03. 2013年8月26日 12:21:00
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【第23回】 2013年8月26日 伊藤元重 [東京大学大学院経済学研究科教授、総合研究開発機構(NIRA)理事長] 「消費税を上げて法人税率を下げるのは 大企業優遇」という幼稚すぎる議論法人税引き下げを 議論することの重要性 前回の当コラムで少し触れたが、来年の消費税率引き上げとあわせて法人税引き下げの検討を安倍総理が指示した、との報道が「日本経済新聞」(8月13日朝刊)に出た。この報道については菅官房長官や麻生財務相が否定しており、今の段階で消費税率の引き上げとセットにして本格的な法人税率の引き下げを検討しているということはないようだ。 ただ、消費税率の引き上げが大きな注目を浴びているときに、法人税率の引き下げが話題になったということは興味深い。消費税率だけを他の税金と切り離して議論するのは、本来は適切ではない。 消費税、法人税、個人所得税、資産課税など、さまざまな税があるとき、税全体の体系がどうあることが好ましいのかという視点から、消費税率についての論議が行われることが望ましいからである。 膨大な公的債務を抱え、さらには急速な少子高齢化が進展するなかで、日本の財政運営は非常に厳しい状況が続く。かなりの税収増加を生み出すような増税が必要になると考えざるをえないが、それはどのような税でどれだけ税収を確保するのか、という税配分の問題につながる。 特に、多くの国で、一方で消費税率(付加価値税率)が引き上げられ、他方で法人税率が引き下げられる傾向が顕著ななか、日本としても消費税率の引き上げと法人税率の引き下げをセットで行うべきかどうかについては、当然もっと議論を進めるべきである。 「消費税は国民一般、特に庶民に税金を課すものである。法人税は企業、特に利益をあげている大企業に課すものである。消費税率を上げて、法人税率を下げていくのは、国民をいじめて大企業を優遇するものである」──こうした意見を聞くと、経済がわかっていない小学生のような議論だと言いたくなる。 経済は複雑な体系である。法人税率によって企業行動がどう変わり、それが雇用や経済活力にどのように及ぶのか、マクロ経済全体としての思考が必要だ。そのうえで、消費税と法人税のどちらでより多くの税収を確保することが、国民全体にとってより好ましいことなのかを議論しなくてはいけない。 ただ、残念ながら、現実の税に関する議論は小学生レベルの単純な見方が強い影響を及ぼしがちである。それゆえ、日本ではなかなか消費税率を上げることができなかった一方で、法人税率は世界有数の高さのままなのである。 社会保障制度改革国民会議の報告書 8月6日に、社会保障制度改革国民会議の報告書が出た。これを受け、政府はプログラム法の概要を閣議決定した。今後、次の国会で社会保障改革について、さらに具体的な政策論議が行われ、法案なども提出されていくだろう。 この国民会議は民主党政権時代に設置された。当時の野党であった自民党・公明党と与党民主党の三党合意に基づくものであった。その基本にあるのは「税と社会保障の一体改革」という考え方であり、消費税率を上げるが、それに応じて社会保障制度についても充実を図るというものであった。 社会保障の歳出と歳入面の両方から議論をするという一体改革の思想は、基本的に正しいものだと思う。社会保障の充実だけ考えても、肝心の財源が手当てできないのでは絵に描いた餅である。他方、消費税を引き上げるといっても、その財源を借金返済に回すというだけでは、なかなか国民からの支持が得にくい。そこで消費税率を引き上げる一方で、その財源のかなりの部分を社会保障制度の充実に活用するというアプローチになったのだろう。 ただ現実問題として、社会保障費が膨らむ一方で政府の財政赤字がなかなか縮小せず、その結果として公的債務が増大していることを考えると、社会保障を充実させる代わりに消費税率を引き上げたいというアプローチだけでは、将来の展望が見えてこない。 