するのかは、市場原理による価格形成に委ねるのが最も合理的ではないか。

そして、ビッグデータの市場価格が明らかになれば、それは、上場企業であれば開示される貸借対照表上も資産として計上することになり、会計処理上も重要な要素となる。そして、鉄道事業等を営む公益企業であれば、その資産額は公共料金としての運賃の認可においても考慮されることとなる。

このように、市場化によってビッグデータの経済的価値を企業会計や公共料金算定の要素としていくことが、ビッグデータを社会的資産として活用していくことにつながるのである。


 

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コメント
 
01. 2013年9月13日 15:56:55 : FfzzRIbxkp
マイナンバー法で、個人の所得や病歴、ローン、納税などのデーターを
民間で活用していくというのは、危ういですね。


02. 2013年9月13日 16:57:12 : nJF6kGWndY

>@データを匿名化し、絶対に個人が特定されないような措置をとる、AHPなどで、データの活用に同意しない利用者・消費者には、「データの除外」の要請をするように呼びかける

@が徹底できるのであればAは必要ないだろう


03. 2013年9月14日 11:05:16 : RG1uj2I3SE
マイナンバーが民間利用されはじめたら、スイカの問題の比では無い訳で

04. 2013年9月14日 17:10:53 : niiL5nr8dQ
「海外におけるビックデータの実態把握に関する
情報収集・評価に係る調査研究」
報告書
2013年2月
総務省情報通信国際戦略局情報通信経済室
(委託先:株式会社情報通信総合研究所)

McKinseyによる研究 ビックデータ活用による経済効果
Big data: The next frontier for innovation, competition, and productivity
(McKinsey、2011年 6月)
※本レポートはMacKinsey &Companyの研究機関であるMcKinsey Global Instituteが作成したもの。
調査分析の視点/
フレームワーク
・ビッグデータ活用で成長すると考えられる5部門・分野(米ヘルスケア産業・米小売業・米製造業・欧州公共セクター・位置
データの分野)を対象に、ビッグデータ活用により発現する経済効果・便益(コスト削減効果、生産性向上効果等)を推計
主な結論
対象分野・セクター ビックデータ活用による発現効果(例)
ヘルスケア産業(米国) ・2260億$〜3330億$のヘルスケアに関する支出の減少
・0.7%のアメリカのヘルスケアセクターの生産性の増加
公共事業(欧州)
省庁全体で以下の分野でデータ解析を用いて効率的に業務を行うことで
1500億€〜3000億€の余剰発生
・行政の効率的運営により1200億€〜2000億€の削減
・不正と過失の減少により70億€〜300億€の削減
・税収入増加により250億€〜1100億€の増加
小売業(米国) ・セクター内生産性の0.5%の増加
・売上純利益の60%以上増加
製造業
・最大50%の製品開発コスト削減
・2〜3%の製品マージンの増加
・最大7%の労働資本削減
位置データ ・プロバイダーの位置情報提供サービス向上により1000億$〜1200億$の価値の増加
・エンドユーザーに6000億$〜7000億$の効果

本レポートでは、IT投資と生産性に関する分析は多いが、情報量と生産性に関する研究は新たなテーマであると指摘
(Exploring the link between productivity and data breaks new ground)
 情報量研究については、米カルフォルニア大学(サンディエゴ校)が研究プロジェクトを立ち上げ、「Report on Enterprise
Server Information」と題するレポートを公表 (AT&T、SISCO、ORACLE、IBM等がスポンサー)


ビックデータ活用を通じ、米ヘルスケア業界で生じる発現効果(付加価値ベース)は3,333億ドル(とりわけ、病院のオペレーション費用の削減効果は1,650億ドルと効果測定項
目の中で最も大きな効果)
また、欧州公共部門で生じる発現効果(付加価値ベース)は1,500億ドル〜3,000億ドル(とりわけ、行政オペレーション費用の削減効果は1,200〜2,000億ドルと効果測定項目
の中で最も大きな効果)

● ビッグデータの活用により、米小売業界では生産性が0.5%向上、売上純利益は60%以上増加(小売業の業種ごとにみると、ヘルスケアストア、総合スーパー、建築・建材、仮
想ストアで高い利用データ価値)
● 位置情報サービス分野においては、同サービスの提供主体の収益創出効果は、1,000億ドル〜1,200億ドル。また、エンドユーザ側では6,000億〜7,000億ド
ルの価値が創出される


