02. 2013年8月23日 11:05:30
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http://d.hatena.ne.jp/abz2010/20110801/1312242746 税収弾性値 「4」 の意味Add Star 現在進められている財政再建・増税を巡る議論では様々な意見が見られるが、その中でも金子洋一議員や高橋洋一教授は過去15年の税収のGDP弾性値の平均が「4」であることに着目し、名目成長4-5%が達成できれば財政再建は可能であると主張されているので、少し検証してみる。 (税収弾性値とは名目GDP1%増に対して税収増が何%になるかをあらわしており、これが「4」であれば、単純計算上は名目GDPが5%増えれば税収は20%増えることになる。) まず、このような高い税収弾性値を主張する人は同時に財務省が採用している税収弾性値(1.1)を批判していることが多いが、財務省の税収弾性値は長期での税収弾性値であり、上記の「4」は短期での税収弾性値であることを区別する必要がある。
この区別は一見おかしなように聞こえるかもしれないが、以下のように図示してみれば何が起こっているか分かりやすい。
これらのグラフは、長期の税収のGDP弾性値を1、1.5、−1とした仮想の名目GDP、税収の(初年度を100とした)推移であるが、どのグラフも年単位で見た税収のGDP弾性値の平均は「4」である。 f:id:abz2010:20110802083002j:image:w500
f:id:abz2010:20110802083001j:image:w500 f:id:abz2010:20110802083000j:image:w500 つまり長期トレンド(A)に沿って名目GDPが波うちながら上昇し、税収がその「波」に過敏に反応しながら長期トレンド(B)に沿って上昇(下降)する場合、短期で見た税収のGDP弾性値の平均は長期的なGDP弾性値(長期トレンドB/A)と独立して存在するということである。
金子議員が指摘する税収のGDP弾性値「4」はこの短期の振幅の大きさを表しているものであり、長期的な税収弾性値とは直接的には関係がないことになる。 ではこの短期の税収弾性値「4」を活かして財政再建できるだろうか?
筆者の見解としては可能性が無いとは断定できないが、それほど見込みがあるとは思えない。
まず短期で名目成長率を5%にすれば税収が20%伸びる、という見込みは対象とした期間(1995-2009)の名目成長率の変動のレンジを大幅に超えており、弾性値「4」がそのまま当てはまるとは思えない。 そして長期でみれば名目GDPは1995年からリーマンショック前の2007年までの12年間で4%伸びているが、その間に税収は16%増えるどころか2%のマイナスになっている。
経済成長にともなう税収の増加により財政再建を実現すべきという主張自体は別におかしなものではないし、そのような試算も机上であれば色々と可能と考えられるが、この税収弾性値「4」をふりかざすのは、蛇足ではないだろうか?
[参考] 名目GDPと税収の推移 (1985-2010)
http://agora-web.jp/archives/1553842.html 税収弾性値は3.13もあるのか 小黒 一正 高橋洋一氏が、直近10年間の「税収弾性値」は3.13という記事を掲載した(注)。「成長による税収増があれば、増税をしなくても財政を健全化できる」との議論は根強い。拙書『アベノミクスでも消費税は25%を超える』(PHPビジネス新書)でも指摘しているように、こうした議論の鍵となるのが、「税収弾性値」という概念だ。 税収弾性値とは、経済成長によって税収がどの程度増えるか、具体的には、GDPが1%増えるごとに、税収が何%増えるかを示す数値である。(名目GDPに対する)税収弾性値が1であれば、名目GDPが1%増えるごとに税収も1%増えることとなり、税収弾性値が2であれば、名目GDPが1%増えるごとに税収は2%増えることとなる。この税収弾性値が3や4といった高い値であることを前提に、経済成長すれば税収は大幅に伸びるとする。 仮に税収弾性値が3であり、かつ、名目4%の成長を実現すれば、税収は4%×3で12%増えることとなる。単年度で5兆円程度の税収増であり、これを毎年続ければ、確かに、増税をしなくても財政は健全化できるだろう。経済成長は極めて重要だが、これは極めて楽観的な前提に基づくシナリオである。実際には、税収弾性値はこれよりももっと低いと考えられる。 