増税などの手法で歳入を増やすとともに、踏み込んだかたちの改革によって社会保障支出を可能な範囲で抑制し、中長期の財政健全化を実現する、という姿勢をより前面に出す必要がある。 前回も触れたが、日本の財政状況を見ると、増税による歳入増加だけで財政健全化を果たすのは難しい。また、社会保障費の削減のみによって増税なしで財政健全化するのも現実的ではないだろう。 そうなると、一方で増税によってある程度の歳入増加を確保すると同時に、思い切った社会保障改革によって歳出の徹底した抑制を続けていくしかない。この両方を同時に行わないかぎり、日本の財政健全化は実現しないだろう。財政健全化が実現しなければ、社会保障制度を維持することも難しくなるのだ。 増税のための戦略が必要 今後もそれなりの税収増加が必要であるとすれば、増税への戦略が欠かせない。当然、単純に消費税率を引き上げていけばよいというものでもない。他の税と比較しながら、経済に及ぼす歪みが最も小さくなるような、そして多くの国民が不公平感を持たないような税制改革が必要となる。 前回詳しく論じたように、消費税(付加価値税)は大変に優れた税である。税収が安定していること、現役世代だけに偏ることなく、国民全体に幅広く税負担を求めること、そして生産・消費活動への歪みが比較的少ないことが、消費税のメリットとしてあげられる。 消費税は消費者に課す税であり、消費者を不利にするという認識を持っている人も多いようだが、「消費税」という名称がいらぬ誤解を与えている。消費税ではなく、付加価値税と呼べばずいぶんと印象が違うはずだ。消費税(付加価値税)は、生産であろうと、消費であろうと、そこに付加価値が生じたら、それに対して一律に税を課していくということにすぎないからだ。 消費税は累進税にすることが難しいので、所得再分配のうえで問題があるという見方も多い。豊かな人も貧しい人も同じ税率で税負担をするのでは、不公平だろうという見方である。 ただ、これも前回述べたように、消費税の課税自体で所得再分配をしなくても、その財源を利用した社会保障や教育などの公的サービスで所得再分配をするほうが好ましいという考え方もある。 金持ちから税金をとって貧しい人に分けるという、おカネのやり取りで解決するのが旧来の累進課税による所得再分配の考え方だ。それに対して、国民であれば豊かな人も貧しい人も付加価値や消費に応じて税金を払う、税金を払っていれば一定の教育や社会保障については平等に提供される──こうしたかたちの再分配政策が消費税の背景にある。 もちろん、特に所得の低い人たちには、負の所得税、つまり所得給付を提供するということもある。消費税の税収の一部を、所得の低い人に負の所得税というかたちで現金給付するのだ。納税者番号が導入され、国民の所得がより正確に把握できれば、こうした制度を導入することも可能である。 法人税率を下げても 全体税収を落とさないことも可能 さて、法人税であるが、好ましい税体系という視点から考えれば、法人税率は下げる方向が好ましい――そう考える専門家が多いはずだ。企業がグローバルに競争しているなかでは、各国の法人税率の高低もその国の競争力に大きく影響を及ぼす。他の多くの国が法人税率を下げているのに、日本だけ高い法人税率を維持しているのは好ましいことではない。 ただ、法人税率を下げることによって、法人税収が大幅に減少するようなことがあれば、これも安定的な税収を確保するという点から好ましくない。そこで法人税の税率の問題と、法人税の税収のベースを分けて考える必要が出てくる。 法人税の税収は、図式的には直方体の体積で表示することができる。底面の面積はどの程度の範囲に法人税を課していくかを表しており、直方体の高さは税率を示している。直方体の高さである税率が下がっても、底面の面積──すなわち税のカバーの範囲が広げられれば、法人税の税収はそれほど減らないか、あるいは増えるようなこともある。 現実に法人税率を下げてきた欧州では、法人税の税収はそれほど下がっていないか、むしろ増大していることもある。これはこの法人税のカバー範囲の見直しの問題が大きいのではないかと推察される。また、法人税率を引き下げることによって経済活動が活発になり、それで企業収益が増えれば、結果的に法人税収が増えるということはあるだろう。 