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http://bylines.news.yahoo.co.jp/ogasawaraseiji/20130824-00027515/
2013年8月24日 12時59分 小笠原 誠治 | 経済コラムニスト
本日のタイトルは、消費税増税Gメンの愚。ラーメンの具ではありません。
ここで笑わないと、もう笑うところはありません。本日も小難しい話ですから。
消費税増税の価格転嫁を監視するGメンを中小企業庁と公正取引委員会が、600人ほど採用するのだとか。
Gメンなんて言葉を聞いて、郷愁に浸っている貴方は中高年世代でしょう。Gメン75なんてのもありましたね。
Gメンと言えば、何やら格好良さそうにも聞こえるのですが、要するに政府の役人‥国家公務員ということなのです。GメンのGは、GovernmentのG。
いずれにしても今回注目されているのは、来年の4月から仮に消費税増税が実施された場合に、増税分がちゃんと価格に転嫁されているかどうかを監視するための要員であるのです。
公務員の数を減らせ、或いは、公務員の給与を下げろ、と言われて久しいのに、公務員の数を減らすどころか、一気に600人採用するのだと。
どう思いますか? 何故そのような監視員が必要になるのか?
と思って調べていくと、何とそもそもは、野田政権のときの考えが今でも踏襲されていることが分かったのです。野田政権のときに、消費税の増税分が価格へ十分転嫁されず、大手のスーパーなどに納入する中小の納入業者が税を事実上負担させられている事実が指摘されたことが基になっているのです。
どう思いますか?
ところで、例えば現在、消費税率5%の下で105円で売られている商品は、消費税率が8%になったら、幾らで売られることになるのでしょうか?
答えは、幾らになるかは何とも言えない。それが正解。
もちろん、小売店としては、増税分を上乗せして、税込みで108円で販売をし、そして、それが今までどおり売れるのであれば何の問題もなし。
しかし、消費者としては、賃金が増税分と同じペースで上がるのであれば別ですが、賃金が上がらないままだと、幾ら今までと同じように商品を購入したくても、収入が増えないので購入する数量を減らさざるを得なくなる人が大部分なのです。
つまり、増税に合わせて単純に商品の価格を上げていたら、恐らく売れ行きが落ちることになるでしょう。
では、売れ行きが落ちた場合、小売店は黙って事態を見逃すしかないのか?
もし、何も手を打つことがなければ、売れ行きが落ちる結果、倒産に至ってしまうかもしれません。当然のことながら、何らかの手を打つ必要がある、と。そして、一番手っ取り早いのが価格を引き下げることでしょう。極端な場合、幾ら増税になっても105円のまま据え置く、と。
では、そのとき、8%分の税を支払うのは誰になるのでしょう?
国税庁は、次のとおり説明します。
「消費税は、事業者に負担を求めるものではありません。税金分は事業者が販売する商品やサービスの価格に含まれて、次々と転嫁され、最終的に商品を消費し又はサービスの提供を受ける消費者が負担することとなります。」
いいでしょうか? 国税庁は、消費税を負担するのは消費者だ、と断言をしているのです。事業者は、消費者から預かった消費税を、国に納めるだけなのだ、と。
しかし、今言ったように、商品の売れ行きが落ちるので商品を値下げした場合も、消費者が税を負担すると言えるのでしょうか? 事業者が負担することにならないのでしょうか?
国税庁の考え方によれば、このように増税されたにも拘わらず小売店が商品の価格を据え置いた場合にも、税を負担するのは消費者であることに違いはないのです。
何故ならば、105円のうちの8/108分が税であり‥つまり7.8円が税であり、本体価格が100円から97.2円に引き下げられたと考えるからなのです。
97.2円が本体価格である商品の価格に8%の税が課せられれば、97.2×1.08=105となりますよね?
消費者は、消費税が5%から8%に引き上げられたが、それでも増税前と同じように105円である商品を購入することができた。従って、常識的に考えたら、増税分を負担していないように思える。しかし、それでも国税庁は消費者が増税分を負担していると言う。何故ならば、商品の本体価格が、それまでの100円から97.2円に引き下げられ、そして、消費者は、97.2円の商品に対し105円を支払っているのだから、8%の消費税を負担しているのは明らかだ、と。
どう思いますか?
