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外国人技能実習生 残業代ナシで1日10数時間働かされる例も (SAPIO) 
http://www.asyura2.com/13/hasan82/msg/284.html
投稿者 赤かぶ 日時 2013 年 9 月 04 日 07:30:00: igsppGRN/E9PQ
 

http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20130904-00000006-pseven-soci
SAPIO 2013年9月号


 外国人技能実習制度が“本物のブラック企業”の温床となっている。同制度はもともと開発途上国への技術移転を目的とした在留資格として設立された。日本で1年間研修を受け、試験に合格すれば、さらに2年の実習ができるシステムだ。

 この3年を悪用して、「最低賃金以下で雇える使い捨ての格安労働者」が生み出された。2009年の法改正、翌年の制度改正によって最低賃金法や労働基準法が適用されるようになっても実態はあまり改善せず、最下層の労働者である事実は変わらない。

 2011年時点で実習生は約5万人。同制度では表向き、企業団体や各協同組合などが「監理団体」として実習生を受け入れている(一次受け入れ)。実習生は「実習実施機関」(二次受け入れ)で働き、技能習得を目指す。

 しかし、現実には前出の元幹部のような、業界内で「ゼロ受け」と呼ばれる斡旋稼業をする者が暗躍している。ゼロ受けは外国から実習生を連れてくるだけでなく、週に2〜3回、車で現場の実習生たちを見て回り、「管理費」などの名目で金銭を徴収している。

 外国人労働者を支援するNGO『移住労働者と連帯する全国ネットワーク』の鳥井一平事務局長が指摘する。

「ゼロ受けはもちろん、受け入れ窓口となる監理団体が悪すぎる。受け入れ側の企業や農家を回って『これだけ払えば十分。寮費などでもっと差し引いて問題ない』と吹聴するんです。農家や中小企業はこの誘惑に乗せられてブラックに変貌してしまう」

 実習生たちの生活は過酷だ。

 低賃金、残業代の未払いは常態化し、1日10数時間も働かされることが珍しくない。冒頭の中国人女性たちの「寮」はまだマシで、一部屋で12人が寝起きしていた事例も発覚している。

 言葉や習慣の違いからか、「仕事ができないバカ」と怒鳴られたり、体罰やセクハラも横行。

「『本国に送金するから』とパスポートや銀行通帳を取り上げられ、ピンハネされていた者もいる。保証金や違約金でがんじがらめにされ逃げ出すことすらままならない。結果、過労死や自殺も増えている」(外国人研修生問題弁護士連絡会・指宿昭一共同代表)

■文/鈴木智彦(フリーライター)


 

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コメント
 
01. 2013年9月04日 10:56:27 : Jv2gq9eJpo
外人研修生は平成のタコ部屋で、奴隷労働。
日本人はこれと競わせてまともに結婚、生活も出来ない低賃金の奴隷労働。
中国を始めとする安価で粗悪な外国制の食品で、子供も出来ない身体にされ。
挙句の果てに税金は取り倒され、
お役人、政治家、在日、縁故企業に搾取され。
実態を知れば、わが日本国はは本当に酷い国だね。

02. 2013年9月08日 02:06:46 : niiL5nr8dQ
「低価格ジョブ」は、民主的な市場に不可欠

アメリカでも日本でもクラウド・ソーシング市場では、びっくりするほど単価の安い仕事がたくさん掲示されています。

それを見て、「これでは(先進国に住む人の)給与が下がってしまう」、「搾取が助長される」などという人もいます。ですが、廉価な仕事が市場に溢れていることも、一概に悪いとは言えません。


たとえばライティング(文章作成)はデザインなどと並び、クラウド・ソーシングの主要分野のひとつですが、大半の仕事の単価はめちゃ安で、「ブログを毎日書いて、月に1万円」などとなっています。ひとつのエントリの値段は 333円。

たしかにこれをプロのライターの報酬と比べるなら「やってられないくらい安い」と言えます。でもね。もしもちきりんが今、中学生だったらどうでしょう?


私は当時から文章を書くのが好きでした。一日 500字くらいの文章を書くのは全く苦にならない。せいぜい30分ほどで書けるでしょう。

これをふたつやって月に 2万円のお小遣いが得られたら、「中学生のちきりん」にとっては、他のどんなバイトより圧倒的に楽に稼げます。今でもそういう(文章を書くのが好きで得意な)中学生は、たくさんいる。

中学生の彼ら・彼女らにとって(それがたとえ他人のアフィリエイトブログであったとしても)自分の文章が売れ、公開されるのは嬉しいことのはず。その上、もしも文章力や洞察力が認められたら、その後のキャリアチャンスさえ手にできるかもしれません。


いえ、そこまでいかなくても、彼らは顧客からフィードバックを得ることで、どんどん文章力を伸ばしていけます。学校では、平均的な文章力の子供に合わせた指導しか得られません。それでは作文の得意な彼らには、物足りない。

でも、大人からお金をもらって仕事を受ければ、たとえそれがどんなに安い値段でも、様々な学びを得、成長の機会を手にできるはずです。こうやって彼らは“市場から学び”、学校教育の枠を超えて、その力を伸ばしていけるのです。


