02. 2013年9月04日 09:26:32
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ソニーの報酬は高いのかソニー元報酬委員会議長のフクシマ氏に聞く 2013年9月4日(水) 田中 深一郎 コーポレートガバナンス(企業統治)の強化に欠かせないのが、「社外の目」の活用だ。日本の実態はどうなのか。9月2日号の日経ビジネス特集「役員報酬の『怪』」でも取り上げたが、社外取締役の調査を手がけるプロネッドによると、米国は主要上場企業の平均取締役数11人弱のうち、社外取締役が9人を占める。これに対し日本(監査役設置会社)では、平均取締役数8人強のうち社外取締役は1人未満と、導入は遅れている。 では、実際に社外取締役を務めた人の目に、日本企業の役員報酬体系はどう映っているのか。日本を代表するヘッドハンターで、2003年から7年間ソニーの社外取締役を務めたG&Sグローバルアドバイザーズの橘・フクシマ・咲江社長に話を聞いた。 (聞き手は田中 深一郎) ソニーの報酬委員会議長のほか花王やパルコ、ブリヂストンなどで社外取締役を務めた立場から見て、日本企業の役員報酬の問題はどこにあるのか。 日本は移行期間、米国は株主視点に寄り過ぎ フクシマ氏:役員報酬の決め方は、これまでに私が社外役員を務めた日本企業9社でそれぞれに異なっていた。委員会設置会社でなくても、報酬委員会を設けて外部のアドバイザーも含めて意見を取り入れている会社もある。日本企業のガバナンスは全体として移行期間にあるが、業種・業態によって何がベストの形態かは違う。私自身、過去に米国の上場企業で12年間社内取締役を務めたが、米国式のガバナンスや報酬体系は株主視点に寄り過ぎている面があると感じている。 報酬委員会議長を務めていたソニーにおいてもそう述べたが、私の役員報酬についての基本的な考え方は次のようなものだ。 G&Sグローバルアドバイザーズの橘・フクシマ・咲江社長 まず、基本報酬である基本給は会社を統括する責任を示す、いわば日常的な経営のための“管理費”に相当する。そのために経営者に求められる責任は、会社の規模、業態の複雑さやグローバル展開の度合いなどによって異なる。
例えば、ソニーと資生堂を比較してみる。役員報酬の個別開示が始まったとき、ソニーの事業規模は資生堂の7倍以上だった。さらに、資生堂の業種は主に化粧品で、海外売上高比率は半分以下。一方で、ソニーは映画から半導体まで多岐にわたる領域を手がけ海外売上高比率が8割もあり、業務の複雑さが違う。従って、この2社の基本報酬に差があるのは自然だということになる。 一方、業績連動報酬は経営のパフォーマンスを反映する。これは、経営目標、予算数値、対前年の成長度合いなどに対する達成度を反映する。ただし、予算には恣意的な操作が可能な面もあるので、対前年比の売上高や利益の伸びなど、できるだけ根拠のしっかりとした数字も使う。さらに、自然災害など「経営者のコントロール外の要因」があった場合には、株主にとって納得できる要因かを考慮した上で、数字を決める。 それでフェアと言えるのか 業務の複雑さで分けるのはフェア(公正)と言えるのか。報酬委員会はそのことをどう見ているのか。 フクシマ氏:社外取締役で構成する報酬委員会だけで数字を作ることはできないので、まずは、社内の人事などの事務局が、必要なデータや報酬の原案を準備する。さらに、外部のコンサルタント会社に、同様の規模や事業の複雑さを持つ20社程度と自社の報酬水準をベンチマークした調査をしてもらう。これらを見て、報酬委員会ではその企業の業績、特に利益率に見合ったフェアな報酬は何かを議論する。 業績数値が未達だった場合、「何か仕方のない要因があったのか、その対応が適切だったのか」ということも含めて話し合う。株主総会前だけでなく、一年中定期的に会合を開き、「最適かつフェアな報酬制度」を模索する議論をしている。 最終的には、取締役会の承認を得て、株主総会で最終決定となるまでが、報酬委員会の仕事だ。報酬は役員の役割や、成果に対して適切な水準かを判断することが重要で、単に他社と比較して額の高低を議論してもあまり意味がない。 日本人と外国人で役員報酬が異なるケースが多いのはなぜか。 