04. 2013年9月12日 08:50:12
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【第20回】 2013年9月12日 野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問]GDP成長も設備投資も公共事業に依存している オリンピックに経済効果を期待するのは難しい 内閣府が9日に発表した4〜6月期の国内総生産(GDP)第2次速報値は、実質で前期比0.9%増、年率換算で3.8%増となった。8月12日発表の第1次速報値(前期比0.6%増、年率2.6%増)に比べて、かなり大幅な上方修正となった。 4〜6月期のGDP統計は、消費税増税を最終的に判断する際の重要な材料となることから、注目されていた。甘利明経済財政・再生相は、記者会見で、「引き続き良い数字が出ている」と述べた。 最終的には公共事業に支えられている成長 第2次速報値の数字を見て、「金融緩和政策がいよいよ実体経済に影響を与え、経済の好循環が始まった」と感じている人が多い。しかし、実際に生じていることは、そうしたイメージとはまったく異なるものだ。 最大の問題は、経済成長を支えている最終的な要因が、民需ではなく官需だということである。 今回の上方修正の主たる原因は、表面的には、公的固定資本形成(公共投資)と民間企業設備である。 公共投資は、第1次速報値の1.8%増から、3.0%増へと大幅に上方修正された。また、設備投資は、4〜6月期の法人企業統計をもとに、1.3%増(速報値は0.1%減)へと、やはり大幅に上方修正された。 これらの寄与率は、いずれも0.2%だ。合計すると、0.4%となり、GDP成長率0.9%の半分近くになる。そして、これまで実質GDPの成長を牽引してきた民間最終消費支出の寄与度0.4%と同じ寄与率になる。 ただし、公共投資は、実際にはこの数字で示されているよりは、大きな寄与をしている。それは、企業の設備投資が増加した背景には、公共事業の顕著な増加があるからだ。「最終的には公共事業に支えられている」と言ったのは、そうした意味である。増加が期待されている製造業においては、設備投資は引き続き減少している。これについては、後の項で再び触れる。
公的固定資本形成と民間企業設備が上方改定された半面で、第1次速報に比べて下方改定された項目もある。民間最終消費支出は、第1次速報値の0.8%増から、第2次速報値では0.7%増に下方修正された。住宅投資は、0.2%減から0.3%減にマイナス幅が拡大した。 なお、名目GDPは、季節調整済前期比0.9%増(第1次速報値では0.7%増)、年率では3.7%増(同2.9%増)だった。GDPデフレーターは、前年同期と比べてマイナス0.5%(同マイナス0.3%)だった。 建設工事は急増しているが持続しない 図表2に見るように、建設工事の受注は、最近になって急増している(国土交通省、「建設工事受注動態統計調査報告」による)。 元請受注高の推移を見ると、2013年3月までは対前年同月比1ケタ台の伸びだったが、4月以降は、2ケタの伸びが7月に至るまで続いている。なかでも公共機関からの受注工事の伸びは著しく、5月は51.7%、6月は43.0%となった。これは、今年1月に編成された大型補正予算で公共事業が大拡張されたことの影響だ。
これが、上で見たように、GDP統計において経済成長率を高める上で大きな役割を演じているのである。 それだけではない。次項で見るように、設備投資が伸びているのは建設業であり、これも公共事業増の影響と考えられるのである。 このように、現在の日本経済は、公共事業で支えられている。「金融緩和によって実質金利が下がり、それによって設備投資が増加する」という、金融緩和の本来のストーリーに沿ったものではないのだ。しばしば、「支出・生産・所得の好循環が動き始めており、これによって民需主導の持続的な経済成長が実現する」と言われる。しかし、実際に起きているのは、民需主導ではなく、官需主導の経済成長なのだ。 この成長メカニズムの問題は、持続性がないことだ。財源の制約が厳しいからである。 製造業の設備投資は増えない 財務省が9月2日発表した2013年4〜6月期の法人企業統計によると、金融・保険業を除く全産業の設備投資は、前年同期比0.016%増の8兆3106億円となり、僅かながら3四半期ぶりに増加した。季節要因を除いた前期比(ソフトウエアを除く)では2.9%増と、3四半期連続で増えた。 これが、4〜6月期GDP統計の上方修正の、主要な要因の一つになったことは、冒頭で述べたとおりである。 ただし、ここで注意すべきは、設備投資が増加したのは、図表3にはっきりと示されているとおり、建設業と不動産業であることだ。 非製造業は5.6%増と、3四半期ぶりに増加に転じた。これは、建設業が26.0%増、不動産業が20.1%増と大幅に伸びたためだ。こうなったのは、大型補正予算による公共工事の増加があったためである。
