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尖閣事件が起きた当時の外相は民主党の岡田氏だった(撮影:尾形 文繁)
中国発の世界恐慌が起きる可能性は?
http://newsbiz.yahoo.co.jp/detail?a=20130826-00018236-toyo-nb
2013/8/26 中村 繁夫 :アドバンストマテリアルジャパン代表取締役社長 東洋経済オンライン
前々回(中国のバブル崩壊は、レアメタル暴落が引き金に? )、前回(→中国がダメでも、東南アジアは日本になびかない)と、2回にわたって、レアメタルバブルと中国のシャドーバンキング問題が表裏一体のものであることを書いてきた。今回は、3回シリーズのまとめをさせていただきたい。私が言いたいことを、ひとことでいえば、「中国のレアメタル、レアアース市場の規模は世界一だが、その構造は、『砂上の楼閣』ということだ。
■ 尖閣諸島事件にからんだ、レアアースの裏話を話そう
まず、いまだからできる中国のレアアース(=希土類。スカンジウムやイットリウムなどの17元素を指す)バブル崩壊の検証をしつつ、その裏話をしてみよう。いまや、レアアースの世界市場規模はわずか13万トン。値上がりのピークだった2011年度市場規模でさえ、多く見積もっても260億ドル止まりだったが、バブルが過ぎ去った現在は、ピーク時の10%の26億ドル市場にすぎない。
レアアースの投機相場が最も激しく動いたのは、2010年7月から11年後半にかけての1年ちょっとだ。尖閣諸島海域への中国漁船の侵犯問題が発生したのは、10年9月だ。
尖閣の侵犯問題が起きる2か月前の10年7月、中国産業省は5万トンの輸出許可のライセンス枠を突如、一気に4割もカットして3万トンにしてきた。当時、日本の輸入実績が3万トン以上だったから、ライセンス枠を全量、日本向けに回しても不足するという事態が生まれたのだ。
同年8月下旬の「日中ハイレベル経済対話ミッション」(団長は民主党の岡田克也元外相)では、会議当初からこの問題で大騒ぎしたのが裏目に出た。そもそも日本の通商行政のプロは、レアアースを会談の俎上に乗せるのには反対だった。日中のトップ同士が議論するほどの優先順位が高い内容ではないからだ。たった4億ドルしかない貿易取引で、中国側に借りを作っても仕方がないからだ。
一方、中国側は交渉上手だから「ははーん、日本側はレアアースが入らないと困るのか? 」と手の内を知ってしまった。まさに「やぶ蛇」とはこのことだ。なんと、会議の直後に、例の中国漁船の尖閣諸島海域への侵犯問題が発生した。そのときの中国政府の「レアアース輸出禁止」の対応は、迅速そのものだった。レアアースを本気で外交カードに使い出したのだ。
つまり、レアアースの輸出禁止は、日本政府を困らせることが目的だった。だが、市況が異常に高騰したことで高値が高値を呼び、誰もが利益を受ける状況が続いた。キロ当たりわずか10ドルのレアアースが、1年で15倍の150ドル以上にまでハネ上がったのだ。
ただ、この頃から投機市場に対して中央の金融機関からは表立って資金提供ができなくなった。そのため地方政府は、仕方なく闇の金融(シャドーバンキング)システムの利用を、容認せざるをえなくなった。しかも時の胡錦濤政権は、地方人民政府に経済成長の圧力(地方のGDP競争)をかけてきた時期でもあったからだ。一方で、市況が暴騰しても誰も損する者はいない。むしろ、尖閣諸島を国家管理にした日本を成敗しなければいけないといったナショナリズムが「大義」となったのだ。「困るのは日本だけ」。中国は儲かる一方であった。
■ 中国の思い通りになったのはわずか1年間
年が明けて、11年1月ごろには毎日のように相場は高値追いに。当社(AMJ)でも数量契約のあるディスプロシウムなどは最も危険元素であったから、安定供給を切らさないためには目をつぶって確実な供給ルートを確保した。私はとえいば、毎日のように関係銀行に通い、顧客との契約書を提示して、確実な取引であることを説得して回った。急激な値上がりと玉の確保のために、前払い資金が必要になり、使用資金が短期的に不足したためだ。ピーク時には毎月輸入するワンコンテナ(20トン)の積み荷が、何と30億円もする異常な状況であった。
すでに相場は、ほぼ10倍以上。輸出ライセンスが入手できないばかりか、現物玉の供給不安がつねに売り手有利に市場を支配していた。だが、今だから言えるが、そんな状況が長く続くわけはないのだ。この時期には、経産省関係者との情報交換もよくやった。日本政府は北京での情報ルートが充分ではない。だから商社筋からの情報分析を急いでいるような雰囲気だった。中国の発展改革委員会(レアアースの政策を決定する機関)の幹部が米国訪問の帰りに日本に立ち寄り、当社に対して経産省や主要需要家との面談アレンジを依頼してきた。それで役所に報告に行ったら、なぜか「中村さんは非国民だ」と言われた。
■ なぜ「レアアースバブルは終わった」と、言えたのか
まったく身に覚えのない誤解だった。日本と中国の外交ルートがないときに、中国側の立場も斟酌しながらレアアースの安定供給の交渉をしたことが、「出すぎたまねだ」とか「情報を中国にリークしている」などと、誰かが言ったらしいのだ。実際は、日本政府も中国との対応には、ほとほと困り果てていたようにみえた。
11年の5月から6月にかけて、まさにレアアース市場は極限を迎える。国内の在庫は尽き、工場停止寸前まで追いつめられている需要家さえ、出てきた。そこで日本側の需要家は徹底した「3R運動」を展開し始めた。3R運動とはリユース、リデュース、リサイクルである。繰り返し使い込み、使用量を極限まで減らし、今まで捨てていたものまで徹底的に回収を始めた。一方、産官学が総力を挙げて代替材料の開発にも注力した。
