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http://bylines.news.yahoo.co.jp/ogasawaraseiji/20130822-00027458/
2013年8月22日 11時38分 小笠原 誠治 | 経済コラムニスト
新聞を見ていると、円借款を見直すと出ています。何でも日本の企業が資材や工事を受注する比率をさらに引き上げることを円借款供与の条件にするのだとか。
どう思いますか?
まあ、このような質問をしたところで、最近の風潮からすれば、外国だってやっているのだからとか、日本の企業を支援してどこが悪いのか、なんて反応を示す人が多いのではないでしょうか。
ああ情けなや!
これが、企業関係者が、「海外はきれいごとばかり言って、日本のやることを批判していますが、海外だって自国の利益になることしか考えていないのですから‥」なんて言われるのであれば、少しは同情の余地もあるのですが‥
貴方に先ず問いたい!
円借款とはなにか?
円借款とは、日本政府が海外の発展途上国に行う極めて低利で、償還期間の長い融資のことなのです。そして、円建てで行われる融資であるから円借款と呼ばれる、と。
つまり、そのような融資は、開発途上国が経済発展を遂げることを日本として支援するためのものなのです。但し、そうして融資を受ける開発途上国が、例えば、発電所を作ったり、港湾を整備したりする際に、日本の企業に仕事を発注することもあり、そうなれば日本の企業にとっても役に立つ、と。
ということを考えるならば、円借款を供与することによって相手国を助けると同時に、日本企業を支援することもできれば一挙両得のように見える、と。否、だったら、円借款を供与するに当たって、日本の企業に資材や仕事を発注することを条件付きにしたらどうなのか、と。
そのような発想になる人が多いのは、分からないでもありません。しかし‥
では、何故今頃になって、そのような「ひも付き融資」の方向に向かって、円借款の運用方針を見直そうとしているのでしょうか? 昔から、ひも付き融資を条件として円借款を供与しておけばよかったではないのでしょうか?
そうでしょ?
しかし、日本が、戦後復興を果たして少しずつ先進国の仲間入りをし、途上国に対し円借款を供与し始めた当時は、全てひも付き融資であったのです。つまり、日本に資材や仕事を発注することが条件になっていたのです。
ですが、そうしたひも付き融資は、日本の経済力が一段と大きくなるなかで少しずつ後退して行ったのでした。何故なのでしょう?
それは、ひも付き融資というと、大変にダーティーなイメージがあったからなのです。
ひも付き融資は英語でタイドローン(tied loan)と言います。日本は態度悪いぞ、なんて。
冗談はそのくらいにして‥
では、何故タイドローンが良く言われることがなかったかと言えば、そもそも経済協力というものは、開発途上国のために行うものであって‥そして、先進国側は、それぞれの経済力に応じてそうした国々を支援するということで意見が一致し、そして、政府開発援助(ODA)の目標値まで定めておきながら‥支援の実態をみると、途上国のためというよりも自国の輸出を伸ばすための露骨な案件が多いではないか、という批判があったからなのです。
それに、先進国側が、そのようにひも付き融資を利用することによって自国の輸出を伸ばすようなことが横行すれば、それこそ国際社会の秩序が守られなくなると考えたからです。
ということで、日本が戦後復興を果たして先進国の仲間入りをしたばかりの頃は、日本が供与する円借款は、ひも付き融資ばかりであったのですが、日本の貿易収支の黒字額が大きくなり、日本の経済的地位が一段と上がり始めた頃から、日本は、ひも付きではない融資、英語で言えば、アンタイドローン(untied loan)を供与するようになって行ったのでした。
私が役所にいて、こうした経済協力の仕事に携わっていた頃には、まさに輸銀のアンタイドローンが注目を浴びていた頃であったので、私としては、アンタイドローンを供与する日本の志の高さに誇りを持っていたのです。
少々内輪の話になりますが‥その頃でも、役所のなかには、欧州勢は、言うこととは裏腹に実際にはタイドローンを供与することが多いのだから、日本がアンタイドローンの供与比率を上げるなんてことを、本気で考えるバカがどこにいる、なんて志の低い輩もいたのです。
