04. 2013年8月29日 01:46:18
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JBpress>海外>Financial Times [Financial Times] 国際金融システムの修復を断念した中央銀行 2013年08月29日(Thu) Financial Times (2013年8月28日付 英フィナンシャル・タイムズ紙) この世界はバブルから金融危機、通貨暴落へと至るサイクルを延々と繰り返す運命にある。もう慣れてもらうしかない。少なくとも、世界の中央銀行家たち――米ワイオミング州ジャクソンホールで先週開催されたカンザスシティー連銀主催の年次会合に、揺らぐ尊厳を胸に出席した幹部たち――は、そう考えているようだ。 ここで行われた国際金融システムに関する議論はすべて、現状をそのまま受け入れる運命論の色彩を帯びていた。異例の金融政策が成功し、最近では金融規制も大幅に改められたにもかかわらず、世界経済の不均衡に対処する方法はまだ確立していない、従って新たな危機がいずれまたやって来る、というわけだ。 国際金融のトリレンマ ユーロ、対ドルで13か月ぶり安値 トリシェ総裁の景気懸念受け 自由な資本移動、固定相場制、独立した金融政策という3点を同時に実現することはできない〔AFPBB News〕 確かに、問題は悪化している。ブレトンウッズ体制という昔の固定為替相場制度が1971年に崩壊して以来、世界は国際金融の「トリレンマ」に慣れてきた。自由な資本移動、固定相場制、独立した金融政策という3点を同時に実現することはできない、という苦悩だ。 大半の国は、自国の金融政策に対するコントロールと変動相場制を選んだ。 しかし、ロンドン・ビジネス・スクール(LBS)のエレーヌ・レイ教授はジャクソンホールの会合で発表した素晴らしい論文の中で、信用供与と資本移動の世界的なサイクル――米連邦準備理事会(FRB)の金融政策に応じて動く――があるということは、変動相場制を採用しても自国の運命はコントロールできないということだ、と論じていた。 となれば、前述のトリレンマは実はジレンマだということになる。資本移動を規制するか、さもなくばFRBに自国経済の運営を委ねるかというジレンマだ。 この悲観的な分析をジャクソンホールの出席者たちが、肩をすくめながらも渋々受け入れたことは印象的だった。FRBが月850億ドルのペースで続けてきた資産購入の縮小を検討していることを背景に新興国から資本が逃げ出し、為替相場が急落している時期だけに、特にそうだと言えた。 控えめに言っても、新興国はこれでインフレ率と金利の上昇に見舞われる恐れがある。インドやインドネシアなど、いささか過大な資本流入を謳歌してきた国々は、その分だけ余計に苦しむことになりかねない。 FRB、公定歩合を0.75%に引き上げ 信用供与と資本移動の世界的なサイクルが存在する以上、各国は資本移動を規制するか、FRB(写真)に自国経済の運営を委ねるしかない〔AFPBB News〕 しかし、ここでの議論はすべて、個々の国が資本の流出入の影響を弱めるにはどうすればよいのかという話だった。 レイ教授自身の結論は、FRBが他国に配慮しながら政策を決める(実際に行われたら違法行為になる)よう期待してもうまくいく見込みはない、従って目標を絞った資本移動の規制、厳しい銀行規制、融資ブームを冷ます国内政策という3点が推奨される、というものだった。 実際には、このやり方はうまくいかないだろう。常に変動する資本の流れに規律正しく対応することを世界のあらゆる国々に求めることになるからだ。これはつまり、世界中の人が1時間おきに手を洗い、かつずっと家から出ないようにしてくれれば風邪が治る、と言っているようなものだ。 仮にこのやり方がうまくいったとしても、政策につきものの変動性ゆえに、そのような行動を取る国々にはやはり痛みを伴う経済的コストがのしかかるだろう。 しかし、これしか選択肢がないわけではない。思い起こせば5年前、リーマン・ブラザーズが破綻した後には、新しい種類の国際金融システムを求める機運が生じていた。今ではすっかりなくなってしまったが、この機運を是が非でも取り戻す必要がある。 