02. 2013年8月29日 02:11:29
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長時間労働禁止令を発動せよ勝間和代氏が語る労働生産性と女性活用の関係 2013年8月29日(木) 武田 安恵 日経ビジネス8月26日号特集「女性昇進バブル」連動企画の4回目。今回は経済評論家の勝間和代氏に登場してもらう。 日本の女性活用を推進するためには、長時間労働を是正し、労働生産性を高めるしかない――。『無理なく続ける年収10倍アップ勉強法』『効率が10倍アップする新・知的生産術―自分をグーグル化する方法』のヒット本を連発し、ビジネスパーソンが生産性を高めるためのノウハウを惜しみなく提供してきた勝間氏が、生産性向上と女性活用の密接な関わりを語る。 (聞き手は武田 安恵) 日本は諸外国に比べて女性管理職の数が少ないですね。 勝間氏:構造的な要因が大きいと思います。そもそも現在40〜50歳くらいの、管理職候補になり得る女性が会社にあまりいないからです。20年前に雇われた女性の母集団が少ないのだから、管理職の数が少ないのは当然でしょう。各国の女性活用の進み具合は、女性に選挙権が与えられた年と密接に関係していると思います。 勝間 和代(かつま・かずよ)氏 経済評論家。1968年東京生まれ。早稲田大学ファイナンスMBA、慶応大学商学部卒業。当時最年少の19歳で会計士補の資格を取得、大学在学中から監査法人に勤務。アーサー・アンダーセン、マッキンゼー、JPモルガンを経て独立。内閣府男女共同参画会議議員。2005年、ウォール・ストリート・ジャーナル「世界の最も注目すべき女性50人」に選出された。 日本で女性に普通選挙権が与えられたのは1945年と、米国の1920年などと比べて約30年遅れています。日本は他の先進国に比べて女性活用が一世代分遅れているのです。それなのに、企業は女性役員登用の数値目標を掲げて女性管理職を増やそうとしています。ないものはないというのに。
この問題は、今後働く女性の数が増えれば自然と解決されていくのではと思っています。それを「ロールモデルの不在」とか「やる気がない」といった、女性特有の問題として差し替えないで欲しいですね。差し替えてしまうから女性活用の問題点、本質が見えにくくなってしまっています。 日本の会社は今でも長時間労働が多い。女性にとって出産、子育てといったライフイベントと仕事は両立しづらいと聞きます。 勝間氏:女性管理職が少ないもう1つの大きな原因だと思います。日本人の働き方に「労働生産性」という観点が全く抜け落ちているから長時間労働になりやすいのです。日本の労働生産性は、主要先進7カ国中11年連続最低を記録しています。週当たり労働時間が50時間以上の労働者の割合も28%と、米国の20%、英国の15.5%と比べて多い。労働生産性に関して全く無頓着としか言いようがありません。 ワークライフバランスの研究で有名な社会学者の山口一男先生(シカゴ大学)の調査によれば、女性活用の進んでいる国は1時間当たりの労働生産性が高い傾向にあるといいます。 労働生産性を高めるには何をすればよいのでしょう。 勝間氏:人事・評価制度に労働生産性を考慮するポイントを盛り込むことです。私がJPモルガン証券でアナリストをしていた頃は、人事評価において生産性に関する評価項目や目標がびっしり決められていました。レポートの点数、クライアントからの評価など、それぞれのパフォーマンスが点数化され、達成度が示されていました。評価項目の中には「労働時間」というものはありませんでした。 日本の会社は会議が多すぎる 生産性を意識すれば労働時間はいくらでも減らせると思います。第一、日本企業は会議が多すぎます。外資系企業の会議というものは、発言、意思決定するためにあります。一方、日本の会議の多くは報告、情報共有のために行います。それだったら、会議に出席しなくとも、後で議事録や報告書を社内回覧すればよいだけの話でしょう。時間も長すぎます。会議はせいぜい30分が限度です。 人事・評価制度を変えるとなると、大掛かりなことになります。嫌がる企業も多いのではないでしょうか。 勝間氏:何のための女性活用・ダイバーシティなのか考えていないから、そういう発想が出てくるのです。