日本の法人税の税率を下げることの狙いの一つは、海外からの企業参入を促すということもある。法人税が高いと日本には進出しにくい。日本に企業がこなくては、いくら法人税率が高くても外資系企業から法人税をとることはできない。しかし法人税率を下げた結果、海外からの投資が増えて日本国内で利益を上げるようになれば、その分法人税収入も増えるのだ。 法人税のあるべき姿については、今後、世の中でもっと活発に議論されるべきであろう。このコラムでも、いずれもう少し突っ込んだ議論ができればと考えている。 【編集部からのお知らせ】 安倍政権のブレーンである伊藤元重教授の最新著書『日本経済を創造的に破壊せよ!』が発売されました。アベノミクスの先行きを知るためにも必読です! 日本経済を創造的に破壊せよ! 衰退と再生を分かつこれから10年の経済戦略 伊藤元重 著
【第2回】 2013年8月26日 小黒一正 [法政大学経済学部准教授] 消費増税を予定通り実施すべき3つの理由 ――法政大学経済学部准教授 小黒一正 2014年4月に実施予定の消費増税を巡り、安倍首相は、増税がマクロ経済に及ぼす影響を検証する場の設置を指示した。増税に慎重な浜田宏一内閣参与らも出席し、複数案((1)予定通り14年4月に8%、15年10月に10%に2段階で引き上げる、(2)最初に2%増税、その後1%ずつ増税、(3)毎年1%ずつ増税、(4)増税の先送り)に分けてヒアリング・検証する模様だが、平成版・金融危機やリーマンショックが再び起こらない限り、予定通り実施するのが望ましい。むしろ、増税を予定通り実施しないのは以下の3つの理由から誤った政治判断である。 今そこにある「財政の限界」 おぐろ・かずまさ 1997年京都大学理学部卒、一橋大学博士(経済学)。大蔵省(現財務省)入省後、財務省財務総合政策研究所主任研究官、一橋大学経済研究所准教授などを経て、2013年4月より現職。内閣府・経済社会総合研究所客員研究員、経済産業研究所コンサルティングフェロー、内閣府・経済社会構造に関する有識者会議 制度・規範WG「世代会計専門チーム」メンバー。専門は公共経済学。著書に、『2020年、日本が破綻する日』、『日本破綻を防ぐ 2つのプラン』(共著)、『アベノミクスでも消費税は25%を超える』など。 まず、第1の理由は「財政の限界」である。そもそも今回の5%増税が「止血剤」に過ぎないことは、拙著『アベノミクスでも消費税は25%を超える』(PHPビジネス新書)でも指摘している。というのは、米アトランタ連銀のブラウン氏らの研究(Braun and Joines, 2011)の試算が明らかにするように、もし日本経済がデフレを脱却し、2%インフレを実現した場合でも、段階的に消費税を増税するケースでは、ピーク時の消費税率は32%にも達する可能性が高いからである。 しかもこの試算は、相当厳しい「政府支出削減プラン」の実行を前提にしている。具体的には、(1)「高齢者の医療費窓口負担を20%とする」(2)「年金給付の所得代替率(注1)を50%から30%に引き下げる」(3)「政府支出(社会保障を除く)を一律1%削減する」といった削減である。そもそも2%インフレが恒常的に実現できるか否かという問題や、このような厳しい削減プランが本当に政治的に実行可能か否かという問題もあるが、それでも、財政の安定化のためには、ピーク時の消費税率は32%に達するのである。この点、報道ベースから伝わる安倍首相の現状認識は甘く、日本財政を巡る現状を正確に把握しているか疑問が残る。 (注1)所得代替率:年金額がその時点での現役世代の平均収入(ボーナス込みの手取り賃金)の何割かを表す指標をいう。 だが、問題はこれだけではない。何も改革を実施せず、消費税率を据え置いたシナリオである。実は、ブラウン氏らは、こうしたシナリオも分析している。具体的には、日本の政治状況に鑑み、2つのシナリオを用意している。 1つは、2014年・15年の消費増税を実施するケース(以下「実施シナリオ」という)であり、もう1 つは、増税を実施しないケース(以下「先送りシナリオ」という)である。