02. 2013年9月04日 09:05:05
: niiL5nr8dQ
第12回】 2013年9月4日 野地 慎 [SMBC日興証券為替ストラテジスト] 直近米国との連動性が高まるも長期金利0.7%割れは持続せず 5月22日のバーナンキFRB(米連邦準備制度理事会)議長の議会証言以降、米国の金融政策が市場の最大の関心事となっている。米国債市場では6月、7月のFOMC(米連邦公開市場委員会)を経て、資産買い入れ政策の年内縮小開始の可能性が高まったことで長期金利の上昇傾向が強まり、10年国債利回りは3%近くにまで上昇した。 他方、5月に混乱に陥った日本国債市場では、円安持続のために長期金利低位安定が不可避と判断した日本銀行が、債券市場との対話を積極化し動揺を収めた。長期金利が銀行の新規貸出金利(長期)の0.9%に近づいたこともあり、再び投資家による債券投資が活発化し、6月以降はむしろ長期金利の低下傾向が鮮明となった。 日銀の国債買い入れ額は巨額であり、国内投資家が金利を押し上げてまで積極的に債券を売らなければ、日本の長期金利は上昇し難い。アベノミクスの下でも企業マインドが慎重で、設備投資が大幅に伸びそうにはなく、国内投資家にとって円債投資が重要な資金運用手段である環境は変わらない。日米債券市場のデカップリングは日本独自の要因から生じたといえる。 拡大画像表示 ただし、8月以降は日米10年国債利回りの前日比変化幅の相関係数は上昇傾向にある。米国の長期金利が上昇すれば、一定の割合で日本の長期金利も上昇するようになった。日本の10年国債利回りが都市銀行など金融機関の資金調達原価を大きく下回り、債券投資のインセンティブが薄れたことで、日本の長期金利も上昇しやすくなった。 他方、米国長期金利上昇もさすがに行き過ぎだとの声が増しつつある。金利上昇による弊害が顕現化すれば、家計の金融環境を緩和するためにFRBがフォワードガイダンスを見直すなどして長期金利上昇を抑制してくるだろう。また、FRB次期議長の人事いかんによっては、長期金利上昇への過度な懸念が薄れ、米国の10年国債利回りが相応に低下する可能性すらある。その際、日本の債券市場はいかに動くのであろうか。 日本の10年国債利回りに投資インセンティブが薄れつつあることに鑑みれば、金融機関の資金調達原価を大きく下回るような水準、具体的には0.7%台では米国の長期金利低下には連動し難いものと考えられる。米国長期金利が下がり、日本の金利が下げ渋る展開が想像される。 ただし、国内投資家が資金を債券に振り向けざるを得ない状況や、今年度上半期に「買い遅れた」資金が日銀当座預金に滞留しているという環境を考えれば、金融機関の資金調達原価を大きく下回っても、日本国債に資金が流入する可能性も相応に高いと考えられる。一時的でも10年国債利回りが0.7%を大きく下回るシナリオの可能性を排除すべきではない。 (SMBC日興証券為替ストラテジスト 野地 慎) http://diamond.jp/articles/print/41116
第1回】 2013年9月4日 中野晴啓 [セゾン投信株式会社 代表取締役社長],加藤 隆 [バンガード・インベストメンツ・ジャパン株式会社 代表取締役] 世界最大の投信会社は7年間資金が減り続けた…。 バンガードはなぜ資金を集めることができたのか? 「独立系投資信託会社」といえば、証券会社や銀行などの系列ではなく、さらに主に販売会社を通さず自分たちで投資家に対して直接、投信を販売している会社のこと。このスタイルでは主にさわかみ投信が有名ですが、その次に個人投資家から支持されているのが、セゾン投信です。そして、その旗艦ファンドともいうべき「セゾン・バンガード・グローバルバランスファンド」には、ファンド名にもあるバンガード社のファンドが組み入れられています。 このバンガード社とは、実は世界最大級、アメリカで資産残高第1位。1兆8051億米ドルもの資金を保有し、2位のフィデリティの倍以上の資金を預かり、運用しています。今回から3回にわたって、このバンガード社の日本法人である、バンガード・インベストメンツ・ジャパン代表取締役の加藤隆氏と、セゾン投信代表取締役の中野晴啓氏が、長期投資にかける気持ちを、思う存分語り合います。 セゾン投信の口座数が 6万口座を突破 加藤 セゾン投信の口座数が6万口座に乗せたそうですね。 中野晴啓(なかの・はるひろ) セゾン投信株式会社 代表取締役社長。公益財団法人セゾン文化財団理事、NPO法人「元気な日本をつくる会」理事。1963年東京生まれ。1987年明治大学商学部卒、クレディセゾン入社。セゾングループの金融子会社にて資金運用業務に従事した後、投資顧問事業を立ち上げ運用責任者としてグループ資金の運用のほか、外国籍投資信託をはじめとした海外契約資産等の運用アドバイスを手がける。