04. 2013年9月05日 10:02:29
: niiL5nr8dQ
#低い主な理由は、世界最悪の財政 そして雇用分野での、正社員優遇、解雇規制、女性低参加などで途上国以下の評価つまり既得権者の優遇が日本の最大の問題
若者とシニアの雇用を両立する「世代間ワークシェアリング」
2013年9月5日(木) 武田 洋子 第3回は、日本の未来にとって重要な「若者の雇用」について述べました。雇用の「安定」と「流動化」という一見相反する目的を達成するには、民間と連携した雇用斡旋の仕組みや教育訓練・能力評価機能の強化、就労インセンティブ型の社会保障制度づくり、グローバル化に適応できる人材育成に向けた教育改革や学び直しの強化、再チャレンジを可能とする採用・雇用慣行の見直しを同時並行で進めていく必要があります。 もう一つ、若者とシニア層の雇用をどう両立させていくか、という観点もあります。人口減少社会において、シニア層の雇用は重要な課題です。日本の男性シニア層の労働参加率は、世界的にみて既に高い水準にありますが、2013年4月に施行された法律により、65歳までの雇用維持が企業に求められるようになりました。 シニア層の労働参加は、とかく世代間対立の観点から捉えられがちです。典型的には「高齢者の就業率の上昇が、若者の職を奪っている」という議論です。実際、2000年以降の12年間で、60〜64歳の男性の就業率は65.1%から71.3%へ大幅に上昇する一方、20〜24歳の同じく男性の就業率をみると、65.7%から61.5%へと低下しており、数字上は「シニア層が若者の職を奪った」ように見えます。 しかし、人口減少社会を前提とする以上、「早めにのんびり、リタイア生活(年金付き)して下さい」という訳にはいきません。むろん個人の選択が尊重されるべきですが、働ける人は全員働くことが社会全体の利益にかないます。問題は、シニア層の雇用対策を企業に半ば強制的に迫るという発想です。もし総人件費を抑制したい意図が企業にあれば、若者の新規採用を抑制してしまうかもしれません。 今後、本格的な超高齢社会を迎えるのにあたり、シニア層の「就労」促進は、既存企業の「雇用」促進ではなく、地域社会が新しい「就労」機会を創出することを考えていくべきではないでしょうか。具体的には、@保育・子育て、A介護、B教育、C観光などの分野で、地域社会発の新しい「働く場所」を創り出すことが重要です。「雇用を創り出す」というと、無理矢理な印象を持たれるかもしれませんが、実際、地域社会における保育、介護、教育の担い手は不足しており、政府、あるいは地方自治体が民間企業や大学などと協力し、地域社会の人手不足と経験豊かなシニア層の就労促進を同時に解決することは、決して無理なことではありません。 若者の職を奪わない新しいワークシェアリング ここで言う「ワークシェアリング」は既存のイメージである企業内での時短型ワークシェアとは全く違います。1980年には、「共働き世帯」は、「男性雇用者と無業の妻からなる世帯」(いわゆる専業主婦世帯)の約半数でしたが、1990年代にその数は逆転し、2012年時点では、共働きの世帯数は1054万世帯と、専業主婦世帯の787万世帯を大きく上回っています。 共働き世帯が自分たちだけで子育てや介護を担うことは容易ではありません。地域社会でシニア層に保育や介護を担ってもらえれば、若者夫婦は安心して、働くことができます。多くの子育て世代が、イノベーティブな仕事に集中する時間が増えれば、新しいアイデアが生まれる確率も高まり、日本経済の新たな成長機会の発見につながるでしょう。柔軟な発想と起業家精神を持った若者が大胆な挑戦を行う機会を政府も地域社会も一体となって後押しすべきです。 シニア層にとってもいくつかプラス面があります。まず、長い時間をかけてオフィス街や工場まで通勤しなくてよくなります。同じ町内で、顔見知りの若者夫婦の手助けをすることで、地域社会における「重役」になるという選択です。 まだまだ体力も気力も余って仕方がない、というシニア層も多いかもしれません。実際、企業を退職された方が、地域のニーズや課題の解決につながる小さいビジネスの起業、いわゆる「ナノビジネス」を始め、成功するケースが増えています。やる気があり、熟練技術や多様な経験・知識を有するシニア層が、既存の企業に留まらず、地域社会に起業で貢献するという選択肢を大いに検討すべき時代がきています。 このような、既存の企業の枠を超えた地域社会の中での「世代間ワークシェアリング」はひとつの理想形といえるでしょう。「新しいワークシェアリング」と冒頭に書きましたが、実は日本の地域社会では、こうした世代間ワークシェアリングは古くからありました。昭和以前を舞台にしたドラマをみれば、あちこちの家に「ご隠居さん」がいて、経験の浅い若者たちにいろいろと世話を焼く、といった姿が描かれています。実質的には同じことを、21世紀の今日、古くて新しいビジネスとして捉え直せばいいということです。 「つながり」により一石三鳥を実現 最近、徐々に認識が広まっていますが、近い将来、シニアの単身世帯が一段と増えることが予想されています。国立社会保障・人口問題研究所によれば、世帯主が65歳以上の単身世帯数は、498万世帯(2010年)から、762万2000世帯(2035年)へと増える見込みです。 先に述べた「世代間ワークシェアリング」や地域社会での起業は、人と人との新しい「つながり」を生み出します。地域社会での就労を通じ、単身者同士、あるいは若い世代との「つながり」を広げることは、健康上、重要なことです。何らかの形で人とのつながりを持っている高齢者の方が、健康状況が良い傾向にあるとの指摘もあります。マクロ経済に視点を戻すと、シニア消費が活発化し、需要が増える一方、医療費も抑制され、社会保障制度の持続性に多いに貢献するでしょう。 要するに、世代間のワークシェアリングがうまく機能すれば、@全員参加型社会(働くことが得になる社会)の実現、A新たなアイデア、商品・サービス需要の拡大、Bシニア層の生きがいの充実化と医療費の抑制が実現し、「一石二鳥」どころか、「一石三鳥」にも「四鳥」にもなり得るのです。 先日、総務省が発表した人口動態調査によると、3月末時点の日本の総人口は1億2639万3679人と4年連続で減少し、15〜64歳の生産年齢人口も8000万人を下回りました。47都道府県中34道府県で65歳以上の人口が25%を超えています。日本経済を再生するための一つ目の戦略、すなわち「人材戦略――量と質の両面からの労働力の底上げ」は、もはやわが国の中長期的な課題ではなく、「喫緊の課題」です。 3回にわたって述べてきたとおり、日本には、女性、若者、シニア層のいずれにおいても大きなポテンシャルがあります。豊かな人的資本を最大限発揮することが、日本の経済再生に向けた大きな一歩となるでしょう。次回は、「経済の新陳代謝」に話を進める予定です。 このコラムについて 武田洋子の「成長への道標」 歯止めのかからない人口減少、出口の見えない財政悪化、遅々として進まない構造改革…。景気や市場が好転しても、日本経済の成長基盤は脆さを抱えたままだ。持続的な経済成長をいかに実現するのか。米欧や途上国も直面するこの課題に、気鋭のエコノミストが処方箋を示す。 |