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日銀の独立性が失われれば、インフレ率は高くなる (PRESIDENT) 
http://www.asyura2.com/13/hasan82/msg/370.html
投稿者 赤かぶ 日時 2013 年 9 月 10 日 10:03:00: igsppGRN/E9PQ
 

               ジャン=クロード・トリシェ前欧州中央銀行総裁


日銀の独立性が失われれば、インフレ率は高くなる
http://president.jp/articles/-/10528
PRESIDENT 2013年4月1日号  一橋大学大学院商学研究科教授 小川英治=文 平良 徹=図版作成


■ユーロ圏のソブリン危機を引き起こした要因

筆者は、例年、お正月にアメリカに出かけて、世界中から経済学者が集まるアメリカ経済学会年次総会に参加している。そこでは、経済学の最新動向のほか、現在注目されている経済問題に関して様々な情報を収集し、議論できるので、大変有益な場である。今年もお屠蘇気分をそこそこにして、1月3日から6日にかけ、温暖の地という予想を裏切って寒風の強かったサンディエゴで開催された年次総会に参加した。

多くのセッションの中で、ジャン=クロード・トリシェ前欧州中央銀行(ECB)総裁が登壇した国際政策協調のセッションはきわめて興味深かった。トリシェ前ECB総裁は、ユーロ圏のソブリン危機を引き起こした要因として、財政規律を確保するための安定・成長協定が政治的理由からまったく機能しなかったこと、生産性や単位労働費用の点からユーロ圏諸国の対外不均衡が発生していたこと、銀行が国債に過度に投資していたこと、危機管理のシステムが確立していなかったこと、単一市場において賃金・価格の伸縮性が失われていたこと、そして、構造改革が進んでいなかったことを挙げている。

そのような反省を踏まえて、現在、財政規律の回復を目指した財政安定同盟や危機管理のための欧州安定メカニズムの設立や統一的に金融監督を行う銀行同盟が少しずつ進んでいることを指摘して、経済・金融連邦に向けたユーロ圏の動きを論じた。

もう1つの興味深いテーマの下で行われたセッションがあった。それは、トリシェ前ECB総裁にも深く関連するが、「中央銀行の独立性」というテーマである。今、日本でも日本銀行の金融政策を巡って、政府・国会と日本銀行との間の関係および日本銀行の金融政策の独立性が話題となっている。アメリカでも連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策の独立性が関心を呼んでいる。そのセッションでは、スタンフォード大学のジョン・テイラー教授(インフレ率と産出量ギャップ〈長期トレンドからのGDPの乖離〉の二つの経済変数を金融政策の目標としたテイラー・ルールを考案したことで有名な経済学者)などがそれぞれの学問的立場から中央銀行の独立性について発表した。テイラー教授は、金融政策のルールと対比させながら、中央銀行の独立性、とりわけ金融政策の独立性が常に政府・議会から政治的圧力にさらされているので、金融政策のルールを導入すべきであると論じている。

■金融政策を考えるカギ「時間不整合」とは

しかし、多くの国で裁量的に金融政策が行われてきたのが事実である。ルール対裁量に関する議論において、中央銀行が、労働市場の需要と供給が均衡するという自然失業率水準よりも下回って失業率を減少させるためには、雇用契約の締結時の予想インフレ率に基づく名目賃金率や労働時間を含む雇用契約が設定されたのちに、実際のインフレ率を高める方法しかない。雇用契約が設定されたのちに、実際のインフレ率が高まると、実質賃金率が低下することによって企業が雇用量を増大させる誘因が高まる。一方で、すでに労働時間が雇用契約の中で設定されていることから、実質賃金率が低下したとしても、すでに雇用契約を締結した労働者は雇用契約通りに働き続けなければならない。予想されないインフレ率を裁量的に引き起こすことによって、GDPおよび雇用が増加しうる。

このように、予想インフレ率よりも高い率で物価を上昇させることによって自然失業率以下の失業率が達成されることから、金融政策によって低いインフレ率を選択して、家計や企業の予想インフレ率を引き下げておいて、次の段階において、予想されないインフレを引き起こすという金融政策をとる可能性がある。このような裁量的な金融政策は時間を通じて一貫したものとはならない。このような金融政策を「時間不整合」と呼ぶ。