一方、製造業は、9.1%減と、3四半期連続で減少した。ただし、輸送用機械は例外で、自動車工場や製造ライン増設が行なわれた結果、15.2%増となった。また、石油・石炭が給油所改築などで増加した。しかし、その他の主要業種は、軒並み減少した。とくに、食料品、金属製品、情報通信機械などで、設備投資が大きく減少した。 なお、売上高は、全産業で同0.5%減の311兆6656億円と、5期連続の減収となった。製造業では4期連続の減収となったが、非製造業では5期ぶりに増収となった。製造業で持ち直したのは輸送用機械で、前期までの2ケタ減から0.6%増となった。 しかし、その他の業種では、売上が減少した。食料品の場合は価格下落、生産用機械の場合は海外向け鉱山用機械や建設用機械の減少、情報通信機械はパソコン需要の減少が、それぞれ原因だった。 一方、経常利益は、全産業で同24.0%増になった。製造業では、円安を背景に、51.5%の増益となった。非製造業は、増収を背景に11.3%増となった。 設備投資に成長のけん引役を 期待するのは間違い 安倍晋三政権は、名目設備投資を年63兆円から70兆円に拡大する目標を掲げている。今後3年間を「集中投資促進期間」と位置づけ、目標の達成に向けてあらゆる政策手段を総動員するとしている。これから、投資減税や、即時償却(減価償却費を一括して損金に算入できる)などの検討が始まる。 しかし、こうした施策によって設備投資が増加する可能性は、低いと考えざるをえない。 投資減税は、時限措置として行なわれることが多い。それによって、設備投資は短期的には増加する可能性があるが、長期的・永続的に増加することはないだろう。 設備投資が中長期的に増加するためには、企業利益の成長期待が高まる必要がある。そして、中長期的な投資環境が整備される必要がある。 しかし、それは難しい。なぜなら、製造業は、今後設備投資を行なうにしても、国内では行わず、海外展開に活路を見いだすために、海外で行なうからだ。 日本政策投資銀行がまとめた13年度の設備投資計画調査によると、国内より海外を相対的に強化するとの回答が57%になった。また、08年以降に海外の生産能力を増強した製造業の94%は、最近の円安を考慮しても海外強化の方針を変更しないとしている。企業のこうした長期戦略を転換させることは、きわめて困難だろう。 オリンピックに経済効果を期待できるか? 2020年の東京オリンピックを契機に、投資主導経済成長を実現しようとする意見も見られる。 では、経済効果はどの程度のものなのだろうか。招致委員会が作成した資料によると、13年から20年までの8年間の経済効果は、つぎのとおりだ。 (1)需要増加額は、東京都で約9600億円、その他の地域で約2600億円、全国総計で約1兆2200億円(図表4の(1))。 (2)経済波及効果は、生産誘発額が東京都で約1兆6700億円、その他の地域で約1兆2900億円、全国総計で約2兆9600億円。付加価値誘発額が1.4兆円。雇用者所得誘発額が約7500億円(図表4の(2))。 (3)雇用誘発数は、東京都で約8万4000人、その他の地域で約6万8000人、全国総計で約15万2000人(図表4の(3))。 民間の試算では、より多くの効果を見込むものもある。例えば、SMBC日興証券は、新規需要発生が2.3兆円、経済効果が4.2兆円と試算している。
先進国でのオリンピックは、大部分は既存の施設を用いて行なわれる。したがって、競技関係の施設建設による経済効果は、きわめて限られたものにならざるを得ない。 もちろん、競技期間中は、選手、コーチ、関係者、報道関係者、そして観客の観光客が世界中から集まる。したがって、ホテルやレストランへの需要が高まる。しかし、これは、ごく短期間の需要増大に過ぎない。 ところで、東京都の数字は、インフラ投資を含まない。オリンピックのために都市・交通・通信インフラが整備されれば、経済効果はもっと大きくなるという意見があるかもしれない。1964年の東京オリンピックの際のインフラ投資ブームを再現しようというものだ。 しかし、公的主体が建設する社会インフラについては、当時とは違って、厳しい財源制約がある。 これまでの開催国の実情を見ても、アテネオリンピックは、財政問題を抱えていたギリシャ政府にとって、重い負担となった。北京オリンピックも、長期的に見た場合に、中国経済にプラスの影響を与えたのか否かは疑問だ。 以上のような事情を考えると、オリンピックに経済効果を期待するのは難しいと考えざるをえない。 http://diamond.jp/articles/print/41594 |