01. 2013年8月28日 10:37:23
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【第16回】 2013年8月28日 まがぬまみえ [ライター] 続・なぜ日本人は交渉で負けるか 超難関「世界クジラ交渉」に学ぶ“勝つ技術”交渉とは言葉の応酬である。議論に勝つためなら、何でもしてくる相手がいる。言いがかりやゴリ押しにも怯まずに、常に冷静沈着を心がけること。むろん、相手の挑発になど、絶対に乗ってはいけない。 とまあ、常識的にはそう言われている。しかし、人間だから「バカヤロー!」と叫びたくなる時だって、あるかもしれない。そんな時、何が交渉人を踏み留まらせる力になるのだろうか? 前編に続き、大国相手にタフ・ネゴシエーターぶりを発揮してきた元官僚の小松正之さんに、交渉人として必要な心得について伺った。 「クジラ交渉」で知った事実 交渉には膨大な知識が必要だ! ――ところで、小松さんが国際交渉のおもしろさに目覚めた原点は何だったのでしょうか? こまつ・まさゆき 政策研究大学院大学客員教授(リーダーシップ・交渉権、海洋政策) 1953年岩手県生まれ。東北大学、米エール大学経営学大学院卒。経営学修士(MBA)、東京大学農学博士号取得。1977年水産庁に入庁後、資源管理部参事官、漁場資源課課長等を歴任。国際捕鯨委員会、ワシントン条約、国連食糧農業機関などの国際会議に出席し、水産業の発展に従事。2005年、米ニューズウィーク誌「世界が尊敬する日本人100人」に選ばれる。主な著書に『国際マグロ裁判』(共著、岩波新書)、『日本人とクジラ』(ごま書房)、『これから食えなくなる魚』(幻冬舎)、『劣勢を逆転する交渉力』(中経出版)、『震災からの経済復興13の提言』(共著、東洋経済)『なぜ日本にはリーダーがいなくなったのか?』(マガジンランド)などがある。 それはやはり、クジラですね。私はずっと、水産庁の漁業交渉官として捕鯨交渉も担当していたんです。 捕鯨問題というのは狭いジャンルのように思われるかもしれませんが、交渉で求められる知識は、じつに膨大です。まず、クジラの生態を生物学的に理解しないといけない。資源管理には、数学や統計学の知識も必要。海洋汚染のことを調べようと思えば、化学の知識もなければ話にならない。 それと、交渉を有利に進めるにあたっては、日本人がクジラをどのように捕獲し、食べてきたかという歴史や食文化も調べる必要がありました。もちろん、英語力は必要ですし、ルールである国際条約や会議進行の手続き、国際情勢も知っておかねければならない。要するに、捕鯨1つとっても、それをテーマに交渉で勝つには、想像以上に幅広い知識が求められるということを、その時に改めて知った訳です。 交渉は難しいからこそやりがいもあるし、簡単な交渉では、人は育ちません。 ――つかぬ事ですが、マグロならいざ知らず、クジラとなると身近に感じる人は少ないような気がします。個人的に、それほどクジラを食べたい、という訳でもない。だからつい、どうしてそんなに一生懸命交渉する必要があるのかな……とも思ってしまうのですが。 自分が食べたいから交渉するんじゃないんです。そこはべつに、どうでもいい。 ――ど、どうでもいいんですか!? 役人は全体の奉仕者ですから。 法的にも科学的にも文化的にも正しいと信じられることがあれば、主張すべきところはきちんと主張して、世界から尊敬されたい。そう思うのが当たり前の気持ちであって、私の場合、その気持ちがあったからこそ頑張れたし、交渉で勝てたのです。 国際交渉のゴールは 「合意」や「妥協」ではない ――でも、ですよ、経済合理的に考えてクジラはそれほど重要ではない、という人たちがいますよね。その分、ほかの交渉にエネルギーを割くべきでは、という意見も……。 それが、まさに視野狭窄だというのです。そういう人に限って、何もしない。だったら、その人たちに聞きたいですね。もしも今、日本がここで捕鯨交渉から手を引いたらどうなると思いますか、と。 ――どうなるんでしょうか? 「日本の主張は間違っていたから捕鯨交渉を諦めたのだ」と悪く宣伝されるのがオチです。それこそ、何の国益にもなりません。それに何より、これまで日本を支持してくれていた捕鯨国の信頼まで、裏切ってしまうことになります。 いいですか、捕鯨は世界の約半分が支持しているのです。それを忘れちゃいけません。 国際交渉というと、「合意」や「妥協」がゴールだと思ってしまうのは日本人の悪いクセです。相手と同化したいという気持ちが強過ぎて、相手と意見が食い違うと精神的に不安定になり、国益よりも精神的な安定感を得ることが目的になって妥協をしてしまう。これが、そもそもの間違いです。 国際交渉で合意なんて、簡単には得られない。それぞれの担当者が自国の利益を背負って交渉に臨んでいるのですから、そう簡単に引き下がれるはずがない。捕鯨交渉でいえば、ゴールはクジラ資源の持続的利用の原則を貫くこと。だから、安易に調査捕鯨を止めてはいけないし、持続的な商業捕鯨を再開することが本来の目的であることを、見失ってはいけないのです。 ――商業捕鯨を再開することなど、できるのですか? 当然です。日本が商業捕鯨を止めたのは、IWC(国際捕鯨委員会)が商業捕鯨モラトリアムを決定したからでしょう。理由は、反捕鯨国が「クジラが絶滅に瀕している」と主張したからです。だから、「だったら、クジラの生息数を正確に調査しましょう」ということで、日本は調査捕鯨を始めた訳です。 みなさんは、クジラがすべて減っていると思っておられるかもしれませんが、減っているのはシロナガスクジラやホッキョククジラなど一部のクジラだけで、日本が調査捕鯨の対象にしているミンククジラとナガスクジラ、イワシクジラに関しては、資源が十分に回復していることがIWCで確認できています。つまり、彼らが商業捕鯨を中断した根拠は、すでに科学的な意味をまったくなしていない。にもかかわらず、相変わらずのモラトリアムを続けている。モラトリアムは一時停止という意味であり、国際条約の趣旨にも反しています。ですから、これは科学的にも法的にも明らかに間違っている。 捕鯨国のノルウェーなんて、IWCの勧告に異議申し立てをして、堂々と商業捕鯨を続けていますよ。 ――そうなんですか!? では、なぜ、日本ばかりが環境保護団体のターゲットにされるのでしょうか? そりゃ、ノルウェーを叩くよりも目立つし、効率がいいからです。要するに、一種のビジネスなのです。 日本の調査捕鯨を批判している環境保護団体の運営は、寄付金によって賄われている。より多くの寄付金を集めるには、目立つ行動をとる必要がある。日本を叩けば、海外の企業やお金持ちの国民が寄付をしてくれますから、それだけおいしい。 外国政府にしてみれば、それで国内政治に対する国民の不満をそらすこともできる。一部とはいえ、人種差別的な考え方のもとに日本人を好ましく思わない人たちも、海外にはいますから。 ――モノごとには、いろいろと奥深い現実がありますね。それにしてもなぜ、クジラがこんなに大きな国際問題に発展したのでしょうか? 一つは、かつて、鯨油が石油以上に貴重な資源だったということが挙げられます。もちろん、クジラが巨大で神秘的であり、ほ乳類だったということも影響しているでしょうが。 ――えっ、クジラから油がとれたんですか!? 外灯油やマーガリンになりました。ですから、アメリカやオーストラリア、オランダなどの反捕鯨国のほとんども、かつてはクジラを捕獲してそこから油を採っていました。その油欲しさに乱獲をしたことが、クジラが絶滅に瀕した最大の理由です。 IWCはその乱獲を自主的にコントロールしようとして設立された捕鯨国の団体でした。ところが、石油が普及してからというもの、鯨油は見向きもされなくなり、今度は急に「クジラを捕るのはけしからん!」となった。それで何が起きているかというと、必要以上にクジラが増えてしまった。世界中で魚が獲れなくなっている主な原因は乱獲ですが、クジラが増えてしまったことも、無視できない原因の1つです。 