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http://bylines.news.yahoo.co.jp/ogasawaraseiji/20130821-00027425/
2013年8月21日 11時39分 小笠原 誠治 | 経済コラムニスト
アベノミクスの効果は一時的だとドイツ連銀が批判した、と報じられています。
効果が一時的だというのは、まだマイルドな表現であって、時事通信は、(ドイツ連銀は)「「アベノミクス」による景気押し上げ効果は「わらに付いた火」のように、短期間で消え去るとの批判的な分析を示した」とまで言っています。
わらについた火?
わらについた火と言われてもピンとこないかもしれませんが、要するに、火がわらについただけで、まきや石炭には着火していない、と。だから、すぐ消えると言いたいのでしょう。
私は、アベノミクスを支持する者ではないのですが、でも、外国からそのような言われ方をすると、流石に日本人としていい気持ちがしないのも事実。
いずれにしてもこれは、ドイツ連銀の幹部や政治家が、個人的な意見を表明したものではないのです。毎月公表される月報で、ドイツ連銀の意見として表明されたものなのです。
では、ドイツ連銀がどのようなことを言っているかと言えば‥
アベノミクスによって2013年にはGDPを1.25%程度押し上げるが、14年には効果が大幅に縮小、15年には逆に景気の足かせになる、と。
では、何故アベノミクスの効果は一時的なものに過ぎないとドイツ連銀は考えるのでしょうか?
メディア各社が報じる内容をまとめてみると‥
(1)景気刺激策が将来の需要を先取りしているだけだから
(2)刺激策の終了が消費税引き上げ時期と重なり、マイナス効果が増幅するから
(3)賃上げが実現できそうにないから
(4)2015年以降は、財政の悪化が経済を圧迫するから
(5)2015年以降毎年1%を超える過度の物価上昇が続くから
さあ、如何でしょうか?
景気刺激策が将来の需要を先取りしているだけだから、と言われると、何とも反論のしようがないような気がしますが‥
実際、財政出動によってGDPを下支えするのはいいとしても、その後は、もしそれと同額以上の財政出動を続けることができなければ、むしろ成長率を引き下げてしまうことは当然のことなのです。
次に、消費税の引き上げが予定されているから景気に下押し圧力をかけるとも言われている訳ですが、それまた反論の余地がないようにも思えます。では、ドイツ連銀としては、消費税の引き上げを延期すればいいと主張しているのかと言えば、全くその反対。逆に、財政の悪化が中期的にみて経済成長を阻害するとまで言うのです。
「毎年1%を超える過度の物価上昇が続くから」(NHKニュース)景気回復にマイナスの影響を与えるということについては、本当にドイツ連銀がそのように考えているとするならば、日本とは大変大きな認識ギャップがあることが分かるのです。
例えば、今後の日本のインフレ率が3%とか4%になる恐れがあり、それを過度な物価上昇とドイツ連銀が指摘するのであれば分かるのですが、1%のインフレ率というのは、目標値の半分にしか過ぎないからです。
いずれにしても、どうしてまたこう正攻法でドイツは日本の経済政策を批判するようなことをするのでしょう? 何が一体目的なのか?
ただ、メルケル首相も以前から、アベノミクスに対して良くは言っていなかったことを思い出します。そもそもアベノミクスが登場した直後においては、欧州勢から、アベノミクスは円安を武器とした輸出振興策だと受け取られ、批判されました。その後、米国の仲介もあり、通貨安政策であるという理由で批判されることは少なくなったものの、メルケル首相などは、日本が大きな財政赤字を抱えていることを一貫して問題視してきたのです。
何故メルケル首相やドイツ連銀は、そこまでアベノミクスを批判する必要があるのでしょう?
不思議ですよね。仮に日本経済がアベノミクスによって成長を成し遂げ、そして、それが世界経済にも好影響をもたらすことになれば、欧州勢としては少しも損にならないとも考えられるのですが‥或いは、心の底では、アベノミクスは通貨安を利用した輸出振興策だからという思いが今でもあり、それが原因であるのでしょうか?
或いは、そんなことではなくて、本当にアベノミクスが効果がないどころか、副作用をもたらすと信じているからなのでしょうか?
しかし、仮にアベノミクスに効果がないと考えたとしても、それをわざわざ大きな声で世界に向かって言う真意は何なのでしょう?
日本のことが好きでないとしても、普通は黙っていておかしくない。
しかし、こうしてドイツはアベノミクスを批判し続ける。一体、何が目的なのか?
それは、アベノミクス的な手法を欧州でも真似したらどうかという動きを牽制することにあるのだと思うのです。英国では、イングランド銀行総裁が交代し、何やらアベノミクスを意識したような政策を打ち出しているでしょう?
アベノミクスは3本の矢で構成されます。大胆な金融政策と機動的な財政政策。そして、投資を喚起する成長戦略。
そのうち、大胆な金融政策というのは、通貨安とインフレを招く効果があるのは言うまでもないでしょう。しかし、その通貨安を武器とした景気対策を打つという考え方自体が、ドイツというかユーロ圏にとっては受け入れがたいものなのです。
何故かと言えば、戦前の歴史的経緯に鑑み、そうした通貨安政策を欧州各国が放棄したからこそ、ユーロという通貨統一が成し遂げられたからであるのです。つまり、ユーロ圏とアベノミクスの考えは根本的に相容れない、と。
プラス、アベノミクスがインフレを招く政策だということも、第一次大戦後に未曾有のハイパーインフレに苦しんだドイツとしては受け入れることができない理由であるのでしょう。
さらに、機動的な財政政策というのも、財政事情がまだまだ余裕がある国が採用するのであればともかく、日本のように対GDP比で断トツの借金大国が、さらに借金を重ねるという大胆さが怖くてならないのでしょう。それほどまでに借金の山を積み重ねていけば、いずれ中央銀行が国債を引き受けざるを得ないような事態になり‥というか、そもそもアベノミクスによって市場からバンバン国債を買い入れていること自体が、国債の直接引き受けとなんら変わりのないように見えてしまうのかもしれません。
そんなことをしていて、もし日本が本当に財政破綻を来してしまえば‥それは相当な影響を全世界に与えるであろう、と。
従って、ドイツとしては、日本のためというよりも、自分たちにとって悪い影響が及ばないようにアベノミクスを批判しているのだと思われるのですが、しかし、それは彼らの率直な意見であるのでしょう。
いずれにしても、そこまで手厳しいドイツにしても、第3の矢である成長戦略については悪く言うどころか、今後とりわけ重要になると指摘しているのです。
それについては国内でも異論はないですよね? そして、総理自身も何とか強力な成長戦略を策定したがっている。
しかし、その重要である筈の成長戦略の中身が、全然期待したものになる気配がないのです。
もうそろそろ9月。稲も穂をつける季節です。
大衆薬のネット販売の再規制とかタクシーの台数制限の義務化とかの動きを見ると、逆の方向を向いているとしか思えないのですが。
以上
小笠原 誠治
経済コラムニスト
小笠原誠治(おがさわら・せいじ)経済コラムニスト。1953年6月生まれ。著書に「マクロ経済学がよーくわかる本」「経済指標の読み解き方がよーくわかる本」(いずれも秀和システム)など。「リカードの経済学講座」を開催中。難しい経済の話を分かりすく解説するのが使命だと思っています。
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