http://www.asyura2.com/13/hasan82/msg/247.html
Tweet |
日本を「捨てる会社」「捨てない会社」【第1部】わが社は日本の会社です 世界一のトヨタはなぜ日本に残るのか
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/36871
2013年09月02日(月) 週刊現代 :現代ビジネス
いまこそ問う、会社とは何か
利益のためなら、この国を捨てるのか
それで幸せか
【第1部】わが社は日本の会社です
世界一のトヨタはなぜ日本に残るのか
経営とは、結局、道を選ぶことなのだろう。自らの想いを貫き、信じた道を突き進んでいく。葛藤、迷い、勇気。では、彼らはなぜ、その道を選んだのか。そこからニッポンの未来の姿が見えてきた。
■一番大事なことは何か
いまでも語り草になっている事件≠ェある。
「トヨタは日本で生まれ育てられたグローバル企業であり、日本でのものづくりにこだわりたい」
2011年5月に開催された、トヨタ自動車の決算会見でのこと。社長の豊田章男氏が日本でのものづくりへのこだわりを語ると、その直後、横に座っていた財務担当副社長の小澤哲氏が次のように切り返した。
「日本でのものづくりは一企業の努力の限界を超えているのではないか。社長に進言せざるを得ない」
全国紙経済部記者が言う。
「公の場で社長と副社長が食い違い≠見せるのは異例のことでした」
折しも東日本大震災が襲った直後。1ドル80円台の超円高が続き、容赦なく日本企業の体力を奪っていた時期でもある。国内にこだわっていては、日本企業はバタバタと倒れてしまうのではないか。多くの日本人がそう感じていた時に、章男氏は、時流に逆らうように国内で踏ん張る決意を示したのである。
あれから2年。トヨタは、'12年の世界自動車販売台数でライバルであるゼネラル・モーターズ、フォルクスワーゲンを抜いて、世界一に返り咲いた。
さらに今年5月に発表されたトヨタの決算は、世界をあっと驚かせた。'13年3月期決算で約1兆3000億円の連結営業黒字を確保。5年ぶりに営業利益が1兆円の大台を突破し、ついに復活の狼煙を上げ始めたのだ。
この日、都内で決算会見に臨んだ章男氏は、トヨタが単独決算でも営業黒字を確保したことを強調した。単独決算の黒字とはつまり、5年ぶりにトヨタが国内で納税できる態勢が整ったことを意味していた。会見の場で章男氏は、「やっと前を向いていける」と喜びを隠さなかった。
「章男社長はリーマン・ショック後の厳しい局面で社長に就任し、その後も米国でのリコール問題、東日本大震災、中国での反日デモなど相次ぐ難局に直面してきた。そうした中にあっても、国家レベルでものづくりを語り、国内300万台の生産を維持すると言い続け、断行してきました。
目先の利益を追えば、安易に海外に逃げることもできたでしょう。しかし、それを断固として拒否した。その上で世界一の自動車メーカーに返り咲いたところに、凄味があるのです」(経済ジャーナリストの塚本潔氏)
章男氏はなぜここまで「国内」にこだわるのか。そこに、トヨタ復活の秘密が隠されている。実はいまトヨタの成功を教訓に、「国内」にこだわることが、逆に、グローバル競争を勝ち抜く力の源泉になるとの指摘が出始めている。東京大学教授の高橋伸夫氏が言う。
「海外に進出する際は、現地の人材をなるべく多用したほうがいいと言われてきましたが、最近になって、より多くの日本人を駐在員として派遣している企業のほうがパフォーマンスがいいという分析結果が出てきています。ただ、優秀な日本人を派遣するというのが条件。つまり、トヨタのように日本国内に強固な土台を置き、国内できちんと人材を教育している企業のほうが、グローバル競争で勝ち残れる可能性が高いといえます」
それだけではない。高橋氏が続ける。
「トヨタは国内に中核となる工場を置き、その周辺に集まる下請け企業を手取り足取り指導しています。こうした親子のような関係を維持し続けていると、下請け企業が成長し、下請けから革新的な技術開発がもたらされることがあります。コストの安い取引先へと、下請け企業を次々と乗り換えるドライな関係からは手に入らない競争力の源泉になるわけです。これも国内を土台に、辛抱強く下請けと付き合っていないと得られないものです」
実際、トヨタがV字回復できた背景には、下請け企業との親子関係≠ェ欠かせなかった。円高にも負けないコスト体質を作るには、下請けの協力が必須。トヨタは数万社とも言われる取引先との間で、1銭、1円単位でいかにコストを切り詰められるかを相談。トヨタの幹部が自ら出向いて、仕入れ先と交渉する場面もあった。
「下請けもきつかったでしょうが、『トヨタのためなら』と頑張った企業も少なくなかった。結果、トヨタはコスト競争力が1兆円ほど増したと言われています」(前出・経済部記者)
東日本大震災が発生した直後には、トヨタの従業員が被災した取引先の工場に赴くなど、協力して復興に尽力したこともあった。早期に生産再開できた背景には、国内で培ってきたこうしたキズナがあったのだ。
■日本と日本人のために
章男氏は、次のような思想を持っている。
