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http://bylines.news.yahoo.co.jp/ogasawaraseiji/20130909-00027970/
2013年9月9日 14時12分 小笠原 誠治 | 経済コラムニスト
2020年のオリンピックが東京で開催されることとなりました。
我々中高年にとって今まで東京オリンピックと言えば、1964年の東京オリンピックしかなかったのです。
ヘイズが100mで10秒ジャストで優勝した東京オリンピック、アベベがマラソンで2時間12分ジャストで優勝した東京オリンピック、三宅義信さんが重量挙げで金メダルを取った東京オリンピック、日本の女子バレーチームというよりもニチボウ貝塚が優勝した東京オリンピック、円谷選手がマラソンで銅メダルを取った東京オリンピック。
今の子どもたちには想像できないと思うのですが、東京オリンピックの様々な競技を、当時小学校の各クラスに設置されていた白黒テレビで、小学生だった私たちは、時々見ることが許されていたのでした。
カラーテレビが世の中に普及し始めるきっかけになったのも東京オリンピックではなかったのでしょうか。画面がとても小さなコンパクトなカラーテレビに20万円ほどの価格がついていたことを覚えています。
秋晴れの国立競技場でその東京オリンピックの開会式が行われ、まさにその後の日本経済の発展を暗示するかのようでもありました。
では、2020年に開かれる東京オリンピックパート2は、どんな将来の幕開けになるのでしょうか?東京オリンピックパート2が開催されることによって、今後の経済成長の起爆剤になってくれるのでしょうか?
安倍総理などは、多分そのようなことを期待しているのでしょう。これこそ、アベノミクスの新しい矢になるのだ、と。
オリンピック開催の経済効果が、まことしやかに報じられ始めています。経済界が東京オリンピックパート2を大歓迎するのも、この経済効果のためなのです。要するに、オリンピックが開かれれば景気がよくなり、自分たちの企業が儲かると思うから、大歓迎する。俗な言葉で言えば、銭になるから歓迎するのです。
では、何故オリンピックを開催すれば儲かるのか?
それは、競技場の新設、改修、そして、そうした競技場を結ぶ交通網のこれまた新設、改修‥さらには選手たちの滞在施設の建設と‥様々な工事が行われることが確実であるからです。さらに、オリンピックの模様を報じるマスコミ関係者や、競技を観戦する大勢の観光客が日本を訪れるからなのです。そうして日本を訪れた選手や関係者、それに観光客たちは、オリンピック以外にも日本各地を訪れることが期待され‥
ということで、多くのお金が落ちることが期待できるのです。また、だからこそ、東京だけではなく多くの都市もオリンピックを開きたがるのです。そんなこと私が改めて言うまでもないでしょう。
では、オリンピックは、経済的に見たらいいことだらけなのでしょうか?
実はそうでもないのです。今述べたように、競技場や交通網の整備などに莫大なお金を投じることが必要になるわけですが‥それは、工事を受注する業者からみたら、まさに恵みの雨になるかもしれませんが、納税者からすれば、今後予定されている消費税の増税に加えて、さらなる負担がずっしりとかかることになるのです。
そうですよね? それは誰も否定できませんよね?
しかし、その負担については、誰も言及しないのです。本当は、国民が等しく負担する必要があるのですが、誰もそれについては言わない。恩恵が及ぶプラスのことばかりを口にする、と。
もちろん、そうして国民がオリンピック開催に必要な経費を負担しても、日本の経済がそれによって再び急成長をするようなことになれば、税収の増加も期待でき、ひょっとしたら負担よりもメリットの方が大きかったなんてことになることも‥
しかし、そのようなことを期待するのは、これまでの経験から何も学んでこなかった人の勝手な妄想でしょう。
東京オリンピックパート2が決定した矢先に、こんな夢のないことを言いたくはないのですが‥例えば東京オリンピックで、一時的に景気がよくなったのはそのとおりだとしても、その後、税収は増えたのでしょうか?
