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日経平均が2万円に達する――。そんな株価予想をするエコノミストが目に付くようになってきた。果たして、アベノミクスと黒田バズーカは再び炸裂するのか。株価を歴史的、かつ多角的に検証していくことで名高いスフィンクス・インベストメント・リサーチ代表取締役ストラテジストの別府浩一郎氏に「2万円説」について聞いた。
(聞き手は金田 信一郎)
--- 現在の株式市場をどう見ていますか。
別府:「アベノミクス」と「異次元緩和」による相場は、極端に上に振れました。現在は、この過熱を冷ます過程にあると見ています。
--- 株価上昇は異常だった、と。
別府:実際の株価指数(TOPIX:東証株価指数)を振り返れば分かりやすいと思いますね。まず、6カ月予想値(6カ月後の株価予測)と実際の株価の乖離率を見ると、アベノミクスと異次元緩和によって予想値を実際の株価が上回り、4月は42%も高い水準になりました。
これまで日本では、予想よりも低い株価で推移することが多かったんですが、昨年のアベノミクスの到来によって、傾向が逆転して、予想を爆発的に上回る状態になりました。今は、これがだんだん終息に向かっている状態です。
5月22日には、今年10月末に到達すると予想されていた株価を付けています。つまり、5カ月も前倒しで数値を達成してしまったわけです。
この頃は、極端な株価上昇があったことが、いろいろな数字から読み取れます。5月20日には、株価指数(TOPIX)が200日移動平均線から44%以上も乖離しています。これほど、株価の基調から外れて極端に高くなったことは過去にも例を見ないことです。2005年に小泉政権が「郵政解散」に踏み切り株価が急上昇した時でも、乖離率は29%(2006年1月5日)でした。バブル期に記録した35%(1987年4月17日)をも上回っています。
--- 現在は一服している?
別府:今では、6カ月予測を達成することが、だんだん難しくなってきた状況ですね。移動平均との乖離率も、今年9〜10月にはゼロに近付くと見ています。
--- ということは、株価は上がらない、と。
別府:郵政解散やバブル期のケースでは、移動平均から極端に乖離した後は、一旦、マイナスまで落ち込み、再び12%程度まで再浮上して株価のピークを付けています。
ただ、今回はどうか。第2の「アベノミクス」や「黒田バズーカ(異次元緩和)」といった政策的サプライズも期待しにくい状況です。まあ、企業業績の改善によって、株価を下支えはできると思いますが。
--- で、本題ですが、「年内に日経平均2万円」という予想があります。
別府:まず、私はTOPIXを見ているので、そちらに置き換えて議論したいと思います。日経平均株価はTOPIXのおよそ12倍なので、「日経平均2万円」ということは、TOPIXにして1666という水準です。今が1125(8月20日)ですから、48%アップということになります。
そこまで上昇する可能性があるのか、ということですね。
2万円は達成可能なのか
例えば、現在の株価水準を見る代表的な指標に「PER(株価収益率)」があります。企業の予想利益の何倍まで株価を買い上げているかを示す指標ですが、日本株全体で15倍となっています。
一方、もう1つの代表的な指標であるEPS(1株当たり利益)を見てみます。東京証券取引所1部上場を1企業とみなして、1株でどれだけ当期利益を上げているのか。TOPIXは株式市場全体を1つの市場とみなし、時価総額を指標化したものです。したがって、TOPIXをPERで割れば、市場全体のEPSが算出できるわけです。その計算では現在のEPSは75ぐらいになり、企業が発表している予想利益から計算した72よりも高い。つまり、市場はもっと利益が出ることを織り込んでいるのでしょう。
この表は、TOPIXの株価水準が、EPSとPERでどの水準にあるのか、組み合わせで考えてみたものです。例えば、EPSが75だったら、PERが15倍で現在の株価水準になるわけですね。だから、異次元緩和では、マーケットが「EPS 75」を見込んでいたとしたら、4月に黒田日銀総裁が異次元緩和を公表した後、PERが13倍から一気に17倍まで上がったことになります。もちろん、為替への影響があったので、輸出企業の利益が変わって、EPS自体が変化した可能性もあります。