クルマはトヨタという一企業だけで作っているわけではない。仕入れ先、販売店などすべての関係先が一体となり、また納税先の地域が潤うことで初めて、いいクルマというのは生み出される。トヨタの真の競争力はまさにそこにあり、これを維持するためには、きちんと日本で納税しなければいけないし、国内300万台という生産台数が最低限必要なのだ、と。
章男氏の国内へのこだわりは、他にもこんなエピソードからうかがい知れる。
「税金を納めるという最低限の責務も果たしていない」
苦渋の思いをにじませた声で、章男氏が言葉を振り絞る。'09年6月、トヨタ自動車11代目社長就任後、初めて臨んだ会見でのことだ。
この年、トヨタ自動車は4610億円の営業赤字を計上。トヨタが赤字に転落するのは、59年ぶりだった。
トヨタグループの創始者である豊田佐吉の遺訓『豊田綱領』には「産業報国の実を挙ぐべし」との言葉が書かれている。税金を納め、雇用を生み、日本という国家に貢献することにトヨタが存在する意義がある。佐吉のひ孫にあたる章男氏は、創業家に連なる自身が、社長としてその理念をかなえられなかったことに対して無念を滲ませたのだ。
どん底のスタートから4年が経った今年5月。章男氏は、ドイツ北西部・ニュルブルクの地に降り立っていた。アマチュアカーレースの最高峰と言われる「24時間耐久レース」にドライバーとして参戦するためだ。
元来のクルマ好き。自らハンドルを握ることでクルマの良し悪しを感じられるようになりたいとの思いもあり、副社長時代からレースに参戦してきた。しかし、社長になってからは業績が悪化する中、「レースに出ている場合か」との批判を受けかねず、自粛していた。
社長就任後初めて解禁し、レースに参戦したのは前述の復活決算会見の約2週間後のこと。トヨタが納税できる企業に戻ったことは、少なからずレース解禁の後押しをしたのだろう。ドイツでの章男氏は、晴れ晴れとした表情を見せた。
いずれにしても、トヨタ復活が持つ意味は大きい。トヨタの売上高は、日本のGDPの5%ほどを占めるので、日本経済復活への道も見えてくる。だが、トヨタ復活の意味はそれだけにとどまらない。
グローバル競争が激化する現在、企業は1円でもコストを削ろうと、海外の税金の安い地域を利用した「節税」に励んだり、安い賃金でヒトを雇える新興国に生産拠点を移転させる「節人」を加速させている。
税金も人件費もすべてコスト。安ければ安いほどいいから、競争を勝ち抜くためには、日本を捨ててでも海外に出ていかざるを得ない。それがグローバル時代の常識かの如く、叫ばれるようになって久しい。
しかし、こうしたグローバル企業がいくら成功しても、日本の雇用は増えないし、税収も失われる一方であるという真実に、われわれは気付き始めた。彼らが頑張ってくれれば、いつか従業員や取引先にも恩恵が回ってくるとの期待も、裏切られ続けている。稼いだ利益は、従業員などは後回しに、株主ばかりに支払われるからだ。
それでも、グローバルを旗印に、日本を捨てて外へと出ていこうとする企業は後を絶たない。行き着く先は、富める者はますます富み、その下に大量の貧者が溢れる国家の姿だろう。街には働く場のない失業者が溢れかえり、政府は底をついた国庫を言い訳に、年金・医療といった社会保障を切り崩していく。そんな国家に嫌気がさし、企業がまた日本から逃げ出していく負のスパイラルが、すでに始まっているのだ。
「いま求められているのは、成長と雇用や納税といった社会貢献を両立できる日本企業なのです。海外に出ていくことを否定するわけではありません。グローバルに活躍しながら、日本という国にもきちんと貢献できる真のグローバル企業が必要です。そしてこれを体現している稀有な企業が、トヨタなのです」(エコノミストの中原圭介氏)
クルマづくりを通じた社会貢献―章男氏はよく、この言葉を使う。章男氏の経営の根幹に据えられた、確たる信念である。日本に税金を支払えないことは、「恥だ」と言ってはばからないほどだ。
納税とともに、章男氏がこだわっているのが雇用である。章男氏は頻繁に、次のような数字を持ち出す。
「自動車各社が年100万台の生産を海外に移転すると、雇用が22万人失われる」
工場で働く従業員だけではない。生産が海外に移れば、工場の周りに集積する下請け企業、その下請け企業から仕事を受注する二次下請けで働く人々の雇用までが失われてしまう。
社長のたった一つの決断が、それだけの人々の人生を左右してしまう。だからこそ、「石にかじりついてでも、国内で300万台の生産を維持する」と章男氏はこだわり続けるのだ。
今年の決算発表時、章男氏が発表した「豊田社長あいさつ」なる文章には、こんな言葉が書かれていた。
「これまでの逆風が収まり、いざ攻勢の時といった声も聞かれますが、私たちはまだ持続的成長のスタートラインに立っただけと考えております」
鼻息荒く、台数や規模を目指すと叫ぶのではなく、関係先や社会が一緒に幸せになれるよう、持続的に成長していく。その目標はグローバル思想に染まった人には物足りないものに映るだろう。しかし一方では、トヨタは日本を代表する、日本の会社だという強烈な自負が透ける一文にも見えてくるのである。
〈第2部へつづく・9月3日公開〉
「週刊現代」2013年9月7日号より
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。