授業で挙げる「時間不整合」の例として、学生に勉強をさせるために次回の授業で小テストを行うぞと予告するものの、小テストの採点が面倒だから、実際には小テストを行わないというものがある。このような「時間不整合」の小テストは、最初は効果を上げるかもしれない。しかし、何度も繰り返していると、小テストは行われないのだと学生たちが合理的に予想して、学生が勉強してこなくなる。このように、「時間不整合」の小テストは、短期的には有効かもしれないが、長期的には効果をもたらさなくなる。なお、このような「時間不整合」の小テストの長期的効果を理解している筆者は、授業では「時間不整合」に小テストを予告しないので、学生諸君は予習・復習に励まれたい。

ところで、これまで中央銀行がインフレ率および家計や企業が抱く予想インフレ率を直接にコントロールできるかのように書いた。しかし、実際には、価格はその生産物の需要と供給によって決まることから、インフレ率でさえも中央銀行が直接にコントロールすることはできない。生産物市場において中央銀行は需要者として生産物を需要するわけでもなく、供給者として生産物を供給するわけでもない。また、中央銀行は、生産物の価格に対して規制を課しているわけでもない。

■家計や企業はインフレをどう予想するか

かつてインフレ率が高かった時代には、政府が価格と賃金に対して規制を課すという所得政策が採用された国があったが、その場合にも中央銀行がその規制を課したわけではない。中央銀行は、インフレ率をコントロールするためには、生産物の供給者である企業あるいは生産物の需要者である家計や企業に金融政策手段(金利や貨幣供給量)を通じて働きかけなければならない。すなわち、中央銀行は間接的にしかインフレ率に影響を及ぼせない。

さらに、中央銀行は、家計や企業が抱く予想インフレ率を直接的にコントロールすることは一層困難である。さらに、家計や企業が抱く予想インフレ率と異なるインフレ率を中央銀行が一時的に実現したとしても、次の雇用契約更改の段階で、家計や企業は予想インフレ率を修正して、名目賃金の上昇が要求され、結局、一時的に低下した実質賃金率は元の水準に上昇してしまう。すなわち、予想されないインフレを経験した後では、家計や企業は、インフレ予想を修正するのである。そして、その帰結として、自然失業率以下に失業率を減少できず、ただインフレ率を高めるだけとなり、かえって経済の損失を増大させてしまう。

一般論として、政府や議会からの中央銀行の独立性が金融政策の成果に影響を及ぼすという指摘がある。たとえ金融政策を運営する中央銀行がインフレを抑制しようとしても、政府や議会にはそもそも政府債務の実質目減りや雇用重視の政治的配慮からインフレ率を高めるインセンティブがある。そのために、政府や議会が中央銀行の金融政策運営に対して影響を及ぼせるならば、中央銀行はそれに従わざるをえなくなるかもしれない。したがって、政府や議会から中央銀行の独立性が確保されていない国では、インフレ率が比較的高くなる傾向にある。

上述した金融政策の時間不整合性において重要な点は、家計や企業が、中央銀行によって実行された金融政策によってインフレが発生する、あるいは上昇すると予想するかどうかである。もし中央銀行の政策目標が通貨価値の安定、すなわちインフレ抑制にあることが明示され、そして、中央銀行が独立して金融政策を運営できるならば、家計や企業は、中央銀行がインフレを抑制するための金融政策を行うと予想するであろう。その結果として、予想インフレ率が低下する。一方、もし中央銀行が政府や議会から干渉を受けて、インフレを抑制する金融政策を実施できないことが明らかになれば、家計や企業はインフレ抑制の金融政策を信認しないだろう。そして、インフレを起こす金融政策が行われることが予想され、その結果、予想インフレ率が上昇する。

このように、中央銀行のインフレ抑制に対する信認は、政府や議会からの中央銀行の独立性に関係する。中央銀行の独立性が確保されれば、中央銀行のインフレ抑制に対する信頼性が維持され、家計や企業の予想インフレ率が低下する。さらに、インフレを抑制する金融政策をルール化すれば、その金融政策の信認は高まる。

■デフレからの脱却を狙う政府が取るべき道

中央銀行の独立性とルールvs.裁量
http://president.jp/mwimgs/1/b/-/img_1b30d24ce5fb306ff85f1f7fe80af8d422232.jpg


この論理から言えば、逆説的であるが、政府や議会からの中央銀行の独立性が失われれば、インフレ抑制に対する信認が失われ、インフレ率が高まってくるかもしれない。しかし、インフレの抑制を目標として金融政策を行っているかぎりは、インフレが発生するとは家計や企業は予想しないであろう。したがって、失われた20年間のなかで、デフレから脱却し、インフレを起こしたい政府としては、インフレを抑制するという中央銀行の金融政策の目標を変更させるか、あるいは、中央銀行の金融政策の目標設定における独立性を抑え、インフレ・ターゲットというルールを導入することによってインフレを起こしたいのである。

