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100件覆面調査!恐怖の老人ホームに入ってみた パンフレットはウソばかり入居してからでは手遅れです
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/36826
2013年09月03日(火)週刊現代 :現代ビジネス
公の特別養護老人ホームは42万人の入居待ち。私立の有料老人ホームは入居金が高すぎる。そんななか注目を集める新型老人ホーム。その内実は恐怖に満ちていた。調査結果を独占公開する。
■死ぬかと思った
〈もしもし、どうしました?〉
「あ、あの……さっきから胸が苦しくて、こんなことは初めてなんですが、足腰も立たない状態で……」
〈わ、わかりました、提携医院の先生にも連絡してみますね。ちょっと待っててください!〉
ああ、助かった。発作が起きて5分。必死にすがりついた電話は、1階にある管理人事務室にすぐつながった。夜間に何かあってもすぐに医者が来てくれるという安心感。妻を亡くして5年。78歳の今年になって、息子が探してくれたこの高齢者向け住宅に入ってよかった―。しかし……。
【5分経過】おかしい。3階のこの部屋までは走れば2~3分で着くはずだ。なぜ、まだ誰も来ないのか。
【15分経過】……まだ胸に重苦しさはあるが、痛みはだいぶおさまってきた。だが、まだ誰も来ない。
【30分経過】〈ピンポーン〉
「失礼しまーす」
看護師ではなく、夜勤のヘルパーさんだった……。
「……ずいぶん時間、かかりましたね……」
「あらあら、まあ、大丈夫ですか。どうしましょう」
大丈夫じゃないから呼んだんだろうが……!
「あの……提携の病院には行けるんでしょうか」
「それが、先生がつかまらなくって。夜は診療時間外ですしね。まだ苦しかったら、救急車呼びましょうか」
「はあ、お願いします……」
とてもプロとは思えない狼狽ぶりの女性は、のろのろと119番に電話をする。
「あー、○○ホームですが入居者の方が胸が痛いといって倒れまして。30分くらい前です。はい、私ヘルパーです。えっ? なんですか? すみません、ヘルパーの資格もこないだ取ったばかりなんで、難しいことはわからなくて……。はい、ええ、住所ですか―」
なんだこの人、ただの素人なんじゃないか……。
*
以上は今回、介護や福祉に関する情報提供を行っているNPO法人・二十四の瞳が行った「新型老人ホーム」100件に対する覆面実態調査と、本誌の取材に基づいて再現した、新型老人ホームでの一幕だ。
命の危険がある場面でも入居者が放置され、ようやく来た職員も素人同然―。そんな恐るべき事態が、当たり前のように起きている。
ここでいう新型老人ホームとは、現在、国がもっとも力を入れて新設を推進している、高齢者向け住宅の一種。正式には「サービス付き高齢者向け住宅」と呼ばれるものだ。
従来の老人ホームとの違いについて、介護現場でのトラブル相談などを行っている介護と福祉のリスクコンサルタント・山田滋氏はこう解説する。
「従来の老人ホームは介護を行うために高齢者を集めた『施設』ですが、新型老人ホームは施設ではなく、高齢者用の『住宅』だという点が根本的に違います。
イメージとしては、基本的にマンションのような一般の賃貸住宅と同じだと考えてください。そこに医療や福祉の資格を持つ専門の職員を置き、『生活支援サービス』を行うことが認可の条件になっています。
入居者は月々の家賃に加えて、サービス料1万~5万円を支払い、場合によってはさらにサービスごとに設定されている追加料金を支払うことになります」
ポイントは、この新型老人ホームでは、一般のマンションのように入居者がそれぞれ個室に住まうということ。そのため、「少し手伝ってもらえれば、まだまだ自分で生活できる」「従来型の老人ホームで、プライバシーのない集団生活を送るのはいやだ」と考える人々の注目を集めているのだ。