米ドルという一国の通貨に依存した制度の限界 国際金融システムの欠陥は昔から存在する根深いもので、これを乗り越えようという試みをことごとく退けている。その中で特に重要なのは、経常収支黒字国に黒字幅の削減を強制するメカニズムがないことだ。巨大な不均衡――例えば、米国に大量の資本を流入させて金融危機の発生に手を貸した中国の経常黒字――が拡大・存続し得るのはそのためだ。 実際、黒字を出すことは賢明だ。投資家がどこかの国から資本を引き揚げたいと思った場合、その国が頼りにできる国際的な中央銀行が存在しないからだ。国際通貨基金(IMF)はある。だが、アジア諸国は1997年にこれを試し、その経験が実に快適だったため、以来ずっと、その再現を防ぐべく外貨準備を積み増してきた。 国際制度が準備資産として米ドルという一国の通貨に依存している時、信頼できる安全装置は存在し得ない。ドルを作るのはFRBだけだ。現時点では新興国にとっての問題はドル資金が多すぎることだとはいえ、危機時には、ドルはいくらあっても足りない。また、米国と比べて世界経済が大きく成長するに従い、ドル不足は深刻化する一方だ。 この問題に対する答えは、ジョン・メイナード・ケインズが1930年代に提案したものだ。つまり、国際的な準備資産、準備資産を基準として各国通貨を値付けするルール、持続的に黒字を出す国に対する罰則といった枠組みだ。金融危機の後、国連や経済学者のジョセフ・スティグリッツ氏のほか、中国人民銀行総裁からもこの線に沿った提案が次々と出されたが、いずれも日の目を見なかった。 この目標に向けた最も基本的な第一歩――危急の場合にIMFの資金に頼れるよう、IMFの財源を拡大し、新興国の議決権を増やすこと――は米議会で行き詰まった。 高まっている改革の可能性、最初の条件は挑戦する野心 だが、改革の可能性は過去数十年間で最も大きくなっている。危機と景気後退は、たとえ一時的にせよ、世界の不均衡を縮小させた。このため、例えば中国はもはや、黒字を減らすために即座に大規模な調整を行わずに済む。 また、金融危機は米国に、世界の準備通貨を供給することのデメリットについて鮮明な教訓を与えた。一方、新興国は米国の金融政策を輸入する危険を思い知らされている。 突然革命が起きるよりは、徐々に変化が生じる可能性の方が大きい。しかし、前進すべきタイミングは今だ。金本位制の終焉以降、世界はなかなか安定した国際金融システムを手に入れられずにいる。だが、安定したシステムを築く最初の条件は、それに挑戦する野心だ。 By Robin Harding http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/38573
JBpress>海外>The Economist [The Economist] インド経済が窮地に陥った理由 2013年08月29日(Thu) The Economist (英エコノミスト誌 2013年8月24日号) インド経済は1991年以来最大の窮地に陥っている。当時と同じように、今も解決策は大胆になることだ。 インド・ムンバイで女性カメラマン強姦される、男性伴い取材中 世界の新興国の中でもインドは特に大きな打撃を受けた(写真はムンバイの街並み)〔AFPBB News〕 米連邦準備理事会(FRB)は今年5月、近いうちに米国債の大量購入を縮小し始めるとほのめかした。世界中の投資家が超低利資金のない世界に適応するに従い、新興国市場から大量の資金が吸い上げられた。 ブラジルからインドネシアに至るまで、様々な新興国で通貨と株式が急落したが、とりわけ大きな打撃を受けた国が1つあった。 インドは少し前まで、経済的奇跡として称えられていた。マンモハン・シン首相は2008年、8〜9%の成長がインドの新たな巡航速度だと語っていた。シン首相は「何世紀もの間、数百万人のインド国民の宿命だった慢性的な貧困、無知、病気」の終焉まで予測していた。 現在、シン首相は見通しが厳しいことを認めている。ルピーは3カ月間で13%下落している。株式市場はドルベースで約25%下落している。借入金利は、リーマン・ブラザーズ破綻後の水準にある。銀行株は下落している。 苛立つ政府当局は8月14日、自国民が国外に資金を持ち出すのを防ぐため、資本規制を強化した。