一方の中国側は、生産すればするだけ儲かるから、鉱山では密堀、盗掘、密売が横行。逮捕覚悟の流通業者は商品名の偽造輸出、密輸、密売と何でもありの状況となった。初めて会った見ず知らずの中国人業者が、頻繁に電話と売り込みに来るようになったのも、市況がピークをつけた2011年の7月からであった。
この状況を見て筆者は金属新聞に「レアアースの宴は終わった」と書いた。顧客からは「いい加減なことを言うな! 」としかられた。「そこまで言うなら、すぐにレアアースを持ってこい」と2度もしかられた。実際、契約不履行も覚悟で中国と契約をしたものの、現物を実際に入手するまでは需要家にコミット(約束)はできなかった。それほど逼迫が続いた。
だが、11年6月ごろから中国政府はレアアースの業界管理を強化したものの、レアアース市況は暴落の一途をたどった。先日、当時の状況を思い出して、経産省関係者と面談する機会があった。大げさに言えば、立場は違ってもレアアース戦争の戦友であり、今後のために、客観的事実だけでも報告書(公式文書)として残しておく必要性を議論した。何しろ、当時の経産省は事態を重く見て、1000億円のレアアース開発予算を国会に通したのだから。
■ 何度失敗しても、学習効果がない中国の体質
今でも中国では、依然として違法な採掘が後を絶たない。製錬分離の生産能力急拡大や環境破壊、重大な資源浪費、高度応用研究開発の遅れ、輸出秩序の混乱などの問題があり、業界の健全な発展に重大な影響を与えている。
さすがにレアアース業界では、中国南部のイオン吸着型レアアースを寡占化している業界上位3社のシェアを80%以上にする決定がなされた。南部での3社の名前は公式には出ていないが、業界では、中国五鉱集団(中国MINMETAL)、中国有色金属工業対外工程建設有限公司(China Non-ferrous Metal Industry s Foreign Engineering and Construction)と地方有力企業1社に、市場をコントロールさせる権限を集中させた。
実は、北部では内蒙古包鋼稀土高科技(Inner Mongolia Baotou Steel Rare-Earth Hi-Tech )に権限を与えた。だが南部は産地が分散し、多数企業が競っていたので、自由競争を故意に避けるように市場管理を強化したのだ。力任せに価格操作をしようとする政府の気がしれない。WTOは、国家権力によるカルテル行為ではないかと見ている。
ただ、市況が下落したことで、世界市場にも多大な影響が出てきた。アメリカのモリープ社(マウンテンパス鉱山)やオーストラリアのライナス社(マウントウェルド鉱山)の開発がコスト割れして、継続が不可能になる可能性も出てきたからだ。
これがレアアース業界の最大の欠陥である。中国の生産態勢が不安定であるがゆえに、海外の供給元の安定生産が担保されないのだ。中国はWTO参加国であるにもかかわらず、環境問題などを言い訳に一方的に輸出量を削減したりする。また、需給バランスが崩れたといって鉱山から分離精製工場に至るまで一方的に市場管理を強化する。明らかに自由競争を原則とするWTOルールに違反しているが「内政干渉はやめろ」といった反応でごまかすから話にならない。
私は個人的にはモリコープかライナスのうち、1社が生産中止をする可能性が高いとみる。そしてそのときが、レアアース市況が最安値をつけるときだと予見する。ベトナムやインドやカザフスタンの開発プロジェクト以外にも、具体化できそうなレアアース案件はいくつもある。だが、陽の目を見ることはないだろう。
要するに、中国のレアアース市場の安定化と市場の構成要素が整理されないかぎり、レアアースは国際市況商品にはなりえない。ケ小平氏の「中東には石油があるが、中国にはレアアースがある」というスローガンもいまだ健在だが、レアアースの本質は理解できなかったのかもしれない。中国の産業政策が朝令暮改を続けるかぎり、いつまでたってもレアアースの高騰と暴落は永遠に繰り返されることになるだろう。
■ 中国発の世界恐慌が起こる可能性は?
長々とレアアース市場破綻の話をしてきたが、言いたいのは、中国のレアメタルとレアアース市場の規模は世界一だが、市場構造は「砂上の楼閣」だ、ということだ。
根本的な問題は、産業政策や経済運営に安定性がなく、政府方針が杜撰なことだ。過去は民間企業の活性化が中国のGDPを押し上げてきたが、胡錦濤政権時代には国営企業の強化を急いだ。
その結果、産業界は官尊民卑の傾向が生まれた。国営の大企業は政府方針に沿った形で、GDP競争のためには粉飾決算も辞さない企業まで出てくる始末。仮に損失が表面化しても、国営企業なら税金で補填すればよいといった安易な状況が生まれ、ますます経済が劣化していったのである。
日本人は「のど元過ぎれば熱さを忘れる」傾向がある。だが、レアアースと同じようなバブル崩壊が、今度はレアメタル(=希少金属。ニッケルやチタン、インジウム、タングステンなどの31品目47元素を指す)で起こる可能性があるのだ。
レアメタル相場は、確かにレアアースとは少し違う。レアメタルの高値追いは進んではいるものの、まだ史上最高値ではないからだ。ただし国際市場は値下がり中なのに、なぜか中国の相場だけがじわじわと値上がりを続けている。
市場構造が成熟していない中国のレアメタル市場において、いくら資本主義経済をまねた金属取引所のメカニズムを導入しても、健全な取引市場を形成できるとは現段階では考えられない。そして、その安易な投機市場に流れ込むシャドーバンキングからの金融資産が破綻するときに、中国発の世界恐慌が起こる可能性を否定できないのである。
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