02. 2013年8月30日 02:24:09
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【第56回】 2013年8月30日 早川幸子 [フリーライター] 社会保障制度改革がいよいよ正念場 持続可能な国民皆保険制度を作るためには 8月21日、政府は、医療、介護、年金などの社会保障制度を、どのように改革していくかという手順を示した「プログラム法案」の骨子を閣議決定した。 プログラム法案は、社会保障制度改革国民会議(以下、社会保障国民会議)が提出した報告書(PDF)の内容を、今後、政府が実現していくために改革項目とおおまかな実施時期を示したものだ。 社会保障国民会議は、昨年夏に成立した社会保障制度改革推進法に基づいて設置された有識者の会議だ。昨年11月〜今年8月まで、合計20回の会議が重ねられたが、報告書では「収入に応じて保険料を負担する仕組みの徹底」「派遣など非正規で働く労働者の社会保険の適用」「低所得層への保険料減免の拡大」などを打ち出しており、弱者に寄り添った理念が描かれている。 この理念を実現するために不可欠なのは財源の裏付けだが、負担増につながる改革もあるため懸念の声も上がっている。そのひとつが、高齢者の医療制度を支えるために現役世代が負担している保険料の算定方法の見直しだ。 協会けんぽの負担が重い 加入者割が見直される!? 健康保険は、病気やケガをした加入者の医療費を賄えるように、赤字にならないように加入者から保険料を集めるのが原則だ。 加入者の多くが若く、収入も多い現役世代の健康保険は問題がないが、高齢者のおもな収入は公的年金だ。現役世代に比べると、どうしても所得は低くなる。その一方で、高齢になるほど病気になる確率は高くなり、医療費は増える。健康保険別に「加入者の平均年齢」「ひとりあたり医療費」などを比べてみると、次のような差がある。 75歳以上の人が加入する後期高齢者医療制度は、平均所得はいちばん低いのに、ひとりあたり医療費は90.5万円。また、市町村国保も所得は低いのにひとりあたり医療費が29.9万円。市町村国保は65〜74歳の人の割合が31.3%と多いので、他の健康保険より医療費が高い。これは、自営業だけではなく、定年退職した元会社員や元公務員も加入するからだ。
そのため、後期高齢者医療制度や市町村国保は、加入者の保険料だけで医療費を賄おうとすると、個人の負担が大きくなり過ぎてしまう。そこで、高齢者の医療制度には、会社員や公務員など現役世代の健康保険から財政支援が行われている。とくに大きいのが75歳以上の人が加入する後期高齢者医療制度への支援金だ。 75歳以上の人の医療費は、高齢者の保険料などが1割、税金から5割、残りの4割を、協会けんぽ(主に中小企業の従業員や船員とその家族が加入)、組合健保(主に大企業の従業員が加入)、市町村国保などが、現役世代から保険料を徴収して支援している。この現役世代からの支援金は、約5.5兆円だ。 当初、この支援金の額は、扶養家族を含めた加入者数に応じて負担額が決まる「加入者割」という方法のみで決められていた。しかし、この方法だと、加入者数の多い協会けんぽの負担が多くなるため、財政的に厳しい協会けんぽに大きな負担が強いられてしまう。 そこで、支援金の3分の1は、加入者の所得に応じて支払う「総報酬割」というものが導入された。支援金の一部に負担能力に応じた保険料の徴収が導入され、大企業の健保組合からの財政支援が増えるようになった。だが、今のところ残りの3分の2は加入者数に応じた額になっているので、相変わらず協会けんぽの負担は重いといえる。 社会保障国民会議の報告書では、この支援金のすべてを総報酬割にするのが社会保障のあるべき姿だと論じている。そして、プログラム法案では、2015年度から全面総報酬割に移行するスケジュールが提示された。 そこで、問題となっているのが、国から協会けんぽに支払われている補助金の行方だ。 全面総報酬割の導入で 浮いた補助金の使い道 現在、大企業の健保組合や公務員の共済組合の財政力の違いを考慮して、協会けんぽには国から2100億円(2013年度推計)の補助金が投入されている。だが、2015年以降に全面報酬割を導入すると、この補助金は必要なくなる。社会保障国民会議では、この浮いた補助金を、さらに財政的に厳しい国民健康保険に投入して健全化に使うことを示している。 だが、これに噛みついているのが、協会けんぽ、健康保険連合会、日本経団連など、いわば支払い側の面々だ。彼らの主張は、現在、協会けんぽに投入されている公費の2100億円は、国民健康保険ではなく「会社員の健康保険の負担を減らすために使うべき」というものだ。 たしかに、高齢者の医療費を賄うために、現役世代の健康保険料は、年々、引き上げられてきた。少しでも、企業や加入者の負担を減らしたいという気持ちも分からなくはない。 だが、国民健康保険は、自営業だけが加入する保険ではなくなっている。前述したように、定年退職した元会社員、元公務員の受け皿になっているため、医療費給付費が膨れ上がっている。 また、全労働者の3分の1が非正規雇用だが、その中には年収要件などの縛りによって、企業の社会保険に入りたくても加入できない人もいる。本来なら、企業の健康保険で面倒をみるべき労働者が国民健康保険に流れて、国保財政を圧迫しているとみることもできる。 さらに言えば、同じように社会保険方式で医療制度を運営している国の保険料率は、フランスが賃金総額の13.85%(事業主13.1%、本人0.75%)、ドイツは報酬の15.5%(事業主7.3%、本人8.2%)となっている(2011年)。 一方、日本は、協会けんぽの全国平均が10.0%だが、大企業の組合健保は平均で8.635%。協会けんぽと同等の保険料率の組合もあるが、8割以上が10%以下で、中には6%未満と負担の少ない企業もある(2013年)。 先進諸国に比べれば、日本企業の負担はまだまだ低いのだ。 持続可能な国民健康保険を 作るために必要な話し合いは 会社員や公務員も、定年退職すれば市町村国保に加入する。失業などで社会保険から外れたときも、国民健康保険があるから無保険になることはない。国保は、国民皆保険制度の最後の砦ともいえる。 国民健康保険を持続可能な制度にしていくために、2017年までに現行の市区町村単位から都道府県に移すことも報告書には明示された。その移管をスムーズに行うためには、構造的な国保の赤字体質を質す必要がある。それには、大胆な財政支援が必要で、全面総報酬割によって浮いた財源は国民健康保険に投入することが不可欠だ。 9月以降、プログラム法案が国会を通過すれば、厚労省で社会保障制度改革の具体的な話し合いが始まる。とくに経済団体、健康保険組合、医療者、患者の代表などで構成される社会保障審議会医療保険部会は、利害を抱える委員たちの対立で、これまでなかなかひとつの方向性を見出すことができなかった。 だが、審議会に参加するメンバーには、「国民が安心して医療にかかれる制度を作る」という共通のミッションがあるはずだ。であるならば、自らが所属する団体の利害の主張に終始するのではなく、「あるべき医療の姿」を共有し、それを実現するための役割を演じてほしいと思う。 http://diamond.jp/articles/print/40973 |