一方において、インフレ・ターゲットというルールを導入することは、中央銀行から金融政策の目標設定における独立性が失われたとしても、政府や議会が裁量的に金融政策を行うことにはならない。その金融政策ルール、具体的には、インフレ・ターゲットの目標インフレ率を決めるのは、中央銀行ではなく政府や議会ではあるが、そのルールに基づいて金融政策が実施される。もちろん、その目標に向かって金融政策を運営するのは中央銀行であり、政府や議会の裁量的な政策のインセンティブは、インフレ・ターゲットの目標インフレ率設定というルール化によって排除される。

このように、政府や議会が目標インフレ率を設定するものの、インフレ・ターゲットというルールに基づく金融政策ルールを導入することは、自らの手を縛ることによって、インフレを起こしながらも、金融政策の信認を維持できるかもしれない。一方、政府や議会が決めたインフレ・ターゲットの金融政策ルールと目標インフレ率の下で、中央銀行が最適な金融政策手段によって金融政策を実施することが、現在、求められているのかもしれない。


 

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コメント
 
01. 2013年9月10日 10:23:18 : nJF6kGWndY

大分前に見たな

>政府や議会からの中央銀行の独立性が失われれば、インフレ抑制に対する信認が失われ、インフレ率が高まってくる

伝統的には中銀はインフレ率を抑えることが任務であり、そのための独立が重要だったが、

多分、今後、先進国では、FRBのように失業率への配慮が、より重視されることになるだろう

だから単純に政府(財政政策)からの独立というより、財政と金融が協調して、世界情勢を見ながら、ある程度ForwardLookingに政策を決めていくしかない

その点でも日本のアベノミクスは世界の先端を行っている

これが成功するか、それとも財政抑圧から財政ファイナンスへとシフトして、政治に従属していくのかは注目に値する

後者の場合、今後、確実に起こる社会保障や公共投資の増加、五輪、バラマキ除染などの膨張で財政規律が崩壊していけば、確実に超円安高インフレから国民生活の破綻を招くことになる

>政府や議会が決めたインフレ・ターゲットの金融政策ルールと目標インフレ率の下で、中央銀行が最適な金融政策手段によって金融政策を実施することが、現在、求められている

ありきたりな結論だな

現在、多くの国ではインフレ・ターゲットは硬直的な目標としては機能していない

またインフレ目標を単純に決めても、不十分

消費財、国内サービス、輸入財、それに株債券不動産など資産クラスごとに、細かく動きを見ていかないとバブルやコストプッシュインフレが起こる

特に、日本の場合、財政政策や歳入政策による公的需要にも、より注意が必要になっていく



02. 2013年9月10日 10:29:47 : nJF6kGWndY
財政抑圧から財政ファイナンス=>金融抑圧から金融ファイナンス

03. 2013年9月10日 12:00:00 : L3oWjvNiyM

日銀を独立させてはいけない。あくまで選挙で選ばれた政治家・政府に

従属させるべきである。こんな単純なことを誤魔化して、国際金融勢力の手に

渡そうなどという陰謀はイカン


04. 2013年9月10日 13:32:52 : ArLVW38Mhw
3さん、
愚民が選んだ(選ばされた)腐敗政治家・政権に中銀が従属することの破滅的危うさをお考えあれ。

05. 2013年9月10日 19:36:20 : FfzzRIbxkp
どこかで米国の金利が上がってきたら危ないぞーって書いてあったのを読んだけど、

米国の金利が上がってきたよ。  


06. 2013年9月11日 03:56:16 : 4GxHq9ub7o
今でも日銀法では政府の政策と整合性を取ることが義務付けられている。
日銀の完全な独立なんてありえない。
独立性のレベルが強いか弱いかであって、
中央銀行が完全に独立したら、
政府の政策を無効かしかねないし、
逆に中央銀行の政策を政府の政策で無効にしかねなない。
政府と中央銀行は整合性をとった政策を行わないといけないのだ。

