02. 2013年9月04日 09:36:23
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中国最西部まで広がる人手不足の深刻さ新疆で地下街を運営する辰野元信・新疆辰野商貿董事長に聞く 2013年9月4日(水) 宮澤 徹 中国景気が減速する中、内陸がこれからの成長の原動力になるとの見方がある。では日本企業にとってビジネスチャンスが広がっているのか。もちろん、そうした面はあるが、乗り越えなければならない問題も多い。新疆ウイグル自治区の中心地、ウルムチで15年前から地下街のショッピングセンターを運営する新疆辰野商貿の辰野元信董事長に聞いた。 (聞き手は宮澤 徹) ウルムチと聞くと日本人はシルクロードや民族問題のイメージが強いですが、ビジネス面ではあまり馴染みがありません。 辰野 元信 氏 日本オラクルで8年間営業・ビジネスプラン作成の部署を経た後、イスラエル・デジタルペンの副社長兼日本販社社長に就任。亡き父の後を継ぎ、2009年に今のウルムチショッピングセンターの代表取締役に就任。現在、インドネシア市場を狙った新規事業も立ち上げ中。 辰野:中心部へ日本人を案内すると、多くの方はだいたい第一声で「普通に都市ですね」と言います。砂漠の上に月が出て、ラクダが歩いているイメージを持つ人が多いですが、実際はもう上海ですと言っても分からないぐらいです。人口は15年前の3.5倍で、車も増え、渋滞も問題になっています。
中国政府はウルムチの公共投資にかなりの力を注いでいます。最近は地下鉄の工事も始まりました。2018年に完成の予定です。来年には北京と結ぶ高速鉄道も完成すると言われています。ネックだった物流がどんどん改善され、これから急激に伸びるマーケットであるのは間違いないでしょう。ガスなど資源も豊富で、エネルギー関係で儲けた富裕層も増えてきました。 人件費高騰に苦しむ沿岸部のような問題はありますか。 辰野:実はそれが頭の痛い問題なのです。先ほど述べたような発展に伴い、人件費が急騰しています。年20%増ぐらいで推移してきて、今は上海と同程度です。相当な高給を提示しないと来てくれません。働き手がとにかく足りていません。 流通業でも、月給3000元(約48000円)以下だと人は来てくれず、月給はさらに上がる気配があります。社員をせっかく研修をしても、他社に引き抜かれてしまうこともあります。春節(旧正月)で実家に帰ったら、もう帰ってこないこともあります。沿岸部の企業の悩みとまったく一緒です。 日本だから、という売り方はやめた 15年前から事業を始めていますが、日本式のサービスや商品は通用しましたか。 辰野:当時は中国に出るといっても、みんな上海など沿岸部ばかりでした。ウルムチには外資がほとんどなかったので、市政府は諸手を挙げて歓迎してくれました。「成功するなら辰野に乗れ」というスローガンまでできたくらいです。 日本並みの品質と価格とファッション性を持ち込み、高い評価を受けました。上海や香港でしか買えなかった商品をウルムチでも買えるということで、かなりセンセーショナルな話題になりました。そのころ中国にはサービスという概念すらないときですから、店員と目が合って、ニコッとされること自体が驚きだったようです。しかし、状況は変わりました。 やはり反日の打撃でしょうか。 辰野:正直言って、中国では地方に行けば行くほど反日の機運が高まる傾向にあります。上海などは国際都市なので、日本企業も日本人のこともよく知っており、そんなに影響はないでしょう。ただ、新疆では日本に触れる機会が少ないので、連日テレビで反日番組を放映されると、良いイメージを持たない人が増えてくるのはしかたがないかもしれません。 私たちも、反日で店を壊されるということはなかったですが、日系だから買いたくないという人が少しはいて、売り上げにもそれなりに影響しました。これがずっと続くとまずいな、と思っていました。幸い、現在は昨年の売り上げに戻っており、ホッとしています。 以前は、日本製品の品質はいいというイメージがあったので、それを利用したブランド戦略をとってきました。しかし今は、日本だから、という売り方はやめています。 原因は反日だけではない 反日が薄れれば解決する問題でしょうか。 辰野:日本企業がここで事業をする場合の問題は、反日だけではありません。日本企業のスピードの遅さにもあります。4、5年前にはウルムチの企業から、日本の大きな企業を紹介してほしいとよくお願いされました。しかし、最近は日本企業をもう連れてこないでくださいと言われるようになりました。 どうしてですかと聞いたら、欧米企業ならオーナーが飛行機で飛んできて、その場で商談がまとまり、次の日には入金される。