「人を動かす」には “定期的な確認”だけすればいい ――人間が魚を食うか、クジラに魚を食われるか、まさに自然界のサバイバルですね……。それはさておき、交渉の話に戻ります。小松さんは捕鯨交渉には多様な知識が必要だった、とおっしゃいました。一方で、そういう多様な知識を1人の人間が短期間のうちに習得するのは困難だと思うのです。実際は、どうされたんですか? 「人を動かすには「ああしろ」「こうしろ」と細かく指示をしたらダメです」と語る小松さん もちろん、必死で勉強しました。それ以外には、役人、研究者、政治家、NGOなど、外国人も含めて垣根を超えた幅広いパートナーシップを組みました。それと、ここは重要なポイントですが、毎週、主要なメンバー20人くらいを集めて会議をしました。 ――何を話し合ったんですか? いや、何も。「今、何をやっているのか」と、1人ひとりに聞くだけです。だから、時間は長くなくてもいい。せいぜい、1時間か1時間半くらい。 ――それだけ、ですか? それで、随分と違うんですよ。だって、私1人じゃない、みんなが同じ話を聞く訳ですからね。情報の共有が早く、容易になる。 それと、人を動かすには「ああしろ」「こうしろ」と細かく指示をしたらダメです。みなで情報を共有したら、その後で「あの件、どうなっている?」と確認する。その際、「私はこう思う」と意見を明確に主張することも必要です。それだけで、人はけっこう動きます。 ――それ、外国人にも通用しますか? します。FAO(国際農業食糧機関)にいた時に、そのやり方で事務局の日本人スタッフを昇進・昇格させたりしましたから。 ――具体的にどういう方法をとったんですか? 単純です。昇進させたいスタッフの上司のところに行って、四方山話をしますね。きりのいいところで「彼はどうですか?」と聞く。聞かれた相手はたいてい「ああ、とても優秀ですよ」とか答えますね。だから、こちらとしては、「そうですか、優秀ですか。でも、彼は長い間、係長ですね。そんなに評価が高いのであれば、そろそろ課長になってもいい頃かもしれませんね」というような話だけをして、帰る。 ――え、帰っちゃう? そう、いったんは。で、1、2ヵ月したら、また行くんです。「ところで、彼、どんな状況ですか?」と。 結論はすぐに出なくてもいいんです。そういうことを何度か繰り返していると、相手はだんだんと真剣に考えざるを得なくなる。大事なのは、その案件を相手に常に意識させることです。そのために、定期的に会う。 ――なるほど、説得のためじゃないんですね。 この時、たいていは相手からも頼まれごとをされます。それにも、誠心誠意、応える。要するに、交渉というのは持ちつ持たれつ、なのです。 国際交渉人が心得ておくべき 大事な場面で“キレない”コツとは? ――ところで、最後に是非、伺いたいことがありまして。 何でしょう? ――小松さんはご自身の著書の中で、ある国際会議の席上、“Shut up!(黙れ)”と口から出そうになったのを、かろうじて抑え、”Let me speak.(私にお話させてください)”とおっしゃったエピソードを紹介しています。どうしてこの時、感情を抑えることができたのでしょうか? それはね、女房によく助言されていたからです。 ――え、奥さんの知恵ですか? そう、「もっと丁寧に話しなさい」と。 これ、つまらない、小さなことのようで、案外、根本的なことではありますね。国際関係であろうと、日々の人間関係であろうと、原点は一緒。相手を尊重し、誠心誠意、相手と向き合いなさい、ということ。 だから、学生たちにはいつも言っています。アメリカと交渉するよりも、女房と交渉する方が難しいよ、と(笑)。 ************************** さすがは、タフ・ネゴシエーター。最後の質問は、いつ聞くべきかと準備して待っていたのだが、まさかそう来るとは思わなかった。 という訳で、今回のひとこと指南は以下を選ばせていただいた。 筆者が勝手にセレクト! 小松さんからのひとこと指南 国際交渉力を磨きたければ、身近な人の意見にこそ耳を傾けよ!
