02. 2013年9月10日 08:14:11
: niiL5nr8dQ
【第3回】 2013年9月10日 河合起季 危うし! 50歳前後のサラリーマン。 会社の本音は「もう辞めてもらいたい」!? もし今、50歳前後のサラリーマンで、「このまま65歳まで会社にいて給料をもらい、あとは年金生活に入ろう」と考えているなら、それはあまりにもお気楽かもしれない。 人材サービスを手掛ける会社の社長から聞いた話だが、某大手企業(いわゆる重厚長大産業の企業)の人事担当役員が「通常の人事の業務として、社員比率が高い50歳前後(48〜54歳程度)から退職勧奨を強化せざるを得ない。早期退職制度は40歳半ばまで引き下げられるのではないか」と話していたという。 50歳前後といえば、まだ働き盛りと思っていたのに、会社は「もう辞めてもらいたい」と思っているのだからコワイ話だ。経営環境が厳しさを増すなか、もはや企業側も高度経済成長期のように社員全員を最後まで“看取る”余裕はない。「給料が下がってもいいから、このままいさせて」と願っても、会社にしがみつかせてもらえなくなる日も近いのだ。 人件費の負担だけでなく、50歳前後の入社は景気がよかった80年代で、採用された人数が多いことも問題。彼らに早く出て行ってもらい、若手に昇進のチャンスを与えなければ、優秀な若い人材ほど辞めていってしまうという事情もある。 先の役員が言うには「50歳前後の年代になると、会社にぶら下がり、“給料以下の仕事しかできない人”は、正直言って全体の5割を超える。2割くらいが将来の役員として会社を担っていってほしい人材」なのだそう。50歳前後のサラリーマンで「最近は仕事があまりできないなぁ」と自覚している人は、いつ肩をたたかれてもおかしくないというわけだ。 会社にとっての課題は、 いらない人材にどう「ご退場」いただくか そもそもこの役員が人材サービス会社を訪れたのは、「50歳前後の社員を対象としたショック療法的な研修プログラムができないか」という相談のためだった。“ショック療法的”とは穏やかではないが、そこには3つの思惑がある。 1つは、給料に見合った仕事ができなければ会社にいられないことを自覚してもらうこと。「そんなにがんばらなくても、定年まで給料はもらえる」と努力を怠っている人に警鐘を鳴らし、仕事ができる人材に変わってほしいというわけだ。 もう1つは、ショック療法も効かなかった人には早期退職制度を利用して辞めてもらうこと。そして最後は、役員として会社を担う人材に、ここで改めて刺激を与え、より力を発揮してもらうことだ。 すべての会社に当てはまるわけではないが、これが50歳前後のサラリーマンに用意されているオーソドックスな3つの道といえるだろう。 大手企業でさえこうなのだから、その流れは日本全体に広がるのは時間の問題。「うちの会社はリストラなんてしない」と思っていても、あなたの知らないうちに、会社はコソコソと、仕事のできない人や会社に貢献できない人を、労働基準法を守りつつ、どう無難に辞めさせるか、その出口戦略を模索しているかもしれない。 かくして、世の中には職を失ったシニアが溢れることになる。50歳前後のサラリーマンは会社にいられないばかりか、非常に厳しいシニア就職戦線に放り出されることを覚悟しておくべきなのだ。 シニアに新たな活躍の場が登場 「シニア派遣」という働き方 こうしたなか、シニアの新しい働き方として注目され始めたのが「シニア派遣」だ。「顧問派遣」などとも呼ばれ、ビジネスの第一線で活躍してきたプロフェショナルをクライアント(企業)に派遣し、新規事業や課題解決などを支援するサービスを行う。 活用したい企業や派遣スタッフ(派遣顧問)として働きたいというシニアが急増しており、ここにきて人材大手といわれる企業も続々と参入し始めた。 企業のニーズは、「新規事業の立ち上げや海外進出をサポートしてほしい」「大手企業に所属していた人材のノウハウや人脈を活用したい」「ある特定の業界にネットワークを持つ人材を探している」「新規開拓力を強化したい」など。 高度なスキルを持つ即戦力を雇うとなると、それなりに人件費がかかる。派遣ならコスト負担が小さく、複数の候補者の中から目的に合った最適な人材を選べることなどがメリットだ。 一方、働く側のシニアには、「定年後もこれまで培ってきたスキル、ノウハウを生かせる仕事を続けたい」「若い世代の経営者を応援したい」「お金には替えられない財産をより多くの経営者に伝え、社会に貢献したい」など、さまざまな思いがあるようだ。 高齢化率(65歳以上の人口が総人口に占める割合)が上がり続け、2020年には29.1%に達する(2010年は23%)といわれるシニア大国、日本。あちこちで元気に働くシニアの姿が今後ますます増えていきそうだ。 意識が変わっていないのは 50歳前後のサラリーマンだけ 顧問サービスを手掛けるエッセンスの米田昌紀代表取締役 「シニア派遣」で仕事を得た場合、実際どのくらい稼げるのか、気になるところだろう。たとえば、顧問サービスの「プロパートナーズ事業」を展開するエッセンスの場合、サービス内容によって異なるが、報酬金額は「月額報酬20万円〜×6ヵ月」がベースになる。週1回程度の訪問なら2〜3社掛け持ちすることも可能だ。