規制強化は、インドは自分たちの資金も凍結するのではないかと心配する外国人投資家を怖がらせた。現在のリスクは信用収縮に関するものであり、ルピーをさらに大きく下落させ、インフレを煽る自己成就的なパニックが生じる恐れだ。 政策立案者たちは、インドが1991年の国際収支危機以来最大の窮地に陥っていることを認めている。 友人を失い、人々を遠ざける方法 インドの悩みは、自国の力が及ばないグローバルな力によって引き起こされている部分もある。だが、一連の問題は、インドが絶好の機会を逃すことになった致命的な慢心の結果でもある。 改革に着手するのが比較的容易だったはずの2003〜08年の好況期に、政府は労働力、エネルギー、土地の市場自由化を怠った。インフラは十分に改善されなかった。汚職や煩雑な手続きは一段と悪化した。 民間企業は投資を削減している。経済成長率は4〜5%と、好況期のペースの半分まで減速している。10%に上るインフレ率は、どの経済大国よりも悪い。かつて超大国としてのインドの台頭を喝采していた大物実業家は今、社会不安が生じかねないと警告している。 改革を怠ったことは、12億人の国民の繁栄への期待を損なっただけでなく、ルピーの足も引っ張った。制限的な労働法と脆弱なインフラは、インド企業が輸出するのを難しくしている。インフレを受け、人々は自分の貯蓄を守るために金を輸入している。 どちらの要因も経常赤字を膨らませている。この赤字は外国資本で埋めなければならない。ここに借り換えを要する対外債務を加えると、インドは来年2500億ドルの資本を呼び込む必要がある。これは他のどの脆弱な新興国よりも多い額だ。 1年前、新財務相のパラニアッパン・チダムバラム氏は経済に弾みをつけようとした。重要な改革を推進し、ボトルネックを解消し、外国人投資家を支援しようとした。だが、同氏は党内から中途半端な支持しか得られず、野党の妨害に直面している。発電所用の燃料不足のような成長を阻む障害は残ったままだ。 外国企業にしてみれば、状況は何も変わっていない。一方、国営銀行では不良債権が増加しており、融資残高の10〜12%が不良化している。2014年5月までに選挙が予定されているため、国民会議派が率いる政府が今後よりポピュリスト的な政策を取るのではないかと不安視する人もいる。食料助成金を支給するという費用のかかる計画がそれを暗示している。 危機を防ぐ 危機に陥るのを防ぐためには、政府はまず、状況を悪化させるのをやめる必要がある。先の資本規制は裏目に出たが、下手にいじくり回す衝動は根強い。政府当局は8月19日、空港から持ち込まれるテレビに関税を課した。 当局は2013年が1991年ではないことを受け入れなければならない。1991年当時は、インドは固定為替レートを守ろうとして、もう少しで国を破産させるところだった。今、ルピーは変動相場制になっており、インドは取り立てて言うほどの対外債務は抱えていない。通貨の下落は、対外債務を抱えた一部の企業に大きな打撃を与えるだろうが、政府の支払い能力に直接的な脅威は及ぼしていない。 インドが追加利上げ、インフレ抑制狙う ムンバイにあるインド中央銀行本店前を歩く男性ら〔AFPBB News〕 このため、インド準備銀行(中央銀行)はルピーが自ずと相場水準を見つけるに任せなければならない。ルピーはまだ、基本的価値の推定値を大きく超えるところまで行っていない。 中央銀行の次期総裁に就任するラグラム・ラジャン氏は、世界で最も多く取引される通貨の1つを細かく管理するのではなく、インフレを抑えることを目指すべきだ。 次に、政府は財政を立て直さなければならない。インドの財政赤字は近年、国内総生産(GDP)比10%程度まで拡大している。政府は今年、赤字(各州政府の赤字を含む)をGDP比7%まで抑制しなければならない。政府は既に燃料補助金を削減しており、選挙に向けて圧力があったとしても、削減ペースを加速させるべきだ。 だが、これだけでは、政府の財政を立て直すのに十分ではない。所得税を払っているインド人がわずか3%しかいないため、政府の税収はごくわずかだ。GSTとして知られる、提案されている物品・サービス税は、経済のより多くの部分を徴税網に引き込むことになるだろう。 新税は果てしない超党派の協議にはまり込んでいる。