22
 製造業では、ビックデータ活用を通じ、製造工程全般においてコスト削減、収入増等の効果が発生 m
<ビッグデータ活用による発現効果 (製造業)>
・ ビッグデータ活用により米製造業で生じる発現効果を、ビックデータ活用が@研究開発(R&D)と設計活動に及ぼす効果、Aサプライチェーン・マネジメントに及ぼす
効果、B生産活動に及ぼす効果、Cアフターサービスに及ぼす効果の4効果に分類の上、分析
・ビックデータ活用により、R&D・設計活動では、開発コストが25%減少、製品の市場投入までの機関が20〜50%短縮化される等の効果が発生
・その他、サプライチェーン・マネジメントでは、利益マージンが2〜3%増加、生産活動では10〜25%のオペレーションコストの削減、7%の収入増等の効果が発生
する等、製造工程全般においてコスト削減、収入増等の効果が発生


“Industrial Internet: Pushing the Boundaries of Minds and Machines ”
(GE imagination at work、2012年11月)
調査分析の視点/
フレームワーク
• インダストリアル・インターネット(※1)を活用することで及ぼす業界ごとの経済効果、および世界のGDPに与える影響を試算。
(※1) インダストリアル・インターネット:GE社が命名した、様々なビッグデータをクラウドネットワークを介して集約・共有し、データ解析を行うことで、産業フローの課題点を改善していく一
連の仕組み

@ インダストリアル・インターネットでの1%の効率向上による効果
業界 削減対象 15年間での
削減効果
航空 燃料費 300億$
電力 燃料費 660億$
ヘルスケア 医療費 630億$
鉄道 燃料費 270億$
オイル・ガス 資本支出 900億$
A インダストリアル・インターネットの経済効果
 現在、世界のGDPの46%、32.3兆ドルの売上高の恩恵を
受けている
 現在、世界のエネルギー消費の44%に影響を与えている。
 2030年、全世界GDPを15.3兆ドル押し上げる。


JIPDECによる研究
25
レポート・報告書名
(出版主体、出版年)
“Evaluation of economics value incurred from using big data” (JIPDEC)
調査分析の視点/
フレームワーク
・パーソナル情報等のビッグデータを「資産」として捉え、企業の付加価値に及ぼす効果について、3つの手法を用いて定量的に分析。
主な結論
@生産関数アプローチによる推計
企業資本をビッグデータ関連資本とそれ以外に分け、生産関数(※2)分析を行った結果
企業の付加価値成長に対する、ビッグデータ資本の寄与度は61%と推計(表1)。
Aキャッシュフローアプローチによる推計
顧客がビッグデータを購入・活用することでどれだけの期待キャッシュフローを生み出せるか推計し、定式化を行った(※3)
B仮想市場アプローチによる推計
個人情報の市場取引を仮定した場合の企業の支払い意志額をヒアリングを実施。結果を元に、データ属性毎の資産価値を推計
ビッグデータ関連資本 61%
ビッグデータ以外の資本 25%
ビッグデータに関連しない労働力 18%
計測誤差 -4%
企業付加価値への寄与度推計


主な結論
• 2011年のEU27カ国におけるパーソナルデータのマクロ経済価値は3150億ユーロ(内訳は消費者が2,620億ユーロ、企業が530億
ユーロ)
• 2020年になると、マクロ経済価値は9970億ユーロ(内訳は消費者が6,690億ユーロ、企業が3,280億ユーロ)まで増加(EU27カ国の
GDPの8%に相当)。企業サイド・セクター別では、公的サービス・医療分野でもっとも大きな経済価値が発生
BCGによる研究 調査結果サマリ

http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/linkdata/h25_02_houkoku.pdf