「そんな安い単価のライターが現れたら、プロがオマンマ食い上げになる」って? 中学生に実力で差がつけられないようでは、遅かれ早かれやっていけなくなるでしょう。

プロだというならその経験とスキルを活かし、市場が求める付加価値を自分で定義して提供していく、そうやって仕事の単価を上げていくしかありません。


ウェブサイトやチラシに使うような写真も、「写真好きの高校生」が受注し始めるかもしれないし、もっと単純な(クリックするだけの)仕事や、言語が関係ない仕事なら、途上国の人たちも受注できます。

「誰でもできる単価の安い仕事」があるからこそ、「現時点で十分なスキルや実績を持たない初心者&新規参入者」でも、仕事を手にすることができ、実務経験を得られます。

低価格ジョブは、全ての人にチャンスを与える、民主的な市場に不可欠な要素なのです。http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/


03. 2013年9月11日 10:18:12 : niiL5nr8dQ
【第365回】 2013年9月11日 小林美希 [労働経済ジャーナリスト]
「妊娠を報告したら解雇」「激務を続けて職場流産」
非情のマタハラ職場で未来を奪われる女性たち(上)

今やマタハラ(マタニティ・ハラスメント)は、職場においてセクハラ、パワハラと並ぶ3大ハラスメントとされている。今年5月に連合が行った意識調査によると、回答した20〜40代の女性社員のうち25.6%が、マタハラ被害を受けた経験があるという。これは、前年調査におけるセクハラ被害者を上回る数字だ。実際に被害者を取材してみると、妊娠を報告しただけで解雇を通告されたり、妊娠中にもかかわらず激務を課せられて「職場流産」に追い込まれるなど、極めて悪質なケースもある。今回(一般企業編)と次回(専門職編)の2回にわたって、働く女性の未来を奪い去る「マタハラ職場」の悲惨な現状に迫る。(取材・文/ジャーナリスト・小林美希)

上司に妊娠の報告をすると
当然のように退職を示唆される

女性の社会進出が進んだ現在も、社員の妊娠・出産への理解が著しく低い職場は世の中に少なくない(写真はイメージです)
Photo:AFLO
「引き継ぎはいつにしようか。仕事は辞めて子育てに専念するんでしょ?」

 東海地方の電気関連会社に勤める今野彩花さん(仮名・29歳)が上司に妊娠の報告をすると、まるで当然のように「退職」の二文字を突き付けられた。学生時代から「結婚しても、出産しても働き続ける」と信じて疑わなかった彩花さんにとって、上司の予想外の言葉に唖然とするしかなかった。

 働く女性が妊娠や出産することで解雇・雇い止めされることや、職場で受ける肉体的・精神的なハラスメントが「マタニティ・ハラスメント」(マタハラ)と呼ばれ、注視されるようになってきた。

 マタハラという言葉はこれまであまり浸透していなかったが、職場においてセクハラ、パワハラと並ぶ3大ハラスメントとされている。今年5月、連合(日本労働組合総連合会)が『マタニティ・ハラスメント(マタハラ)に関する意識調査』を実施すると、回答した20〜40代の女性社員の約5割が、産前産後休業や育児休業が法律で守られている権利すら知らなかったという。

 実は、冒頭の彩花さんのように、それとは知らずにマタハラを受けているケースは少なくない。彩花さんの上司の妻は専業主婦。上司の個人的な考えとしても、「子どもが小さいうちは、母親は働かずに家にいたほうがいい」と常々聞かされていた。いざ自分が妊娠すると、上司は彩花さんの意に反して「辞めたほうがいいのではないか」と強調するようになった。

 さらに、会社の業績も芳しくはなく、管理職には人件費削減のプレッシャーがのしかかっていた。彩花さんが所属している経理・庶務部門の正社員は半減した。正社員は50代の上司と40代の男性社員、そして彩花さんの3人だった。

 今までフルタイムで働いていた契約社員もいなくなり、繁忙期だけ非正社員が雇われるようになった。当然、正社員の負担は重く、決算期には深夜まで残業が続く。上司は妊娠中の彩花さんに、「正社員で残業できませんと言われても困る」と退職を促す。

 思ってもみない退職勧奨に、反論する余地がなかった。先輩社員は独身で、相談しても現実味がないのか、及び腰だ。妊娠や子育てについて身近に話せる社員はいなかった彩花さんだったが、「友人や知人には育児休業を取って復帰している人もいる。妊娠したからといって辞めろと言われるのは、おかしい」と感じた。

 インターネットで調べると、産前産後休業や育児休業は法律で守られる当然の権利と知り、上司に「労働基準法や育児介護休業法で認められている。私は辞めずに働き続けたい」と、強く主張することができた。

「1人前に仕事ができないくせに」
「あ〜あ、妊婦は羨ましいよな」

 しばらくすると、決算の繁忙期と重なるようにつわりの症状がひどくなった。彩花さんは自家用車で通勤していたが、通勤ラッシュ時は時間もかかり、吐きそうになっても急に車を止めたり、トイレのある商業施設に立ち寄ることが難しかったため、上司に時差出勤について申し出た。

 すると、「あれは、東京みたいに電車が混む場合の決まりでしょ?車なんだから、なんとかなるだろう。妊娠しているからといって特別扱いできない」と一蹴された。

 ちなみに、電車やバスといった公共機関以外の自家用車による時差出勤などの通勤緩和も、男女雇用機会均等法によって認められている。

 そして、妊娠初期に無理の効かない彩花さんの分の業務負担が増えた先輩社員は、冷たかった。吐き気でトイレに駆け込み、席に戻った彩花さんに聞こえるように、「1人前に仕事ができないなら迷惑なんだよな。甘えてるよな」と、つぶやいた。