政府が1つの長期的改革を推進するために選挙前に自らを奮い立たせることができるとすれば、これこそが政府が目指すべきものだ。 最後に、政府は中央銀行と一体になって、公的部門のゾンビ銀行の資本増強に踏み切るべきだ。米国は2009年、自国の銀行を立て直すために「ストレステスト」を実施した。インドも後に続くべきだ。銀行に資金を注入すれば赤字は拡大するが、信頼が高まるのなら、それだけの価値はある。 希望の光 希望の光はある。7月は輸出が持ち直し、貿易赤字が縮小した。だが、神経質な世界市場に加えて選挙があることを考えると、インドは難しい年に直面している。たとえインドが全面的な金融危機を経験せずに選挙を乗り切ったとしても、次期政権はインドを変えるためにはるかに多くのことをしなければならない。 今後10年間で、何千万人もの若いインド人が、今は何も存在しないところで仕事を見つけなければならない。 そうした雇用を創出するために成長を生み出すということは、保護された産業(小売業は最も明らかな保護産業の1つにすぎない)で抜本的な規制緩和を推進し、石油や鉄道などの国の独占企業を解体し、制限的な労働法制を改革し、道路、港、電力といったインドのインフラを刷新することを意味する。 1991年の災難は自由化改革につながり、それが数十年に及ぶ停滞に終止符を打ち、急成長のスパートを可能にした。 大惨事と隣り合わせになった直近の経験もプラスの遺産を生み出す可能性がある。ただし、それが現実になるのは、今回の経験が、経済の欠陥に対処し、インドの膨大な潜在能力を引き出す新たな改革の重要性を有権者と次期政権に納得させる場合だけだ。
http://diamond.jp/articles/print/40850 【第18回】 2013年8月29日 野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問] 消費者物価の下落が実質GDP成長を支えてきた 前回述べたように、最近の実質GDP(国内総生産)の成長を支えているのは、実質家計消費の成長だ。これは、最近だけの現象ではなく、しばらく前から顕著になっている現象である。 したがって、今後の日本経済成長を考えるにあたって重要なのは、なぜ実質家計消費が成長しているのか、その原因を正しく知ることだ。そして、実質GDPの継続的な成長を望むのであれば、実質家計消費の増加が将来も継続するような環境を整えることである。 実質家計消費の伸びが実質GDP成長を支えている 図表1に示すように、実質家計最終消費支出は、順調に伸びている。 2001年からの推移を他の需要項目と比べると、以下に述べるように、実質家計消費の増加が印象的だ(以下の数字は、実質季節調整系列、年率)。 実質GDPは、リーマンショック直後に大きく落ち込んだ。いまに至るまで、リーマン前のピーク(2008年1−3月期の529兆円)を取り戻せない。具体的には、ピークより0.7%ほど低い水準にある。 それに対して、実質家計最終消費支出は、リーマンショック時にもそれほど大きくは落ち込まなかった。そして、10年7−9月期にはリーマン前のピークを回復した。最近では、リーマン前ピークより5%ほど高い水準だ。しかも、最近に至るまで増加を続けている。 この推移は、民間企業設備投資の動きと対照的である。実質企業設備は、08年1−3月期に78兆円というピークを記録したが、リーマンショックで大きく落ち込んだ。いまだに、それよりは17%ほど低い水準だ。 なお、実質輸出は大きく増加している。これは、為替レートの円安が進んだためである。 以上で述べた各項目の差は、成長率で見ても確かめられる。実質GDP成長率はほぼ1%だが、実質家計消費はほぼ2%だ。 13年1−3月期の実質値を01年と比較すると、図表2の(1)に示すとおりである。 大きく落ち込んだ項目として、民間住宅(29.4%減)と公的資本形成(32.6%減)がある。 それに対して家計最終消費支出は11.7%増加し、GDPの増加率8.8%を上回った。 この結果、GDPに占める家計消費の比率は上昇した。これは、図表2の(2)に示すとおりだ。詳しく見ると、つぎのとおりである。 民間住宅がGDPに占める比率は、4.2%から2.7%に低下した。民間企業設備の比率は、13.7%から12.5%に低下した。