02. 2013年9月06日 01:57:37
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JBpress>日本再生>国民の健康を考える [国民の健康を考える] 若者と中高年男性を自殺から救え! 欧米よりはるかに自殺率が高い日本の問題点とは 2013年09月06日(Fri) 谷所 由紀子 黒川清・日本医療政策機構代表理事監修 9月10日は世界自殺予防デーである。アイルランド出身のエコノミスト、レネ・ダイグナン氏が制作し、自殺問題を取り巻く日本社会の実態を描いたドキュ メンタリー映画『自殺者1万人を救う戦い』が数々の賞を受賞し、話題となっている。 駐日欧州連合代表部経済担当官の顔も持つ彼を、3年にも及ぶ自主制作へと駆りたてたのは、隣人の自殺だった。 「なぜ、日本では自殺が美化されがちなのか。なぜ、日本人は自殺“防止”に無関心なのか。日本は世界でも自殺が多い国であるにもかかわらず、十分な対策が取られていないのはおかしい。日本でもっと自殺防止の議論を始めてほしい」との願いから無償でこのドキュメンタリー映画のDVDを配布し、各地で上映会を行っている。 今回は、日本の自殺の現状や、金融危機など経済的苦境との関係、また実際に各地で行われている具体的な自殺予防の取り組みを紹介し、3回のシリーズで考えてみたい。 日本は先進主要国の中でも自殺率が高い国であるということをご存じだろうか。 2013年6月の OECD Health Data によると、日本はOECD(経済開発協力機構)加盟国中、韓国、ハンガリーに次いで3番目に自殺率が高い。また韓国と同様、1997〜98年の金融危機を境に自殺が急増、その影響がほとんど見られなかった西欧の国々とは、自殺率の推移が明確に異なる(図1)。 日本の自殺の現状
日本では昨年、15年ぶりに自殺者数が3万人を下回ったものの、1998年の金融危機以降2011年まで14年連続で3万人を超えている(図2)。また、1998年以降2012年まで、男性の自殺者数は常に女性の2倍以上を示している。
金融危機直後の1998年には、自殺率および自殺者数は、各年齢層で男女共に増加している。その中でも、図3に示すように、特に50代、続いて40代および60代の男性の自殺率が急増している。40〜60代男性の自殺率は、1998年以後2003年までほぼ高止まり状態であり、その後減少しているのが分かる。 一方、若者の自殺率も増加している。図3でも、その傾向が分かるが、図4で、もう少し詳しく見てみよう。図4に示すように、1998年以降の自殺死亡率の増加幅を見ると、20代が最も大きく、1998年の自殺死亡率を100%とした時2011年の自殺死亡率は130%に達する。次いで30代の自殺死亡率が115%に達し、増加していることが分かる。 このように、日本では働き盛りの中高年男性の自殺者数が際立って多く、また、日本の未来を担う若者の自殺率が増加の一途をたどっているのである。 なお、1997〜98年の金融危機は日本より韓国の方が経済的インパクトが大きかったが、図1で見たように、自殺率への影響は日本・韓国2国間ではあまり変わらなかった。リーマン・ショックの自殺率への影響は、1997〜98年の金融危機後と比べると、日本は、それほど大きくないように見える。 一方、韓国は特に2008年以降、自殺率が上昇している。韓国では、高齢者間での経済問題や生活苦、また特に女性による自殺が多く、日本と同じく1997〜98年の金融危機およびリーマン・ショックの影響を受けたとはいえ、自殺問題への影響は日本とは違った形で表れているようである。 自殺の動機・原因 中高年男性と若者の自殺の主な原因・動機は何であろうか。 まず、総人口当たりの原因・動機別の自殺者数の推移を見てみよう。図5に示すように、健康問題が1位、経済・生活問題が2位であり、1998年の金融危機後に両者とも増加している。