内閣府が主催した研究会の報告書においては、2000年代(2001年〜2009年)の各年度について、税収の伸び率を名目成長率で割った値の単純平均が4.04であったことに言及している。楽観的な立場には、こうした数値のみに着目して、税収弾性値が4であるとの主張を行う者もいる。だが、この計算の基となった各年度の税収伸び率と名目成長率の実際の値を見てみると、いかにこうした単純平均が意味のない数値であるかが分かる。 アゴラ第69回(図表) この図表を見れば分かるように、税収弾性値が4というのは、全体としては税収伸び率も名目成長率もマイナスの下で得られた数値である。しかも、各年度の税収伸び率と名目成長率を見ると、それぞれプラスの年とマイナスの年が混在しており、2003年度のように、両者が逆の方向を向くという異常な年もある。 また、2002年度の11.24といった異常値が平均値を大きく押し上げている。つまり、この表から読み取れることは、近年、税収伸び率が名目成長率に対して大きく振れることが多いのは確かだが、その程度、方向性にはばらつきがあり、両者の間に一定の傾向、関係性は見出し難いということである。 近年は、分母である名目成長率がゼロに近い値であるために、見かけ上の税収弾性値が高く振れやすくなっている。今後、成長率が回復した後も、こうした高い税収弾性値が安定的に実現すると考えることには無理があるだろう。成長率が比較的安定していた、バブル期以前の平均的な税収弾性値は1.1である。 その後、所得税の税率がフラット化されてきたことや、比較的弾性値の低い消費税が税収に占める割合が高くなってきたことからすれば、本来の税収弾性値はむしろ低下傾向にあると考えることが自然である。このため、内閣府の上記研究会報告書でも、現在の税収弾性値は1強程度と結論付けているのである。なお、このコラムの掲載後、池田信夫氏が切れ味の鋭いコラムを掲載したので、こちらも読むと理解が深まる。 (法政大学経済学部准教授 小黒一正) 注)以前は15年間の平均で税収弾性値は4としていた。なお、理論的には、財政の持続可能性を評価するのは「長期」の議論であり、その場合、税収弾性値も「長期」の値で議論する必要がある。このため、5年程度の期間の変更で、税収弾性値が1も変化するのは奇妙だが。 http://agora-web.jp/archives/1553854.html 経済 「税収弾性値」というまやかし 池田 信夫 小黒氏の記事にちょっと補足。高橋洋一氏にだまされて本田悦朗氏も最近、「最近の日本の税収弾性値は平均3以上だから、名目成長率を上げれば消費税を上げる必要はない」といっているらしい。 税収弾性値=税収の伸び率/名目成長率 だから、もし彼らの主張が本当なら、成長率を1%上げれば税収が3%以上増えることになる。しかしその時系列データは、小黒氏も指摘するように、非常に振幅の大きいデータを平均したもので、統計的に意味がない。 ちょっとおもしろいブログを見つけたので、紹介しておこう。次のような2つの名目成長率と税収の時系列データがあるとする。 毎年の短期弾性値を平均すると、どちらも4になるが、全体としての長期弾性値は上の図では1、下の図では−1である。つまり短期的な税収が大きく波打つと、税収が減る場合も弾性値は大きくなるのだ。日本の2000年代の場合は、税収の減る年が多く、所得減税も繰り返されたので、弾性値が過大に出ている。 「名目成長率を上げて財政を再建する」というとき、重要なのは短期の振幅の大きさではなく、長期の安定した税収増である。長期の弾性値は1前後だというのが財務省や多くの専門家の推定であり、これは80年代からほとんど変わっていない。財政にも「魔法の杖」はないのだ。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/36752?page=3 税収弾性値1.1でいいと、経済学者など財務省のポチがいうのは滑稽である。この弾性値は、予算上のテクニックで要求官庁を抑えるために用いられてきた経緯も財務省に教えてもらったらいい。 実際、直近の10年間の税制改正なしの税収弾性値は3.13である。この税収弾性値やプライマリー収支が1年前の名目経済成長率でほとんど決まってくることは、5月20日付け本コラムで書いたので参考にしていただきたい。 http://gendai.ismedia.jp/articles/print/35852 長期金利が上がっても財政再建に支障はない まず、財務省の言い分を見ておこう。 財務省のホームページに「副大臣がお答えします」というコーナーがある。その中で、「経済成長による財政収支の改善」というタイトルで、「経済成長すれば増税しなくても財政再建は可能という説がありますが、どのように考えていますか?」