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http://jp.reuters.com/article/jp_column/idJPTYE97K05920130821
2013年 08月 21日 18:54 JST
亀岡裕次 大和証券 チーフ為替ストラテジスト(2013年8月21日)
為替相場は日々、リスク許容度や内外金利差などに応じて変動しているが、その長期トレンドには貿易収支の動向も深く関わっている。
貿易収支は為替相場に影響を与え、為替相場は貿易収支に影響を与える。つまり、両者は相互に影響を及ぼしあうわけだが、先行性があるのは貿易収支の方である。
たとえば、プラザ合意後の1986年以降でみると、日米貿易収支比率格差(=米国貿易収支比率‐日本貿易収支比率、貿易収支比率=貿易収支/貿易額)とドル円相場のトレンド転換は各々9回ずつあるが、このうち貿易収支が先行したのが7回で、ドル円が先行したのが2回である。
後者のうち1回は90年で、米国の貿易収支比率が日本に比べて改善しているなか、4月のパリG7共同声明(円安は世界経済の調整過程に望ましくない影響を与える)や、米金融緩和期待の高まり(7月に利下げ)から、ドル円がいち早く円高・ドル安にトレンド転換した。もう1回は2007年で、米国の貿易収支比率が同様に日本に比べて改善しているなか、やはり米金融緩和期待の高まり(9月に利下げ)から、いち早く円高・ドル安にトレンド転換した。
このように米金融政策の転換がドル円相場のトレンド転換の引き金になるケースを除けば、ドル円のトレンド転換は貿易収支よりも数カ月から1年強ほど遅れる。唯一、ドル円のトレンド転換が貿易収支よりも2年程度遅れたのは98年で、96年半ばに米国の貿易収支比率が日本に比べて悪化し始めた後、アジア通貨危機が日本の金融危機につながり、98年半ばまでドル高・円安が続いた。日米貿易収支比率格差(3カ月移動平均)のトレンド転換からドル円のトレンド転換までの期間は、7回を平均すると11カ月となる。
<日米貿易収支に変調の兆し>
最近の貿易収支動向はどうなっているかというと、日米貿易収支比率格差(3カ月移動平均)は、10年4月をボトムに上昇を続けてきたが、13年4月をピークに5月、6月と低下している。つまり、3年にわたって米国の貿易収支は日本に比べて改善を続けてきたのだが、最近になって変調の兆しが出てきたのである。もし、このまま13年4月がピークということになると、ドル円のピークは14年3月前後になる可能性が比較的高いということになる。
では、日米貿易収支比率格差はこのままピークアウトするのだろうか。
米国の貿易収支は、13年5月に赤字が拡大したものの、6月には一転して大きく縮小し、10年11月以来の水準へと改善した。米国の貿易収支を、石油関連の実質貿易収支、非石油関連の実質貿易収支、交易条件(=輸出物価/輸入物価)の3つに分解すると、石油関連の実質貿易収支は06年頃から長期的に改善傾向を続けている。シェールガスなどの生産拡大が燃料輸入を減少させているためだ。
一方、非石油関連の実質貿易収支はこの1年ほどはほぼ横ばいに近く、交易条件も毎月の変動はありながらも、傾向としては横ばいに近い。総合すると、米国の貿易収支は改善傾向を続けている。今後、国際商品市況が上昇すれば、非石油関連の実質貿易収支はやや悪化し、米経済成長率が上昇すれば、交易条件も悪化に傾く可能性はある。よって、今後の米国貿易収支は、わずかな改善か横ばい傾向となりそうだ。
翻って日本の貿易収支はというと、13年2月を赤字のピークに改善しつつある。貿易収支を実質貿易収支と交易条件の2つに分解すると、両者ともに2月に比べ改善している。ただし、日本の貿易収支は、米国の石油関連収支のように恒常的に改善している部分がない。11年3月以降は原発停止による燃料輸入増加から貿易収支が悪化し、13年3月以降はそうした動きが収まってはいるものの、明らかに改善傾向に転じたわけではない。6月の貿易収支は、過去1年間の貿易収支の月次平均とほぼ同じ水準にとどまっている。
中長期的には、円安効果によって実質輸入よりも実質輸出が伸びれば、貿易収支は改善しやすくなるが、交易条件次第ではそうならない可能性もある。資源輸入・製品輸出型の日本の交易条件は資源価格の影響を受けやすく、2月にかけては資源価格上昇で交易条件が悪化し、5月にかけては資源価格下落で交易条件が改善した。
為替相場の変動は輸出、輸入物価の両面に影響するので交易条件を大きくは変えにくいが、資源価格の変動は交易条件の変化に直結しやすい。今後、これまでの円安とこれからの世界景気回復の効果により実質貿易収支が緩やかに改善しても、資源価格の上昇による交易条件の悪化がそれを相殺し、貿易収支はわずかな改善か横ばいにとどまる可能性が高い。
つまり、米国と日本の貿易収支は当面、似た傾向を示すだろう。両者の貿易収支比率格差は大きく上昇も低下もしにくいと考えられ、明確なトレンド転換を迎える時期はもう少し先になるかもしれない。
ただし、円安が進行した場合には、それによる日本の貿易収支改善効果が大きくなり、日米の貿易収支比率格差はそう遠くない時期にピークアウトすることになるはずだ。結局、為替相場の変動が、貿易収支のトレンド転換を生み、それがさらに為替相場のトレンド転換につながるので、為替相場は一方的に上昇や下落を続けることはない。
<ドル110円近辺が基調転換の目途に>
長期的にみれば、ドル円相場が日米購買力平価に沿って動きやすいのもそのためである。プラザ合意後のドル円相場をみると、日米の生産者物価(企業物価)指数を用いた87年基準の購買力平価を下限に推移しやすいことがわかるが、長期的には日米購買力平価からの円安・ドル高方向への最大乖離が拡大する傾向にある。
これは、円高や世界経済発展に対応して日本企業の海外生産が拡大することにより、日本の企業収益や経済成長に対する円安のプラス効果が小さくなっているからだろう。以前に比べて大幅に円安が進まないと、日本の貿易収支も改善しにくく、円高にも転換しにくいというわけだ。こうした傾向を加味すると、今回の円安・ドル高は110円程度に達する可能性が高い。
今後、世界景気の回復を背景とするリスクオンと、米連邦準備理事会(FRB)の出口政策を映した米金利上昇の両方が、ドル円を上昇させるだろう。そして、円安・ドル高が進む過程で日米貿易収支の相対関係に変化が起き、そのおよそ1年後に110円程度の水準で円高・ドル安に転換しやすくなるものと考えられる。
ただし、米国の金融引き締めと日本の金融緩和継続が110円を超える円安・ドル高を招く可能性もあることには留意すべきだろう。
*亀岡裕次氏は、大和証券の投資戦略部担当部長・チーフ為替ストラテジスト。東京工業大学大学院修士課程修了後、大和証券に入社し、大和総研や大和証券キャピタル・マーケッツを経て、2012年4月より現職。
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