1998年は特に3月決算期前後の倒産・失業の増加と並行して中高年男性自殺者数が急増しており、倒産やリストラによる失業によるものという見方が強い。経済・生活問題を原因・動機とする自殺者数は、2009年以降は全体としては減少しているものの、依然として主な原因・動機であることが分かる。 また、警察庁、自殺統計によれば、20代の自殺に多い原因・動機として「経済・生活問題」のうち「就職失敗」の割合が特に多く、原因・動機が「就職失敗」による20代自殺者数は2007年以降増加している。若者の自殺率が増加した背景にも、景気悪化の影響があるようだ。 ■海外における経済危機による失業、就職難と自殺の関連性 スペイン、英国、米国の状況 スペイン、英国、米国、日本の失業率推移(図6)を見ると、失業率の上昇は特に2007年のリーマン・ショック以降顕著である。しかし、日本以外のスペイン、英国、米国では自殺率の増加はない(図1)。 スペインでは総人口における失業率が2007年の8.28%から2012年は25%へ上昇した。にもかかわらず、人口10万人当たりの自殺率は6〜7と一定の推移である。 英国の失業率は2007年の5.4%から若干増加したが、人口10万人当たりの自殺率は約6と変わらず日本の約3分の1である。米国では、2008年以降失業率が若干増加したが、日本ほど自殺率の急増は見られていない。 一方、日本の公表失業率はというと、1997年以降若干上昇したが、いずれの年も5%前後を維持している。このように日本の失業率は、ヨーロッパ諸国と比べて低い。にもかかわらず、自殺率の急増が見られているのである。
ここで、公表された失業率に関して注意しておきたいことがある。日本では失業者以外に「その他の無職者」(主婦および年金生活者を除く)に分類される者が大勢おり、実質的な失業率はもっと高い。 そして、2012年における職業別自殺者数の構成を見ると、失業者が全体の5%を占めているのに対し、「その他の無職者」が第1位で全体の24.9%を占める(図7)。すなわち、日本の自殺者の約4分の1が、失業者にすら分類されない「その他の無職者」とされるのである。このことこそは、日本における自殺問題の根深さを物語っていると言えよう。 スウェーデン:なぜ失業率は上がったが自殺は減少したのか?
スウェーデンでは1990年代から経済状況が厳しくなり失業率が上がった。その一方で、自殺数は減少傾向にある。失業率は1990年の1.7%から1994年には9.4%と急増したが増減を繰り返し2010年は8.6%となった。 一方、10万人当たりの自殺率は1990年の16.9から一貫して減少、2010年には11.7となった。なぜ失業率が増加したのに自殺率が減少したのだろうか (図8と9)。 スウェーデンでは、1990年前半から国家的自殺対策プロジェクトとして包括的な自殺対策に力を入れてきた。スウェーデンでは早くから予防医学が支持されており、様々な疾病に対する予防対策の理念が国民に浸透している。
そのため、自殺に関しても、個人を取り囲む環境要因に働きかけ、未然に防ぐような取り組みや、自殺未遂者へのアウトリーチ型の危機介入を行うなど、学校や職場等多様な状況に対応した自殺対策に取り組んできた。 また、失業者へのセーフティネットや、きめ細かい再雇用促進体制を実施していることも低い自殺率の維持に貢献しているようだ。日本には正規雇用、非正規雇用という分類があり、失業保険や社会保険保障などの受給条件などの格差が激しい。 例えば、2009年の失業給付金の失業者全体の受給率は、日本が20%強であったのに対し、スウェーデンでは70%近くであった。 さらに、スウェーデンにおいては女性の社会参画が進んでいる。したがって、夫が失業しても経済的基盤が崩壊することが少ないことも1つの要因であろう。日本でも女性の社会進出を促進し、家計の安定を実現する社会をつくることが働き盛りの男性の自殺を減らすことへつながるのではないだろうか。 若者の就職に関してはどうだろうか。日本は新卒一括採用の慣習があり、応募対象が限られるなど、新卒で就職に失敗するとその後の挽回が難しい仕組みになっている。こういった慣習は、スウェーデンをはじめ欧米諸国にはない。日本の若者にとって、再挑戦が難しい社会であることが指摘できよう。 以上見てきたように、日本における自殺の主な原因・動機の1つとして、失業や就職難などの経済・生活問題が影響していることは明らかである。 そして、その大きな要因として、失業者などの求職者へのセーフティネットの不足や、正規雇用・非正規雇用という格差の存在、また若者対象の新卒一括採用制度など、失敗を許さない社会が影響しているようである。 次回は失業や就職失敗などの経済・生活問題と自殺の関連要因の分析と日本の自殺対策について考える。 参考:OECD Health Data(http://www.oecd.org/els/health-systems/oecdhealthdata2013-frequentlyrequesteddata.htm) http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/38622 |