01. 2013年8月23日 10:36:56
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インドの問題の根源は優柔不断な政府 2013年08月23日(Fri) Financial Times (2013年8月22日付 英フィナンシャル・タイムズ紙) しばらく前、インドをカメになぞらえることが流行った。民主的な制度機構と恵まれた人口動態のおかげで、インドのカメが中国のウサギを追い抜こうとしている、という例えだった。今はもっと相応しい例えがある。インドは次第に、車のヘッドライトに驚いて立ち尽くすシカに似てきているのだ。 公正を期するために言えば、ヘッドライトは目がくらむほどまぶしいし、シカには逃げ場がほとんどない。世界各地の新興国と同様、インドも米連邦準備理事会(FRB)による刺激策の段階的縮小と米国の金利上昇の可能性に苦しめられている。この見通しを受け、リスク資本がざっと引いていく巨大な音が鳴り響いた。 成長減速、経常赤字、財政赤字、通貨急落・・・ だが、投機資金の流出はインドの問題の始まりに過ぎない。経済成長は2〜3年前からほぼ半減して5%まで落ち込んだ。これほどの潜在力を持ち、これほど貧困が蔓延している国にとっては受け入れられない低成長だ。経常赤字と財政赤字は厄介なほど大きく、通貨ルピーは急落してきた。 政府関係者らは声をひそめ、人類が知る極めて恐ろしい単語3つを口にしている。「International Monetary Fund(国際通貨基金=IMF)」がそれだ。 中央銀行、インフレ抑制策として短期金利を6.0%に引き上げ - インド インド準備銀行(中央銀行)は市場に流動性を供給したが、ルピー安は止まらない〔AFPBB News〕 政府は何週間もの間、危機を食い止めるために次々と対策を講じてきた。危機の方は一向に動じない。 インドは3度、金の輸入関税を引き上げた。外国にお金を送りたがっているインドの個人と企業には資本規制を課した。8月21日にはインド準備銀行(中央銀行)が金融市場に流動性を供給し、部分的に従来の引き締め策を転換した。 こうした停止と起動を繰り返す措置は、神経を静めるどころか、むしろパニックめいた気配を漂わせていた。投資家は資金を引き揚げ、ルピーは下げ続けた。今では1ドル65ルピーの史上最安値に向かっており、5月以降17%下げたことになる。 ルピー安の効果は良いことばかりではない 唯一の朗報があったのは7月の貿易統計で、ルピー安が輸出を押し上げる一方、輸入を鈍らせているように見えた。 期待されるのは、ルピー下落が経常赤字の削減に貢献し、いずれインド経済を均衡させてくれることだ。これははかない望みだ。1つには、通貨安の効果が一様にプラスではないからだ。 通貨の下落は信頼感を揺るがした。製造業が未発達のインドは輸出大国ではない。一方、石油と石炭の輸入大国であるため、ルピー安はエネルギー費を膨らませる。また、燃料補助金も高くつくようになり、既に赤字が国内総生産(GDP)比5%に達している財政にさらなる重圧をかける。 最後に、ルピーの下落はインフレにとって悪材料だ。インドのインフレ率は既に、危険なほど10%に近づいている。 姿を変えて現れる危機、今回のトラブルの経路は企業部門か 世界銀行のチーフエコノミストで、昨年7月までインド政府の首席経済顧問を務めていたカウシク・バス氏は、パニックは度を越していると言う。外貨準備が輸入3週間分相当まで落ち込んだ1991年当時と異なり、現在の外貨準備は輸入7カ月分相当という健全なバッファーを与えてくれる。また、インドの外貨建て債務はわずかだ。 ここまではいいだろう。だが、危機が2度同じ装いで姿を現すことはめったにない。 今回、トラブルの経路となり得るのは、多額の借り入れを行っている企業部門だ。企業部門は多額の外貨建て債務を抱えており、企業の苦境はすぐに政府系銀行に波及する恐れがある。こうした銀行では、不良債権と定義が曖昧な貸出条件緩和債権が既に資産総額の10%に迫っている。 要するに、インドには短期的な課題と長期的な課題があるわけだ。短期的な課題は安定をもたらすことだ。9月5日に中央銀行総裁に就くラグラム・ラジャン氏は一定の役割を果たせるだろう。同氏は資本流出が食い止められ、通貨の下落が止まるまで金利を引き上げることで断固たる決意を示せる立場にある。 ただし、この策は成長の足かせとなる可能性が十二分にある。その場合、インドの経済成長率はかつて考えられなかった4%という水準に向けて低下しかねない。それでもラジャン氏は、選択肢はないと考えるかもしれない。板挟みの窮地に陥ったら、どちらかマシな方を選ばなければならない時もあるのだ。 また、政府は支出をコントロールする必要もある。そうした歳出抑制は重大な社会的結果をもたらす恐れがある。来年5月までに実施される国政選挙を控えた時期に、選挙に重大な影響を与えることは言うまでもない。 もし短期的な問題に対処することが難しいとすれば、長期的な問題はそれ以上に解決が困難だ。 現在の危機は長期にわたる衰退の結末だ。長年のためらいと方針転換により、インドは外国人投資家の信頼感に深刻な打撃を与えてしまった。インドが昨年呼び込んだ外国直接投資は200億ドル足らずで、減速する中国が呼び込んだ額の10分の1にも満たない。 さらに言えば、国内の供給上の制約はもっと深刻だ。インフラ建設は、ムンバイの交通渋滞のようなペースでしか進んでいない。鉱業と製造業への生産投資は何年も妨害されてきた。石炭と鉄鉱石を巡る深刻な対立を見るといい。 問われる政府の問題解決能力、通貨の信認を取り戻す方が楽? 政府と司法制度の役割は、調停者の役を務め、土地と資源の利用に関して対立する主張の折り合いをつける法律を制定・実行することだ。どちらを優先すべきなのか? 開発か環境か? 飲料水か工業用水か? 部族の地権か農地権か、それとも鉱業会社の土地の利益か? こうした問題を解決する政府の能力は今後の成長展望にとって極めて重要になる。インドの経済的失敗の根源にあるのは、政府に対する不信感だ。数ある課題の中で、通貨の信認を取り戻すことは楽な部分なのかもしれない。 By David Pilling |