JBpress>海外>海外の日系紙 [海外の日系紙]
日本語学習者=世界9%増もブラジルでは減少 当地学習者数、2万人切る、コロニア経営校次々閉鎖 2013年08月28日(Wed) ニッケイ新聞 ニッケイ新聞 2013年8月8日 世界の日本語学習者数は右肩上がりに伸びているが、ブラジル国内では減っている傾向にあるようだ。 国際交流基金の本部が3年おきに実施する「海外日本語教育機関調査」2012年度版(速報値)によれば、世界の日本語学習者数(136カ国・地域を対象)は、過去3年間で9.1%も増え約398万人になった。特に中国、インドネシアをはじめとするアジア圏での増加が顕著だ。 その一方でブラジルは約10年ぶりに2万人を切り、世界順位を2つ落として15位になった。激減したわけではないが、他国の勢いに引き離されつつある。ただし、日本語を教える公的機関は増え、学習動機も「アニメ・マンガ」などの項目が上位を占め、非日系学習者数が伸びていることが顕著になった。 世界の日本語教育を行う機関数は1120件増で1万6045、教師数も約1万4000人増えて6万3771人と上昇中だ。 日本本部が調査結果を分析中だが、同基金サンパウロ日本文化センターの松尾博貴副所長は個人的見解と前置きしつつ、「世界各地で高まっている日本文化への人気を反映しているのでは。特にアジアは文化・経済的に結びつきが強いし、人口も多い」と語った。 ブラジルは今も南米1位だが、いずれの項目も微減した。2009年の学習者数は2万1376人だったが今回は1万9913人。機関数も22件減で325件、教師数は35人減で1132人となった。中でも機関数は、2006年から2009年にかけて36%も減った。 機関数の減少は、日本人会など民間学校の閉校によるものが大きい。昨年、梶原新吾所長(当時)に尋ねた所、「一つ一つの学校が大規模化して、閉校した中小零細校の生徒を吸収しているのでは」と推察していた。小規模の日本語学校が世代交代に失敗し、やむなく閉校に至ったケースも多いとみられた。 時代にあった事業必要 こうした機関数減少に歯止めをかけたのが公的教育機関だ。今年の内訳はまだ発表されていないが、2009年までの10年間で初等・中等教育は17から66、高等教育は8から14と倍増した。「日本語教育が徐々に公立校にシフトしてきたのかもしれない」(梶原前所長)。 学習目的も09年度は「母語・継承語」「家族等の勧め」がトップだったが、今回は非日系に多いと思われる「アニメ・マンガ」「言語そのものへの興味」「日本語でコミュニケーション」の3つが上位3位に躍り出た。 日系社会で「学習者の減少」が叫ばれる割に、学習者全体では微減程度なのは、日系人の減少分を非日系の増加が補っているからのようだ。ブラジル日本語センターの丹羽義和事務局長も「日系人学習者は減っているが、非日系は増えている」との印象を抱いている。 現場の問題は「教師数不足」「教材不足」「教材・教授法の情報不足」であり、これを解消して教師の待遇を改善し、経営を安定させることが不可欠という。 同センターでは州や市に働きかけ公立校への導入を進めるなどの対抗策を練っている。丹羽事務局長は「生徒数が増えている日系の学校もあるので、やり方次第。時代にあった事業が必要だ」と話した。 ( |