逆なのです。 東京オリンピック後に反動が起き、税収不足に襲われたから、我が国は、戦後初めて国債を発行せざるを得なくなったのです。
東京オリンピックだけではありません。大阪万博も景気を盛り上げるのに一役買ったと言っていいでしょう。あの頃、私は高校2年生でした。初めて黒人を直にそばで見て、本当に黒いと思ったことが印象に残っています。アメリカ館やソ連館は、長蛇の列だったので、入場を諦め、人の少ない英国館やオーストラリア館を見学したものでした。
あの頃が一番夢があったのかもしれません。しかし、既にあの頃から、公害問題が日本に大きな難題として圧し掛かり始めていたのです。
いずれにしても、そうやって大阪万博を開催して景気がよくなり、その結果税収も伸び、国債の発行に頼る必要がなくなったと言えるのでしょうか?
逆なのです。建設国債の発行が当たり前になってしまい、そして、ついには赤字国債を恒常的に発行せざるを得なくなるのです。
札幌の冬季オリンピックも、そして、長野の冬季オリンピックも国民に夢を与えてはくれた。それはそのとおり。しかし、それによって、日本経済が成長を続けることができ、そして、税収が自然に増えていくなどということは起こらなかったのです。そうではなく、そうしたことの繰り返しの結果、今、1000兆円にも上る政府の借金の山が出来上がってしまっているのです。
確かに、7年後に東京でオリンピックが開かれるということを子どもたちが知れば、自然にスポーツへ関心も高まり、将来日本の若者が世界を舞台に益々活躍することになるかもしれません。
そしてまた、海外から日本を訪れる外国人に対し、おもてなしの心で接することによって、日本の良さを知ってもらうことができるというメリットもあるでしょう。
しかし、だからと言って、オリンピック開催のための費用は、どこからか捻出する必要があるのです。どこからひねり出すのか? 何らかの支出を削るのか? それとも、増税を行うのか? 或いは、取り敢えず国債の発行で賄って、後から徴収するのか?
もう一度言います。オリンピック開催に伴い、国民に負担がかかる事実について政治家が口にすることはありません。
それに、そもそも政府は、2020年までに基礎的財政収支の黒字化を目指していたのですよね。しかし、その2020年にオリンピックが東京で開かれるとなれば、財政は益々苦しくなるばかりではないですか。これで2020年までの基礎的財政収支の黒字化が一層困難になった‥というよりも、全く不可能になったと言うべきでしょう。
私は、公共工事は抑えろ、なんてことは言いません。極力抑えた方がいいのでしょうが、現実を直視したら、それは無理なのです。デフレからの脱却のために財政出動が是非とも必要であるからという理屈ではありません。そうではなく、これだけ異常気象による自然災害が増えているので、否が応でも今後公共工事につぎ込むお金が増えるということなのです。それに、高度成長期に建設した多くのインフラ設備が老朽化しており、そのための維持補修費用もバカになりません。だから、否が応でも公共事業が今後は増えていく。
それに加えて、オリンピック関連の工事が今後は目白押しになるでしょう。
昨日、東京にオリンピックが招致されることが決定されるや否や、野党でさえオリンピックの開催には協力したいなんて自分たちから言いだす訳ですから、もはや財政当局がオリンピック関連の支出を絞り込むことなど不可能でしょう。
つまり、オリンピック開催が決定したことによって、今後、景気がよくなる可能性が大いに高まったと言っていいでしょう。しかし、同時に、財政事情が益々悪化することも間違いないでしょう。
そして、そうやって財政事情が益々悪化するので、将来、さらに増税をする必要性が高まるのです。
日本の国債の利回りが世界的にみて群を抜いて低いことから、そう簡単に国債の暴落が起きる筈はないという見方もあるのですが‥恐らく2020年のオリンピック開催後に、反動で景気が悪くなったときに、日本の財政状況の酷さが再認識されると、流石にそのときには国債が暴落すると思っていた方がいいかもしれません。
やっぱりいいことばかりではないのです。
安倍総理は、オリンピック開催の費用をどのように捻出しようと考えているのか、国民にとって苦い話もきちんと説明する責任があるのです。
以上
小笠原 誠治
経済コラムニスト
小笠原誠治(おがさわら・せいじ)経済コラムニスト。1953年6月生まれ。著書に「マクロ経済学がよーくわかる本」「経済指標の読み解き方がよーくわかる本」(いずれも秀和システム)など。「リカードの経済学講座」を開催中。難しい経済の話を分かりすく解説するのが使命だと思っています。
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