ではその実態はどうなのか。前出のNPO法人・二十四の瞳では、離れて暮らす母親を入居させる子供が相談する設定で、覆面調査員がサービスについてさまざまな質問を投げかけ、返答内容や職員の態度などを集計。本誌は同NPO法人の協力により、その恐るべき実態を独占初公開する。
ある都内の新型老人ホームでは、覆面調査員は次のように疑問をぶつけた。
調査員「私たち家族はいま、大阪で、母と離れて住んでいまして。母は80歳で、一人暮らしなんです。認知症はないんですけど、最近もの忘れがひどくて。本人はまだまだ自分で生活できるというんだけど……」
職員「はあ、そうですか」
調査員「そこでうかがいたいんですが、おたくに入居したら、毎日の母の様子の確認は、どういうふうにしてくださるんでしょう?」
は、と介護職員は怪訝な声を出す。
職員「あの、毎日みなさん食堂に集まりますから、そのときに確認しますよ」
調査員「でも食事のサービスを頼まなかったら、自分の部屋で料理して、食事をとってもいいんですよね」
職員「あー、まーねぇ……。でも、みなさんで、まとめて食事をとられたほうが簡単ですよ。それこそ安否確認もできますしね」
思わずこぼれた「簡単」という言葉。業務の簡便さのために、入居者に集団で食事をさせているのだ。プライバシーを求める入居者のニーズとは正反対だ。
福祉問題に詳しいジャーナリストの浅川澄一氏は、新型老人ホームはあくまで高齢者向けの住宅に過ぎないが、入居者が抱くイメージと現実に大きな食い違いがあると指摘する。
「法律によって新型老人ホームに義務づけられているサービスは、基本的に二つしかない。一つは入居者の『安否確認』。もう一つは『生活相談』。郵便局はどこにあるかなど、相談された事柄に答えるというものです。
デイサービスや訪問介護の事務所を付設したり、ケアマネージャーを常駐させているところが多いですが、そうしたサービスを付けるかどうかは制度上は事業者の自由裁量です」
■誰も助けてくれない
だが、そんな基本中の基本である安否確認すら業者は面倒くさがり、入居者の自由を犠牲にして、効率優先で行おうとする。
次ページの表は、今回の100件調査のデータをもとに本誌が抽出した新型老人ホームのひどすぎる実態だ。「入居すれば安心して人生の最終盤を過ごせる」と誘う宣伝物が、いかに嘘八百のいい加減なものであるかがわかるだろう。
今回、調査を行ったNPO法人・二十四の瞳代表の山崎宏氏はこう指摘する。
「一部の経営者は、人件費を抑えるために、低賃金の職員に通信教育でホームヘルパー2級の資格を取らせ、『介護の専門家』と称して生活支援サービスに当たらせているのです。今回の調査でも、十分な知識も経験もない職員が数多くいることを確認しています」
本来、新型老人ホームでは、日中は「医療か福祉の専門資格保有者」を常駐させると定められているが、コストカットが至上命題になり、質の悪い職員が専門スタッフとして配置される。
そうとは知らない利用者には、新型老人ホームの「安さ」も好評だ。従来型の有料老人ホームのように入居時に高額の一時金を払う必要がなく、通常の賃貸物件のように入居できる手軽さが人気を集めているという。
だが、考えてみてほしい。ただでさえ引っ越しは気力・体力を要する作業だ。まして70歳、80歳にもなって、入居した物件が気に入らないからと、そう簡単に住み替えはできない。入ったが最後、脱出は困難なのだ。
しかも、業者は質の悪いサービスしか提供しなくても、生活支援費の名目できっちり儲けることができる。
こんな状況ではトラブルの急増もうなずけるだろう。山崎氏はこう語る。
「100件覆面調査の結果は、想像以上に惨憺たるものでした。宣伝で謳っているような、入居者の自由で安心安全な生活を保障する生活支援サービスは、実際にはほとんど機能していなかったり、非常に質が悪いものだったりした。入居者の生活など実質ほったらかしと言っても過言ではない例も複数見受けられました。
