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米テキサス州フォートワース市内にあるシェールガスの井戸。幹線道路沿いに、こうした井戸が多数ある
シェールガス開発ラッシュ バブル化の兆しも…期待ますます膨らむ
http://www.sankeibiz.jp/macro/news/130902/mcb1309020601010-n1.htm
2013.9.2 06:00 SankeiBiz
太古は海底だったというテキサス州フォートワース。街の中心部から少しはずれると見渡す限り地平線が続く広大な土地が広がる。その地下深くに岩石層の「バーネット・シェール(頁岩(けつがん))層」がある。現在、米国の経済構造を激変させるだけでなく、世界のエネルギー地図をも塗り替えつつある「シェールガス革命」は、今から10年以上前、この地で始まった。
■昼夜問わず響く騒音
広大な土地を貫く道路沿いには、テニスコート4面分ほどのフェンスに囲まれたシェールガスの井戸が点在する。掘削機がうなりをあげている場所も多い。鋼管を満載したトラックや水を運ぶタンクローリーがひっきりなしに道路を行き交う。
シェールガスブームが訪れる前は考えられなかったほど活況に沸く町には、また、そのゆがみも表れ始めた。
市内の幹線道路を一本外れ森を進むと、静かなたたずまいの東南アジア風の住居に突き当たった。シェール開発に異議を唱える金融コンサルタント、デボラ・ロジャースさん(51)の自宅だ。
祖父が残した22エーカー(東京ドーム約2個分)の土地を受け継ぎ、2003年に家や納戸を作り直しヤギの飼育を始めた。今は60頭いて、チーズも作る。
彼女が天然ガスの開発会社から、敷地内地下の資源開発権「ミネラル・ライト」購入の打診を受けたのは08年。価格は3年間で30万ドル(約2940万円)で、ガス生産が始まれば、販売収入の2割を得られるという話だった。
「平穏な暮らしを壊したくない」とその申し出を断ったロジャースさんは、周辺の開発でも酪農に影響が出ないよう申し入れた。
翌年、自宅の母屋から100メートルほど離れた隣人の敷地で突如森林が伐採され、その2年後の11年には掘削とシェールガス生産が始まった。案内してもらうと、裏庭のフェンス越しに、タンクやパイプ、数本の井戸が見えた。24時間の無人操業で、地下に圧力をかけているのか、モーター音がこだまする。「夜にはベッドルームにまで響いてくる」そうだ。
■「生産を楽観しすぎ」
欧州などでは地下資源は国に属するが、米国ではその土地の所有者が権利を有する。テキサスでは、地下に広がる資源を「誰かにとられる前に、自分が吸い上げてしまおう」という動機が、1930年代は石油、2000年代後半にはシェールラッシュにつながった。ロジャースさんが苦情を言っても、開発業者は「許可を得ている」の一点張りで、取り合ってもらえない。
ただ、ロジャースさんがシェール開発に異議を唱える理由は、騒音ばかりではない。親類が石油産業に勤めるなどむしろ理解はある。彼女は英国の投資銀行で企業買収などの業務を経験して米国に戻り、公共資産管理のアドバイザーを務めていた09年、商工会議所でガス開発会社の経営説明に疑問を感じた。
「将来の生産を楽観しすぎており、負債が大きすぎないか。住宅の値上がりを期待し借金を重ね失敗したリーマン・ショックから学んでいない。バブルだ」
■膨らむ期待 恩恵どこに
実際、シェールブームでガス価格は暴落。08年に取引単位(100万BTU=英国熱量単位)当たり約13ドルをつけていた米国内のガス価格は、12年には2ドル台に下落し、足元では4ドル前後で推移している。フォートワースを中心に広がるバーネット・シェール層の採算分岐点は6ドルとされる。
ロジャースさんは、今年3月下旬、米上院の液化天然ガス(LNG)輸出審議の公聴会にも呼ばれ持論を展開した。だが、オバマ大統領が「米国には100年近く持続可能な天然ガス供給量がある」(昨年の一般教書演説)と述べる中、「彼女の主張は圧倒的な少数意見」(議会スタッフ)。雇用拡大にもつながっているシェール革命に水を差す意見はワシントンで異端視されている。
■価格上昇見込み布石
ただ、シェールガス開発がバブル化している兆しがあることは完全に否定はできない。
フォートワース中心部でひときわ目立つ20階建てのオフィスビルは、シェールで急成長したチェサピーク(本社・オクラホマシティー)が08年に約1億ドルで流通大手から買収した。ビル名も自社名に改名するなど、シェールブームの象徴的な存在だったが、ガス価格暴落で同社の財務が逼迫(ひっぱく)し、売却が決まった。地元紙によると、5月にビル売却を発表したものの、予想販売額は購入価格の6割程度。従業員解雇を進め、08年の最盛期には地域で44基展開していた掘削リグも2基に減らした。
生産量の伸びも鈍化している。シェールガスは、生産開始から2〜3年でガスの噴出量が急落する。従来型のガス田に比べ老化が早く、米エネルギー省の報告書は、多くは最初の4年で可採埋蔵量の6〜9割が産出されてしまうと指摘する。
バーネット・シェールで開発許可が出た井戸数は04年の1112本(生産量3800億立方フィート)から、ピークの08年には4145本(1兆6120億立方フィート)と、4年でそれぞれ4倍となった。しかし、その後は毎年2000本前後の井戸が追加されているのに、生産量は微増にとどまっている。
「確かに今は供給過剰でバーネット・シェールは減速モードだ。でもガス価格が回復すれば投資余力も生まれる。同じ鉱区でパイプの数を増やすなど、効率的に生産規模を拡大する技術もある」。現地でシェール開発を行うクイックシルバー・リソーシズの担当者はこう語る。
東京ガスは今年3月、同社から権益の25%を4億8500万ドルで購入し、米国でのシェール開発に進出すると発表した。クイックシルバーにとっては、業績悪化が続く中での資産売却だ。これで一息ついた同社は経営再建に向け昨年発表していた増資計画を取り下げた。
クイックシルバーは、最近も自動車レース場や湖の下の開発権を市などから購入するなど、今後の輸出拡大などによるガス価格上昇を見込んで開発拡大の布石を打っている。
■税収や雇用が改善
「公共部門がシェールの恩恵を一番受けているんだよ」と、案内してくれた同社担当者は指摘する。税収の増加や雇用環境改善など、シェールは厳しかった公共部門の財政を支える。
さまざまな主体が革命の恩恵を受けようと、シェールに群がる構図は、ガス価格が下落しても変わらない。それどころか、ますます期待は膨らんでいる。
日本は恩恵をどう取り込むのか。例えば、イタリアの政府系エネルギー大手はクイックシルバーに技師ら約10人を常駐させていた。アフリカでのシェール開発などがその視野にある。
日本の電力・ガス会社から案件紹介をよく受けるというある日系商社マンは「簡単に安いガスが調達できると思う幻想こそがバブル。独自の技術や情報を武器に現地で汗をかかなければ、米国は報いてくれない」と指摘する。資金を供給し、権益を得るという従来のやり方だけでは、バブルに踊らさせることになりかねない。
シェールガス革命でエネルギー大国に変貌する可能性が出てきた米国。エネルギー勢力図は本当に塗り替わるのか。現地で最新動向を取材した。(吉村英輝)
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