この数字で見ると、マーケットは今年の株価ピーク期、「EPS80でPER16倍」とか、「EPS75でPER17倍」と考えていたようですが、冷静になってきて、「そこまで企業利益は上がらない」と思い始めたんじゃないか、と。黒田バズーカで、マネタリーベースを強烈に増やしたら、「経済にすごいインパクトをもたらす」として、一旦はそこまで上がったんだけど、だんだんインパクトが薄れてきているわけです。
--- この組み合わせ表を見ると、TOPIXが1666(日経平均2万円)という数字は出てきません。企業の利益が跳ね上がってEPSが85、そしてPERの18倍まで市場が買ったとして、やっと1530ということですよね。
別府:ですから、トータルで考えれば、落ち着く所に落ち着かざるを得ない。まあ、「日経平均2万円説」っていうのは、一気にそこまで行くのは相当難しくなっている。
そもそも、日本の経済成長率は、強気な日銀でも1.3%、政府は1.0%、民間シンクタンクはだいたい1%台を予測しています。だから、企業の利益が爆発的に増えることは考えにくい。
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別府:今回の株価上昇は、これまで日本経済があまりに低迷したから、その分だけ伸びたわけで、これから長期的に急成長していくなんて誰も思っていないわけです。人口は減少しますし。しかも、「財政政策を機動的に」とか言うけど、いくらでも財政出動ができるわけがないんです。だから、爆発的な上昇なんてなくて、サステイナブルな上昇ですよ、良くても。
しかも、問題は消費税を引き上げるタイミングです。「引き上げない」という可能性もある中でね。
「超脳天気に考えてみましょうか」
--- もし消費税を凍結したら、株価は上がる?
別府:いや、逆にアベノミクスのメッキがはげて、もっと株価は落ちるでしょう。
アベノミクスと異次元緩和で株高が演出されていたとしたら、逆に夢からさめて、株価が(元の水準に)落ちる可能性があるんでしょうかね。
別府:それは、あり得ますよ。だから、TOPIXが1666(日経平均2万円)なんて、ないんですよ。そもそも、これからPERが18倍に上がるなんて考えにくい。超能天気になって18倍まで買ったとしましょうか。それでも、EPSは92.55ですから、企業利益が23%増ですよね。
--- 当期利益は、様々な要素で上昇しますが…。
別府:それにしても考えにくい水準です。
--- 人気エコノミストによる「年内2万5000円説」もあります。
別府:天と地がひっくり返ってもない。
しかし、本当に極端な予測が出てきますよね。アメリカのストラテジストの株価予想は常に穏当なんですね。
--- 「日経平均が2万5000円に」みたいなことを言う人はいない、と。
別府:いませんね。1年間の(米国株の)変動率の予想は概ね10%の範囲内になっています。それは、アメリカ企業の利益の変化と、だいたい合致しているんです。
--- 日本の株価予想は、楽観と悲観が極端です。
別府:一般的には、アメリカ人の方が面白おかしい予想をすると思われがちですけどね。「こんな大胆な予想をした」というような記事もないわけじゃありませんよ。でも、ウォールストリートのストラテジストのコンセンサスを見ると、驚くほど「穏当」かつ「妥当」なんですよ。それだけ成熟しているということでしょうね。
安倍政権の経済政策で、また爆発的に上げることはないんでしょうか。
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別府:だんだん熱気が冷めてきて、現実が見えてきましたからね。実際、単身世帯では、給与所得と事業所得の割合が減ってきています。事業所得とは、小さい事業会社のことですが、厳しいどころか、経営を引き継ぐ人もいないわけじゃないですか。それで、年金所得、つまり年金生活を送っている世帯がどんどん上がってくる。
この比率の変化は影響が大きいんですよ。給与所得や事業所得の世帯が減って、年金暮らしの人が増える。そうすると、現在、議論されている年金支給開始年齢を上げるというのも、断行したら生活が厳しい世帯が増えるし、やらなければ財政が悪化する。どうしようもないわけです。自民党は、そこ(の解決)を先延ばしにしそうですよね。