 精神的なハラスメントを受けたとしても、上司も先輩も0時近くまで残業をこなしているため、後ろめたい気持ちにさえなってしまう。

 そのようななかで、お腹の張りが強く痛みも感じた彩花さんは、流産しないか心配になった。悩んだ末に、「すみません。お先に失礼します」と、周囲の非正社員が帰り始める夜10時頃にはせめて会社を出ようと試みた。

 吐き気が治まっているうちに集中して仕事を終わらせたが、帰り際に先輩社員は「あーあ、妊婦は羨ましいな」と舌打ちをした。

「つわりが治まるあとちょっとの我慢」と、彩花さんは精神的な苦痛にも耐えていた。しばらくするとつわりは治まり、決算業務も落ち着きを取り戻した。「甘えている」と言われないよう、資料などの入った重い段ボールを運ぶような仕事も代わってもらうことなくこなしたが、「流産しないだろうか」とお腹に手を当てながら、不安を感じる日々を過ごした。

職場復帰した途端に無情の異動
「営業が嫌なら辞めるしかない」

 彩花さんは、昨年12月に出産。8週間の産後休業と3月末まで約2ヵ月の育児休業を取り、子どもを保育園に入れやすい4月に職場復帰した。

 しかし、「君のいない間に業務が大変になったから、フルタイムで契約社員を入れた。もう居場所はない」と、元の部署への復帰は叶わず、「今、空きがあるのは営業だけ。それが嫌なら辞めるしかない」と、二者択一を迫られた。これも、妊娠や出産を理由にした不利益な取り扱い及び解雇に当たり、労働基準法や男女雇用機会均等法違反となる。

 工場勤務の夫の給与は、手取りで月18万円程度。家計に余裕はない。彩花さんが辞めるわけにもいかず、慣れない仕事と新しい人間関係に四苦八苦するなか、“保育園の洗礼”が待っていた。

 年度始めの保育園では、園児らは新しい環境に慣れずに風邪をひきやすく、感染症はあっという間に広がる。一般的には入園後、半年くらいは急な発熱や感染で休みがちになるといわれている。

 今年は風疹や手足口病が大流行。夜勤のある夫は育児のあてにならず、子の看護のため彩花さんが会社を遅刻早退、欠勤することが増えてしまう。職場では営業職に子育て真っ最中の女性社員はいない。ここでも他の社員から「子どもを理由に休みすぎ」「仕事もまともにできないのに、いきなり抜けられると困る」と煙たがられ、右往左往する毎日だ。

 彩花さんは「働きながら妊娠して出産し、子育てすることが、こんなにも周囲から疎んじられるものなのか」と、意気消沈している。

 こうしたマタハラが横行する職場では、産後にクビがつながったとしても、職場復帰後も冷遇されることが少なくない。そもそも、人員不足で長時間労働が恒常化しているところにも、他の社員を気遣う余裕を失わせる根本的な問題がある。人員補充や賃金アップなどのインセンティブがない限り、その分の業務を任された社員から不満が出てしまうからだ。

マタハラを避けようと無理をして
妊娠異常を起こすケースも頻発

 さらに深刻なのは、職場の無理解によるマタハラを避けようと妊婦が無理をして、妊娠異常を起こすケースだ。前述の彩花さんの場合、無事に出産に至ったが、労働負荷が原因と見られる「職場流産」が頻発している。

 加藤奈緒子さん(仮名・32歳)は、都内IT関連企業の正社員。営業や取引先企業のホームページの管理、広告作成などの仕事をしている。

 29歳で結婚。勤め先はベンチャー企業で社員は若く、ほとんどが20〜30代。“体育会系”の社風で、連日、社員全員が終電帰り。帰宅することなく居酒屋になだれ込み、会社に戻って仮眠して翌日また仕事を続けることも珍しくなかった。

 男女の関係なく成績が評価され、昇格、賃金アップにつながり、社員は皆、やり甲斐を感じながら働いていた。最年少でリーダー職になった奈緒子さんは、同世代で一番の出世頭といわれていた。

 結婚する同僚はいたが、女性社員に出産経験者はいない。奈緒子さん自身、仕事が面白い時期。「いつか子どもは欲しい」とぼんやりと思っていても、具体的な想像はきなかった。

 独身時代と変わらず、仕事漬けの毎日。生理の遅れも「不規則な生活だから」と思っていたが、市販の妊娠検査薬を買って調べると、妊娠の陽性反応が出た。

 奈緒子さんは、「大事な仕事の納期も近いのに、どうしよう」と戸惑った。職場で妊娠を告げられないまま、深夜までの残業をこなした。「皆が150%、いや200%の働きをしている。私だけ早く帰ることはできない」。

出血して会社を休むと降格に
結局、職場流産に追い込まれる

 つわりの症状もなく、妊娠している自覚があまりないまま妊娠前と同じように仕事を続けていると、妊娠10週頃、子宮からの出血が始まった。慌てて受診すると、産婦人科医から「切迫流産(流産しかかる状態)です。しばらく安静にしないと流産する可能性が高い」と言われ、お腹に大事な命を宿していることに気づき、やっと上司に妊娠を報告する覚悟を決めた。

「すみません。実は、妊娠しています」

 謝る奈緒子さんの言葉に上司は面食らった様子で、「仕事一筋かとばかり思っていた。子ども、欲しかったの?」と尋ねる。

 奈緒子さんが「欲しいとは思ってはいたのですが……。こんな時期にすみません。産婦人科で、流産しそうだからしばらく休めと言われました……」と、やっとの思いで打ち明けた。上司は「困るなぁ」と、沈黙した。