こうした高齢者向け住宅の建設には、国から建築費の10%の補助金と、向こう5年間の税制優遇措置があります。これを狙って、一部の不動産会社、建設会社など、介護に対する意識の低い業者が群がっている。そうした物件では、入居者は十分な生活支援も受けられないのに、月々のサービス料をぼったくられることになってしまう」
実は、今回の調査で対象としたのは、いかにも怪しげな新型老人ホームではない。介護大手が展開する物件だ。教育や飲食など異業種で名を馳せた有名企業や、地域密着型の不動産開発業者、医療法人などが運営している、一見、真っ当そうな高齢者用の物件ばかりだ。
だが、これらの業者でもパンフレットで謳っている内容と実際のサービスの間に大きな乖離がある。
東京郊外の新型老人ホームで、ホームページでは「入居前のかかりつけ医を引き続き利用できます」としている物件では、こんなやりとりがあったという。
調査員「あの、母は慢性的に高血圧で、近所に以前からお世話になっているお医者さんがいるんですが」
職員「あー。でもね、うちにも提携している先生がいるんですよ。診療所もご近所ですからね。こちらの先生にかえていただくほうがいいと思うんですよ」
調査員「でも長いこと診ていただいているので……」
渋ってみせると、職員の語気は、急に強くなった。
職員「でも、ご家族も遠くに住んでるんでしょう。休日や夜間に緊急事態が起こったら、どうなりますかね」
調査員「どうって、提携の診療所で診ていただくわけにはいかないんですか」
職員「だって頼まないとおっしゃるんですから、どうなるかわかりませんよ」
調査員「はあ、そうですか……。それならせめて、前の病院から母のカルテは取り寄せてもらえますよね」
職員「は? カルテですか。うちはそこまではやってないなあ。不安なら、入居時にご自分でもらってこられたらどうですか」
前出の表にもあるように、「カルテの取り寄せを行わない」とした物件は、なんと全体で92件にのぼった。
取り寄せに対応すると回答した8件は、ほとんどが医療法人が母体となって運営する物件。家族とのコミュニケーションにも積極的で、職員の応対も比較的丁寧な物件が多かった。
■病気になったらアウト
一方、カルテを取り寄せられないと答えた都内の新型老人ホームに入居している70代の男性は、本誌の取材にこう証言した。
「私も高血圧の持病があり、かかりつけ医がいたんですが、半ば脅されるように提携の診療所にかえさせられましたよ。『先生は循環器がご専門ですから安心ですよ』なんて言われてね。
ところが、入居に際しては提携の診療所に前の病院から私のカルテを取り寄せてもらうサービスもない。そんなことで私の病歴や治療の経過なんてわかるわけがないでしょう。検査もまたいちからやり直しですよ。
ふたつ隣の部屋の80代のご夫婦で、奥さんが狭心症の発作を起こしたときなどは、旦那さんがあわてて管理人に連絡したら、『いまは提携診療所が時間外だから』と救急車を呼ばれた。何が循環器の専門ですか。救急車を呼ぶだけなら小学生でもできますよ」
さらに今回の調査では、新型老人ホームに入る人々が求めている、「歳をとって、ちょっと不安になった日常生活のあれこれをサポートしてほしい」という、ごく自然な要望さえ満たされない実態も浮き彫りになった。
調査員「ホームページに買い物代行もOKとありましたけど、気づいたらトイレットペーパーが切れそうだったりした場合も随時、買い物をお願いできますか」
職員「あー、そういう特別なことはやってないんですよ。介護認定を受けている人で、ケアプランに家事援助が盛り込まれている人だけが対象です」
では介護認定を受けていない元気な高齢者が思わぬ怪我をしたときなどは、トイレットペーパーなしで過ごせというのか。これでは尊厳も何もない。
栃木県の新型老人ホームに入居する80代の女性も本誌の取材にこう語った。
「私は腰が悪いのですが、入居して初めての梅雨のころ、体調がすぐれなくて、介護スタッフに買い物に付き合ってと頼んだんです。そしたら、『今から行ったらケアプランに定められた時間を超過するので行けません』とあっさり断られた。