それで、消費税を予定通り、来年3%引き上げるかどうか。マーケット、つまり証券会社やファンドマネジャーなどは「引き上げた方がいい」と言っている。「もし、引き上げなければ、財政問題が出てくるから」と。
もし、消費税を引き上げないとすると、財政問題はどうするのか。何も手立てがない。だって、法人税を下げると言っているわけでしょう。
驚きいっぱい、効果なし
--- 「法人税を上げる」なんて言ったら、企業の海外逃避を加速させますからね。
別府:でも、どっちか上げないとまずいわけでしょう。それなのに、消費税増税を「慎重に考える」なんて言い出している。で、景気については「もっと日銀が(札を)刷れ」と。それで、年金生活の無業者が、国民に占める比率がすごく高くなっている。こんな状態で、憲法改正とか国防軍はないだろう、と。
--- アベノミクスは驚きだけで、効果は薄かった?
別府:そもそも、物価が上がっていって、家計のマインドが改善するかっていうと、それはないんですよ。
今、起きていることの確認ですけど、企業の資金繰り感は、製造業と非製造業のどちらを見ても、リーマンショックでガタンと落ちて、その後は製造業は横ばい、非製造業はなだらかな改善が続いてきている。そして、歴史的に見れば高い水準にあります。すでに、アベノミクス以前から、こういう高水準の動きになっていたんです。だから、アベノミクス効果というわけではないんですね。
新卒者採用計画をみると、製造業の場合、リーマンショックで大きく減らし、その後は持ち直してきたが、今年度、来年度はまだ慎重ですね。円安で大企業の輸出関連が良くなってきているが、まだ全体には慎重な雰囲気が目立ちます。
逆に、非製造業は、明らかに強い数字が出ている。さっき見たように、資金繰りが歴史的に高い水準にある。これによって、新卒者採用も高い数字になっています。来年も高い数字が続くことになります。まあ、辞めてしまう人が多いという事情もありますが。
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株を買う人がいない理由
別府:ただ、若い人が将来を楽観して、消費を押し上げるという状態ではないんですね。確かに、アベノミクス効果で、雇用環境や消費に対する人々のマインドは改善してきました。ただ、ここに来て数字が落ちてきている。「収入の増え方」に関して、楽観的な見方が修正されてきています。それどころか、年収300万円以下の層は、もともと期待が高まっていなかった。「自分たちに不利な政策で、金持ち優遇だ」と見えているのではないか。また、ここに来て、年収が高い層まで、収入に関して期待しなくなってきています。
別府:それで、株や不動産の値上がりにも、期待が消えてきた。単身世帯はそもそも、資産をあまり持っていないから、ここでは一般世帯の数字を見てみます。すると、アベノミクスと黒田バズーカで一気に「資産価値の増え方」への期待が高まったが、それがここに来て急速に萎んでいることが分かります。
別府:株を持っていた人たちがいて、その層はアベノミクスで結構、儲かったはずなんですね。それで、「資産価値の増え方」への期待も、リーマンショック前の高い水準まで一気に上がった。その期待が、もう急降下してきています。
まあ、今年5月に株価が盛り上がった時、そこで買ってしまって、どうしようもない状況になっている人もいるわけですよ。信用取引で買った人などは、6カ月後にポジションを閉じるために、株を処分しなければならない。さらに、来年からはキャピタルゲイン課税が10%から20%に上がります。「それなら、今年のうちに株を売ってしまおう」という人が出てくる。だから、少なくとも個人投資家が積極的に株を買っていくような状況ではないんですね。まあ、まったく傷ついてなくて、「さあ買うぞ」という人がいるかもしれないけど。
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量的緩和策の副作用
--- 日本経済に影響が大きい米国株は、今後も伸びていきますか。