07. 2013年9月11日 12:46:39 : ArLVW38Mhw
6さん、
独立の程度の問題というのはごもっともです。逆に考えれば、日銀の通過安定志向(デフレ志向とは異なる)によって、政府の赤字拡大財政志向を抑制する役割を演じることもできるし、政府或いは立法府が日銀の通貨毀損的拡大志向への歯止めとなることもできるでしょう。貴殿の言われる「整合性」は曖昧であり、解釈次第では結局のところ政府が拡大策へ傾いた時、中銀の抑制的チェックが無効化されるという結果を生まざるを得ないでしょう。政府というのは一度拡大し始め、社会の様々な利権と深く結び付き、放漫財政に陥れば陥るほど、改革が困難になり、やがては社会を腐敗閉塞から混乱動乱状態へと導くものであると知るべきです。政府にしろ、中銀にしろ、放漫拡大に傾き易いことに人間社会の問題の本質があるのです。

08. 2013年9月11日 20:08:44 : niiL5nr8dQ


コラム:量的緩和の有効性めぐる日米の温度差=河野龍太郎氏
2013年 09月 11日 19:31 JST
河野龍太郎 BNPパリバ証券 経済調査本部長(2013年9月11日)

黒田日銀は、長期国債の保有額を2倍にし、ベースマネーも2倍に膨らませることで、インフレ期待に働きかけて、デフレからの脱却を目指すという政策を堅持している。しかし、本当にそうした政策は可能なのだろうか。

量的緩和(QE)は少なくともインフレ醸成には有効ではない。それは米国のここ数年の経験からも明らかである。2008年9月のリーマンショック後、米連邦準備理事会(FRB)は、三次にわたる大規模な資産購入プログラムを実施し、バランスシートを急膨張させてきたが、個人消費支出(PCE)コア価格指数を見ると、その間インフレ率は全く上昇していない。

2009年後半と11年にインフレ率は一時的に上昇したが、それはFRBの量的緩和第一弾(QE1)と同第二弾(QE2)が新興国のバブル膨張を助長し、彼らの旺盛な需要によってコモディティ価格が世界的に上昇していたためである。

QE1とQE2がもたらしたドル安・自国通貨高圧力を相殺するため、新興国では極端な金融緩和が続けられ、新興国バブルやコモディティバブルを作り出した。しかし、11年後半以降、新興国バブルは崩壊過程に入り、コモディティに対する彼らの強い需要も後退し、米国のインフレ率を押し上げる要因は見当たらなくなってしまった。12年9月の量的緩和第三弾(QE3)発動後、米国のインフレ率はむしろ低下傾向が続いている。

そもそも、マネーが増えると物価が上がるという論拠は「貨幣数量説」に由来する。長期的に見ると、マネーと物価は比例関係にあるという理論だ。しかし、金利がゼロになると、マネーと物価の間の関係(貨幣数量関係)は消滅する。つまり、必ずしも物価はマネーによって規定されるわけではなくなる。

バーナンキFRB議長も12年12月12日の米連邦公開市場委員会(FOMC)後の記者会見で、「中央銀行のバランスシートの規模はインフレ期待には影響しない」と明言している。これは、ゼロ金利の下では貨幣数量説が成立しないことを念頭に置いているためだろう。

<アクロバティックな異次元緩和の手法>

では、ゼロ金利の下では、なぜマネーが増えてもインフレ率は上昇しないのか。伝統的な金融政策のトランスミッション・メカニズム(波及経路)は、金利が低下することで、消費や投資が刺激されて需給ギャップが改善し、インフレ率が上昇するというものである。

しかし、日本ではオーバーナイト金利は1995年以降、0.5%を下回り、事実上のゼロ金利が続いている。このため、伝統的な金融政策で総需要を刺激することは早い段階から困難になっていた。デフレに陥る前から金融政策の有効性はほとんど失われていたのだ。

それでも、長期金利の水準が多少でも高かった頃には、時間軸政策など非伝統的な金融政策によって長期金利の低下を促し、総需要を刺激することはできた。しかし、その長期金利についてもすでに相当低い水準まで低下している。仮にここから多少引き下げられたとしても、需要刺激効果は限定的で、それゆえ、インフレ醸成効果もごくわずかである 。

たとえば、長期金利を現在から0.3ポイント低下させれば、需給ギャップも最大で0.3ポイント程度改善する。一方、1ポイントの需給ギャップの改善で、インフレ率は0.25ポイント程度改善する。このため、長期金利を0.3ポイント低下させても、インフレ率を0.1ポイント引き上げることができるかどうかである。