物が売れたりコストが下がったりする実利があるからこその、女性活用です。例えば、日産自動車が昨年発売し、大ヒットしたコンパクトカー、新型「ノート」は、開発責任者に女性を抜擢したと聞きます。キッコーマンで売れ筋の「うちのごはん」シリーズの開発を担当したマネジャーは女性です。このように、会社の業績アップにつながっていく女性活用をしていかないと。 そのためには、短時間労働でも本人の能力が正当に評価される人事評価制度が必要なのです。それなのに、女性活用イコール制度の充実に持っていこうとするからいけない。日本の会社は女性活用を福利厚生と勘違いしているのではないでしょうか。 配偶者控除は廃止に 女性活用のメリットを企業は感じていないということでしょうか。 勝間氏:はっきり言うと大企業は今の所、女性活用しなくても困らない状態です。女性を優遇しなくても代替要員をいくらでも調達できますから。とりわけ、海外展開の必要ない、国内の事業環境で充足してしまう会社はそういう傾向が強いと思います。でも、グローバル企業はそうは言っていられないでしょうね。 変化を待つには時間がかかりそうです。 勝間氏:日本は、企業の新陳代謝がすごく遅い国だと思います。私は、変化のスピードを早めたいのであれば、政府が動くしかないと思っています。方法はいたってシンプルで、長時間労働を規制する法律を導入することです。あとは、女性の労働市場参入を促す仕組みを作ってしまう。税制面における配偶者控除、配偶者特別控除、そして国民年金の第3号被保険者制度は廃止にするべきだと思います。そうすれば嫌でも企業、個人双方が女性活用を真剣に考えるインセンティブが働くでしょうね。 このコラムについて 女性昇進バブル 空前の女性活用ブームが起こっている。 2013年、安倍政権は今後の成長戦略の軸に女性の活用を掲げた。2020年までに、社会のあらゆる分野において指導的地位に占める女性の割合を30%程度まで引き上げる。そのためにはまず、全上場企業に対して、役員に1人は女性を登用すること。また今後は上場企業を対象に、管理職や役員に占める女性の割合を調査し、各企業の女性登用状況を公開すると公表している。 これを受けて、経済界は突如、女性社員の昇格、昇進に乗り出した。「女性初」の役員を作る企業が増えたかと思えば、自社で立てた女性管理職比率の数値目標を公表する企業も相次ぐ。 政府主導の女性活用ブームは、今後、職場にどんな影響を与えるのだろうか。日経ビジネス8月26日号「女性昇進バブル」では、現在実際の職場で巻き起こる混乱と、今後量産される女性管理職、女性役員が職場に与える影響を予測。あるべき「女性活用」のためにすべき施策を提言している。 日経ビジネスオンラインでは、特集「女性昇進バブル」の連動連載をスタート。経営者や経済評論家、ジャーナリスト、コンサルタントなど、各界の大物女性が、今の「女性昇進バブル」を斬る。
企業が陥るダイバーシティの罠 「らしさ」なくしてダイバーシティはあり得ない 2013年8月29日(木) 中川 美紀 今日、日本企業においてダイバーシティ(多様性)の重要性が叫ばれている。実際にあるコンサルティングファームが行ったアンケート調査によると、回答した9割の企業が「企業が維持・発展していく上でダイバーシティは避けて通れない課題だ」と答えている。 なぜ企業はダイバーシティの重要性を認識し、積極的に取り組むようになったのか。その背景には、企業が従来のやり方を根本的に変えていかざるを得なくなったことが挙げられる。具体的には先進国の市場の成熟化や人口減少、BRICs等新興国の台頭による競争の激化といったビジネス環境の構造的変化によって、企業はこれまでのやり方では成長の限界に達してしまったのである。 こうした状況を背景に、企業が直面している重要な経営課題はグローバル化とイノベーションなのであるが、このグローバル化とイノべーションのどちらもが、ダイバーシティを要求するのである。グローバル化を進める上では、日本とは異なる海外の多様なニーズに対応するために現地の事情や文化に精通した人材は不可欠であるし、またイノベーションを実現していく上でも、従来の同質な人材の画一的なものの考え方ではなく、多様な感性や価値観を取り入れ新しい発想を生み出していかなければならない。 