05. 2013年9月15日 19:00:04 : FikN8ZcJ3M
漏れた

06. 2013年9月18日 02:13:34 : niiL5nr8dQ
http://diamond.jp/articles/print/41772
【第2回】 2013年9月18日 吉本佳生
若者の免許離れは本当に起きているのか?ミクロとマクロを組み合わせて分析しよう【前編】
身近な統計数字を使ってデータ分析のプロセスや読み誤りのコツを学ぶ吉本佳生さんの新刊『データ分析ってこうやるんだ!実況講義』の一部をご紹介する本連載の第2回は、「若者の免許離れ」がテーマです。カーシェアリングなどが広がる一方、特に若者の“クルマ離れ”が叫ばれて久しいですが、本当にそうなのでしょうか?ミクロとマクロの両面からデータを分析し、その実態を明らかにしていきます!
「若者の免許離れ」が起きている?
 関西大学会計専門職大学院での講義のなかで、最近のクルマのCMについて、学生に感想を求めました。すると、トヨタ自動車のドラえもんシリーズのCMが印象的だ、と答えた学生がいました。
 トヨタが有名タレントをドラえもんの登場人物に見立ててシリーズ化しているCMでは、のび太くんが運転免許を取ろうとして悪戦苦闘するのですが、明らかに「若者にクルマの運転免許取得を促す意図」が読み取れます。学生は、それが印象的だとの感想を述べたのでした。
 さて、多額の宣伝費用をかけて豪華なキャストを登用したテレビCMを大量に流してまで、若者に免許取得を促すことが、本当に必要なのでしょうか。自動車教習についてのミクロデータ(個別のモノやサービスについてのデータ)と、日本経済全体についてのマクロデータを組み合わせて、分析してみます。
 まず、警察庁のサイトで運転免許についての統計を調べます。若者の免許取得について分析したいのですが、まずは全年齢層のデータをみて、全体像を把握しながら若者に焦点を当てるプロセスが大切です。
図表1
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 年齢別の運転免許保有者数をグラフにしたのが図表1です。2012年末のデータを右に、2002年末のデータを左に置いて、10年間での変化がわかるようにしてあります。年齢階級が5歳ずつの区切りになっていますから、同じ人が属する年齢階級は、左のグラフから右のグラフに移る際に、2つ上がります。
 運転免許保有者が多いのは、まず、2002年では50〜54歳、12年では60〜64歳で、両者は同じ人たちです。「第1次ベビーブーム」世代です。また、02年では25〜29歳と30〜34歳、12年では35〜39歳と40〜44歳の人数も突出していて、この両者も同じ人たちです。「第2次ベビーブーム」世代に当たります。
 こうした解説は、日本の人口データと対比しているからできることで、個別のモノやサービスについて分析する場合であっても、ミクロデータだけをみるのではなく、必要に応じて背景にあるマクロデータも確認するべきだとわかります。
 日本全体でみると、1998〜2012年はモノやサービスの物価はじわじわと下がっていて、深刻なデフレ(物価の継続的な下落)が話題になってきました。しかし、教育に関係する物価は例外で、消費者物価指数の教育関連データをみると、大学の授業料、教科書、学生服などの物価は値上がり傾向が続いてきました。
 学習塾や予備校の授業料も上昇してきました。大人の習い事もふくめて、各種の教育や習い事の物価は基本的に上昇傾向にあったのです。教育・習い事の分野では、ミクロとマクロのデータの乖離があったといえます。
図表2
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 ところが、消費者物価指数の統計を細かくみると、例外がひとつありました。「自動車教習料」です。代表的な習い事の物価と対比させながらグラフにしたものが図表2です。料理、水泳、英会話の3つの習い事の月謝は、日本経済がデフレに突入した1998年以降も、しっかりと上昇したことがわかります。他方、運転免許を取得するために通う自動車学校(教習所)の自動車教習料は、世のなかのデフレにあわせてゆるやかに下がってきました。
 ときどき「若者のクルマ離れ」が進んでいるという指摘があります。本当にそうなのでしょうか。2013年7月時点で、ウィキペディアには「若者の車離れ」という項目がありました。データで確認したいところですが、さまざまな年齢構成の家族がクルマを保有するなかで、若者がクルマに乗っているケースも、まったく乗らないケースもありますから、若者が現実にどれだけクルマに乗っているか、また所有しているのかのデータを得ることは困難です。
 ただし、クルマの運転免許の取得については、データを細かく調べることができます。運転免許を取らなければクルマには乗れませんから、「若者の免許離れ」を確認できれば、クルマの“所有”は別としても「若者のクルマ離れ」が起きていると指摘できます。
 この考え方に基づいて、「若者の免許離れとクルマ離れ」が事実であるという前提で解説がなされていた、典型的な記事のひとつが、NEWSポストセブンというニュースサイトに掲載されたものです。いろいろとそれらしい理由を挙げ、つぎのデータで示される「若者の免許離れ」の説明をしていました(記事のごく一部だけを引用しています)。
「指定自動車教習所の卒業者数は約156万人(2011年)で、2002年と比べると約40万人も減っている。それに伴い、教習所はこの10年で100校以上が廃業に追い込まれた」(NEWSポストセブン、2013年2月17日掲載)