それなのに、日本企業は決断が遅いし、なかなか投資に踏み切らないと言うのです。こんなゆっくりやっていたら共倒れになってしまう、と敬遠している面があるようです。 欧米や上海、北京から企業が続々と進出しているので、日本企業に頼りたいというニーズがだんだんなくなっています。 今から巻き返す手はありますか。 辰野:これからも伸びていく市場を取りにいくのなら、もっと事業のスピードを上げることが大切ではないでしょうか。それに、日本であろうがどこであろうが、モノやサービスの本当のよさで勝負すれば、それを評価する客が来るはずです。 日本色は消して、グローバルイメージを前面に出せば、まだまだチャンスは広がっていると思います。仮に日本への期待は薄くても、とにかく出て行って、いいものやサービスを提供し、シェアを早めに取ってしまう。こうした積極性がないと、うまくいかないでしょう。 漢族とウイグル族の民族問題も気になります。 辰野:もちろん、今後も状況は注視していく必要はあります。ただ、中心部での大規模な暴動はここ最近では起きていません。私も出張ベースで行きますし、現地に日本人スタッフも常駐しています。基本的には安全です。以前暴動があったせいで、警備は大幅に増強されていますし。 政府は他の地域との経済格差に問題があると見て、ウルムチでの公共投資をものすごく増やして全体の経済を底上げし、不平不満を減らそうとしています。その結果、経済成長が加速しているという面もあるようです。 このコラムについて キーパーソンに聞く 日経ビジネスのデスクが、話題の人、旬の人にインタビューします。このコラムを開けば毎日1人、新しいキーパーソンに出会えます。
中国が有望な市場であることに変わりはない
チャイナリスク再考(第1回) 2013年9月4日(水) 黄 リン 企業のビジネスを巡って日々流れるニュースの中には、今後の企業経営を一変させる大きな潮流が潜んでいる。その可能性を秘めた時事的な話題を毎月1つテーマとして取り上げ、国内有数のビジネススクールの看板教授たちに読み解いていただき、新たなビジネス潮流を導き出してもらう。 9月のテーマは、日本企業が直面する「チャイナリスク」。2012年9月11日に日本政府が尖閣諸島を国有化してから1年。中国国民の間でくすぶり続ける反日感情は、現地に進出している日本企業の事業活動にどのような影響を及ぼしているのか。また、賃金の高騰などによって、「世界の工場」としての中国の位置づけは変わりつつあると言われるが、実態はどうなのか。国内ビジネススクールの教壇に立つ4人の論客がリレー形式で登場し、持論を披露する。 トップバッターとして登場するのは、神戸大学大学院経営学研究科教授で、マーケティング・流通システムを専門とする黄磷(こう・りん)氏。チャイナリスクの本質と、それを踏まえて日本企業が取るべきリスクマネジメントのあり方について、2回にわたって論じる。 (構成は峯村創一=ライター) 昨年9月の尖閣諸島国有化をきっかけとして、日中関係が緊張し、反日デモが起こって、中国国民の対日感情が悪化したため、日本企業が中国国内でビジネスを行うことに伴うリスク、いわゆる「チャイナリスク」がクローズアップされるようになっています。 また、労働者の賃金の上昇や、中国経済の減速が明らかになり、生産拠点や市場としての中国の魅力も薄れてきたのではないかという声もあります。果たしてこれは本当でしょうか。 チャイナリスクに過敏な日本企業 日本企業は、総じて中国の政治情勢や社会変動などによるカントリーリスクに対し敏感な傾向があります。私が中国に現地法人を設立している日米欧企業を対象に行った2000年の調査では、近い将来(5年以内)、中国の政治や社会の変動が現地法人の経営に大きな困難をもたらすのかという質問に対して、その可能性が「大きい」または「非常に大きい」と回答した日本企業の比率が26%と、欧州企業の11%と米国企業の22%より高い結果が出ました。 その後、小泉純一郎政権時代の2005年に、反日デモが中国各地で起こり、一部が暴徒化したことをきっかけとして、日本企業はさらに中国におけるカントリーリスクに神経を尖らせるようになっていきました。 そして、2年前のジェトロ(日本貿易振興機構)海外ビジネス調査の結果を見ると、52.7%の日本企業が、中国の政情不安が気になると答えています。 さらに、ジェトロが2013年1月に実施した調査では、実に64.6%に上る日本企業が、日中間の現在の状況に非常に不安を感じ、中国の「政情リスクに問題あり」と回答し、危機感を募らせています。 これらの数字を見れば、「あんな怖いところへ進出するべきじゃない」「もう中国での事業をやめよう」と、日本企業が一斉に中国から撤退しようとしているような錯覚に陥るかもしれません。 