買い物代行サービスでも、『今日、明日は忙しいので明後日行きます』『あなた一人の買い物だけをしているんじゃない』と行ってくれないこともある。ここでは、食事の配達を頼んでいない人は、ちょっと調子が悪くなったら食べ物も手に入らないってことですよ」
元気なうちには想像もつかないような、日常のなんでもない行為が、歳を取ると難しくなり、適切な手助けがなければ、健康的で清潔な当たり前の生活さえ奪われてしまう。
■死んだら知らんぷり
前出の表に示したように、今回の100件調査では、この例のように緊急時の時間外買い物代行など、臨機応変な対応をしてくれない物件が66件。全体の約3分の2にのぼった。
こんなはずではなかったと後悔しないために、前出の山崎氏は、入居前には必ず契約書を精査し、事前見学の際に具体的な質問をしてチェックを重ねてほしいと話す。また前出のリスクコンサルタント・山田氏は、とくに急な病気への対応力を確認するべきだと話す。
「まだ比較的元気なうちに物件探しをすると見落としがちなのが、自分も年ごとに医療依存度が高くなっていくことです。例えば、糖尿病の持病がある場合、将来人工透析が必要になる可能性がある。ならば入居する物件は人工透析のできるクリニックと提携しているか、あるいは近所に透析できるお医者さんがいるか。
本当にしっかりしたところでは、総合病院の地域連携室と組んで住宅の敷地内に診療所や訪問看護ステーションを設置し、21名の看護師が常勤しているようなところもあります」
だが現状では、医師や看護師が常駐するような物件は「まだまだ非常に少ない」(前出・浅川氏)という。ほとんどの物件では、持病の悪化など万一の事態になっても、物件内では助けを得られない可能性が高い。
最後にもうひとつ、覆面調査で明らかになった重要な実態をご紹介しよう。それは、入居者の「死」にまつわるサービスだ。近年、介護施設での「看取り」というキーワードがブームとなり、老人ホーム業界でも「うちの施設は看取りも行います」「最期のときまで安心です」などと謳う業者が増えている。だが、次の会話を見てほしい。
調査員「あの、万が一、母がそちらで亡くなった場合なんですが……」
職員「(怪訝そうに)は?」
調査員「いえ、うちは遠いので、万が一、そちらで亡くなったり病院で亡くなったら、葬儀社の手配はしてくださるんでしょうか」
職員「はあ。まあ、ご近所に葬儀社さんはありますけどね。そこまではちょっと、わかりませんね」
なんと、死後の段取りをサポートしてくれるという物件は、今回の調査では皆無。
兵庫県の新型老人ホームに80代の母親が入居していた、東京都在住の60代の男性は、こんな悲惨な経験を本誌に語った。
「母はあの住宅に入るとき、『ここでは〈看取り〉言うて、ぜーんぶ手配してくれるんやで。あんたには何も迷惑かけんで逝けるから安心やわ』と笑っていました。
入居から1年半後、母は急な発作を起こして搬送先の病院で亡くなりました。平日の深夜のことで翌日は仕事の予定もあり、私はすぐに行けないと介護職員に相談したのですが、『いつ引き取りに来てもらえます? 亡くなった後のことはサービスの範囲外ですから』とけんもほろろ。
結局、私が翌日昼の飛行機で駆けつけるまで、母は病院に放置された。人生の最期をそんな心ない住処で過ごさせたと思うと、後悔してもし切れません……」
介護予算を圧縮したい国は、入居者の自立性が高いこの新型老人ホームを庶民の「終の住処」にしようと、補助金で事業者をたきつけて新設を進めている。
だが、その多くはこれほど悲惨な実態なのだ。まだ老後を考えるには早いと思っている人も、自分の最期について、すぐにも真剣に考えはじめるべきだろう。
体調を崩し、必要に迫られて入居してからでは、すべては遅すぎるのだ。
「週刊現代」2013年8月31日号より
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