もしインフレ率を1ポイント上昇させたいのなら、4ポイントの需給ギャップの改善が必要だが、そのためには4ポイント程度の長期金利の低下を必要とする。しかし、長期金利はすでに0.8%弱であり、仮にゼロまで引き下げることが可能であっても、インフレ率の改善は0.2ポイントにとどまる。

むろん、だからこそ、アグレッシブな金融緩和によって、インフレ期待を上昇させ、実質長期金利を同程度引き下げればよいというのが黒田日銀の主張である。デフレから脱却するためには需要ギャップを改善させる必要があるが、金利政策は手段が尽きたので、まずインフレ期待に直接働きかけるということである。

先ほどの数値を当てはめれば、デフレから脱却するためには、最初にインフレ期待を作り出し実質金利を4ポイント引き下げ、需給ギャップを改善させて、その後、実際のインフレ率が上昇していくという手はずになる。需給ギャップを改善させる前にインフレ予想を作り出すというのは、かなりアクロバティックな手法である。

<資産効果狙いなら非現実な価格上昇が必要>

賃金やサービス価格などの期待形成は、フォワード・ルッキングな価格の期待形成を持つ資産市場とは違い、バックワード・ルッキングである。需給ギャップが改善した後にゆっくりと上昇していく性質のものだ。総需要が改善する前からアグレッシブな金融緩和によってインフレ予想が生じるということは、日銀の国債購入によるマネーの増加によって、個々の財・サービス市場で超過需要が発生する前に価格上昇期待が生まれるということである。

日銀のバランスシートを意識しながら、価格付けを行っている小売業者が果たして存在するだろうか。やはり、バーナンキ議長が言う通り、中央銀行のバランスシートの規模がインフレ期待に影響するとは思えない。

一方で、アグレッシブな金融緩和によって、株価や不動産価格を上昇させ、資産効果で実体経済を刺激し需給ギャップを改善することで、インフレ率を上昇させることはできると考える人もいるだろう。

確かに、資産価格なら中央銀行がアグレッシブな金融緩和を行うことで、瞬時に反応する可能性はある。今回も当初は著しい株高が見られた。ポートフォリオリバランス効果を強調する人は、こうした経路を重視しているのだと思われる。

しかし、インフレ醸成を目的にするのなら、非現実な資産価格の上昇を目的にしなければならなくなる。前述した通り、1ポイントのインフレ率を高めるには、4ポイントの需給ギャップの改善が必要である。また、株価の10%の上昇は0.12ポイントの需給ギャップ改善をもたらす。つまり、1ポイントのインフレ率の引き上げには300%程度の株高が必要ということである。

いくら資産効果を担うといっても、実体経済から大きく乖離した資産価格はバブルであり持続不可能である。実体経済が多少改善しても、資産価格に実体が追いついていくことはあり得ない。資産価格が上昇している間は、多くの人はユーフォリア(熱狂的陶酔感)に浸り歓迎するだろうが、その後の大きな調整は不可避であり、いったんそれが始まれば、実体経済にも相当に大きな負荷がかかる。結局、資産価格の上昇局面で得られたプラス効果をはるかに上回る大きなコストを支払わなければならなくなる。

念のために言っておくと、金融政策でデフレ脱却が困難ということは、デフレ脱却が不可能だ、ということを意味するわけではない。金融政策がその有効性を大きく低下させても、円安政策や追加財政を伴えば、理屈上、デフレ脱却は可能である。ただ、これまでのコラムでも述べたように、これらの政策は副作用も大きい。

なお、理論上、経済が複数均衡を持つ場合には、アグレッシブな金融政策によって、インフレ期待が変化することは全くあり得ないわけではない。もし現在の日本経済がデフレ均衡に陥っている場合、アグレッシブな金融政策によって多くの企業と家計のインフレ期待が一気に変われば、「プラスのインフレの均衡」にジャンプする。

具体的には、筋金入りのデフレファイターである黒田東彦総裁がリフレ派の安倍晋三首相とともに、デフレ脱却が近づいていることをひたすら繰り返し、金融市場参加者だけでなく国民の多くも段々その気になっていく 。ゼロ金利の下ではマネーがインフレに影響を与えるトランスミッション・メカニズムが存在しないため、人々の受け止め方次第でインフレ期待が変わるケースも変わらないケースもあるということである。