 もし本当に、運転免許を取らない若者や、クルマに乗らない若者の比率がそれなりに高まってきたというのであれば、「免許離れ、クルマ離れ」といっていいでしょう。そして、その記事のなかに出てきたデータ自体は正しいのですが、「若者の免許離れ」という記事内容はデータとまったく合っていませんでした。
 自動車教習所についてのデータをグラフ化した図表3をみてください。指定自動車教習所の卒業生は、1990年前後には年間250万人を超えていましたが、2000年前後には約200万人に減り、2009年以降は年間160万人を割り込んでいます。2002年と比べて約40万人減ったという指摘は、たしかに正しいのです。
図表3
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 また、指定自動車教習所の数も10年で100校以上減りました。これも正しい数字ですが、図表3のグラフでみると印象がかなり違うでしょう。1992〜2012年の20年で、教習所は約1割(12%)減りましたが、卒業生は約4割(38%)減っています。2002〜2012年の10年間でみても、卒業生は19%減少しているのに対して、教習所は8%の減少にとどまっています。
 しかも、卒業生減少の主因は少子化です。たとえば、2012年での20歳代の人口は、10年前に比べて約400万人少なくなっています。20歳代には10年間ぶんの誕生日の人がふくまれますから、400万人を10で割って、20歳代の各年齢当たりでみて、10年前と比べると、約40万人の減少となります。
 教習所の卒業生減少とほぼ同規模です。全員が20歳代で免許を取るわけではありませんし、他の要因も関係しているでしょうが、教習所の卒業生が減った原因の大部分は、少子化で説明できそうです。
 少子化によって若者の人口が減ったことで、教習所に通う人が自然に減り、その割に教習所数の減り方が遅いから、競争が激化したというのが事実です。