なお、08年には、民間企業設備の比率は14.8%と高かったことに注意が必要である。公的固定資本形成の比率は、7.4%から4.6%に低下した。 他方、家計最終消費の比率は、56.8%から58.3%に上昇した。 政府最終消費の比率も17.7%から19.5%に上昇したし、輸出の比率も上昇したのだが、家計消費は比率そのものが大きいために、GDPに対する成長寄与度が大きくなるのである。 前回述べたように、最近におけるGDP成長に関しても同様の傾向が見られるが、以上で述べたことから明らかなように、消費支出の成長寄与度の高さは、一時的現象ではない。 つまり、これは、アベノミクスの成果ではない。むしろ、以下に述べるように、経済の基本的な構造にかかわるものなのだ。 なお、最近、株高の影響で高額消費が増えていると言われるが、GDPの成長に影響するほどの規模ではない。 人々の実感は、名目値での動向に近い 以上で見たように、実質家計消費は、順調に増加している。しかし、このことに違和感を持つ向きも多いのではないだろうか? 消費額が顕著に増えているという実感は、多くの人が持っていないに違いない。 事実、名目で見ると、図表3に示すように、実質値で見るのとはかなり異なる傾向が見られるのである。 すなわち、名目GDPは、リーマン前には500兆〜510兆円のレベルであったが、リーマンショックで落ちこんだ。そして、いまに至るまで、470兆〜480兆円のレベルに留まったままだ。 つまり、実質GDPはリーマン前の水準に回復したが、名目GDPは落ち込んだままなのである。 家計最終消費支出についても、実質と名目の乖離が見られる。リーマン後の回復はGDPの場合よりはましだが、いまだにリーマン前のピークよりは低い。最近増加しているのは事実だが、大震災からの回復に過ぎないと言える。 対前年比で見ても、そうである。おおむね伸び率ゼロが続いている。最近時点で名目伸びも若干高まって2%を超えているが、これは東日本大震災で落ち込んだ反動と考えられる。 図表4(1)に示す2001年=1とする指数で見ると、GDPは7.4%低い水準だ。家計最終消費は、ほとんど不変だ。 このように、さまざまな側面において、実質値で見た傾向と、名目値で見た傾向とが異なっている。われわれが、「日本経済が不調だ」と言う場合に感じているのは、図表1に示す実質値での推移ではない(とくに、消費支出について)。そうではなく、図表3に示す名目値での動向である。「名目が実感を表している」としばしば言われるが、それは、理由のないことではないのだ。 支出不変・物価下落で、実質消費が成長した 以上で見たような現象が生じるのは、GDPを構成する各需要項目間で、デフレーターの動向が異なるからだ。 図表5には、GDPのいくつかの需要項目について、デフレーターの推移を示す。 この表から、消費のデフレーターの低下が著しく、その半面で、住宅のデフレーターがむしろ上昇していることが見て取れる。国内家計最終消費支出のデフレーターは2001年から12年の間に約1割低下したが、住宅のデフレーターは、この間に2%ほど上昇したのである。 このため、国内家計最終消費支出は、名目の伸び率がほぼ0であったにもかかわらず、実質では1割以上増加した。 このように、名目支出が増えなくとも、物価が下がれば、実質消費が増大する。そして、GDPに占める消費のウエイトは大きいので、それによって実質GDPが増大する。 それに対して住宅投資は、名目値の減少率より実質値の減少率のほうが大きくなっている。 ここで、つぎの疑問が生じる。それは「物価が上昇すれば、実質成長率は低下するのか?」ということだ。 この問題は、「実質量と名目量のどちらがどちらを規定するのか?」という問題とかかわっている。仮に名目値が所与で、それと物価によって実質値が決まるのであれば、確かに「物価が上昇すれば、実質成長率が低下する」ということになるだろう。 しかし、伝統的な経済学は、実質値を中心に考えてきた。そして、実質値と物価上昇率によって名目値が決まるとする。その考えによれば、物価の変動は、実質値には影響しない。 どちらが正しいかは、経済メカニズムの基本にかかわる問題だ。そして、物価にかかわる経済政策を考えるにあたって、最も基本的な問題である。 政府・日銀は、物価上昇率を引き上げるとしている。その理由付けは、「物価が上昇すれば、人々は将来消費するのでなく現在消費するから、現在の消費が増加し、経済が活性化する」というものだ。 しかし、仮に名目量と物価が実質量を決めるのであれば、物価が上昇すれば実質成長率は低下してしまうことになる。つまり、物価上昇率を高めることは、経済のためになるどころか、まったく逆に、経済を弱めてしまうことになるのだ。 この問題については、回を改めて考えることとしたい。