 10日ほど休むと出血はおさまり、再び出勤すると上司から呼び出され、「10日も休まれると現場が回らない。リーダーから外す」と降格人事を告げられた。まるで妊娠が悪いことのようだった。

 職場で居づらい雰囲気になり、「休んだ分は、なんとかカバーする」と無理をすると、お腹の張りが強くなる。少し横になって休憩すれば張りはおさまるが、同僚にはそんな奈緒子さんの様子を気にかける余裕はない。

 忙しすぎて、結婚もままならない同僚が多いなかで、妊娠や出産という世界が身近に感じられず、「なんで妊婦だからって気を使わなければいけないのか」と陰口をたたく社員もいた。医師からは、無理をしないように指導されていたが、そんなマタハラを避けようと無理をするうちに再び出血が始まり、奈緒子さんは結局、流産してしまった。

 本来は、労働基準法や男女雇用機会均等法で、医師からの指導があり、本人が申し出れば、労働時間の短縮や負担の大きな作業について、軽減措置が図られなければならないが、実際には周知徹底されていない。

実は古くて新しいマタハラ問題
寿退社が「妊娠解雇」に置き換わった

 こうしたマタハラ問題は、古くて新しい問題なのではないか。1986年に男女雇用機会均等法が施行され、「女性総合職第1号」が生まれた頃は、今以上に男性よりも努力しないと認められない時代が続き、出産はおろか結婚も諦めて仕事を選ばなければならない風潮が少なからずあったという。

 その後、次第に女性の雇用の間口が広がり、かつての「寿退社」が減少。結婚し、出産し、子育てしながら働き続けるチャンスが少しずつではあるが増えていった。

妊娠すると派遣先から「不良品」呼ばわり
「派遣元にとっとと返品して」と言われる

 ところが、それもつかの間。2000年頃から始まった超就職氷河期で真っ先に女性の雇用にしわ寄せがいき、非正社員が急拡大したことで、かつての「寿退社」は「妊娠解雇」に置き換わった。

 この10〜15年ほどの間に企業で雇用が増えた派遣社員の場合、妊娠すると派遣先から「不良品」と呼ばれ、派遣元に「とっとと返品して」と言われる現象すら起こったのだ。

 数ヵ月おきの契約や1年ごとの契約更新であることが多い非正社員ほど、マタハラを受けやすい。25〜34歳の妊娠・出産適齢期ともいえる年齢層の非正社員比率は、約40%。この10年で10ポイントも増えている。

 化学メーカーに務める派遣社員の木下陽子さん(仮名・34歳)は、「妊娠解雇」に遭った。陽子さんは2年半前から3ヵ月ごとの契約で貿易事務をしていた。事務職は派遣社員が多いが、なかには正社員登用された人もいる。

 上司からは「派遣で3年経ったら正社員に登用されるかもしれない」と言われ、期待を膨らませたが、一方で「いつ妊娠すればいいのか」と悩んだ。正社員登用を待っていては35歳になっている。年齢を考えれば、そろそろ妊娠を考えても良い時期。

 女性にとって、35歳は妊娠の分かれ目だ。卵子は老化するため、35歳で妊娠率が低下し、流産率が高まる。陽子さんは、悩んだ末に「子どもは授かりもの。欲しいと思ってもすぐできるわけではない」と、自然に任せることにした。

 ほどなく妊娠がわかり、「早く報告して今後の相談をしたほうが良いだろう」と、派遣先の上司に報告した。数日後、派遣元の担当者から「次の契約更新がなくなりました」と連絡を受けた。

 納得できない陽子さんは派遣元に理由を尋ねたが、「スキルの問題です」と言われるばかり。他の派遣社員の契約が打ち切られるケースはなかったため、「妊娠したことが理由に違いない」としか思えなかった。

 派遣先の上司に契約の打ち切りについて食い下がると、「どうせなら、正社員になるまで妊娠を待てば良かったのに。派遣の間に何かあっても責任持てないから、辞めて安静にしたほうが良いのでは」と、契約打ち切りの理由が陽子さんの妊娠によるものだと、あっさり認めた。これは明らかに法律違反。“契約満了”という名の“妊娠解雇”だったのだ。

 交渉の余地がないのか探りたい陽子さんだったが、つわりがひどくなり、闘う気持ちになれなかった。陽子さんは、「たとえ闘ったとしても、職場に居づらくなる。無事な出産を考えると、余計なストレスを抱え込めない」と、諦め顔だ。

マタハラ被害者はセクハラを上回った
出産に理解のない企業に価値などない

 正社員か非正社員かを問わず、マタハラに遭うケースは多い。前述した連合の調査では、マタハラの被害者は25.6%となっており、連合の前年調査におけるセクハラ被害者の17%を上回っている。マタハラ被害者のうち45.7%と半数が、「相談せずに我慢した」という。

 陽子さんのように妊娠中、無事な出産を望む人は闘わずに泣き寝入りしやすい。この30年間、第1子出産を機に6〜7割の女性が無職になっている傾向はほぼ一貫して変わらないが、この中にはマタハラ被害者が数多くいたのではないだろうか。

 会計監査の世界では「ゴーイング・コンサーン」(継続企業の前提)という言葉があり、「継続企業に価値がある」と言われている。つまり、倒産せず、ずっと存在する企業だから投資する価値があるという意味を持つ。