その後、(株)クレディセゾン インベストメント事業部長を経て2006年セゾン投信(株)を設立、2007年4月より現職。米バンガード・グループとの提携を実現、現在2本の長期投資型ファンドを設定、販売会社を介さず資産形成世代中心に直接販売を行っている。また、全国各地で講演やセミナーを行い、社会を元気にするための活動を続けている。『運用のプロが教える草食系投資』(共著・日本経済新聞出版社)、『20代のうちにこそ始めたいお金のこと』(すばる舎)、『30歳からはじめる お金の育て方入門』(共著、同文館出版)、『年収500万円からはじめる投資信託入門』(ビジネス社)ほか多数。 中野 お陰様で。ちょうどセゾン投信がスタートして5周年の時に5万口座を達成して、それから1年半。少し時間はかかってしまったのですが、8月28日に6万口座を達成できました。現在、運用されている2本のファンドの純資産残高を合計すると、737億7000万円(8月末現在)です。
加藤 日本の投資信託業界はどうしても販売金融機関の意向によってファンドが作られているだけでなく、販売金融機関の力でファンドの資金を集める傾向があるのですが、そのなかでセゾン投信は直販というスタンスを貫いている。苦労もあると思いますが。 中野 そうですね。ただ、大勢の受益者の方からの支持を得ることができて、何とかここまで来たという感じですね。純資産残高を口座数で割っていただけると分かると思うのですが、1口座あたりの平均純資産残高は121万円です。既存の証券会社などの販売会社からみたら、少ないと思われることでしょう(笑) でも、そういう小口だけれども、じっくり長期的な視点で国際分散投資をしていこうという意思の強いお金が集まっています。この点は非常に心強いですね。あとは、やはり世界的に有名なバンガードのブランドを冠したファンドを扱っているというのも、弊社の強みです。 加藤 褒めても何も出ませんよ。 中野 いえいえ。でも、私がセゾン投信を立ち上げるにあたって、どんなファンドを運用したいのかと考えた時、真っ先に浮かんだのがバンガードだったのです。バンガード社といえば、徹底的な低コストを追求したインデックスファンドを運用していますし。アメリカの投資信託をよく知っている人は、インデックスファンド=バンガード、アクティブファンド=キャピタル(アメリカンファンズ)、とすぐにイメージすると思います。 拡大画像表示 バンガードも、銀行や証券会社の系列ではない独立系の運用会社で、なおかつ証券会社などの販売機関を通さずに販売する直販ですよね? 初めからそのスタイルでスタートしたんですか? 加藤 バンガードの歴史を話し始めると、これはもう本当に長くなるし、ドラマティックなストーリーもたくさんあるんだけれども(笑)米国のバンガードというのは、ジョン・ボーグルというインデックスファンドを考えた人が立ち上げた運用会社です。 今では運用資産の規模で世界一の運用会社なのですが、会社を立ち上げた当初は、本当に苦労したんですよ。 世界最大級の運用会社でも 最初の7年は資金が流出を続けていた 中野 その話には興味ありますね。今や世界一の資産を誇ると言われている運用会社にも、大変な時期があったと。 加藤 そう。バンガード社が出来たのは1975年だから、かれこれもう40年近くになるのですが、その当時、すでに純資産残高で25億米ドル(2500億円)程度あるファンドを運用していたんですよ。で、ジョン・ボーグルさんはバンガード社を理想の運用会社にしたいと考えて、まずインデックスファンドの運用をスタートさせました。で、これが慧眼だと思うのですが、1977年には直販をスタートさせたんですよ。 中野 直販からスタートしたのには、何か理由があったのでしょうか。 加藤 日本と同じですよ。結局、販売金融機関にファンドを売らせると、どうしても手数料の高いファンドをすすめたり、手数料収入の最大化を目指して、短期売買に顧客を誘導するインセンティブが働きがちです。当然、それは投資家の手数料負担を増やすし、ファンドの運用にとっても良いことではない。ということで、バンガード社は直販をスタートしたのです。 中野 なるほど。その状況は日本とあまり変わらないのですね。販売金融機関がファンドを販売すると、短期売買の指向が強まる……か。それでバンガード社がスタートしてからのビジネスは順調だったのですか。 加藤 とんでもない。それはもう苦労の連続だったと聞いています。さっき、バンガード社がスタートする時点で、預かり資産が25億米ドル(2500億円)ほどあったと言いましたが、会社をスタートさせてからというもの、ずっと資金流出が続いたのです。何と80ヵ月連続ですよ。約7年間ですね。約6億米ドル(600億円)まで減ってしまいました。そして、ようやくそこから資金純増に転じたそうです。 中野 う〜ん、約7年間も資金流出が続いたのですか。僕だったらプレッシャーに潰されそうです。 