サラリーマン時代と比べれば劣るものの、けっこうな収入といえるだろう。やりがいがある、効率がいいという魅力もあり、定年後サラリーマンの“希望の星”になる可能性もあるのではないだろうか。 最近では、勤めている会社の承認を得て、サラリーマンと派遣を掛け持ちする人も現れ始めたという。他の会社や業種で自分のシステム開発などの技術レベルを試し、スキルアップを図るのが目的といった人が多いようだ。 こんなふうに、採用や人材活用に対する経営者の考えも労働環境も大きく変わろうとしている。変わっていないのは、「入社以来ずっと同じ会社に勤め、なんとか定年までしがみついていたい」と願っている50歳前後のサラリーマンだけかもしれない。そろそろ変革の時期が来ているという事実を正視しなければいけない。 あなたは「推薦コメント」を もらうことができるか? シニアにとって「派遣」はなかなか魅力的だが、そうやすやすと働けるわけではない。第一に、サラリーマン時代とは仕事の仕方が違ってくる。サラリーマンは会社や上司から与えられた目標を達成すればいいが、派遣ではこうした“待ちの姿勢”では通用しないのだ。 まずは、クライアントの経営陣と話して課題を理解し、自分の引き出しを総ざらいして「このような方法で、いつまでに、これだけのことができます」という提案から始める。そのため、専門的な能力やスキルはもちろん、コミュニケーション力や提案力、営業力なども求められる。 たとえば、エッセンスではいくつかの登録基準に、「複数の企業経営陣(勤めていた会社およびその他2社程度)からの推薦コメントの提出」を加えている。 「以前の勤務先や取引会社の経営陣に、“できる人”だと太鼓判を押していただくわけですが、そう簡単なことではありません。これができるかどうかだけでも、優秀な人材を絞り込むことができます」(米田昌紀・エッセンス代表取締役) 元の会社はともかく、取引先が下請けだったりすると、上から目線だった自分を振り返り、「推薦してほしい」とは言いづらいかもしれない。あなたは、無事に推薦コメントをもらうことができるだろうか。 実績やノウハウがあるのは当たり前。 それをアピールする力が重要 米田社長は顧問スタッフとして最も重要な資質を次のように話す。 「会社の規模に関係なく、サラリーマン時代にどれだけ本気で仕事に向き合い、実績を出してきたか。それだけでなく、その誇れる実績とノウハウを自分の言葉できちんと説明できるかどうか。ここがとても重要です。クライアントに対し、自分にどんな能力・スキルがあり、どのように役立てることができるかをしっかりアピールし、相手の心をつかまなければ、契約には至りません」 実際に面接してみると、自分の実績や何ができるかという質問に言葉を詰まらせる人が少なくないという。 それを見て、就職氷河期に一所懸命自己アピールして就職してきた30代のスタッフは、50歳前後のアピール力の乏しさに驚きながらも、サポートを続けている。おそらくシニア派遣の登録者にとって、新卒で入社したとき以来、もう何十年も自己アピールなどしたことがなかったのかもしれない。 とはいえ、秀でた能力やスキルは持っていても、誰もが営業や交渉のプロフェッショナルというわけではない。派遣会社などのエージェントを利用して、自分の弱い点を補うのも1つの手なのだ。 サラリーマンにとって純粋に仕事だけに打ち込める環境は、憧れでもあるだろう。「会社の顔色をうかがってビクビクしながら定年までしがみつくのはもうイヤ。長年培ってきた能力、スキルを生かし、得意分野で勝負したい!」「早期退職で少しでも多く退職金がもらえるなら、自分が主導権を持ち、プロとして多くの会社からほしがられる顧問スタッフになったほうがいい!」と、シニア派遣を目指す人も増えている。シニア人材サービス市場も、これから競争が激しくなりそうだ。 50歳前後は、自分にカンフル剤を 打つギリギリのタイミング 派遣に限らず、50歳前後のサラリーマンが今後たどるべき将来には、再就職や独立などいくつかの選択肢がある。ただ、「自らを査定し、強みを自覚して、それをアピールする力」がなければ、どの道も切り開けない。 そのために不可欠なのが「自立心」だ。「もう会社には頼れない」ことに早く気づいて行動しないと、手遅れになってしまうだろう。 フランスでは、「デュトゥレー法(起業促進法)」という法律が2003年に施行され、会社に籍を置き給料をもらいながら、公認でセカンドキャリアの準備が一定期間できる制度がスタートしている。前述したとおり、社員の流動化を促進したい企業が増えるなか、日本にも同じような制度ができる可能性もあるだろう。 だが、たとえそうした環境が整ったとしても、いつまでも受け身の姿勢では夢を実現するセカンドキャリアは描けない。“心を入れ替えてやる気を出す”には50歳前後がギリギリのタイミングかもしれない。カンフル剤が効くうちに早めに手当てをしたいものだ。
【第142回】 2013年9月10日 小川 たまか [編集・ライター/プレスラボ取締役] 「出産したらお辞めなさい」曽野綾子氏に反論続々 女性が望む“働きやすい社会”は遠のくか、近づくか 作家の曽野綾子氏が「週刊現代」8月31日号に寄稿した「何でも会社のせいにする甘ったれた女子社員たちへ」(※リンク先の記事の一部は有料)の内容がいま、大きな話題となっている。「マタハラとかセクハラとか、汚い表現ですね」など、やや過激とも取れる口調で、「彼女たちは会社に産休制度を要求なさる」「会社にしてみれば、本当に迷惑千万な制度だと思いますよ」と、産休制度を求める女性を切り捨てているからだ。
この記事については賛否両論が巻き起こっており、ネット上では否定的な意見が優勢だ。すでにいくつかの反論記事も上がっているこの寄稿。先日ユーキャンが行った調査で「女性が結婚・出産後も仕事を続けるために、何が必要だと思いますか」について聞いたところ、女性から最も多かった回答が「産後の女性が働きやすい社会のムード」(77.0%)だったことと合わせて考えてみると興味深い。 「育休は当然の権利」「同僚の苦労を顧みない」 女性社員は本当にそう考えているのか 曽野氏の寄稿については、「週刊現代」9月7日号で金美齢氏が賛同を表しているが(※リンク先の記事の一部は有料)、その一方で「「出産したらお辞めなさい」労基法違反推奨の曽野綾子論文を週刊現代が掲載した件はなぜ問題にならない?」(伊藤和子氏)、「女性は甘ったれ? 週刊現代の記事に働く女性から反論」(AERA・9月2日号)などの反論記事も出ている。 投票数は少ないものの、「インターネット国民投票 ゼゼヒヒ」がこの記事を取り上げて、「出産したら女性は会社を辞めるべきという意見、どう思う?」と聞いたところ、85%が「支持しない」を選んでいる(9月9日18時時点で投票数は138)。 