いずれにしても、あれから20数年の歳月が経過しました。そして、日本の国際的な地位は、気が付くと随分沈下しているようにも思えます。そして、その地位の低下とともに、こうして臆面もなく、ひも付き融資のどこが悪いのか、という議論がまかり通るようになっているのです。
私は、何も理想ばかり追いかけるあまちゃんではないのです。海外が如何にダーティなことをやっているかもよく承知しているつもりです。
例えば、世界一の経済大国の米国が行っているODAにしても、ODAなどと呼ぶよりも、むしろ軍事支援と呼んだ方が相応しいものばかり。そんなこと、米国のODAの供与先のリストを見れば一目瞭然。欧州の国々も、旧宗主国として過去付き合いのあった国を重視し、そして、自国の利益を優先するようなことばかり。
但し、一つだけ注意すべきは、そこで言う欧州の国々というのは、主にフランス、ドイツ、英国、イタリアなどを指し、そのなかには北欧の国々は含まれていないということなのです。
どういう訳か、北欧の国々は志が高く、ずっと以前から理想に向かって走ってきているのです。ODAの供与額もいつも共通の目標値を超えていましたし‥。どうして彼らは違うのか? それが以前からの私の関心事だったのです。ただ、彼らの世界経済に占めるウェイトは小さい。だから、なかなか彼らの動きが世界の潮流を変えるまでには至らないでいるのです。
いずれにしても、昨今は、中国や韓国の動きも日本としては牽制しておかなければいけない。特に中国などが、ひも付き融資で世界市場を荒らすようなことをしているのを黙ってみていていいのか、と。中国がそうするから、それに日本も対抗すべきだ、と。
しかし、それはおかしいのではないでしょうか?
日本が対抗する、つまり、昔のタイドローンに戻るのではなく、中国に先進国のマナーに従わせるように、国際社会が一致団結して働きかけるのが筋なのではないでしょうか?
いずれにしても、最後に言っておきたいことがあります。
円借款を見直すと報じられていますが‥確かに世の中が変化するのに応じて、制度も見直すことが必要でしょう。そして、その見直しの対象としてODAや円借款が含まれても当然でしょう。
しかし、ODAや円借款を見直すのであれば、そもそも我が国の貿易収支の赤字が定着しつつあるという重大な事実に目を向けるべきではないのでしょうか?
つまり、貿易収支が赤字になれば、それだけ日本としては開発途上国を支援する余裕がなくなってきているということですから、むしろ円借款を縮小することを考えるべきなのではないのでしょうか?
そうでしょう? それにも拘わらず、円借款を利用して輸出を促進しようとする。
輸出を促進することが悪いと言っているのではないのです。しかし、例えば、金利0.2%のローンを相手国に供与するということは、相手国からすれば、仮に、それによって手に入れたキャッシュを日本国債で運用すれば、今であれば0.6%程度の利鞘が抜ける計算になるのです。つまり、100億円の円借款を供与するということは、毎年6千万円の補助金を与えているのと同じになるのです。
そこまでして日本の大企業を助ける必要があるのか、と言いたいのです。それに、それらの資金は税金で捻出される訳ですから。そして、そこまでのことをして上げても、大企業が言うことは、法人税を下げないと海外に脱出するかもしれない‥なんてことばかり。
日本の大企業を助けるために円借款を供与するというのが本音であれば、対象となるプロジェクトの選定も杜撰になり、例えその円借款を利用してインフラが整備されたとしても、真の経済発展につながらない恐れが大きいでしょう。そして、海外の国々は借金ばかりが増える結果になり‥結局、日本が悪く言われかねない。
日本の専門家が海外の貧しい国に派遣され、現地で井戸を掘ってあげて、本当に現地の人々から感謝されているなんて感動モノの話を聞くこともありますが‥もう少し、相手国のことを考えて円借款を供与するようにして欲しいと思うのです。
以上
小笠原 誠治
経済コラムニスト
小笠原誠治(おがさわら・せいじ)経済コラムニスト。1953年6月生まれ。著書に「マクロ経済学がよーくわかる本」「経済指標の読み解き方がよーくわかる本」(いずれも秀和システム)など。「リカードの経済学講座」を開催中。難しい経済の話を分かりすく解説するのが使命だと思っています。
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