最近、国際通貨基金(IMF)のブランシャール調査局長がそうした論考を示しているが、日銀がカードの全てを使いきってしまい、市場がそれを見透かし始めていることを考えると、良い均衡にジャンプし損ねたのではないか懸念される 。5月下旬以降、株価の調整が始まっただけでなく、いくつかのセンチメントインデックスは改善が早くも止まってしまった。ちなみに、ブランシャール氏のコメントは、いつも皮肉が効いている。インフレ期待の変化でデフレ脱却の可能性が高いという主旨では必ずしもないだろう。

<金融政策は本来あるべき姿から逸脱>

筆者が常々論じていることだが、もし金融政策に効果があるとしても、それは「将来の需要の先食い」である 。つまり、企業や家計が本来、将来に予定していた支出を金融緩和によって前倒しさせているだけである。

このため、金融緩和に上手く成功し、「今年」の支出を増やしたということになれば、それは「来年」の支出を減らしたためである。「来年」になって、支出を元の水準よりも増やそうとすれば、より多くの支出を「再来年」から前倒ししなければならない。しかし、家計や企業にさらなる前倒しを促すには、より強力な金融緩和が必要となる。こうやって、われわれは「将来の需要の先食い」を続けてきたのである。

金融政策そのものが新たな付加価値を生み出しているわけではないため、「将来の需要の先食い」を続ければ、当然にして効果は低減していく。にもかかわらず、「将来の需要の先食い」を続けようとするから、金融政策はより極端な異次元の領域に足を踏み入れることになってしまった。消費水準の平準化を目的とするマクロ安定化政策の本来あるべき姿からはすっかり逸脱している。

*河野龍太郎氏は、BNPパリバ証券の経済調査本部長・チーフエコノミスト。横浜国立大学経済学部卒業後、住友銀行(現三井住友銀行)に入行し、大和投資顧問(現大和住銀投信投資顧問)や第一生命経済研究所を経て、2000年より現職。

 

 


 


 

 

石田日銀審議委員が賃上げの必要性に踏み込む、脱デフレで
2013年 09月 11日 19:32 JST
[青森市 11日 ロイター] - 日銀の石田浩二審議委員は、デフレ脱却に関して、来年のベースアップの重要性に言及した。来年4月の消費増税などをにらみ、デフレマインド払しょくのカギとなる賃上げに期待感を表明した格好だ。

これまでも日銀では、黒田東彦総裁らが雇用情勢の改善を背景とした雇用者全体の所得増に伴う消費の下支え効果に言及しているが、ここまで賃上げの必要性に踏み込むのは珍しい。

石田委員は講演で、デフレ脱却を目指して物価が上昇しても、それに見合う所得の増加がなければ、家計の実質購買力が低下して消費が落ち込み、「景気は悪くなってしまう」と発言。特に消費の安定的な拡大には、所定内賃金の増加が「より効果的であり、望ましい」とし、「ベースアップが2014年度からできる限り幅広く復活・実施されることが極めて意味ある」と語った。

予定通り来年4月に消費税率が3%引き上げられれば、日銀の試算では、消費者物価(生鮮食品を除く、コアCPI)を2%程度押し上げる要因になる。足元でコアCPIはプラス圏に浮上しており、当面、そのプラス幅は拡大していく見通し。通常の物価上昇に、消費増税に伴う物価上昇分が上乗せされ、個人消費の下押し要因になることが懸念されている。

これに対し石田委員は会見で、賃上げによって消費増税の影響を含めた物価上昇分をカバーするのは「無理」とし、「若干の時間をかけて徐々に行かざるを得ない」との見方を示した。実質所得の目減りが先行する可能性に言及したとみられるが、「21世紀に入ってからほとんど実現されなかった」ベアの復活そのものが、「給料が上がるというシグナル効果になる。デフレマインドを変えるきっかけになるのではないか」と期待する。

日銀が2%の物価安定目標を掲げて異次元緩和を強力に推進していく中で、「物価は上がるが、給料も上がる」という意識に変化すれば、短期的には実質所得が増えなくても賃上げ定着への期待感が消費を支え、企業の価格設定行動も変わり、デフレ脱却の道筋が描けてくるとの見立てだ。

もっとも、ベアが実現するかは来年の春闘次第。それまで「景気の前向きな勢いを保つとともに、企業収益が全体として高まっていく」ことが大前提で、海外経済に不透明感が漂う中、企業は依然としてベアに慎重姿勢とみられる。政府は近く、経済界と労働界による政労使協議の初会合を開き、雇用や賃上げなどについて議論を開始する予定。日銀にとっても、来年の賃上げ動向が物価目標実現の重要なターニングポイントになる可能性がある。

(伊藤純夫 編集 橋本浩)


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