図表4
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 もっときちんと確認してみましょう。20〜39歳を対象に、年齢別の人口に対する免許保有者の比率を「免許取得率」として計算した結果が、図表4です。
 なお、免許保有者のデータは警察庁のホームページから、日本の人口のデータは総務省のホームページから得ています。前者は各年12月末の値、後者は各年10月1日の値ですので、若干のずれがあります。
 免許取得率を計算するうえで、このずれは無視できる範囲のものですが、異なる統計から得たデータを使って計算していますので、なんらかの誤差があることを否定できません。つまり、小さな変化だけでは結論を導けない性質のデータだと考えるべきです。
 図表4では、2012年とその10年前の2002年で、免許取得率を男女別に比較しています。男性の場合、25〜29歳、30〜34歳、35〜39歳のそれぞれで、1〜2ポイントの差があり、少しは免許取得率が下がったといえますが、どれも2ポイント未満の低下でしかありません。2つの異なる統計から計算しているための誤差と、取得年齢が遅くなった可能性を考えると、「若者の免許離れが起きている」というには小さすぎる差です。
 女性の場合、25〜29歳、30〜34歳の免許取得率はほとんど変化していません(どちらも0.5ポイント未満の変化にとどまっています)。35〜39歳では、2.1ポイント上昇しています。
 なお、20歳代前半の免許取得率はそれより上の年齢層よりも低いのですが、これは自然な現象です。25歳以降に免許を取得する人が一定程度いますから、結果として、20歳代後半よりも20歳代前半のほうが(さらに19歳18歳のほうが)免許取得率が低いのは当然です。
 そういった注意点がある20〜24歳の免許取得率が、10年前と比べて、男性で3.9ポイント、女性で3.3ポイントだけ低くなっていますが、このデータだけでは、免許離れとはいえません。2012年に20歳代前半だった人たちが、そのあと数年でどれほど免許取得率を高めるかをみたうえでないと、判断できません。グラフが「下」にずれたのか、「右」にずれたのか、いまはまだ判断できないのです。
 改めて、図表2で自動車教習料の物価推移をみると、需要が大幅に減ってきた割には、さほど値下がりしていません。消費者物価指数でみると、クルマそのものもほとんど値下がりしていないにもかかわらず、若者の免許取得率はさほど下がっていないのですから、クルマ離れは起きていないと感じられます。
のび太くんより先に、しずかちゃんが免許を取った理由?
 少子化が主因であるとしても、新しく運転免許を取得する若者の絶対数が減っていること自体は事実で、自動車メーカーとしては、若者の免許取得率を少しでも高めたいところです。しかし、昔と比べて免許取得率が大きく下がったわけではないので、これを引き上げるのは簡単ではないと思われます。
図表5
拡大画像表示
 ところが、免許保有者の男女比をみると、興味深いデータがみつかります。図表5は、年齢別に、男性の免許保有者100人に対する女性の免許保有者の人数を示したものです。70歳以上では50人未満となっていて、昔は「クルマの運転は男がするものだ」という感覚が強かったことが確認できます。
 その感覚が修正され、免許保有者の女性比率がどんどん上がってきたことが、2012年の85歳以上から40歳代までのデータで確認できます。しかし、30歳代以下の年齢層では、年齢が若いほど、免許保有者の女性比率が下がってしまいます。
 なお、人口そのものの男女比が100対100とは限らず、16〜19歳では100対95で、そこから女性比率が少しずつ上がって(女性のほうが寿命が長いためですが)、50歳代前半では100対100になります。このあたりも考慮してデータを読むべきで、そのために図表5には「人口の女性比率(男性人口100人に対する女性人口)」を示す補助線が引いてあります。
 昔から、男性のほうが早めに免許を取得する傾向がありますので、16〜19歳での比率はあまり参考になりません。しかし、20歳代(前半・後半)の免許保有者の女性比率が、30歳代(前半・後半)での数字より低いことをどう解釈するか、悩ましいところです。
図表6
拡大画像表示
 そこで、2002年と2012年とで、同じように年齢別の運転免許保有者の女性比率を計算して、比べてみたのが図表6です。40歳未満だけを示しています。10年間での変化はほとんどありません。あまり参考にならない16〜19歳での比率を除き、2ポイント未満の差で、いずれにしても2012年のほうが40歳未満のどの年齢層でも女性比率が高くなっています。
 こうしてみると、24歳以下で女性比率が相対的に低くなりやすいのは、男性よりも女性のほうが、免許取得の年齢が少し遅くなりやすいことが原因のようです。筆者の講義に出ている学生たちは、「女子学生の場合、就活の履歴書に書くために、就活前に運転免許を取るパターンも多い」といいます。わかりやすい例でいえば、大学に入学したらすぐに運転免許を取るパターンは、男性のほうが相対的に多い一方で、就活前に取るパターンは、女性のほうが相対的に多いということでしょう。
 データを調べれば調べるほど、日本のいまの若者では「免許離れ」など起きていないと確認できました。それでも、少子化で若者の人口が減るなかで、少しでも免許取得者を増やしたいなら、若い女性に働きかけるべきです。
 もともと、若い女性の免許取得率にはもっと高められる余地があるのに、この10年間では高くなっていません。図表6のグラフは、全体的にもっと人口の男女比率の線に近づいてもおかしくないのに、そうなっていない(過去10年間でさほど変化していない)ことに注目すべきです。
 運転免許のデータに基づいてマーケティング戦略を考えるなら、若い男性よりも、若い女性にこそ、もっとクルマの運転免許を取ってほしいと訴えかけるべきです。このデータを整理してからみた、トヨタのドラえもんシリーズのCMでは、のび太くん(若い男性)よりもしずかちゃん(若い女性)のほうが先に運転免許を取っていました。これが意図的な工夫なら、本当によくできたCMだと感じました。ただし、若者に運転免許の取得を促す目的のCMを継続して流すために、主人公であるのび太くんの免許取得を後回しにして、話を引っ張っていただけかもしれません…
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