産休制度は労働基準法に明記された労働者の権利であり、これを「迷惑千万な制度」などと言うことは本来あってはならないこと…というのは、すでにこれまでの反論記事で再三書かれているので繰り返さない。 筆者が気になったのは、曽野氏の記事にしても、金氏のコメントにしても、「一部の女子社員が『育休は当然の権利』と主張し、職場の同僚たちの苦労を顧みない」(「週刊現代」9月7日号より抜粋)ことを前提にして書かれていることだ。 筆者はこれまで約6年間にわたって、結婚・出産後も仕事を続けている女性の取材を続けてきた。その取材のなかで幾度も耳にしたのが、「職場・同僚に迷惑をかけてしまうことが心苦しい」「子どもを産んでも続けられるように、職場に自分が有用な人材であること認めてもらわなければならない。そのために頑張りたい」という言葉だった。子育てに理解のある職場に勤める人でも、「職場の理解に甘えてはいけないと思う」と語っているのが実態なのだ。 「職場に迷惑をかけられないから」と、出産ギリギリまで仕事を続け、産後2ヵ月で復帰した人や、保育園ではなく実家の両親に子どもを預けて半年で復帰したいと言う人もいた。「1人目は産休・育休を取れたけれど、2人目はさすがに(会社に負担をかけるので)無理だと思う」という声も聞いた。 保育園に預けることについても誰もが「当たり前」と思っているわけではなく、「子どもにさみしい思いをさせているのではないか」という葛藤を多くの母親が抱えている。それでも子どもを預けるのは、いったん仕事を辞めてしまえば再就職が難しく、仕事を続けられなければ将来への不安が大きいからだ。 曽野氏は、「子どもができたら、共働きをしないと生活が苦しくなってしまう、という心配は出てくるでしょうね。この考え方が、私とは少し違うんです」といい、「私たちが若くして子育てをしたころは、みんな貧乏暮らしをするものでした」「本来、子どもができたら自分勝手なことに使えるお金が減るのは当然なんです」と書くが、日本の経済が右肩上がりで将来に希望を持てた時代と今とでは事情が違う。 また、少し話はズレるが、出産後に復帰した女性が異口同音に口にするのは、約1年間仕事を休むことで復帰後に元のペースを取り戻すのには時間がかかるものの、「時短勤務で働き始めるようになってからの方が、残業ができない分、仕事の効率を意識して働くようになった」「子どもがいつ熱を出すか分からないので、『明日でいいことでも今日やる』意識が身についた」という言葉だ。 出産後に働き方に対する意識が変わったと話す女性は多く、働き続けられる環境を与えてくれる会社に対して感謝の言葉を口にする女性ももちろん多い。時短勤務の女性はそれだけで「戦力外」と当たり前のように言われることが多いが、年収がそれまでの2分の1、3分の1にもなることもあるという時短勤務で働く女性たちの「コストパフォーマンス」は意外に高いのではないかとも感じる。 男性より女性の方が5ヵ月短い 「適正だと感じる育休期間」 もちろん、なかには権利ばかりを振りかざし、「職場の同僚たちの苦労を顧みない」人もいるのだろう。筆者も零細企業ではあるが会社の役員を務めており、働く人にもいろいろなタイプがいることは知っている。しかし、その悪例ばかりを出して、肩身の狭い思いをしながら仕事を続けている女性の頑張りを無にするような言説は、いかがなものだろうか。迷いながらも誠実に、謙虚に、子育てと仕事を両立したいと願う女性の言葉にも耳を傾けてほしいと思う。筆者の取材した女性は働く女性のなかのほんの一部だが、曽野氏や金氏の見た「職場の同僚たちの苦労を顧みない」女性も、また一部だと思うのだ。 ユーキャンが2013年7月26日〜28日に行ったインターネット調査(「女性が輝く日本に関する意識調査」有効回答数654人)が、「女性が結婚・出産後も仕事を続けるために、何が必要だと思いますか」を聞いたところ、男性で最も多かった回答が「待機児童解消」(65.7%)だったのに対し、女性で最も多かった回答は「働きやすい社会のムード」(77.0%)だった。制度が整っても環境によってはその制度を使えないと考えている女性は多い。未だに、働き続ける道を選び女性への風当たりが強いことを感じている人は多いようだ。 また、「育児休暇期間がどのぐらい適正だと思うか」についての質問には、男性回答の平均値が2年1ヵ月だったのに対して、女性は1年8ヵ月と、女性の方が5ヵ月短かった。ユーキャンはこの結果について「少しでも早く復職したいという女性の前向きな思いが反映」されていると分析しているが、この結果からも、現代の女性が「自分の出産のためなら会社にいくらでも迷惑をかけてもいい」と考えているわけではないことが読み取れるのではないだろうか。 (プレスラボ 小川たまか)
【第10回】 2013年9月10日 吉田典史 [ジャーナリスト] なぜ高学歴のクラッシャー上司が評価されるのか? 20代“うつ”社員の量産ラインと化した職場の混迷 今回は、前回の「20代を“うつ”にし続ける女性マネジャーの病理」の続編をお届けする。かつてブラック企業の中堅広告代理店(正社員数600人)に在籍し、社長の命令で20代の若手社員の大量リストラを行った元事業部長のA氏(46歳・男性)に対する「若手上司によるマネジメントの課題」についてのインタビューをまとめたものである。 A氏とのやりとりについては、よりニュアンスを正確に伝えるため、インタビュー形式とした。取材の内容は、実際に話し合われた内容の9割方を載せた。残りの1割は、会社などが特定でき得る可能性があることから省略した。 当時(2008〜09年)、A氏はリストラの最前線で20代の社員80人ほどから辞表を受け取った。社長からの指示だった。その会社を数ヵ月前に退職し、来年からは大手広告代理店の関連会社(社員数500人)に役員として迎え入れられる予定だ。 ちなみに、A氏がもといた会社で行われたリストラの詳細についても、連載第7回で取り上げている。 部下を潰れるまで問い詰める それが「育成」だと思い込んでいる 元事業部長への取材は、都内の中心部で行なわれた 筆者 前回は、マネジメントに大きな課題を抱える30歳前後の女性マネジャーを取り上げました。20代の部下3人を潰してうつ病にし、退職させてしまったようだが、他の管理職はどうだったのですか。