その際、ブラウン氏らの研究では、「政府債務(対GDP)を発散させないため(注2)に、消費税率を100%に上げざるを得なくなるまで、「実施シナリオ」では消費税率10%を維持、また、「先送りシナリオ」では消費税率5%を維持する」との想定を置いている。このような前提に基づく場合、「実施シナリオ」では2032年まで、「先送りシナリオ」では2028年まで持続可能であるとの推計結果を導いている。 これは、今回実施予定の消費税率計5%引き上げによる延命効果は「約4年」(=2032年−2028年)に過ぎず、消費税率を10%に引き上げても、早急に財政・社会保障の抜本改革を行わない限り、2032年には財政は限界に達する可能性が高いことを示唆する。なお、以上の試算である限界点をもって財政の限界を予測する試みは楽観的過ぎる判断という批判も当然あり得る。市場の動きは時に乱暴なるケースがあり、現在のところ、国債市場は落ち着いているものの、来るときは数年で限界が到達する可能性も否定できない。いずれにせよ、このような試算は日本財政の現状が如何に深刻であるかを表し、日本人が直視したくない「現実」を突き付ける。 政治的な合意リスク 次に、第2の理由は、政治的な合意リスクである。昨年8月に成立した増税法案の附則18条には、いわゆる「景気条項」や「停止条項」が盛り込まれているが、安倍首相が指示した複数案の(1)〜(4)のうち、(2)〜(4)の増税幅の見直しや増税先送りには法改正が必要になる。その場合、どの案が適切かを巡り、与党内での政治的な利害対立や混乱を誘発するか可能性が高い。 かつて、小泉元首相は「世の中には『上り坂』と『下り坂』があるが、政治の世界にはもうひとつ『まさか』という坂もある」という発言をしたことがあるが、政治は「一寸先は闇」である。例えば、産経新聞(2013年7月29日)の情報では、「同社とFNNの合同世論調査で、14年4月の消費税率8%への引き上げについて反対(55.8%)が賛成(39.5%)を上回り、1年前と比べて反対と賛成の差が広がった」旨の報道がある。7月の参院選で圧勝したものの、与党内の増税反対派の勢いが急増し、安倍首相がその勢力を政治的に制御できなくなった場合、最悪ケースでは(4)が政治的に選択される可能性がある。 (注2)債務の発散:政府債務(例:国債)が、その国の経済力の目安であるGDP(国内総生産)の成長率よりも速いスピードで膨張してしまうことをいう。 もし(4)が選択された場合、上記の第1の理由との関係で、事態は深刻となる。というのは、1997年に消費増税(3%から5%への引き上げ)を行ってから、15年にも及ぶ政治的な混乱を経て、ようやく、2012年8月に今回の増税法案が成立したからである。もし増税が先送りとなれば、次の政治的な合意まで、何年かかるか見通しが立たず、前述した2028年に近づく可能性も否定できない。 増税が成長率低下を招くとは限らず 第3の理由は、「増税が成長率を低下させるとは限らない」という客観的事実である。この事実は誤解が多いため、まずは日本のケースで確認してほしい。日本は過去に消費増税を2回行った。1989年4月の消費税導入時(3%)と、97年4月の増税(消費税率3%→5%)である。実はあまり知られていないが、この2回の増税では、実質GDP成長率のその後の動きが異なる。 「増税は必ず成長率を低下させる」という主張の根拠として頻繁に利用される97年の増税での動きは、図表1の赤線で囲った部分である。増税前後の96年から98年までの3年間で、実質GDP成長率は2.6%(96年)→1.6%(97年)→▲2%(98年)と推移し、一貫して低下している。だが、89年の消費税導入時の動きは全く異なる。図表1の青線の囲みのとおり、増税前の88年から89年にかけて、実質GDP成長率は7.15%(88年)→5.37%(89年)と一時的に低下しているものの、増税後の90年には5.57%に上昇している。なお、91年以降に実質GDP成長率が急低下しているのは、バブル崩壊の影響である。 以上の客観的事実は、「増税が成長率を屈折させるとは限らない」という1つの証拠である。