という質問に対して、「財政構造の是正を同時に図らない限り、経済成長のみによって財政収支を持続的に改善することは困難です」と答えている。 回答の中に、「参考2」として「名目成長率が平成24年度に1%上昇した場合(長期金利は0.55%上昇)の税収及び国債費に与える影響の試算」があり、国債費増加額が税収増加額より上回るという数字が示されている。 ここにトリックがある。まず、計算しているのは3年間だけだ。ある自民党有力議員が、自民党が野党時代に財務省の計算をもっと長く、例えば10年間にせよと指示したが、財務省は徹底してこれを無視した。もし10年間も計算してしまうと、ある年度で税収増加額が国債費増加額を上回り、財務省にとって不都合なのだ。 さらに、歳入については、税収弾性値を低く見積もることで、税収増がないような計算をする。過去15年間の税収弾性値(名目GDP伸び率に対する税収伸び率)は、税制改正による増減税を無視すると、平均で4になっている。 なお、この数字に対して、この間の名目成長率の増加は少なかったので、税収弾性値が高めに出ていると財務省は反論する。副大臣の答えでは、「注2」で「例えば2002年11.2(税収▲8.6%、名目成長率▲0.8%)といった異常値も含んでいます。」と書かれ、「本来の税収弾性値は低下傾向(1強程度)と見られています」としている。 その補強材料は、財務省の息のかかった内閣府で2011年10月17日、有識者会議(座長・岩田一政元日銀副総裁)がまとめた、名目成長率を高めて税収を増やしても財政再建はできないとする報告だ。 報告書の結論では、「1980年代のデータから算出される税収弾性値は1.3前後である。〜現在の税収弾性値は1.3を下回っている可能性が高いと考えられる。したがって、高い税収弾性値を前提に、インフレや名目成長によって大きな自然増収を期待することは適当ではない」とされている。 もっとも、その報告書の中で、2001-2009という期間でみて、税収弾性値実績では4.04、改正なしでは3.13という数字もある。たしかに、税収弾性値の4は大きいとしても、過去15年間の成長率変化幅、税収弾性値をそれぞれ横軸と縦軸のとった下図を見ればわかるように、常に税収弾性値が高めに出るわけでない。 仮に、高めに出たものを異常値処置したとしても税収弾性値は3程度はある。その理由は簡単で、法人税収などでは、景気の善し悪しで税収ゼロから一気に納税となるからだ。 財政再建を検討する期間はせいぜい10年間である。その場合、直近の10年間の税制改正なしの税収弾性値として、内閣府の報告書で書かれている3.13を無視して、1強程度というのは言い過ぎだろう。景気回復局面で、法人税収の弾性値が大きいのは、財務官僚なら誰でも知っていることだ。 いくら策を弄しても、名目経済が成長すれば財政再建が容易になるというのは、プライマリー収支が1年前の名目経済成長率でほとんど決まってくるという下図が物語っている。 さらに、下図を見ると分かるように、名目経済成長率は2年前のマネーストック伸び率でほとんど決まってくる。 となると、アベノミクスで名目長期金利が多少上がろうとも、経済成長があるので、財政問題はまったく心配なく、むしろ増税なしで財政再建できるとさえ言える。 財務省は「増税しないと長期金利が上がります」と言って、増税を慫慂している。ところがその財務省にとって、アベノミクスの金融緩和は、長期金利が上がっても財政再建に支障があるどころか、増税なしでも財政再建ができてしまい、目の上のたんこぶなのだ。もちろん、国民にとっては何の問題もない、まっとうな政策だ。
http://www5.cao.go.jp/keizai2/keizai-syakai/k-s-kouzou/shiryou/k-s-3kai/pdf/2.pdf 経済成長と財政健全化に関する研究報告書 (2)税収弾性値の推移 年度 名目GDP 伸び率 歳入 歳出 伸び率 弾性値 伸び率 弾性値(注2) 1981-1990 6.17 7.84 1.31 5.46 0.93 1991-2000 1.12 0.39 1.48 3.48 1.59 2001-2009 ▲ 0.66 ▲ 0.13 2.55 0.42 0.01 1981-2000 3.65 4.11 1.39 4.47 1.24 1991-2009 0.28 0.14 1.99 2.03 0.80 1981-2009 2.31 2.80 1.75 3.21 0.84 (注1)歳入・歳出は特殊要因を含まない。特殊要因を含む歳入・歳出は図中に破線で示している。 ・歳入の特殊要因:06 年度は財政融資資金特別会計から国債整理基金特別会計への繰入れ、08 年度は財政投融資特別会計から国債整理基金特別会計及び一般会計の繰入れを除いている。 09 年度は、財政投融資特別会計から一般会計への繰入れを控除している。 ・歳出の特殊要因:98 年度は国鉄清算事業団債務及び国有林野累積債務承継の影響、05 年度は 道路関係 4 公団の民営化に伴う資産・負債承継の影響。 (注2)1993 年度については、名目成長率がゼロに近い値となり、単年度でみた歳出弾性値が▲40.8 と 大きく振れるため、異常値とみなし、期間平均の計算から除く。 (出所)内閣府「国民経済計算年報」より作成