A氏 営業部にも、30歳ぐらいの男性マネジャーがいて、20代の部下10人ほどをうつ病状態にして辞めさせた。このマネジャーはその後、依願退職した。部下を潰したことで責められたわけではない。「自らの意思で辞めた」と、営業部長などから聞いた。 彼も20代の部下たちを、随分と厳しく叱ったようだ。たとえば、部下が契約料金400万円の広告の契約を成立させる。そして、上司である彼に報告すると「そんなに少ないのか? 俺ならば1000万円以上にする」「バカ野郎! なぜ、もっと大きな額にできないのか」と叱咤する。 筆者 いいか悪いかは別にして、そうした光景は多くの営業の現場で見られるように思います。 A氏 その通りなのだが、実際は違う。彼も女性マネジャーと同じく、プレーヤーとしての経験が浅く、力量は低い。前回指摘したような「仕事の再現性」を確実に身に付けるに至っていない。ここが大きな問題だ。 プレーヤーとしての自らの営業でさえ、成績は不安定。それでも、一応はマネジャーだから、部下の育成をしようとする。これが裏目に出る。仕事のツボを心得ていないから、部下への指示に一貫性がなく、具体性がない。部下としてはどうすればいいのか、わからない。 「なぜできないのか」と詰め寄る マネジャー自身が仕事をわかっていない 彼は「なぜ、できないのか」と問い詰める。契約額が、自分が望んでいる額に達しないと怒る。部下がオロオロすると、「どうして、できないのか」とまた詰問する。部下はますますわからなくなる。 実は、彼自身がわかっていない。「仕事の再現性」を身に付けていないから、自分の仕事の状況と部下のそれが少しでも異なると、教えられない。それでも追い詰める。潰れるまで問い詰める。それが鍛えることであり、「育成」だと思い込んでいる。 筆者 そのマネジャーは、会社で浮いた存在にならないのですか。 A氏 20代からは反発が強いが、社内ではそれなりに認められている。特に前回話題にした、部下をうつ病にした女性マネジャーとウマが合う。2人は年齢が近いこともあり、時折フロアで話し合っていた。部下に厳しくあたることを称え合っていた。 「20代には、もっと厳しく教え込まないといけないわ」 「お前ほど、俺は厳しくないよ」 「あれほどに厳しくしているから、あなたこそ本当のマネジャーよ」 という風に励まし合う。それを聞いていて、「おい、おい!」と突っ込みたくなったが、あえて黙っていた。 自分を大きく見せようとする者ほど 部下を“うつ”にする傾向がある 筆者 2人は自信がないから、自分を大きく見せようとするのだと思う。 A氏 確かにその一面はある。30歳前後のマネジャーが時折、部下数人を引き連れ、酒を飲みに行く。そこで会社の経費を大胆に使い、「俺はこんなにすごいんだぜ!」と大きく見せようとする。観察していると、このタイプが最も部下をうつ病にする。「仕事の再現性」を身に付けていないから、教えることができない。それを虚勢を張り、ごまかす。 だが、自信を持っているようにも思えた。後ろ盾があったからだと思う。営業部長はそのマネジャーを、私は広告制作部の部長として女性マネジャーの人事評価を、低く扱っていた。 しかし、我々には降格させる権限はない。その権限は、社長や役員、機能していない人事部などが握っている。社長たちは、部下を潰す管理職を否定はしていない。むしろ、高く評価する傾向があった。 筆者 高く評価する? 周囲が気付かずに評価し続ける 高学歴な若手マネジャーの弱点 A氏 端的に言えば、それなりに仕事ができるからだ。男性マネジャーも女性マネジャーも難関国立大学を卒業し、基礎学力は高い。たとえば、話を聞き取る力や自分の考えを伝える力、書く力などだ。 これらの力をベースにして、日々の事務処理や雑務的なことなど基本的な仕事を素早く覚える。しかも、レベルは高い。広告制作や営業の仕事も、基礎的なことはハイレベルに対応できる。 だが、感性が必要とされる奥深いところまでを求められると、到底できない。それでも、20代〜30代前半までくらいの経験の浅い周囲の社員は、「仕事ができる人」と見なす。特に他の部署の管理職からは評価が高い。女性マネジャーは、営業部のマネジャーたちからは絶賛されていた。 営業部の人は、広告制作の細かいことを知らない。だから、彼女が「仕事の再現性」を持ち合わせていないことに気がつかない。社長たちも、これらのマネジャーの本当のレベルを知らない。 筆者 学力が高い人が認められるということは、その仕事がある意味で単純化・標準化している面が多いから、と言えます。特別な専門性を必要とされていないからこそ、学力が高いというだけで対応できる、と捉えることもできる。 企業社会で、高学歴が評価される大きな理由はここにあります。高学歴の学歴そのものではなく、仕事の基礎的な部分が高い水準でできる力こそ、企業が評価している。 ましてや、今は仕事の専門性が高くなっている。言い代えれば、基礎的な部分のレベルが上がっている。その意味でも、企業の新卒採用時の「高学歴志向」は一段と強まっている。このあたりも、部下を潰すマネジメントに関係していることだと思う。 A氏 私は、部下をうつ病にするマネジメントが浸透する背景には、高学歴のマネジャーの影響が大きいと思う。少なくとも、あの会社では高学歴なマネジャーが部下をうつ病などにする傾向があった。 結局、広告にしろ営業にしろ、仕事の専門性やセンスが問われるのは、最後の土壇場のところだ。つまりは、付加価値をつける部分と言える。それ以前の、基礎的な部分では、学力の高い人がおおむね素早く、ハイレベルで対応できる傾向がある。 すると、部下を潰そうとも仕事の基礎的な部分の質が高いマネジャーは、「できる人」という印象や評価にはなり得る。 会社員はプロフェッショナルではなく プロフェッショナルをまとめるのが役目 筆者 そのあたりは、大切な指摘ですね。ここ十数年、識者やメディアは「会社員には、プロフェッショナリティが求められている」と盛んに伝えた。