JBpress>海外>Financial Times [Financial Times] スペインのトマト祭りにまで緊縮財政の影響? 2013年08月29日(Thu) Financial Times (2013年8月28日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
スペインのブニョールは28日、グチャグチャした大混乱が勃発する事態に備えている。お祭り騒ぎを楽しむ大勢の人が毎年恒例の有名なトマト祭り「トマティーナ」に参加するために、この小さな街の通りを埋め尽くすからだ。 だが、今年は初めて、参加者が10ユーロの入場料を徴収される。この策は、スペインの経済危機と同国の多くの市や村を襲った財政難を示す強力なシンボルと見なされている。 毎年8月の最終水曜日に開催されるトマティーナは、地元住民や観光客を大勢引き寄せる。参加者は興奮が渦巻くなか、1時間かけてトラックいっぱいの熟れ過ぎたトマトを互いに投げ合う。トマティーナはスペインでも特に人気の祭りに数えられ、米国やコロンビア、さらには中国でも、似たようなトマトを投げ合うお祭りが行われている。 史上初めて入場料を徴収、荷台に乗る人は750ユーロ スペインで恒例のトマト祭り「トマティーナ」開催 今年も街中がトマトで真っ赤に染まることになる〔AFPBB News〕 だが、今年はお金がかかる。この祭りがほぼ60年前に始まって以来初めて、市が入場料を課すことにしたのだ。 トマトを積んだトラックの荷台に乗って騒ぎに乗り込む(そして地上の無防備な群集に向かって最初のミサイルを投げ込むことができる)少数の恵まれた人は、750ユーロもの大金を払う。 市の当局者らは、入場料は参加者の数を制限し、安全性を確保する必要性を反映したものだと話しているが、お祭りの帳尻を合わせるプレッシャーが以前より高まっていることも認めている。 「トマティーナには15万ユーロ前後の費用がかかる。新設した入場券のおかげでコストを大体賄えるだろう」。ブニョールの市議会議員でお祭りの責任者を務めるラファエル・ペレス氏はこう話す。市は事前に1万5000枚の入場券を完売しており、地元住民のために5000枚の無料枠が用意されている。 ペレス氏によれば、新制度の導入は、昨年の経験によるところが大きいという。5万人近い観光客がブニョールの狭い道路を埋め尽くし、多くの人が騒ぎが起きている場所に近づけなかったからだ。さらに、参加者の数を制限して入場料を課す背景には安全性があると付け加えつつ、各地のお祭りの資金を賄うことは、スペインが建設ブームに沸き、地方自治体が不動産税であふれかえっていた頃の方が楽だったと認める。 「現時点では誰もが苦しんでいる」とペレス氏。「けれど我々は800万ユーロの年間予算に対して100万ユーロ程度の債務しか抱えていない。周辺の大半の村よりも財政はずっと健全だ。ブニョール市はたとえ入場券がなくてもトマティーナの資金を賄える」 メディアからは「経済危機の象徴」の声 だが、ペレス氏がいくら請け合っても、スペインメディアがブニョール市の対策はこの国の愛されるお祭りの「民営化」に向けた最初の一歩だと警告するのを止められなかった。日刊紙のエル・パイスは入場券導入を「スペインを損なっている経済危機の大きな象徴」と呼んだ。 公式統計によると、スペインの地方自治体の債務は昨年末時点で420億ユーロに上っている。その結果生じた資金調達の危機で、最も大きな打撃を受けた都市は基本的な行政サービスさえ削減せざるを得なくなっている。 だが、ブニョールの場合、お祭りの入場料は債務返済に回されず、トマティーナがこれまでより盛大な混乱を生み出すために使われるという。「お金が集まるほど、トマトをたくさん買えますからね」(ペレス氏) By Tobias Buck in Madrid |