従って、グローバル化とイノベーョンの実現を支えるのは異なる価値観や視点を持った多様な組織成員を確保すること、すなわち、ダイバーシティを進めることなのである。 ダイバーシティのジレンマは「多様性」と「らしさ」 このようにグローバル化やイノベーションを実現していくために、つまり従来のやり方の限界を超えるために、ダイバーシティは必要不可欠なマネジメントの鍵となるのだが、その一方で、実際にグローバル化やイノベーションに成功している企業に着目してみると、ダイバーシティとはまた別の、ある共通の特長が存在することに気づく。 その特長とは、それらの企業が自社固有の「らしさ」をとても大事にしているという点である。言い換えるなら、企業固有の“型”や統一感があるということだ。 日本企業で言えばトヨタやコマツ、世界に目を向ければアップルやグーグルといった企業は、徹底的に「らしさ」にこだわる企業の代表例と言えよう。 例えば、グーグルの「悪事を働かない」といったビジョンは有名であるが、こうしたグーグル流の考え方や仕事の仕方はただ社是として掲げられているだけではない。組織成員一人一人の評価基準や行動スタイルとなってしっかり共有化され、組織内で脈々と受け継がれているのだ。そして、こうしたビジョンの浸透が、グローバル化やイノベーションを支える上でのグーグルの「らしさ」を形成しているのである。 このことに関連して、グローバル企業に詳しいある有名なコンサルタントから伺った印象的な話がある。「次々とイノベーションを起こしてグローバルで成功している企業に限って、実はローカル臭く、みなその企業独特の強烈な体臭がある」と。“体臭が強い”とは、まさに言い得て妙である。 さらに世界を舞台に戦うディー・エヌ・エーの創業者、南場智子氏も同様な点を指摘している。「ディー・エヌ・エーでは、人材の質には妥協しない。納得のいくメンバーが一定数集まって良いチームができれば同じ匂いのメンバーが吸い寄せられる。逆に匂いやレベルの違う人は去っていく」。 実際に、これらの話は私自身の実感とも合致する。私が人材育成で関わっているあるグローバル企業も、外国人、中途社員、女性、と実に多様な人材で構成されているが、そうしたダイバーシティの印象とは裏腹に一歩社内に足を踏み入れると、そこには独特の一体感やテンションが存在する。社歴30年の経理担当者から入社3年目の営業マンに至るまで、見事にみなの言動が“その企業の社員っぽい”のである。 要するにダイバーシティに富んだ組織であればあるほど、無限に存在し拡散しがちな組織成員各々の個性や価値観を束ねるための企業文化や行動スタイルを徹底させているということだ。その浸透のために多くの施策を施したり、トップ自ら先頭に立って働き掛けている点も共通している。すなわち、ダイバーシティは構造的変化に対応し得る強靭な組織であるための不可欠なファクターであり、現実に強い企業組織を構築していくためには「らしさ」や“体臭”を醸成し浸透させることが重要なのである。 「資質」と「志向」における要件 以上のことから、ダイバーシティを取り入れる際には、ダイバーシティという美名のもとに「らしさ」を解体してしまうようなことにならぬよう十分に気をつけなければならない、ということが理解できるであろう。 私は本コラムで企業におけるダイバーシティを、多様な個人の「資質」と「志向」を尊重して組織力に繋げていくことだと定義してきた。(第一稿、第二稿リンク)では、どこまで個人の資質と志向をダイバーシティとして認めるのか――。その答えは、「らしさ」を体現し得る人材であるかどうか(資質・能力)、そして「らしさ」に共感する人材かどうか(志向・価値観)で計るということだ。 資質に関しては、まず組織独自に設定されている能力の高さのスタンダードを下げてはいけないということである。アップルもグーグルも組織成員における能力タイプは違えど、みなそれぞれに世界トップレベルで優秀であることは間違いない。グローバル競争のハードルが高まり続ける中で、能力レベルをグローバル競争に勝てる水準に置いていないと「らしさ」を形成できず、今日の激化した企業間競争には勝っていけないのである。 また志向に関しては、組織成員の数だけ存在するパーソナリティや価値観を何でもかんでも“多様性”と認めてしまうと「らしさ」は崩壊してしまう。