あたかも、社外で専門家として生きていくことができる力を身に付けることが必要と言わんばかりだった。 その捉え方は、実は誤りだと思います。会社員は、技能で生きる専門家にはなり得ない。そこに、特別な才能や専門性はいらない。ましてや、今や専門性の高い仕事は、社外の専門家や非正規社員に任せることが多い。そうでないと、生産性は上がらない。 「プロフェッショナリティ」は、仕事の基礎的な部分をハイレベル・ハイスピードで仕上げていく、という文脈で捉えるべき言葉ではないかと思います。本当に専門家になることではないでしょう。識者やメディアも、ここを勘違いしています。 プレイングマネジャーも、専門性を身に付けるのではなく、たとえば社外の専門性を持つ人を管理する力が一層必要になっている。そうした人たちを管理するならば、自身もプレーヤーとしてある程度は仕事ができないといけない。その「ある程度」に達していないマネジャーが、得てして自らの部下を潰す傾向がありそうです。 A氏 プレーヤーとしての力が低くとも、高学歴な人をいち早くマネジャーにしている限り、部下を潰す機会が減ることはないと思う。プレーヤーとしての「仕事の再現性」が豊富であることは、本来マネジャーになる上で必須の条件だ。 「仕事の再現性」がないマネジャーの下に付く部下は、間違いなく苦しむ。皮肉なことに、マネジャーは基礎的なところは十分にできる。部下や周囲の人は、そんな姿を見て、「この人は、真剣に部下を教えている」と思い込む。 実際は、その「教え込む」ことはいじめやパワハラでしかない。それがエスカレートし、部下を狂気に追い詰めるマネジメントになっていく。 部下を厳しく洗脳し、都合のいい 社員を残すための「組織的なDV」? 筆者 本人も部下も、それを「指導」や「育成」と思い込んでしまう空気がそこにある。 A氏 そして、部下をうつ状態にしても上から責められない。むしろ、「ストレス耐性のない20代のゆとり教育世代に問題がある」といった結論になる。実際、社長や人事部はそれに近いことを会議の場で話していた。 筆者 そんな歪んだ空気を察知した20代の部下は、当面はその会社に残り、給料を得たいから真剣に自らを責める。「問題があるのは、マネジャーではなく、自分なんだ」「自分がわかっていないから、マネジャーの質問に答えることができない」と。 A氏 実は間違っているのは、プレーヤーとして未熟なマネジャーだ。自分がどう教えていけばいいのかわからないから、「どうして、できないのか」とまくし立てるだけのこと。困ったことに、上層部はそれを結果として後押しする。これは、20代の部下への「組織的なDV」(ドメスティックバイオレンス)になっている。 筆者 もしかすると、「組織的なDV」を意図的に浸透させているのかもしれませんね……。厳しく洗脳していくことで、上層部にとって好都合な社員を残すことができる可能性は高くなるから。 A氏 さらに怖いことがある。部下を潰すマネジャーは、わずかな経験でつかんだ仕事の答えの導き方を「唯一、正しいもの」と思い込む。だから、「なぜ、できないのか」と問い詰めたとき、部下が「B」や「C」と答えると許せない。自分が「正解」と信じ込む「A」と答えるまで、繰り返し詰問する。 ところが、部下が「A」の方法でその仕事をすると、上手くいかない。経験の浅いマネジャーの甘い目測で導いた方法でしかないのだから、無理もない。こうなると、泥沼化する。部下は、何をどうしていいのかわからない。また、マネジャーは「なぜ、できないのか」と詰める。いよいよ、部下は精神に支障をきたす。 「部下をうつ病にするマネジメント」が横行するのは、ここにも大きな理由がある。社長たちは、「A」しか認めないマネジャーたちを高く評価する傾向がある。「B」や「C」と答える部下を認めるマネジャーのことは、低く扱うケースが目立つ。 業績を上げるという面では合理的? 自分と同じ価値観しか認めない経営者 筆者 私が20代の頃に経験した職場とよく似ているから、ため息が出ますよ。 A氏 複数の価値観を認める人が多数を占める職場は、安定しないと本能的に察知していたからかもしれない。社長は創業者で、一代で600〜800人の会社にした功労者。ビジネスの嗅覚は、天才的だった。 たとえば、「イエスマンはダメだ!」と皆に言い、意見を言わせる。だが、あくまで自分の考えを実現するための「意見」しか求めない。そこで社長の考えに疑問を呈したり、批判することは認めない。 要は、「A」しか認めない。下に付く管理職にも、このタイプが増えていく。それで一応は、業績を上げる会社になっていく。その意味では、確かに社長は冴えていると思う。 私が観察していても、「A」しか認めないマネジャーは部下を潰す傾向はあるが、短期的には部署を安定化させ、業績を上げることができ得る。「B」「C」まで認める人は、得てして部署の業績が不安定になる傾向がある。 「部下をうつ病にするマネジャー」が認められるのは、単に「成果主義のもと、結果を出しているから」ではない。そのようなタイプを増やすことで、会社を安定させようと考えている経営者がいることにも、一因があるのだと思う。 筆者 うつ病となると、識者やメディアは大体「成果主義」や「競争原理の浸透」を持ち出しますからね。労働の現場を知らないし、時代について行けない。結局、「A」しか認めない管理職が増えても、仕事がそれなりにスムーズに消化できるほどに、ある意味で仕事が単純化されている時代と捉えることもできる。専門性は、外部や非正規に任せればいいのだから。 つまり、会社や企業社会全体で、構造的に社員をうつ病に追いやるマネジメントが横行する。だからこそ複雑であり、対策が難しくなる。ところが、多くの人がうつ病そのものや、その上司たちの言動、さらに「成果主義」などに目を奪われている。それでは真相に迫れない。 「頑張れば成長も転職も独立もできる」 若手の心理を巧妙に突く会社の狙い A氏 さらに曲者が「成長」というキーワード。社長は、新卒の会社説明会でも「辞表を書いてから入社してほしい」「うちでは、自分を成長させることができる」と煽る。