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資金逃避先から、投機対象に変わった日本 円安と株高は、国際的投機によって生じた
http://toyokeizai.net/articles/-/18024
2013年08月26日 野口 悠紀雄 :早稲田大学 ファイナンス総合研究所顧問 東洋経済
昨年秋以来の円安と株価上昇は、安倍晋三内閣の金融緩和政策によって引き起こされたと、多くの人が考えている。しかし、これまで述べてきたように、金融緩和政策は機能していない。では、株高や円安はなぜ生じたのか?
それは、日本をめぐる国際的な投機資金の流れが、2012年から変わったからだ。この変化は、国際収支のデータにはっきりと表れている。図に、非居住者(外国人)による対内証券投資等の推移を示す(額の変動が激しいので、図では3カ月の単純移動平均を示した)。
非居住者のネットの株式投資(図赤線)は、それまでマイナスの月もあったのだが、12年10月以降は継続的にプラスになった。そして、12月からは、毎月1兆円を超えるプラスになった(13年2月を除く)。4月には、ネットの投資額は3兆円を超えた。これによって株価が上昇したのである。07年初めにもネット投資額が大きくなったが、月1兆円程度だったので、そのときより多い。
株価に与える外国人投資家の影響が大きいことは、株式市場のデータを見ても分かる。外国人の株式保有比率は12年度で28.0%だが、売買シェアは極めて高い。日本の金融機関や事業会社は株式の持ち合いが多く、頻繁に売買しないのに対して、外国人投資家は、長期安定的な投資ではなく、短期的な売買益を狙った投資であるため、頻繁に売買を繰り返すからだ。
東京証券取引所の「投資部門別売買状況」によると、13年6月の東証1部の株式売買で、海外投資家のシェアは、買いで67.6%、売りで68.4%だった。このように大きなシェアを占める投資主体の売買動向は、株価に大きな影響を与える。
「海外投資家」が具体的にどのような投資主体であるかは、統計からは直接には分からない。ただし、これだけの額の取引が短期のうちに増えたことを考えると、個人投資家とは考えにくい。これは、ヘッジファンドや機関投資家だろう。
外国人投資家のウエートの高まりは、日本の株式市場のボラティリティを高めた。短期的売買益が目的だから、当然のことだ。したがって、株価は上昇一本やりでなく、激しく変動する。
実際、5月には、非居住者の株式売却が急増した。グロスの月間売却額は、46兆円と巨額だった。これが、5月23日の暴落の原因だ。
■日本への投資がリスクオンに
株式はリスクのある資産だが、債券(日本国債)は、満期まで保有すれば額面通りの償還が得られるので、安全な投資対象だ。これは、国際的投機資金のリスクオフ投資の対象となってきた。
07年の米国金融危機以降、日本の短期債に対する投資(図灰線)が増えた。07年までは移動平均で月間流入額は4兆円程度だったが、08年の後半以降は月間10兆〜12兆円程度になった。さらに11年頃からは、ユーロ危機の影響で日本の短期債への投資が増え、12年には月間15兆円程度になった。このために円高が進行したのだ。また、日本の低金利は、こうした資金の流入によって支えられてきた。これが逆流すると、金利が上昇する危険がある。
ところが、短期債投資は、12年9月に15兆円程度で頭打ちになった。減っているわけではないが、顕著な増加傾向は示さなくなった。10月にはネットでマイナスとなった。
中長期債は、移動平均で見ると、12年1月以降継続して売り越しだ。これが、5月中旬の中長期債利回り急騰につながっているのかもしれない。ただし売り越しの額は、株式の買い越しに比べるとずっと少ない。
このように、株式への投資が増える反面で、債券への投資は頭打ちないしは減少傾向を示す。つまり、日本に対する投資の性格が、それまでの「リスクオフ」の投資から、リスクのある投資に変わったのだ。
投機主体の立場から見れば、収益率の高い対象があれば、もちろん望ましい。安倍内閣の金融緩和アピールは、円安を通じた株価上昇を期待させ、したがって、短期的に高い収益率の投機の可能性を提供する。投機資金にとっては、千載一遇のチャンスであったに違いない。
■投機で動いた為替レート
証券投資は、全体として見れば、月間1兆〜2兆円の流入超過が続く。資金流入があれば円高になるはずだ。では、なぜ円安になったのか?
ちなみに、リーマンショック前も、証券投資は流入超過にもかかわらず円安になった。このことから、為替レートに、証券投資以外の要因が影響を与えていることが分かる。
国際収支項目で為替レートの動きに関連すると思われるのは、「誤差脱漏」だ。「誤差に意味がある」とするのは、奇妙な考えと思われるかもしれない。しかし、そうではない。
国際収支の誤差脱漏は、ランダムなものではない。以下に述べるように、一定の傾向を示しており、しかもその動きが為替レートの変動と強く相関している。しかも月間のネット取引額は数千億円と、かなり大きい。時には1兆円程度になり、証券投資のネット投資額に匹敵する。
これは、投機的な資金の動きを表すと解釈できる。円キャリー取引がケイマン諸島の金融センターなどを通じて、国際収支統計に捕捉されない形で行われている可能性が高い。
図ではっきりと分かるように、誤差脱漏は、リーマンショック直後に急激に流入に転じ、08年12月から09年2月にかけて、移動平均で見て月1.5兆円を超える流入になった。これは円キャリー取引の巻戻しを反映したものと考えられる。これが急激な円高の原因になったのだ。その後も流入が続いた。
誤差脱漏がそれまでの月間数千億円の流入から数百億円の流入に減ったのが12年10月から11月だ。これは、円高方向への投機の減少を反映したものと考えられる。そして、12月には流出に転じた。つまり、この頃に、円安に向かっての投機が始まったのだ。その後、額が増大した。
円安の原因が短期債への投資頭打ちと誤差脱漏だとすると、それらは、以上で見たように、安倍内閣の発足より前に生じている。
このように、円安は国際的な投機資金によって生じた。少なくとも、安倍内閣の金融緩和で生じたのではない。ただし、12月以降顕著に増えたのは、安倍内閣の姿勢が、円安投機、株高投機を促したためだろう。
為替レートの予測は、原理的に不可能である(市場がすべての情報を直ちに価格に織り込んでしまうからである)。ただし、今後の推移に大きな影響を与える要因が、次の二つであることは間違いない。
第一は米国の金融政策だ。緩和政策が終了すると、米国の金利が上昇して円安になる。緩和が継続するなら、現在程度の水準が続くだろう。
第二は、新興国からの投資流出が起きて日本がセイフヘイブンと見なされると、11〜12年頃の動きが再現されて円高になる。
いずれにしても、円安が続く保証はない。株価は円安がさらに進行することで上がる。円高にならなくとも、為替レートが一定の水準にとどまれば、株価の上昇は続かないことに注意が必要だ。
(週刊東洋経済2013年8月24日号)
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