特に働かない、頑張らない人材までもワーキングスタイルに関する多様性として容認してしまえば、モラルハザードが発生し企業風土が劣化したり、組織の混乱を招いたりしてしまうことになるだろう。 従って、強靭な企業組織を目指すためのダイバーシティは、「資質」と「志向」の点で、強い企業に資すると言う要件を満たさなければならないのである。 “ウォークオン”では勝てない しかし現実には、ダイバーシティの推進に取り組みながら、期待する成果に繋げられていない企業は少なくない。中にはダイバーシティ自体が目的化し、個の違いを受容し過ぎて肝心の「らしさ」を薄めつつある企業も少なくないように見受けられる。 私は、そうした日本企業が進めているダイバーシティの方向は、“ウォークオン”のイメージに近いと見ている。“ウォークオン”とは志願者の寄せ集めチームを指す。極論すれば、バスケット好きでバスケットシューズさえ履いていれば、プロの選手も近所のおじさんも小学生も同じチームメイトということだ。しかし、試合に勝つことを目的にしたチームを編成する際には、いくら参加の意欲があっても能力格差の大きい“ウォークオンチーム”が適さないことは言うまでもない。 さらには“ウォークオン”どころか、もっと危ない方向でダイバーシティを扱っている企業すら存在するように見える。それは、「ダイバーシティ=多様化」という短絡的な理解で、とにかく色んな人材を何でもかんでも取り込もうとする姿勢である。いわば、ダイバーシティ(多様性)自体を目的化してしまって、先に挙げた「資質」と「志向」の要件を全く考慮していない状態なのだ。こうした企業では“やる気もない、自分の責任を果たす意識もない”と言うような人材まで、ダイバーシティの一環として認めてしまっているようなケースもある。 このような組織集団は、もはや烏合の衆でしかない。組織力を高める目的で進めたダイバーシティが、結局は組織に混乱が生じ競争力を低下させてしまったら、何のためのダイバーシティなのか、本末転倒になってしまう。 グローバル企業の代表であるユニクロの柳井正社長は、インタビュー記事でこう語っている。「根本的にうちに向いていない人には入社して欲しくない」「外国人でも中途でも新卒でもパートでも、能力とやる気があればどんどん活躍させる」。つまり、「外国人」でも「中途」でも「新卒」でも「パート」でも、といった形式的な属性においてはダイバーシティを徹底するが、能力ややる気という「資質」と「志向」の要件では妥協しないということだ。 企業は、慈善事業でもなければ、ボランティア活動でもない。競争原理のもと利益追求という共通目的を持った組織体である。当然、その企業に属しているということは「共通目的を共有し、その目的の達成に貢献することを契っている」ことが大前提である。そしてそのことが、企業固有の強烈な個性や文化といった「らしさ」を形成する上での土台となっているのである。 寄せ集めの“ウォークオンチーム”では容赦のないグローバル競争には勝てない。バラバラの烏合の衆と、「らしさ」を共有したダイバーシティ集団ではその強さも結束力も全く違う。あくまでも、「らしさ」という基盤の上に乗った、ダイバーシティでなければ進める意味はないのである。 イラスト:オゼキ イサム
このコラムについて 「女性活用」本音と建前
アベノミクス第三の成長戦略とも言われる「女性活用」。2020年までに指導的地位に占める女性の割合を30%にする「にいまる・さんまる」や「育休3年」といった女性活用に向けた構想がスポットライトを浴びている。一方、現場ではどうか。「男性( 上司)VS 女性(部下)」「企業(経営サイド)VS 女性(現場サイド)」といった対立の形で議論が進み、「バリキャリ(管理職)か、コモディティ(一般職)か」「ワーク(仕事)か、ライフ(子ども)か」という女性の悩みは尽きない。適切な「ケア」(支援)と「フェア」(公正・公平性)の両輪なくしては、本当のダイバーシティは実現しない。政府の構想と現場のギャップ、現場間のギャップを埋めるべく、現場の様子を交えながら「現実的に有効な解」を探る。 http://business.nikkeibp.co.jp/article/interview/20130827/252672/?ST=print |