 そこから考えれば、社員が継続的な雇用を望めないようなギリギリの経営をしている限り、その企業の存在価値はないといっても過言ではないだろう。ここに、日本経済がいかに弱体化しているかの実態が垣間見える。

 法制度を強化しても、倫理のない企業はすり抜ける。問題は根深く、解決に奇策はない。最終的には意識の問題が問われるが、業績が安定成長している企業は、妊産婦を問わず、社員が働きやすい組織づくりをしている。マタハラは、単に女性の問題だけではない。

 

 


 

【第6回】 2013年9月11日 バイロン・ケイティ [『ザ・ワーク』著者],ティム・マクリーン,高岡よし子
「やるべきことをやらない上司」への対処法は?
[その2]

上司に認めてほしいと求めるのではなく、自分で自分を認める

世界的に大きな反響を呼んでいる「ワーク」。自分にストレスや苦しみをもたらす考えに対し、4つの質問と「置き換え」というシンプルなステップを使って取り組む。短時間に視野を広げ、劇的なまでの心の解放をもたらすこともあり、高い評価を受けている。この「ワーク」を開発したバイロン・ケイティが、アメリカと日本の会場を結ぶネット中継で行なったセッションの模様を報告する。上司に対して怒りを感じていた、ある男性についての事例の続き(抜粋)である。

「認めてほしい」という思いがストレスのもと

ケイティ それでは、ワークシートの2番目の文章に取り組みましょう。

男性 「私は彼(上司)に、私の努力を認めてほしい」

ケイティ それは本当でしょうか?

男性 はい。

ケイティ 「私は彼に、私の努力を認めてほしい」――目を閉じて。そう考える時、あなたはどのように反応しますか?

男性 彼に飛びかかって、怒りたい気分です。

ケイティ 他にどのような反応がありますか?どういうことを言ったり、感じたりしますか?

男性 私がこんなに怒っているのに彼は無反応な感じで、自分だけ空回りしているような、そんな感じです。

ケイティ 上司の反応というのは、あなた自身の反応ではありませんね。目を閉じて。「私は彼に、私の努力を認めてほしい」という考えがない状態で、その状況を思い浮かべて下さい。その考えがなければ、あなたはどうなりますか?

男性 さっきまで、少し自分が惨めな気持ちだったんですが、それがなくなったのがひとつ。体が楽になって、自分が少し大きくなったように感じます。

ケイティ その考えがあると、ストレス状態になり、自分が小さく感じる。その考えがなければ、自分の存在全体を感じられるし、バランスがとれる。脅かされずに話を聞いたり、感じることができる。そして、制限なく反応を返すこともできる。「私は彼に、私の努力を認めてほしい」というのを、「私は私に……」と置き換えてみて下さい。

男性 「私は私に、彼の努力を認めてほしい」

ケイティ そうです。それについてやってみましょう。

男性 なぜなら、彼は彼なりに努力をしているから。

ケイティ 他の例はありますか?具体的に言って下さい。

男性 彼は職場の長として、この難しい状態でも、がんばっているから。

ケイティ あの会議室の中で、彼が努力した、もうひとつの例を挙げて下さい。

男性 私が彼を責めていても、彼は冷静に私の話を聞いている。

ケイティ 彼がやっている努力を認めることができるというのは、良いことです。努力してくれていることを、彼に伝えるのもいいと思います。上司が褒められることは、めったにないですからね。もうひとつ置き換えがありますけど、「私は私に……」

男性 「私は(私に)、私の努力を認めてほしい」

ケイティ あの状況の中で、自分の努力のひとつを認めることができる例をお願いします。

男性 つらい状況なのに、そのまま会社にいる。あとは、必死にその場の状況を打開しようと自分で考えています。

ケイティ あなたが自分の努力を認めることができる、他の例もお願いします。

男性 〈長い沈黙〉

ケイティ なかなか例が見つからないとしたら、上司にとってもあなたの努力を認めることが大変なのは想像できるでしょう。自分で認めにくいことを、上司に認めてもらいたいんですね。あなたがその業務や役割の中でいかに大切な存在か、私はあなたに認めてほしいんです。

男性 職場の他のメンバーの話を、共感しながら聞いています。(長い間を置いて)あと、他のメンバーの話を、よりわかりやすく上司に伝わるように言い換えてもいます。

ケイティ とてもいい答えです。私はもうひとつ置き換えを思いついたんですけど、聞きたいですか?

男性 お願いします。

自分が自分の努力を認める

ケイティ 「私は上司に、私の努力を認めてほしくない」

男性 なぜなら、人知れず努力しているほうが格好いいから。(聴衆、笑い)

ケイティ そうですね。「私は彼に、私の努力を認めてほしくない」

男性 簡単にできているように思われたほうが、才能があるように見えるから。(聴衆、笑い)

ケイティ 彼が認めないことにより、自分が自分の努力を認められるからです。

男性 なかなか、自分を認めることが難しいので……。そうしたいですね。

ケイティ 上司にとってあなたを認めることがどれだけ難しいか、もうわかりましたよね。あなたは自分自身といつも共にいるのに、それでも自分を認めるのが難しい。自分自身に対してしないことを、あなたは上司に期待するわけですね。

男性 そうです。

ケイティ それは、依存です。

男性 今までも、頭の中ではわかってたんですけど、今、すごい、実感として感じられました。

 その後、ワークはさらに続き、ワークシートの3番目の文章、「彼(上司)は、誠意をもって人に接するべきだ」という考えに取り組みました。

ケイティ その考えがないと、どうなりますか?