別府:FRB(米連邦準備理事会)が量的緩和策を持ち出してアメリカの株価は上がってきたし、住宅価格も戻っている。だから、家計の資産額が増えてきました。それで言うと、家計の純資産が、個人の可処分所得に対して何倍に膨れ上がっているか、その数値が「ストック・フロー・レシオ(家計純資産/個人可処分所得)」になります。この推移を見ると、まさにバブル崩壊前の水準に向かっている。
2000年のITバブルでこの数値が上がって、破裂した。そして、前回はリーマンショックでバブルが破裂している。その後、量的緩和策で、またずっと上がってきて、破裂前の水準に近付いているわけです。
これが見えてきたから、5月にバーナンキFRB議長が「量的緩和を減速するかもしれない」と言ったわけです。その後、「やっぱり、減速させないかも」とも言っているんだけど。量的緩和策を減速させようとしたタイミングが、まさに、ストック・フロー・レシオが過去2回のバブル期の状況に近づいてきた時だったんです。
で、失業率との関連を見たのが、この表です。
3つのピンクのカーブが描かれていますが、一番下のカーブがITバブルの時のものです。これが、資産価格が上がって右にいくと好況になって、失業率は減りましたが、バブルが破裂してしまった。
そして、次はリーマンショック前のバブル状態に移行しましたが、それが真ん中のカーブです。これも、株価が上がって右にいって、失業率は落ちていきましたが、また破裂します。そして、今はさらに一段上のカーブに入っています。そして、右に向かっている。
これを見ると分かりますが、好況になっても、失業率の数字は低くならないカーブに変わってきている。要するに、バブルが破裂すると、海外シフトを起こして、労働集約的なビジネスは米国から出て行ってしまう。結果、国内の雇用は減っていく。こういう状況なので、失業率を6.5%まで下げることは難しい。そこまで量的緩和策を続ければ、バブルが破裂するリスクが高まるわけです。
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せめて「邪魔をしない」政策を
--- 今のカーブでいくと、失業率7%台で破裂する。
別府:そうなんですよ。だからバーナンキ議長も、(失業率)7%ぐらいのところで止めようという言い方をしているんです。でも、状況が悪化すれば、また違ってくるとも言っている。
明らかに7%を切る水準まで金融緩和をやってしまったら、破裂するという経験をしている。このせめぎ合いになっているから、FRBのメンバーで意見が対立している。「これ以上やったら反動が大きい」という考え方と、「まだ失業率が高いじゃないか」という意見がある。
--- ピンクのカーブが、時代を追うごとに高まっていることが気になります。失業率が高い経済構造になっていく。
別府:確かにね。以前は失業率4%の時に達成していた好況を、失業率7.4%で達成している。アメリカの大企業、例えばS&P500の全体の利益水準は過去最高です。つまり、人を必要としていない産業構造になっている、と。
--- 企業が高い利益をあげて、失業者が街に溢れる社会でいいんでしょうかね。
別府:アメリカのエコノミストでも、労働者寄りの人は、「人を雇ってこその企業だ」と言っているんですけどね。まあ、日本もね、雇用をないがしろにしている面はあるかもしれないんですがね。
--- 米国企業の方が、明確に人員削減を行うわけですが、その米国の場合、移民が「望んでこの国に来ている」という面がありますからね。日本はそういうわけではないので…。
別府:日本は、ここにずっといる人たちを絞り上げちゃうから。アベノミクスも結局、年収の低い人は「格差がより拡大していく方向だ」と認識している。アメリカならば、それでも走っていくけど、日本ではどうなってしまうのか。でも、超「労働者寄り」の経済政策をしたから改善するかというと、そうではない。
だから、できることと言ったら、せいぜい、「事業をやりたい」という人の邪魔をしない、ということではないでしょうかね。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/interview/20130820/252435/?n_cid=nbpnbo_bv_img
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