中国への投資が増え、現地法人業績の見通しが改善 しかし、各種の最新調査を見れば、このような日本企業の心理と、実際の行動、現地市場の状況との間には、大きな隔たりがあることが分かります。 2013年上半期の日本から中国への投資は対前年比で14.4%増の47億ドルと、2ケタの伸びを維持しました。日本企業の対外投資が拡大傾向にある中で、日本からの対中投資額が減ることはないだろうと見ています。 またジェトロの日系企業活動実態調査、経済産業省の海外現地法人四半期調査、帝国データバンクの景気動向調査の結果を見ても、2012年10月から今年3月までの日系現地法人の売上高実績は十数%の大幅減を記録したものの、売上高の見通しも営業利益見込みも4月以降大きく改善しています。 また、中国の経済成長率がスローダウンし、従来の10%台から7.6%に落ちたことが問題視されていますが、日本を含む先進国と比較して、7.6%というのは十分な高成長を示す数字だと言えます。中国が依然として有望な市場であることには変わりありません。 中国では現在、2011年からスタートした国の「第12次5カ年計画」の3年目が進行中です。「5カ年計画」は、当初の2年間は助走期間であり急激な成長は見られませんが、3年目から成長が加速し、4年目には余った予算をどんどん投資していくというサイクルがあります。 今回の中国経済のスローダウンは、始動したばかりの習近平政権が政治的に安全運転を行わなければならないという要因もありますが、内需型の経済成長への転換を図るという変化によるところが大きいでしょう。 ですから、チャイナリスクについて議論する際には、雰囲気や一部の極論に惑わされることなく実態とデータに基づいて判断するとともに、これまで中国がたどってきた経済発展の歴史を踏まえて、将来を展望することが重要です。 戦略転換に成功した企業、失敗した企業 まずは、中国がこれまでたどってきた市場開放の軌跡を簡単に振り返ってみましょう。 1979年からケ小平氏が推し進めた「改革開放」路線の下、社会主義体制のまま市場経済へ移行するという難しい挑戦が始まりました。 2001年に中国はWTO(世界貿易機関)に加入。2006年には市場開放をほぼ達成し、自由貿易体制への仲間入りを果たします。 2006年から「第11次5カ年計画」がスタート。GDPの年平均成長率を7.5%とし、1人当たりGDP(国内総生産)を2000年比で2倍にする。エネルギー効率を20%高めるなどの政策目標が定められました。ところが、本計画3年目の2008年に、リーマンショックが世界中を襲います。中国政府は4兆元の財政出動によって経済成長を支えました。 もっとも、先見の明があった多くの日本企業は、リーマンショック以前に、いち早く戦略転換に着手していました。生産拠点としての中国から、消費市場としての中国へと見方を改め、中国国内で売り上げを拡大し、シェアを高めていくための施策を実行したのです。 例えば、従来の生産拠点としての現地法人を再編したり、中国の地域統括会社の本社機能を強化したりして、中国全土に販売網を広げ、マーケティング活動を強化して現地市場を攻略しようとしていました。 一方、労働集約型の輸出加工、例えば、広東省で靴を作って輸出していた企業は、リーマンショックのあおりをまともに受け、およそ3000社のうち実に約7割が工場閉鎖に追い込まれるという壊滅的な状況に陥りました。 追い打ちをかけるように、労働コストも2008年以降上昇が見られるようになったため、中国だけでなくベトナムやバングラデシュなどにも生産拠点を作ってリスク分散を図ろうという、いわゆる「チャイナプラスワン」の議論がこの頃から始まります。 粗雑なリスク論は無意味 ここで明確にしておかなくてはならないのは、この時、輸出加工型企業が直面したリスクは、実はチャイナリスクではなく、ビジネスリスクと呼ぶのが正しいということです。 神戸大学大学院経営学研究科の黄教授(写真:山田 哲也) ビジネス環境が変化したために、労賃の上昇が始まった沿海部から、労賃の安い内陸部へと中国国内で生産拠点を移転するか、それとも国境を越えてベトナムに移転するかは、個々の企業の合理的判断に基づく選択の範囲です。