男性 「彼がただそこにいるという感じで、私の方は、彼の話を論理的に整理して、自分の考えを伝えることができる」

ケイティ 「素晴らしい。それこそ、あなたが望んでいることではないでしょうか?」

男性 そうです。

 そして置き換えに進みます。

あなたを引き止めるものはない

ケイティ 「私は……」と置き換えて下さい。

男性 「私は、誠意をもって彼に接するべきだ」なぜなら、彼の部下であるので、部下としての務めを果たさなければならない。

ケイティ あなたが、この状況において、人に誠意をもって接するべきであるという例は、ありますか?

男性 職場の課題を解決するために、それが必要だから。そうすることによって、職場の皆もお互いに誠意をもって接するようになると思います。

ケイティ まったくその通りです。あなたから始まるんです。どんな時でも、あなたがお手本になるんです。そしてあなたがクリアであれば、会社も皆も成長します。コミュニケーションがすべてなのです。不可欠です。「彼は、誠意をもって人に接するべきだ」について、他に置き換えはありますか。

男性 「私は誠意をもって、私に接するべきです」。なぜなら、自分を認めることをしてこなかったから。自分に誠意をもって接しなければ、人にも誠意を持って接することはできない。

ケイティ 素晴らしいですね。もうひとつ置き換えがあると思うんですが、「彼は、誠意をもって人と接するべきではない」。なぜなら……

男性 なぜなら……彼に頼ってばかりでなく、自分で動かなければいけないから。

ケイティ まったくその通りです。あなたを引き止めるものは何もありません。彼の話を敬意をもって聞き、自分自身の成長の機会とすることができます。彼が誠意をもって人と接しないことによって、あなた自身が気づいて成長できる。

ワークの効果は継続する

 ワークの効果はその場限りではないのか、継続するのかと思われることもあるでしょう。今回のセッションの数日後、この男性から、次のような感想文(抜粋)が届きました。読んでいただければ、このワークが、継続的な効果をもたらすものであることがわかるでしょう。

「私の中で劇的な変化が起こったのは、2日後の事だった。朝いつものように憂鬱な思いで会社へ向かって自転車で家を出た。週末のセッションを思い出しながら、川沿いの道を自転車で進んだ。『自分のことを認めていない』、そんな思いが頭の中をぐるぐる回り、『だから駄目なんだ』といつものように自分を責め続けながら。

 しかし、ふと思った。『自分を責めなくていい、考えを変えなくてもいい』。以前から言われていたことだが、自分の中でこの言葉が今までになく腑に落ちた。そしてその次の瞬間、自分が無理をして自分の考えと戦っていたことに気がついた。考えは勝手に現れるもの。それと戦っても勝てるわけない。考えは探求するだけでいい。その言葉の意味がやっとわかった。

 そして、今まで自分が、いろいろなことで苦しんでいた原因もわかった。『自分の領域』ではなく、『他人の領域』(注 相手の考えや感情であり、自分にはコントロールできないこと)や『神の領域』(注 自然現象のように、人間がコントロールできないこと)に入って戦っていたからである。(編注 ケイティの)本に何回もでてくることだが、やっと自分の中で納得できた。そしてそれに気付いてからは、『自分の領域』にとどまることがかなり簡単にできるようになり、ストレスが激減した。

 もちろん、今現在、全くストレスを感じることがなくなったわけではない。しかし、ストレスを感じ、ワークをしようとする時の姿勢が大きく変わった。今までは、この苦しみを何とかしたい。そんな思いでいっぱいだったのが、この苦しみはどんな考えから来るのだろう、それはなぜだろう。そういった探求しようとする気持ちが格段に強くなった。問題を解決するのではなく、理解することが大切だと。そして、今後もワークを続け、楽しみながら探求していきたい」

 ワークは、相手との関係をよくするためのものではありません。自分の考えとの、よりよいつきあい方を教えてくれるものです。自分の考えに囚われていると、苦しみます。ワークは、自分が見ている世界についての認識の歪みに気づかせ、思い込みから心を解放します。被害者意識から解放され、心が落ち着き、主体的な意欲が湧いてきます。それが結果的には、相手とのよい関係につながることになるのです。

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【第3回】 2013年9月11日 梅田カズヒコ [編集・ライター/プレスラボ代表取締役]
なぜお父さんは犬になったか
「家族」から唯一無二の絆が失われつつある理由

「強迫観念にとらわれたかのようにメールの返信を急ぐ人」、「せっかく一流企業に入ったのに辞めて、所得を減らしてでも自分らしい職場を探す人」……。一見不可解な現代の若者に特徴的なこれらの行動。こうした行動に駆り立てる原因を探っていくと、彼らの「認められたい」という思いに行きつくことが少なくない。現代において若者を悩ませる最大の問題は、経済的不安ではない。「認められない」という不安なのだ。

一方で、若者でない世代も含めて、日本に蔓延する閉塞感の正体を探る意味でも「承認」、さらに「承認格差」は、大きなキーワードだと考える。この連載では、経済的な格差に苦しむよりも深刻かもしれない、「“認められない”という名の格差」を考えていこうと思う。