学生はあっさりと感化され、入社する。 30代のマネジャーらも、「厳しく叱ることこそが部下の成長になる」と社長から洗脳されている。だから、「成長」させようとして厳しく追い詰める。それが、マネジャーである自らの「成長」につながるとも信じ切っている。 20〜30代がみんな、「頑張れば成長できる。転職も独立もできる」と思い込む。社長は、そんな20〜30代の心理を巧妙に突く。「自分や部下を厳しく追い詰めれば、必ず成長し、仕事ができるようになり、もっといい会社にも転職できる」と繰り返す。それで、組織全体に一段と「うつ病にするマネジメント」が浸透する。正常な20代が次々と潰れ、病になる。 筆者 短期間で業績を上げるベンチャー企業などで、よく見かける光景ですね。 A氏 20代〜30代の高学歴で部下を潰すマネジャーと話すと、大リーグのイチロー選手のことをよく口にする。「イチロー選手のような職人になりたい」「あのようなスペシャリティを身に付けたい」と。 実は、自分たちにそんな専門性や技能がないことを自覚しているからこそ、イチローに強く憧れるのだろうなと思い、聞いていた。あのマネジャーたちは、ジェネラリストとしてはともかくスペシャリストとしては認められないだろう。プレーヤーとして「仕事の再現性」がないから、部下を育成することもできない。 彼らに言ったことがある。「イチロー選手は、この会社にもたくさんいるぞ。上の世代にも同世代にも、そして20代の部下たちにも……」。その言葉の意味も考えないようだった。部下のひたむきな姿勢に何も感じることがないあのマネジャーたちは、やはり病んでいる。それを量産していく社長が、諸悪の根源なのだと思う。 踏みにじられた人々の 崩壊と再生 前回と今回で、中堅の広告代理店を舞台に、20代の社員をうつ病にするマネジメントの真相に迫った。特にプレイングマネジャーのあり方に焦点を当てた。これは、以前から私が疑問視することだった。 この十数年で「部下をうつ病にする社員」が増えると、識者やメディア(一部の全国紙を除く)は、決まって「成果主義の浸透」や「正社員の数が減り、1人あたりの仕事が増えていること」をその原因として取り上げる。ここに、私の疑いがあった。 ここ二十数年、観察していると、経済分野のメディアは人事・労務が不得手の領域であることがわかる。金融や国際経済などについてはそれなりの報道をしているが、人事問題となるとレベルが著しく下がる。それは、私が取材する経営者、労働組合役員、エコノミスト、労働学者などの2人に1人が口にすることでもある。「自分が取材で話したことの真意を、記者がつかむことができていない」と頻繁に耳にする。 このレベルであるから、人事・労務については事実誤認の報道が大量に流れる傾向がある。「成果主義の浸透」や「正社員の数」云々は、うつ病の社員を生む遠因になったとしても、直接の理由ではないケースが多い。成果主義や競争そのものをやり玉に挙げたところで、意味はない。もっと身近に、そして深いところに「悪の構造」がある。 一部の全国紙は、早くからプレイングマネジャーについて、特にプレーヤーとしての力量が低すぎることを指摘し、その構造(経営陣の考え、機能していない人事部、「自己成長神話」など)を取り上げていた。私が知る限り、そのような報道は非常に少ない。 「自分がダメなのだ」と思わないこと “うつ”にする悪の構造に目を向けよ 読者諸氏は、今後、身近にうつ病などになり、潰れていく社員がいたとき、その構造に目を向けてほしい。上司の、特にプレーヤーとしての力量、さらには「仕事の再現性」の乏しさ、その上の部長や役員、社長、そして人事部などの権限と責任、役割分担などである。 観察していると、うつ病になる人が多い会社は、この上層部の権限と責任、役割分担も大きな問題を抱え込んでいる傾向がある。本来、これらを重点的に検証していかないと、うつ病にまで追い込む構造を正すことができない。 さらには、「自己成長」というキーワードがどのような形で浸透しているか、経営陣はこの言葉をどのような文脈で使おうとしているのか、などを深く観察してほしい。 不幸にも、自分がうつ病になってしまったときには、自らを責めるよりは、自分を追いつめた構造に思いを巡らせてもらいたい。それで病がすぐに治ることはないのかもしれないが、自分を責めるよりは精神的に楽だろう。決して慰めではない。あなたを追いやった「悪の構造」にこそ、目を向けるべきと言いたい。 20代の頃のときに上司などから潰された人も、その構造を思い起こしてほしい。「自分がダメだったのだ」「自分の力が足りないのだ」と安易な自己批判は好ましくない。未熟なプレーヤーでしかない上司が、その後もしゃあしゃあと生きているのに、なぜいつまでも自虐的に考えねばならいのか。 筆者は、前回と今回の2回にわたって、それを伝えたかった。
【第5回】 2013年9月10日 バイロン・ケイティ [『ザ・ワーク』著者],ティム・マクリーン,高岡よし子 「やるべきことをやらない上司」への対処法は? [その1] 「4つの質問」が上司との関係を変えた 世界中で大きな反響を呼んでいる「ワーク」。4つの質問と「置き換え」というシンプルなステップでありながら、ストレスや苦しみから劇的といえるほどの解放をもたらす。この「ワーク」を開発したバイロン・ケイティが、8月24日、アメリカと日本の会場を結ぶネット中継により、セッションを行った。その中から、上司に対して怒りを感じていた、ある男性についての事例を紹介する。実際にどのようなやりとりがなされるか、知っていただけるだろう。