本来、チャイナリスクとは、中国におけるカントリーリスクのこと。つまり一企業では対応しきれない政治や社会の情勢などによるリスクを指します。日本国内の一般的な議論は、そのあたりを混同しているために、混乱を招いていると思います。 同様に、中国に進出している企業を十把一絡げに論じていることも意味がありません。 現在、中国へ進出している日本企業は1万5000〜2万社あり、その4〜5割が製造業、約3割が卸業・貿易業などのB to B(企業間取引)、残りの約2割が中国国内市場をターゲットにしているサービス業です。 リスクについて考える際には、中国に生産拠点を置いている輸出加工型企業と、中国市場をターゲットとしている企業との違いを意識する必要があります。 真のチャイナリスクとは何か では、ビジネスリスクの枠に収まらない、本当の意味でのチャイナリスクとは何でしょうか。 それは、他国とは大きく事情が異なる中国市場の特異性です。英国も米国も、そして日本も100年や200年をかけて今日の成熟した資本主義市場を築いてきました。一方、中国は、社会主義計画経済から脱却してわずか30年しか経っていません。 私はこの30年の中国の急激な経済成長を「圧縮成長」と呼んでいますが、様々なプロセスを圧縮して経済が発展し、消費市場を拡大しているため、ビジネス環境の変化が非常に激しい。1人当たりGDPは約6000ドルの中進国以下ですが、沿海部の一部地域では既に2万ドルを超え、先進国レベルに達しています。すなわち、沿海部と内陸部、農村と都市の格差が非常に大きい。 中国市場の持つもう1つの特異性は、国土が広大であることです。ロシアを除いた欧州大陸より中国の方が広いと聞けば、そのスケールがお分かりいただけるでしょう。制度は全国一律であることが前提の日本とは異なり、各地域がそれぞれ独立して法律や制度を作っているために、地域による多様性が極めて高い。そういう意味で、リスクの高いマーケットであるわけです。 今後10年、中国は7%台の成長を維持し続ける 中央政府の方針が決まると、各地方はその方針に沿ってそれぞれ特色ある施策を取り、成長率目標を達成していく。そこに、中国の社会主義市場経済ならではの強みがあります。 2011年から始まっている「第12次5カ年計画」において、中央政府は、従来の成長至上主義を改め、バランスの取れた持続可能な発展を目指すことを方針としています。実質GDPの成長率も、7%台と低めに目標設定しています。過剰投資を抑えるとともに、低付加価値品の輸出依存から脱却して内需を拡大し、沿海部と内陸部、そして都市部と農村部の格差を是正するなど、様々な政策転換を行っています。 以前の中国では、中央政府が目標とする成長率を7.5%に設定していても、地方政府が貪欲に成長を追求するため、結果として10%を超えてしまうといった「スピード違反」がしばしば見られました。 しかし、現在では、中央政府が地方政府に対して、経済成長率以外にも社会問題や環境問題への対応も含めた指導と人事評価を行うようになっています。 従って、中国は今後も安定した経済成長を続けていくでしょう。今年6月に、マクロ経済の専門家を中国から神戸大学に招いて、今後の中国経済について議論しましたが、彼らの間でも「中国は、今後10年間、7%台の成長を続けていくだろう」という見方が主流でした。 リスクを見極め、リターンにつなげる ただし、リーマンショック後、中央政府が4兆元の財政出動によって一時的に経済成長を押し上げたことによる副作用は、現在も尾を引いています。中国市場は従来の輸出型の成長、あるいは投資を中心とした成長では限界に来ているということが、2008年頃から明確になりました。 今後は、輸出型と投資型を中心とした経済成長から、内需型の成長へ転換を果たさなければなりません。これは、そうたやすく転換できるものではないことは、このテーマの研究者としてよく承知しています。 しかし、過去30年間「中国経済は崩壊する」と言われ続けながら、次々と目の前に立ちふさがる試練を乗り越えてきたことは、紛れもない事実です。リスクのあるところには、大きなビジネスチャンスがあります。 トヨタ自動車もダイキン工業も、イオンもユニクロを展開するファーストリテイリングも、1年前の尖閣問題で反日感情が高まったときにも、中国で積極的に事業展開する姿勢を変えませんでした。 世界中の企業が、中国市場のリスクをマイナスとして評価するのではなく、事業の機会として冷静に見極め、そのリスクをコントロールすることで、大きなリターンの獲得を狙っています。韓国企業、ドイツ企業や米国企業など海外勢は日本以上の勢いで対中投資を再開しています。 そこで問題になるのが、中国に進出している日本企業のリスクに対する考え方やリスクマネジメント手法です。次回は、その点について論じていきたいと思います。 (次回は明日に黄教授の論考の後編を公開します) このコラムについて MBA看板教授が読むビジネス潮流 企業のビジネスを巡って日々流れるニュースの中には、今後の企業経営を一変させる大きな潮流が潜んでいる。その可能性を秘めた時事的な話題を国内有数のビジネススクールの看板教授たちが読み解き、新たなビジネス潮流を導き出していく。 |