前回のテーマ「結婚」と「承認」に対する
Twitterでの反応

 さて、この連載は、なんだか不安に襲われやすい、承認が満たされにくい現在の世の中で、一体何が起こっているのか探ることを主旨としているのだが、前回は、「市場競争化する結婚」と、それが生み出す現代の「承認格差社会」について書いた。そして、たくさんの反響をいただいた。

 いくつか重要な指摘をTwitter上でいただいたが、そのなかでも印象的だったのが、「会社が担ってきた、結婚相手探しがなくなったのが痛い」というコメントだった。要は、結婚相手探しを代行してくれる“おせっかい”が減った、それゆえに、結婚の市場競争化が加速しているというのだ。

“おせっかい”な親戚、上司が減った一方で、多額の費用を支払わなければならない結婚紹介所や、ネットを介した出会い系サイトなど、明らかにビジネスで結婚を仲介する業者が台頭してきているのは、結婚の市場競争化を考える上で重要な問題だ。このテーマについては、いつかまた機会を改めて論じたい。

“濃密な関係性”から“個人”へ
家族はなぜバラバラになったか

 さて、今回は結婚の先にある、「家族」について考えてみようと思う。我々にとって家族とは、最小単位の社会であり、それゆえに親密な相手から得られる「承認」の1つである「親和的承認」(※1)を得られる数少ない相手である。ゆえに、承認(あなたでいいんだよ、という救い)を考える上で、家族が担ってきた役割と、それが時代の変化でどう変わってきているかを考えることは、重要なことだ。

 今回もまた結論から書こう。「家族」は今、濃密な絆を持ったコミュニティではなくなり、人によっては空虚な存在になりつつある。この記事を読んでくださっている方々も、何となく感覚では理解できるのではないか。

(※1)前回、前々回の記事参考。

 例えば、高度経済成長中の日本の茶の間で、テレビを見ながら食卓を囲んでいた時代の「家族」と、各人に個室が与えられ、パソコンやスマートフォンが1人1台与えられている現代における「家族」では、何というか「家族の濃密さ」が薄まってきているのは、紛れもない事実である。もちろんこれは、だから時計の針を戻すべきという話ではない。前を向いて歩くためにも、「現代の家族」の姿を考える必要があるという意味だ。

 では、なぜ家族は濃密さを失ったのか。次にそれを書いていこうと思う。

好感度ナンバーワンCMの
お父さんは犬である

「サザエさん」に代表されるように、家族における悲喜こもごもを描くのは、日本のフィクションにおける伝統的なスタイルだ。では、フィクションの中で家族はどう扱われてきたか。それを紹介したいと思う。例として挙げるのは、家族が登場するCMについてだ。

 社会問題をテーマにした連載において、いきなり民間CMの設定に口出しするとは、重箱の隅をつつくように聞こえるかもしれない。しかし、CM(広告)やヒットソングなどの中身ほど、現代の空気が透けて見えるメディアはない。現在、家族が出てくるCMには、「ソフトバンクモバイル」、「味ぽん(ミツカン)」、「ビオレ(花王)」、「Cook Do(味の素)」、「イトーヨーカドー」、「NTT DoCoMo」「タント(ダイハツ)」などがある。

 これらのCMのなかで、「お父さん」がどう扱われるかをチェックしてほしい。たいていは「かっこつけようとして失敗するお父さん」、「お母さんの尻にしかれるお父さん」「ただただ美味しい料理に舌鼓を打つお父さん」「子どもと一緒にじゃれるお父さん」などという形で扱われている。

 もちろん、CMを見ている層は圧倒的に主婦層が多いのでお母さん中心の描写になるのは当然だが、要するに「家庭のなかにおけるお父さんの役割がなんだかよく分からない」というところが大きいのではないかと思う。

 かつての封建的な家族では、お父さんといえば一家の大黒柱で、家族の規律を監視するような役割が求められたが、今はそんなお父さん像ではCMに登場するお父さんとしてあまりにも古い。かといってイクメンなどと呼ばれるような家事に積極的なお父さんを「スタンダードなお父さん像」として紹介するのはまだ早すぎる。だから、お父さんはなんだかよく分からない、宙に浮いた存在なのである。

 もちろん、CMに出てくるお父さんは、会社では真面目に働いて、家族を経済面で支えているのだろう。しかし、家庭のなかでのお父さんというのは、お母さんと比べてどうも座りの悪い存在に見える。

 そんななか、かつてのように封建的な、厳格な父親が登場するCMが1つある。それも、家族が登場するCMのなかでは最もメジャーなものだ。それが、ソフトバンクモバイルのCM、「白戸家」だ。

 この家のなかでお父さんは、家族に少し恐れられる怖いお父さんで、家族の尊敬を集め、息子や娘にもわりと厳格な父親として振る舞う。が、このCMにおけるお父さんはなんと「犬」だ。白い犬。察するに、これは厳格な父をコミカルなことを求められるCMのなかで表現するための苦し紛れの選択だったのではないかと思う。それだけ、現代において家族のなかでお父さんの役割を描くのは難しくなってきているのだ。

民事不介入の原則からの解放
そして、家族のルールの変化

 かつての社会では、例えば家庭内暴力や虐待など、家族の中における問題行為は、「民事不介入」といって、警察や行政などは入り込めないという不文律があった。家庭内で行われていることが明らかに犯罪であったとしても、それが家庭内で行われている場合、なぜか警察は介入を嫌がるのだ。それは、大日本帝国憲法の制度において、戸主(つまりお父さん)が、家庭内の治安を管理、統治するというルールの名残だ。

 もちろん、これはかなり古い制度だったが、それでもなお、よそさまの家庭の事情にあまり口を突っ込んではいけないという現代でも通用しそうな暗黙のルールは、このような時代の名残を引き継いでいる。

 しかし、それでは数々の暴力や虐待などを防げなかった。昨今は、暴力沙汰など、行きすぎた家族のトラブルに対して、警察や行政など家族の外にいる組織が毅然とした対応をするべきだという認識が世間の総意となりつつある。

 これは素晴らしいことだ。このような時代の流れは歓迎するべきだ。歓迎するべきと断定した上で、これによって社会はどう変わるのか?