「ワーク」とはどのようなものか? バイロン・ケイティの「ワーク」は、ワークシートを使って、ストレスや苦しみを生み出している自分の考えを抽出し、それに対し、4つの質問と「置き換え」という方法を通じて、「探求」していくものです。それは、「私たちが特定の考えを信じ、執着する時、ストレスに陥り、苦しむ」という基本的な考えに基づいています(ワークシートは『新しい自分に目覚める4つの質問』のp.286-289またはwww.thework.com/nihongoを参照)。 ワークは、自分が信じ込んでいる考えを解きほぐしていくことで、考えの幅が広がり、新しい可能性や問題解決のヒントが見えてきます。そして、自分が「被害者」ではなく、主体的に問題に取り組み、可能性を広げていけることを実感できます。 ただしワークは、自分の考えを変えるためのものではありません。「こうあるべき」考えを無理に自己納得するためのものでもありませんし、相手の考えを受け入れたり、相手を許すためのものでもありません。「探求」する中で、自分にとって真実味のある答えを、自分の中に見出すことができます。自分自身の答えを見つけた時、とても納得がいき、自分らしい感じがします。そして頭がクリアで心が穏やかになり、エネルギーが湧いてきます。ワークは何よりも、自分自身のためのものなのです。 4つの質問と置き換え 今回、ケイティがセッションを行った日本の男性の事例に入る前に、4つの質問と置き換えについて、簡単にご紹介しておきましょう。 ■取り組む文章の例 「彼は私を大切にしていない」 ■4つの質問 1. それは本当でしょうか?〔はい・いいえ〕 2. その考えが本当であると、絶対言い切れますか?〔はい・いいえ〕 3. そう考えるとき(その考えを信じるとき)、あなたはどのように反応しますか? 4. その考えがなければ、あなたはどうなりますか? ■置き換え 《内容を反対にして置き換える》例「彼は私を大切にしている」 《主語を置き換える》例「私は彼を大切にしていない」 《自分自身に置き換える》例「私は私を大切にしていない」 *置き換えた文章のそれぞれに対し、真実味のある3つの具体例ないし理由を挙げます。 以上が基本的なやり方ですが、次の事例では、必ずしも基本通りではなく進むことを、あらかじめご了解下さい。 「やるべきことをやっていない」上司についてのワーク ケイティ いつ、どういう状況だったか、説明して下さい。 男性 私の職場で1年前まで上司だった人についてです。 ケイティ その彼と確執を起こした時間帯はいつ?朝とか昼間とか。 男性 度々あるので……。昼間の会社にいる時間なんですけど。 ケイティ 場所はどこ?部屋の中?社外? 男性 会社の会議室です。 ケイティ 他に人はいましたか?それともあなたの上司だけですか? 男性 職場の人間が4、5人いました。 ケイティ ワークシートの一番目の文章を読んでいただけますか? 男性 「私は上司に対して怒っている。なぜなら、彼は自分のやるべきことをやらないから」 ケイティ その状況において、彼はやるべきことをしない。それは本当でしょうか? 男性 本当です。 ケイティ その考えが本当であると、絶対言い切れますか? 男性 すべてをやっていないわけではないので、絶対とは言い切れないと思います。 ケイティ その瞬間、その状況において、「彼はやるべきことをしない」と考える時に、あなたはどのように反応しますか?何が起きますか?その相手と会議室にいる時。 男性 体に力が入って、頭に血が上ります。あと、心の中で、彼をつぶそうとします。 ケイティ 目を閉じ、同じ状況を思い浮かべて下さい。その人のことを見、自分自身の姿を見ながら、「彼はやるべきことをしない」という考えがなければ、あなたはどうなりますか? 男性 自分が頑張らなければいけない、という気持ちになります。 自分が働きかけられるのは、自分 ケイティ それでは、置き換えます。「彼はやるべきことをしない」という文章を、「私は……」に置き換えて下さい。 男性 「私はやるべきことをしない」 ケイティ 確執の起きたこの状況の中で、あなた自身がやるべきことをしていないのは、何でしょう。 男性 部下として、本当は彼を助けなければいけないのに、逆に責めています。 ケイティ とてもいい答えですね。もうひとつ例はありますか?あの状況の中で、自分は部下としてやるべきことをしていない。 男性 自分自身の仕事がうまく進んでいないことを棚にあげています。 ケイティ そうですね。私がこのワークをとても好きなのは、やりやすい方法を教えてくれるからです。「自分が働きかけることのできる人」に働きかける。それは、自分自身のことです。他に例はありますか?その状況の中で、自分はやるべきことをしていない。 男性 自分は会議の中で、他のメンバーも前向きに仕事に取り組めるような呼びかけなどをしていない。 ケイティ いい答えです。 男性 今とても感じているのは、自分がやっていないことを見ないために、それを人のせいにしていたような気がしていて……。それがちょっと感じられたので、すごい辛いです。 ケイティ それに気づいたということは同時に、ある意味では本当に素晴らしいと言えるのではないでしょうか。 男性 はい。 ケイティ 自分がやっていることを認めないという「否認」から、抜け出すことができるからです。自分が気づいていないことを、変えることはできません。気づくことによって、変化が起きます。今、体験していることはとても辛いかもしれないけれど、今、あなたは目覚めています。もうひとつの置き換えをやってみましょう。「彼はやるべきことをしている」 男性 「彼はやるべきことをしている」 ケイティ その状況の中での具体例を挙げて下さい。 男性 自分の考えを皆に伝えている。 ケイティ 彼は上司の務めとして、自分の考えを伝えている訳ですね。その特定の状況を思い浮かべながら、「彼はやるべきことをしている」という実例は他にも見つかりますか? 男性 部下に対して、やらなければいけないことを指示している。 ケイティ いいですね。その状況の中でやるべきことをしている、もうひとつの具体例はありますか? 男性 部下の発言をきちんと聞いている。 ケイティ あなたの言うことも聞いてくれましたか? 男性 はい。 ケイティ やるべきことをやっていましたね(笑)。 <次回の更新は9月11日です。> ■好評発売中! 『新しい自分に目覚める4つの質問』