(論点2)「税収弾性値はどの程度と考えるべきか」 ・ 精度が高い税収見通しが存在しないことは、人々が税収の弾力性を過小評価 している可能性を示している。ただし、財政健全化で問題となるのは、景気 の特別な局面だけを捉えた租税弾性値ではなく、短期的循環や中期的循環を 均した長期的な弾性値である。 ・ 過去の実現した GDP 変化率と租税収入変化率から素朴に計算した租税弾性 値は、税制改正の影響、マクロの所得と課税ベースの概念上の差異等を無視 している点で、ほとんど参考にならない。また、弾性値の中身がブラックボ ックスだと、今後の税制のあり方など経済政策運営上の示唆を得にくい。 ・ 租税弾性値と歳入弾性値のいずれが適切かは、財政再建の目標による。中 央・地方政府ベースなら租税弾性値、一般政府ベースなら社会保険料を含め た歳入弾性値が重要。 ・ 個人所得課税、法人所得課税、間接税に分けて租税弾性値を計測し、税収ウ エイトで加重することで全体の弾性値(税収の実質 GDP に対する弾力性) を求めたところ、80 年代から 90 年代初頭まで 1.3〜1.4 だったが、直近は 1 近傍という結果が得られた。 ・ 弾性値が低下してきた理由として、@80 年代末からの一連の個人所得課税 の減税で限界税率が平均税率以上に引き下げられてきた、A近年の個人所得 課税の増税は主に課税ベースの拡大である(平均税率の引き上げであり、弾 性値はむしろ低下)、B景気拡大下で雇用の非正規化が進んだように、課税 ベースである賃金の GDP 弾性値が低下している、C法人事業税の外形標準 化が法人所得課税の弾力性を引き下げている、D税収全体の中で、弾力性が 低い間接税のウエイトが上昇してきた、といったことが挙げられる。 ・ 今後を考えると、@単身世帯の増加(いわゆるモデル世帯と比べて単身世帯 の平均税率は限界税率以上に高く、単身世帯割合の上昇は租税弾性値の低下 要因)、Aデフレ脱却や金利正常化に伴う財産所得(非弾力的な所得)の増 加、B社会保障と税の一体改革に伴う消費税増税、などにより租税弾性値は さらに低下する可能性がある。 ・ 今後の税収見通しにおいては、租税弾性値とは別の問題として、現在の税収 水準(財政健全化政策を開始する時点の平均税率=国民負担率)の評価が極 めて重要。経済構造が変化した 90 年代半ば以降、日本企業はバランスシー ト調整を大規模に進めたため、特に法人所得課税の課税ベースと GDP とい うフローの所得とが大幅に乖離した。 ・ 具体的には、巨額にのぼる法人企業の特別損失がマクロ統計上の法人所得に は反映されていない。さらに、2000 年代になって特別損失の拡大が止まっ たため、リーマン・ショックの直前まで税収が大きく増えたが、過去からの 繰越損失が利益(現在の GDP)と相殺されているため税収は正常化してい ない。これらの点を無視して GDP 弾性値から税収動向を議論することにそ もそも無理がある。 ・ 将来の所得と税務上で相殺される可能性がある繰越欠損金は、まだ約 80 兆 円(マクロでみた経常利益の約 2 年分)ある。繰越欠損金が通常の水準に回 帰する過程で税収 GDP 比(マクロ的な平均税率)は上昇すると見込まれ、 その場合、弾性値が一定でもマクロ的な限界税率は上昇する。この問題と租 税弾性値の高低を混乱すべきではない。 (まとめ) ・ 日本の構造的な財政収支赤字は、主に社会保障支出をどうコントロールする かで決まり、物価上昇や経済成長で財政収支が改善するとは思われない。デ フレ脱却や景気拡大は必要な増税を実施するためにも必要なことだが、素朴 に計算された近年の高い租税弾性値を今後の財政政策や財政健全化に適用 することは適切でない。同時に、課税ベースと GDP(マクロ統計上の所得 や付加価値)との差異について十分吟味する必要がある。
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