 かつての家族は社会的なルールとはまた別に、家族のなかのローカルルールで動いているような組織だと考えられる。が、現代はそこに社会の監視の目が入ったことを意味する。いくら家族内で許されていることであっても、それが社会から見てよくない行為であれば、認められない世の中になっている。要するに、「家族」という組織を運営する側から見たときは、これは「権力の弱体化」である。たとえ家庭の中とはいえ、一般的に許されない行為はやってはいけないのである。

 年頃の娘がいる家庭を例に考えてみよう。娘はスマートフォンを所持している。父親は最近の娘の行動や言動から、(ひょっとして犯罪などに関与するなどの罪を犯していないか)不安を感じ、娘がスマホでどのような人とどのようなコミュニケーションを取っているかを本人に内緒で盗み見たとする。結果として、娘の行動に不審な点は感じられなかったとしよう。

 しかし、盗み見たことを娘が知ったらどうか。烈火のごとく怒るだろう。年頃の娘なら当然だ。このとき、かつての父親なら「お前の行動が怪しいからチェックしているんだ!」と一喝すればしまいだろう。ところが、現代では人によって、家族のあり方によって判断が分かれる微妙なケースにならないだろうか。

 父と娘という関係性を無視すれば、男性が女性のスマホをのぞき見するなどの行為は、立派なストーカー行為である。父親は娘に対して謝らざるを得ないだろう。僕なら娘に謝る。例えば、娘の行動が疑わしく、どうしても親として娘のスマホをチェックしなければならないという事態になったとしても、娘が1人の人格を持った年頃であれば、同性である母親に代わりに娘のスマホを見てもらうなどの配慮は必要になってくるだろう。今はそういう社会なのだ。

茶の間のテレビから個室へ
家族共用PCから個人のスマホへ

 スマートフォンに関する話題が登場したので、インターネットが普及してから、スマートフォンを所持するまでの時代の変化と、家族に対する意識の変化について考えてみよう。

 かつては、家族が家庭のなかにいながらにして、家庭の外と交信する手段はなかった。それどころか、旧日本家屋では、個室すら与えられない=自分個人の時間がない、というのが多くの人の状況であった。

 しかし今や、家族の構成員それぞれに個室が与えられる時代になることで、我々は自分1人の時間を獲得することが可能になった。個室にテレビが導入されると、それぞれが好きな番組を見ることができるのである。熾烈なチャンネル争いから解放された。

 次に携帯電話が普及すると、特に子どもなどには、それまで皆無だった、外部との交信手段が与えられることになった。メールや電話を駆使すれば、家庭にいながらにして、クラスの友達などとやりとりできるのだ。それから時代が下って、PCの普及、スマホの普及が進むと、もはやどんな家庭の団らん時にも、スマホから通知機能のバイブ音が鳴る時代になったのである。

 こうしてみると、家族は次々に、家族の外側に接続する装置を得ていったといえる。風通しが良くなったともいえるが、一方では、家族団らんの時間を共有するという時間が減り、家族におけるコミュニケーションは以前よりも小さくなったともいえる。これにより、家族はいまや、「ただ純粋に生活を共にする人」になりつつある。極端にいえば、「ルームシェア」などとそれほど大きな違いはなくなってきているのだ。これは家族という概念の危機に瀕しているといえないだろうか。

「家族」という組織が
永久的な組織ではなくなっている

 駆け足になるが、最後に離婚率が上昇しているという現状も取り上げたい。厚労省の調査によると、1990年あたりを境に、離婚件数は増えている。前回の「結婚」に関する話題でも触れたが、意識の変化や、経済的な理由が主因だろう。実は2002年あたりを境に、離婚件数は減っているのだが、依然として離婚件数は過去の水準と比べると高いといえるだろう。

 離婚率が低い時代であれば、家族は永久機関で、一度家族が結成されると、永遠にそこから離れることはないと思われていた。しかし、今や家族とていつ崩壊するか分からない時代である。すると、家族に漂う「他の誰でもない唯一無二の絆」というものは、あるにはあるが昔ほどは盤石ではないといえるだろう。

 このような要因、家族への「外部からの監視」「外部への接続」「非永久化」などの要因によって、家族は絶対的な承認の場ではなくなっているのだろう。家族の絶対的な空間は後退し、相対化された家族空間においては、家族もまた、家族外との相互の承認を得なければ成立しない空間になっている。

 未婚率の増加によって、そもそも「家族」を築けない人も多いが、一度「家族」を築いたとしても、それはかつてのような絶対的な関係性ではないかもしれない。ますます、承認不安に陥りやすい環境が増えているといっていいだろう。

新連載「認められたい私、認めてくれない社会」について、ご意見、ご感想がある方は、筆者のTwitter(@umeda_kazuhiko)までお願いいたします。次回以降の執筆の参考にさせていただきます。


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