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2013年8月30日 財部誠一 [経済ジャーナリスト]
■「農業・医療の規制が緩和されれば成長戦略は成功する」の誤り
アベノミクスの成否を決めるのは「成長戦略」であり、その真価は既得権益に切り込む「規制緩和」をどこまで進められるかで決する――。
多くのメディアはそう繰り返してきた。そして最終的には、規制緩和に強烈な抵抗をしてきた農業界、医療界の「岩盤規制」を切り崩せるかどうかでアベノミクスの成否が決まるというゴールセッティングが、いつの間にか出来上がってしまった。
たしかに既得権を守ることに汲々としてきた農業、医療への切り込みは、もはや避けて通れぬ国家的ミッションである。深刻な担い手不足の農業界や、人口減少で国民皆保険の前提が崩壊しつつある医療界の、近未来には希望のかけらもない。日本の将来を考えれば、安倍政権が「岩盤規制」に切り込むことへの期待は高まる一方である。またそれは是が非でもやらなければならない。
だが、「岩盤規制」が規制緩和のベンチマークであるかのような認識は誤りだ。傍目にはどうということもなく見えるが、当事者にとっては途方もなく大きな壁となり、活力を奪っている規制が世の中にはごまんとある。役所にとっては規制こそパワーの源泉だ。規制で民間企業の首根っこを押さえ込んでいればこそ、天下り先も確保できる。
楽天の三木谷浩史社長が先導した医薬品のネット販売解禁のような派手な規制論議の影に隠れた、一見些細に見えるが、民間企業にとって重大な障害となっている無数の規制を切り崩すことの方が、どれだけ日本の成長性を高めるかわからない。
役所は巧妙に規制をするが、規制緩和を政治に強制された時、彼らはさらなる巧妙さを発揮する。時の政府の意向に従って表向きは規制緩和をしたように見せかけるが、緩和の実態などまったく期待できぬまで骨抜きにしてしまう。規制を緩和したふりだけする。見せかけだけの規制緩和でやりすごす。それが霞が関である。
象徴的な事例を紹介しよう。
沖縄県にのみ許されてきた3つの経済特区の実態をみると、役所の悪質ぶりが手に取るようにわかる。
■霞ヶ関に骨抜きにされた「名ばかり沖縄経済特区」の実態
平成14年、今から11年も前に、沖縄振興法が改正されたタイミングで、沖縄には他の都道府県が羨む経済特区が3つも誕生した。
言うまでもなく、その背景には米軍基地問題がある。多くの本土の人間は、だからこそ沖縄には莫大な予算措置がほどこされ、やりたい放題の経済特区まで許されている、と思い込んでいるはずだ。
だが、現実は違う。沖縄の人々の気持ちのなかには、基地問題と沖縄振興を一緒にしてもらいたくないという思いが強い。沖縄振興は基地負担の対価ではなく、本土と差別されてきた不幸な歴史に対する償いだという思いが心の奥底に潜んでいる。さらに、歴代の政治家たちが、その背後にさまざまな政治的思惑を持っていたにせよ、本当に沖縄の役立ちたいという思いをもって政策を講じてきたことは間違いない。
そこにいくと霞ヶ関は冷淡だ。役所の既得権益を侵しかねない「規制緩和」には容赦なく抵抗し、ついには抵抗できぬとなるやいなや、政治家が実現した「規制緩和」を完膚なきまでに骨抜きするということを役所は続けてきた。
沖縄経済特区の骨抜きはその象徴だ。
@物流特区(国際物流拠点産業集積地域)
A金融特区(金融業務特別地区)
B情報特区(情報通信産業特別地区)
これらの特区に進出した企業は税制上大きなメリットを受けられることになっている。たとえば法人税は最大40%免除される。現在法人税の実効税率は36%。その40%が免除されると、沖縄の特区に進出した企業の法人税は20%程度。最大で19.5%まで法人税が下がるとされている。これならシンガポールとも競争できる。さぞや多くの企業が沖縄の特区に進出しているのだろうと思われるが、沖縄県の企業誘致に携わるベテラン職員によれば、「実績はほぼゼロ」だという。
「金融特区制度の創設は平成14年で、過去に1社が認定された実績がありますが、『実際にはなんのメリットもない』として撤退してしまいました。じつは金融特区に進出した金融機関(証券会社)は過去に7社ありましたが、6社は認定も受けなかった。そして今現在どうなっているかといえば、7社すべてが撤退してしまいました」
では、情報特区の実績はどうか。
「情報特区は平成14年の制度創設以来、実績がありません」
物流特区の実態も似たようなものだという。
「物流特区の制度創設は平成10年で、これまでに5社が事業認定を受けています。しかし5社すべてが『税制上のメリットは大きくない』と答えています」
■進出企業をゼロにした“2つの足かせ”とは
なぜ、こんなことになってしまったのだろうか。
ひとことで言えば、ハードルが高すぎるのだ。特区のメリットを享受するために必要とされる条件設定が厳しすぎて、実際は誰も特区を利用できなくなっている。まさに特区とは名ばかり。骨抜きにされている。金融特区制度を例にとって説明しよう。
「沖振法第56条第1項」にはこう記されている。
「前条第一項に規定する金融業務特別地区の区域内において設立され、当該区域内において金融業務に係る事業を営む法人は、当該区域内に本店又は主たる事務所を有するものであること、常時使用する従業員の数が政令で定める数以上であることその他政令で定める要件に該当する旨の主務大臣の認定を受けることができる。」
要するに新設法人でなければならないという足かせがこの条文に埋め込まれている。たとえば、野村証券や大和証券が金融特区に支店を設けても法人税の優遇措置は受けられない。「沖縄野村証券」あるいは「沖縄大和証券」のように新たな法人を設立しなければならない。
そこまではわかる。そうしなければ、沖縄以外にある本社の利益を沖縄に付け替えて、不当な税制優遇を受ける企業が出てきかねない。
問題は、その先にある足かせだ。沖縄の金融特区外でのビジネス展開が厳しく制限されているのである。特区に進出した企業が税制上の優遇措置を受けるためには、東京や大阪など沖縄以外の地域での営業活動をしてはならない、となっている。さらに雇用者制限がつく。現状では「10名以上雇用しなればならない」と政令で定められている。また、物流特区では、雇用者制限のハードルが「20名」とさらに上がる。
物流特区に新設法人をかまえた計測器メーカーがある。アジア各地で部品を生産し、それらを沖縄の物流特区に集約して、組み立てを行い、「メイドインジャパン」として再びアジアに輸出している。技術力も高い優良企業だが、やはり税制上の恩典を受けられていない。
「上場している大企業が、1つの事業部を子会社化して移転するのなら、物流特区に課された20人の雇用条件をクリアすることも簡単なのかもしれませんが、中堅中小企業は段階的に沖縄での事業拡大を行うため、20人の雇用条件を満たすのは容易ではない」(同職員)
アベノミクスの第3の矢は、「農業や医療など岩盤規制をどう打ち破るか」だという表規が常套句となっている。しかしその前に、いますぐできる規制緩和がいくらでもある。沖縄振興に象徴されるように、規制緩和を骨抜きにしている実態にメスをいれるだけでも、民間活力を生み出すことはいくらでもできる。細かく、丁寧に規制の実態を把握し、強烈な政治力で一気に役所を動かすこと。地味だが、それこそが安倍政権に求められる本当の成長戦略である。
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