加藤 実際、ボーグルさんも、さすがに途方にくれたそうですよ。でも、彼には確たる信念があったのでしょうね。新しい時代の投資信託はインデックスファンドであり、それを直販で販売することが、投資家のためになるということを確信していた。その信念が非常に強かったので、逆境にも耐えることができたのだと思います。 中野 なるほど。その厳しい状況にあったバンガード社の資金流出が止まり、増加に転じた背景にあったものは何だったのでしょうか。 資産増はまず富裕層が購入し始め、 さらに401Kがきっかけで広がった 加藤 ボーグル氏は資金流出が続く中も、いろいろな機会をとらえて、インデックスファンド、長期運用、低コストの効用を説き続けたそうです。そのうち、その合理性に気付いた人たちが、少しずつバンガード社のインデックスファンドを買うようになりました。 最初にインデックスファンドのメリットに気付いて、それを買ったのは、大学教授やお医者さん、弁護士、そして何と金融機関の関係者など、知識・合理的判断力に優れ、経済的にも余裕のある人たちだったんです。 中野 たしかに金融や投資リテラシーが高い人が多そうですね(笑) 加藤 やはり、インデックス運用のメリットに気付くためには、それまでの投資経験も必要ですし、物事をきちっとロジカルに考えられる頭脳も必要だと思います。まず、その層が発火点となり、次第にメディアも取り上げるようになりました。こうして最初の成長期に入っていくのです。 中野 セゾン投信の顧客も、実は金融関係者や金融関係のマスコミの皆さんが多いですよ。そうですか、それで世界一になったんですね? 加藤隆(かとう・たかし) バンガード・インベストメンツ・ジャパン株式会社 代表取締役 1984年より資産運用業に従事。その間、BOT・トゥーシュ・レムナント(ロンドン)でユーロボンドのポートフォリオマネージャー、インターセック・リサーチ日本駐在代表、シュローダー・ジャパン営業担当役員、ABNアムロ・アセット・マネージメント・ジャパン代表を歴任。2003年から2年余り金融業界を離れ、古民家再生、田舎暮らし、自然農などの普及に専念。2005年4月より現職。現在の目標は、投資家本位の投信事業の発展と、自然循環型生活スタイルの普及に貢献すること。週末には、千葉県鴨川市で築150年余りの里山古民家を修復中。 加藤 でも、実際に、ここまで資産規模が拡大した背景には、他の理由もあります。それは401Kプランがスタートしたことです。米国では90年代から、401Kプランが普及していったのですが、このプランは年金運用に伴うリスクを、年金加入者、つまり企業の従業員に持ってもらうというものです。もちろん、一方で大きなリターンが実現すれば、それも従業員のものになるわけですが、リスクを従業員に負ってもらうためには、きちっと従業員に対する投資教育を施さなければならない。そこで、ジョン・ボーグルの考え方が、ぴったり当てはまったのです。
中野 つまり、年金のような長期投資にはコストが安いインデックスファンドの運用が適しているということですね。 加藤 そうですね。結局、投資というのは下手に銘柄を選ぼうとしても、あるいはタイミングを選ぼうとしても、うまく行かないものなのです。もちろん、たまたま偶然にもうまくタイミングが当たり、高いリターンが得られるということもあるでしょう。でも、それを長期で続けていくのは容易なことではありません。 大概は大きなリターンを得た後、逆に大きなロスを被ってチャラにしてしまうというパターンの繰り返しです。いや、チャラならまだしも、逆に最初に得た利益を超える損失を被るケースもある。つまり、投資は、銘柄やタイミングを当てに行ってはいけないということです。 このように、長期投資をするうえで当たり前の話を、ボーグル氏は説き続けた。その結果、米国の大企業を中心にバンガードの考え方が広まり、運用資産世界一の運用会社に育っていったのです。 中野 日本でも少しずつではありますが、個人がインデックスファンドの良さに気付き始めています。まだ先は長いと思いますが、少しずつインデックス運用や国際分散投資のメリットに気付いてもらえるよう、啓蒙活動を続けていきたいと思いますね。 加藤 インデックス運用は素晴らしいのですが、唯一欠点があるとしたら、それはつまらないことですね。でも、長期の資産形成を目的にした運用というのは、そういうものです。ハラハラドキドキはギャンブルですからね。 あと、インデックス運用に関しては「初心者に適している」という誤解があるのですが、インデックス運用が持つ合理性は、投資の初心者だけでなく、経験者にも大いにメリットとなるはずです。その意味でインデックスファンドは、万人にとって有益な運用ツールになると思います。 次回は9月11日更新です。 編集部からのお知らせ 『最新版 投資信託はこの9本から選びなさい』 発売中! |