むしろ、97〜98年は三洋証券や山一証券、長銀や日債銀といった金融機関の破綻が相次ぎ、不良債権処理や貸し渋りの影響が出始めた異常な時期に増税を行ってしまったことが経済を低迷させたというのが、最近の経済学者の標準的な見方である。実際、97年の経済指標(四半期データ)をみると、97年7〜9月期には消費は回復しており、消費税の直接ショックより、金融危機やアジア通貨危機の影響が大きかったと考えられる。つまり、97年の増税は不況の主因ではなく、97年11月の三洋証券の破綻から始まる「平成の金融危機」が主因と考えられる。 また、1997年度以降の税収減の要因としては、累次の減税の影響が深く関係していることはあまり認識されていない。たとえば、所得税の定率減税(99年から実施され、2007年に終了。年当たり2.7兆円)が実施されたことや、2004年度以降の地方への3兆円の税源移譲が実施されたこと、法人税について累次の税率引き下げ(合計すると2.0兆円)が行われたことも税収減に大きく影響している。実際、内閣府の「平成24年度 年次経済財政報告」では、これらの減税がなければ、単純計算では2007年度には97年度の税収を上まわっていたと推計している。 次に、海外でのケースで確認してみよう。このため、以下では、1965〜2011年におけるOECD諸国の年次データを利用する。人口成長率や物価上昇の影響を取り除き、厳格に評価するため、成長率の指標として「1人当たり実質GDP成長率」を利用する。また、VAT(付加価値税)の税収(対GDP)の変化が0.45%ポイント以上増加している場合は何らかの増税を行ったとみなす。このようなデータに基づき、「VAT税収(対GDP)の変化」が「1人当たり実質GDP成長率の変化」に及ぼした影響を見たものが、以下の図表2である。 この図表の横軸は「VAT税収(対GDP)の変化(前年と比較した際の増減)」、縦軸は「1人当たり実質GDP成長率の変化(前年と比較した際の増減)」を表す。このため、付加価値税(VAT)の増税が1人当たり実質GDP成長率を低下させたケースは、「1人当たり実質GDP成長率の変化」がマイナスの領域にプロットされている。逆に、付加価値税(VAT)の増税を実施しても1人当たり実質GDP成長率が低下しなかったケースは、「1人当たり実質GDP成長率の変化」がプラスの領域にプロットされている。 また、日本のケースで考えると、GDPが500兆円弱で、消費増税1%の増税収は約2.5兆円であるから、その税収(対GDP)は約0.5%に相当する。図表2のプロット・データ全体を見ると、VAT税収(対GDP)の変化が2%以上(=日本のケースでは消費税4%の増税に相当)でも、1人当たり実質GDP成長率が低下していないケースが5割程度も存在することが確認できる。 以上の3つの理由から、日本財政には増税を先送りする余裕はなく、平成版・新金融危機やリーマンショックが再び起こらない限り、予定通り実施する必要がある。もし増税が成長を低下させる懸念が払拭できないのであれば、増税スケジュールの見直しでなく、それ以外の対策でショックを緩和することが望ましい。 今回の増税は再生への第一歩 2009年の衆院選で政権を獲得した民主党は12年末の衆院選で敗北したが、その理由の一つに、政権公約(マニフェスト)に記載がなかった消費増税法案を成立させたことがあったことは確かであろう。筆者は無党派で特定の支持政党はないが、それでも、政権獲得後に財政の深刻さに気づき、政治生命をかけて増税法案を成立させた野田元首相の功績は大きく、現在の安倍政権はその遺産の上に存在するといっても過言ではない。 財政・社会保障の再生にとって、今回の増税は一歩に過ぎない。改革の本丸は(毎年1兆円超で膨張する)社会保障であり、今回の増税が予定通り実施されないようであれば、より抵抗が強い社会保障の抜本改革は到底不可能であろう。政治的な利害対立を超え、若い世代や将来世代の利益も視野に、早急に政治決断することが望まれる。安倍政権の責任は重い。 http://diamond.jp/articles/print/40682
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