フクシマ氏:今後、グローバル競争が激しくなっていくなかで、「人財」を真に適材適所に配置することが重要になる。このため非日本人の活用が日本企業でも不可欠になるが、外国人役員を招く場合には、その人財の「市場価値」を考えに入れる必要がある。人財市場が発達している国では、優秀な人に来てもらうには他社と遜色のない相場で報酬を支払う必要があるからだ。 ただ、製造業かサービス業か、新興国か欧米でのビジネスか、などによって求められる人財の相場は違う。 一般的に欧米の企業では日本企業に比べて業績連動部分が多く、働く本人も「成果を出したらそれだけ報いてほしい」と考えている。転職の場合はリスクを伴う分のプレミアムは重要だが、あまり高額で招くと、早急な成果を期待することになってしまう。このため、最初の一年は助走期間として最低限、前職の給与プラスアルファを保証する、といった調整をすることもある。国の税制などもあり、一律に「外国人だからいくら」といった捉え方はできない。 米国は役員報酬が高すぎるが、反対に日本の役員報酬制度は極端に社会主義的になっている。これは、過去に日本企業は株主訴訟のリスクや、突然経営者が解任されるということが少なく、継続性をより重視し、利益はみんなで分け合おうという意識があったことが一因と考えられる。ただ、日本企業でも良い意味での能力主義や、従業員と役員の株主に対する価値や役割の違いを反映した報酬制度を浸透させる必要がある。役割に対して正当な給料を支払うというコンセプトをもう一度見直すべきだと思う。 高額報酬を批判はできない 経営不振のソニーが高額の役員報酬を支払うことなどに対し、日本企業のガバナンス改革が機能していないとの指摘もある。 フクシマ氏:上述の通り、基本報酬は管理費なので支払うことになるが、ソニーではリーマンショック時は業績連動報酬のボーナスをゼロにした。むしろ、欧米の銀行がリーマンショックの直後にも、「契約だから」と多額のボーナスを支払ったことにはガバナンス上問題があると感じた。 米国流のガバナンスは独立性や透明性の点では高いが、市場経済が徹底しているため、短期志向にならざるを得ない。有能なCEO(最高経営責任者)を連れてくれば株価が上がり、そのCEOがいなくなれば株価は大きく下がる。一方で、経営者はいつも解任のリスクと隣り合わせのため、高額報酬をもらっても批判はできない。もう少し、会社の長期的なサステナビリティーも考える必要もある。 日本企業も、海外投資家からも評価されるガバナンス改革が必要なのは言うまでもない。ただ、日米は両極端なので、日米どちらの制度が優れているという議論は無意味で、それぞれの経済のあり方、グローバル競争の中での立ち位置などを考慮し、業績を上げるための最適なガバナンスを模索する必要がある。 社外役員導入は拒絶すべきでない 役員報酬の透明化をどう進めればいいのか。 フクシマ氏:私が社外役員を務めている日本企業でも、役員報酬の計算式を作って定量性を持たせることで透明性を高め、株主を含むステークホールダーに対する説明責任を果たすべく検討をしているところもある。 確かに投資家から見れば、役員報酬の詳細を公開することは判断材料として重要だと思うが、その金額が高いか低いかという判断は、各投資家が経営者に何を期待するかによって異なる。短期的利益を求める投資家と長期的企業価値の向上を求める投資家では経営者の業績の評価も違ってくる。 重要なのは、企業と投資家の双方が責任のある姿勢で長期的な価値創造に当たること。その意味で、経営者が社外役員の導入などをかたくなに拒むことは理解できない。投資家の視点や、社外の目を入れることは、「自社の常識が社外の非常識」でないかどうかをチェックする良い機会になる。 日本の経営者は「三方よし」の理念を大事にしているし、会社のことや国のこともよく考えている。この経営原則を守りつつ、“Comply or Explain(ルールに従うか、さもなくば説明せよ)”というコーポレートガバナンスの要諦をしっかり実行していくことが重要だ。 このコラムについて 役員報酬の「怪」 日本企業における最後の聖域とも言える役員報酬。全てを社長が掌握し、権力集中の道具に使う企業も多い。不透明な役員報酬へ対する投資家などの目は厳しくなる一方だ。そこを改革しないと、日本の経営は世界から取り残される。 |