国税庁の説明は、間違っていないと言えば間違っていない。しかし、どうも釈然としないのです。
というのも、もし、8%に消費税率が引き上げられても、小売店が価格を据え置いて販売せざるを得ないとしたら、引き上げられた3%分の消費税は小売店が負担したと見做すのが常識的だと思われるからなのです。
現実には、小売店が売る商品は全て業者から仕入れている訳ですから、可能性としては、小売店が納入業者に値引きを要請することもあるでしょう。
では、仮に納入業者が増税に伴う値引きに応じた場合、納入業者が税を負担したと言うべきなのでしょうか?
国税庁の論理からしたら、決してそのようなことにはなりません。納入業者は、納入した商品の価格を増税にも拘わらず据え置いただけだ、と。つまり、納入した商品の本体価格を引き下げた、と。
しかし、そのような国税の論理を知った納入業者としては、納得がいかないのです。増税になった分を自分たちが負担させられた、と。国税の話によれば、消費税を負担するのは消費者である筈なのに、何故弱い立場の中小零細の納入業者が泣き寝入りしなければならないのか、と。
そこで、Gメン登場となるのです。
これが麻薬の密輸を取り締まるようなGメンであれば、格好良くもある訳ですが‥増税による価格の転嫁を監視するなんて、理屈に合わない仕事をさせられる訳ですから‥
だって、そうでしょう? 価格など、今や刻一刻と変わるからなのです。昔みたいに、殆どの商品に価格が表示してあったような時代ならともかく、バーコードで商品の情報を読み込むのが当たり前の現在、消費者が価格を判断できない商品も多いのですから。
それに、そもそも国税庁の「消費税は、事業者に負担を求めるものではありません」という説明がミスリーディングであるのです。法律論として考えるなら、国税庁のような理解も間違っていないのかもしれません。しかし、実質的に考えるならば、消費者だけではなく、事業者も負担することになるというのが消費税というものなのです。そんなこと経済学を学んだ人ならすぐに分かりそうなものを、と私は思うのです。
要するに、国税庁が、消費税は消費者が負担するものであって、事業者が負担することはない、なんて言うから、だったら何故自分たちが実質的に税を負担しなければならないのかという不満が中小零細業者から湧いてくる。そして、政治家たちは、その不満を何とかして解消しなければいけないから、税額分だけ価格が上がるように役人に監視させる、というのでしょう。
しかし、売り上げが伸びない時に、その対策として価格を引き下げるのは当たり前ではないですか? それをしてはいけないと政治家が言うのでしょうか?
おかしいでしょ?
というよりも、増税をするのだから、誰かに負担がかかるのは当たり前の話なのです。もちろん、その負担を消費者に押し付けるのが政治家の魂胆だったのかもしれませんが、消費者もなるだけその負担を少なくしようと行動する。だから購入数量が少なくなる。そして、そうして売れ行きが悪くなるから、価格が下がる。
おかしいのは一体誰なのでしょうか?
それに、政治家の皆さんは、アダムスミスの課税の4大原則をご存知ないのでしょう。
4大原則の4番目は、国民から徴収したものと国に入る収入の差額ができるだけ小さくなるようにしなければならないというものなのです。要するに、課税をするのに、多くの経費がかかるような税は好ましくないと言っているのです。
それなのに、今政府がやろうとしていることは、消費税を上げるために、中小企業庁と公正取引委員会のスタッフを増やそうとしている訳ですから。明らかにアダムスミスの第4の原則に反していると言うべきでしょう。
というよりも、そんな難しい話をしなくても、政府がやろうとしていることが如何にバカげているか、分かると思うのですが‥
以上
小笠原 誠治
経済コラムニスト
小笠原誠治(おがさわら・せいじ)経済コラムニスト。1953年6月生まれ。著書に「マクロ経済学がよーくわかる本」「経済指標の読み解き方がよーくわかる本」(いずれも秀和システム)など。「リカードの経済学講座」を開催中。難しい経済の話を分かりすく解説するのが使命だと思っています。
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