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2013.08.29 The Economist :JBpress
英エコノミスト誌 2013年8月24日号
インド経済は1991年以来最大の窮地に陥っている。当時と同じように、今も解決策は大胆になることだ。
米連邦準備理事会(FRB)は今年5月、近いうちに米国債の大量購入を縮小し始めるとほのめかした。世界中の投資家が超低利資金のない世界に適応するに従い、新興国市場から大量の資金が吸い上げられた。
ブラジルからインドネシアに至るまで、様々な新興国で通貨と株式が急落したが、とりわけ大きな打撃を受けた国が1つあった。
インドは少し前まで、経済的奇跡として称えられていた。マンモハン・シン首相は2008年、8〜9%の成長がインドの新たな巡航速度だと語っていた。シン首相は「何世紀もの間、数百万人のインド国民の宿命だった慢性的な貧困、無知、病気」の終焉まで予測していた。
現在、シン首相は見通しが厳しいことを認めている。ルピーは3カ月間で13%下落している。株式市場はドルベースで約25%下落している。借入金利は、リーマン・ブラザーズ破綻後の水準にある。銀行株は下落している。
苛立つ政府当局は8月14日、自国民が国外に資金を持ち出すのを防ぐため、資本規制を強化した。規制強化は、インドは自分たちの資金も凍結するのではないかと心配する外国人投資家を怖がらせた。現在のリスクは信用収縮に関するものであり、ルピーをさらに大きく下落させ、インフレを煽る自己成就的なパニックが生じる恐れだ。
政策立案者たちは、インドが1991年の国際収支危機以来最大の窮地に陥っていることを認めている。
■友人を失い、人々を遠ざける方法
インドの悩みは、自国の力が及ばないグローバルな力によって引き起こされている部分もある。だが、一連の問題は、インドが絶好の機会を逃すことになった致命的な慢心の結果でもある。
改革に着手するのが比較的容易だったはずの2003〜08年の好況期に、政府は労働力、エネルギー、土地の市場自由化を怠った。インフラは十分に改善されなかった。汚職や煩雑な手続きは一段と悪化した。
民間企業は投資を削減している。経済成長率は4〜5%と、好況期のペースの半分まで減速している。10%に上るインフレ率は、どの経済大国よりも悪い。かつて超大国としてのインドの台頭を喝采していた大物実業家は今、社会不安が生じかねないと警告している。
改革を怠ったことは、12億人の国民の繁栄への期待を損なっただけでなく、ルピーの足も引っ張った。制限的な労働法と脆弱なインフラは、インド企業が輸出するのを難しくしている。インフレを受け、人々は自分の貯蓄を守るために金を輸入している。
どちらの要因も経常赤字を膨らませている。この赤字は外国資本で埋めなければならない。ここに借り換えを要する対外債務を加えると、インドは来年2500億ドルの資本を呼び込む必要がある。これは他のどの脆弱な新興国よりも多い額だ。
1年前、新財務相のパラニアッパン・チダムバラム氏は経済に弾みをつけようとした。重要な改革を推進し、ボトルネックを解消し、外国人投資家を支援しようとした。だが、同氏は党内から中途半端な支持しか得られず、野党の妨害に直面している。発電所用の燃料不足のような成長を阻む障害は残ったままだ。
外国企業にしてみれば、状況は何も変わっていない。一方、国営銀行では不良債権が増加しており、融資残高の10〜12%が不良化している。2014年5月までに選挙が予定されているため、国民会議派が率いる政府が今後よりポピュリスト的な政策を取るのではないかと不安視する人もいる。食料助成金を支給するという費用のかかる計画がそれを暗示している。
■危機を防ぐ
危機に陥るのを防ぐためには、政府はまず、状況を悪化させるのをやめる必要がある。先の資本規制は裏目に出たが、下手にいじくり回す衝動は根強い。政府当局は8月19日、空港から持ち込まれるテレビに関税を課した。
当局は2013年が1991年ではないことを受け入れなければならない。1991年当時は、インドは固定為替レートを守ろうとして、もう少しで国を破産させるところだった。今、ルピーは変動相場制になっており、インドは取り立てて言うほどの対外債務は抱えていない。通貨の下落は、対外債務を抱えた一部の企業に大きな打撃を与えるだろうが、政府の支払い能力に直接的な脅威は及ぼしていない。
このため、インド準備銀行(中央銀行)はルピーが自ずと相場水準を見つけるに任せなければならない。ルピーはまだ、基本的価値の推定値を大きく超えるところまで行っていない。
中央銀行の次期総裁に就任するラグラム・ラジャン氏は、世界で最も多く取引される通貨の1つを細かく管理するのではなく、インフレを抑えることを目指すべきだ。
次に、政府は財政を立て直さなければならない。インドの財政赤字は近年、国内総生産(GDP)比10%程度まで拡大している。政府は今年、赤字(各州政府の赤字を含む)をGDP比7%まで抑制しなければならない。政府は既に燃料補助金を削減しており、選挙に向けて圧力があったとしても、削減ペースを加速させるべきだ。
だが、これだけでは、政府の財政を立て直すのに十分ではない。所得税を払っているインド人がわずか3%しかいないため、政府の税収はごくわずかだ。GSTとして知られる、提案されている物品・サービス税は、経済のより多くの部分を徴税網に引き込むことになるだろう。
新税は果てしない超党派の協議にはまり込んでいる。政府が1つの長期的改革を推進するために選挙前に自らを奮い立たせることができるとすれば、これこそが政府が目指すべきものだ。
最後に、政府は中央銀行と一体になって、公的部門のゾンビ銀行の資本増強に踏み切るべきだ。米国は2009年、自国の銀行を立て直すために「ストレステスト」を実施した。インドも後に続くべきだ。銀行に資金を注入すれば赤字は拡大するが、信頼が高まるのなら、それだけの価値はある。
■希望の光
希望の光はある。7月は輸出が持ち直し、貿易赤字が縮小した。だが、神経質な世界市場に加えて選挙があることを考えると、インドは難しい年に直面している。たとえインドが全面的な金融危機を経験せずに選挙を乗り切ったとしても、次期政権はインドを変えるためにはるかに多くのことをしなければならない。
今後10年間で、何千万人もの若いインド人が、今は何も存在しないところで仕事を見つけなければならない。
そうした雇用を創出するために成長を生み出すということは、保護された産業(小売業は最も明らかな保護産業の1つにすぎない)で抜本的な規制緩和を推進し、石油や鉄道などの国の独占企業を解体し、制限的な労働法制を改革し、道路、港、電力といったインドのインフラを刷新することを意味する。
1991年の災難は自由化改革につながり、それが数十年に及ぶ停滞に終止符を打ち、急成長のスパートを可能にした。
大惨事と隣り合わせになった直近の経験もプラスの遺産を生み出す可能性がある。ただし、それが現実になるのは、今回の経験が、経済の欠陥に対処し、インドの膨大な潜在能力を引き出す新たな改革の重要性を有権者と次期政権に納得させる場合だけだ。
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英エコノミスト誌の記事は、JBプレスがライセンス契約 に基づき翻訳したものです。
英語の原文記事はwww.economist.comで読むことができます。
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