部下の半分は「自分は評価されていない」と 感じている 2013年09月10日 テレサ・アマビール,スティーブン・クレイマー このエントリーをはてなブックマークに追加テレサ・アマビール&スティーブン・クレイマー/HBRブログのフィード 印刷 部下の半分は「自分は評価されていない」と 感じているバックナンバープロフィール 1 2 » アメリカ心理学会の調査によれば、米国労働者の48%が「職場で正当に評価されていない」と感じているという。この深刻な問題に対処し労働意欲を向上させるために、リーダーは「触媒」と「栄養分」を提供する必要がある。
2011年10月28日、米世論調査会社ギャラップは、「米国労働者の過半数は労働意欲がない」というショッキングな見出しの記事を発表した。すべての労働者やビジネス・リーダーを動揺させる内容だ。また、これに先立つ報告でギャラップは、労働意欲の減退に起因する生産力の低下によって、米国だけで年間3000億ドル以上に相当する損失を招いている、と試算している。報告によれば、自分の仕事に熱意を持ち、組織に積極的に貢献していると自覚している労働者は、わずか3人に1人しかいない。なお悪いことに、最も意欲がない労働者は組織の中高年層、それに高学歴を持った社員であるという。このような人々は、まさに最大の創造性と生産性を持って働いているべき人材である。
一体何が起こっているのだろうか。アメリカ心理学会(APA)による世論調査から、いくつかの示唆が得られる。まず、労働者の36%がストレスを感じており、そのほぼ半数が賃金の低さを原因として挙げている。たしかに、労働者の生産性は過去20年間で着実に上昇しているが、実質賃金は停滞しているのだから無理もない。だが、不満の最大の原因は給与ではない。労働者が回答している職場での不満には、成長や昇進の機会の少なさ(43%)、重労働(43%)、非現実的な期待(40%)、長時間労働(39%)がある。 しかしAPAの調査で最も衝撃的な結果は、労働者の48%が職場で評価されていないと感じている、ということであろう。いくら企業が社員を大事にしていると表明しても、多くの社員が毎日職場で経験している実情とは大きく異なっているのだ。人々が正当な評価や敬意を感じることができず、意欲が出ないのは当然だろう。それによって組織が被る経済的な損失は甚大で、個人が被る精神的な痛手は看過できない。 それでは、どのような解決策があるだろうか。ギャラップの会長ジム・クリフトンは著書The Coming Jobs War(未訳)のなかで、マクロレベルでの解決策をいくつか提案している。国々や都市はよい雇用を生み出す義務がある。そのために社会は、次世代の雇用を創出する者への教育、およびその仕事を請け負う人々への教育に投資すべきである。そして企業は、少ない労働力で乗り切ろうとすることをやめなければならない、というのがクリフトンの主張だ。APSの調査が示しているように、意欲を低下させる要因である労働者のストレスは、多くのことを少ない資源で達成するよう求められることに起因している。 一方、我々自身の研究では、ミクロレベルでの解決策が明らかになっている。我々の「進捗の法則」に関する研究によれば、社員が強い意欲を持つ最大の要因は、有意義な仕事で進捗を得ることである。そして、毎日の進捗と意欲を促進するために、マネジャーは2種類の行動を実行できる。すなわち、「触媒」と「栄養分」を提供することだ。
触媒は、明確な目標設定や必要な資源の提供など、仕事での進捗を直接支援する行為である。触媒は進捗を促すので、間接的に人々のやる気に影響を及ぼす。 栄養分は、インナー・ワーク・ライフ(社員が職場で経験する感情、認識、モチベーションの絶え間ない循環)を強化するので、やる気に直接作用する。具体的には、敬意の表明、よい仕事への評価、困難な状況に直面している社員への感情面のケア、などの行動を含む。社員が栄養分をしっかりと摂取していると、インナー・ワーク・ライフは飛躍的に上昇する。社員の満足感は満たされ、自分を雇用している組織をポジティブに捉えるようになる。したがって社員のモチベーションは維持され、意欲的に仕事に取り組むようになる。 社員が職場で十分な意欲を持って働くには、有意義な仕事に従事することが前提条件になる。これは、リーダーには糖尿病を撲滅するというような崇高な目標を立てる義務がある、という意味ではない。「価値のある何か」――人々の役に立つ製品やサービスなど――に毎日の仕事がどう貢献しているかを、すべての社員に理解させる必要があるということだ。その前提の下で、進捗に必要な日々の触媒を供給することによって、人々は有意義な仕事を成し遂げることができる。 そして、社員に十分な意欲を持たせるには、彼らのインナー・ワーク・ライフを敬意、評価、激励といった日々の栄養分で満たすことが必要だ。簡単で、しかも費用のかからないマネジメント上の行動が、過小評価に悩む48%の労働者の意欲を大きく向上させるのだ。我々の調査のなかで、あるソフトウェア開発者が以下の業務日誌を記している。これは、ちょっとした交流でも大きな影響を及ぼすことができることを示すものだ。 「データベースの仕事に関して、プロジェクト・マネジャーから褒められた。この作業に私はかなり尽力してきた。その姿に彼女は大いに感心したようで、任務への献身に対する感謝の言葉をくれた。おかげで、その日はとても気分よく働くことができた」 皆さんは、職場で過小評価や過大な負担を感じているだろうか。あなたがリーダーであれ個人で働いているのであれ、そのような状況に対する有効な解決策を持っているだろうか。 HBR.ORG原文:What Your Boss Needs to Know About Engagement November 16, 2011<
テレサ・アマビール(Teresa Amabile) ハーバード・ビジネススクール(エドセル・ブライアント・フォード記念講座)教授。ベンチャー経営学を担当。同スクールの研究ディレクターでもある。
スティーブン・クレイマー(Steven Kramer) 心理学者、リサーチャー。テレサ・アマビールとの共著The Progress Principle(進捗の法則)がある。 |